日本政策金融公庫などの公的融資や銀行融資、補助金や助成金など資金調達に欠かせないのが事業計画書というツールです。今回は資金調達資金調達を目的とした事業計画書を作り方について解説します。
今回は、ベンチャーキャピタルやエンジェルから出資を受けるケースの事業計画書は除きます。ベンチャーキャピタルやエンジェルが期待するのは「上場して一獲千金を狙うこと」ですので、銀行や公的機関の融資で利用する事業計画書とは全然目的が違うからです。
資金調達を成功させる事業計画書の考え方
お金を貸す側の気持ちになることが重要
あなたがお金を貸す側だったら、どういう人に貸したいでしょうか?
確実に返してくれる人
ではないでしょうか?
銀行の融資担当者も、日本政策金融公庫の融資担当者も、
これは同じなのです。
事業計画で見ているのは
確実に返してくれる人かどうか?
でしかないのです。
それを判断するのが「事業計画書」なのです。
融資担当者が事業計画書でチェックするポイントとは?
「確実に返してくれる人」を見極めるために融資担当者が事業計画書でチェックするポイントは
その1.経営者の経歴で過去にその事業に携わったことがあるかどうか?
融資担当者が見ているのは
「経営者」という人
です。
人柄を見ているわけではありません。
会社経営は、同じビジネスモデル、同じ事業をしていても、経営者の才覚や経験値によって、大きく結果が変わってくるものです。
融資担当者が見ているのは
- 「経営者」が立ち上げようとしている事業に携わったことがあるかどうか?
- また、そのときの「携わり方」と「実績」
です。
飲食店で起業しようとする人がいた場合
という人と
という人なら、
断然「前者」の方が選ばれるのです。
起業するビジネスモデルと同様の事業に携わった経験があれば
作成している損益計算書などの精度も高くなりますし、運営面での問題が発生しても、すぐに解決できるのです。
競合他社の情報も知っているでしょうし、仕入れ先や取引先、同じ仕事をしている同僚とのつながりもあるはずです。
経営者の経歴で過去にその事業に携わったことがあるかどうか?
は、一番と言っていいほど、重要なチェックポイントになっています。
その2.何を誰に売って、どのくらいの利益を出すのか?
収益構造がチェックすべき項目になります。
融資担当者が見る事業内容というのは
画期的なカフェを作ります。
というような曖昧なものではなく
- 販売単価
- 客単価
- 仕入れ価格
- 原価率
- 利益率
- 販売数
などの「数字」です。
は「数字」を見れば、融資担当者はすぐに問題点に気づいてしまうのです。
競合他社の1.5倍の価格設定になっていて、その理由が説明されていなければ「競合他社のことを全然調べていない経営者」と判断されてしまいます。
その3.お金と事業計画との整合性をチェックする
これは融資担当者が当然考えることです。
- 資金使途が明確にできていない経営者
というのは、お金に対してルーズな経営を行っていることの証左でもあるため、信頼性が落ちてしまうのです。
- 運転資金を借りる場合 → その資金って本当に必要なの?余剰人員がいるんじゃないの?
- 設備資金を借りる場合 → その資金って本当に必要なの?売上が増加する見込みがあるの?
・・・
「なぜ、そのお金が必要なのか?」が論理的に説明されていない事業計画書では、審査が通らなくなってしまうのです。
という経営者も少なくありませんが、それが事業計画書と結びついていないのであれば、融資担当者から見る不信感は増えてしまいます。
その4.経営者に経営に必要な能力があるかどうか?
銀行やベンチャーキャピタルにとっても
「経営者に経営に必要な能力があるかどうか?」は重要な要素です。
経営者の資質が不足していれば、経営は頓挫し、お金は戻ってこないからです。
経営を成功させるためには
- 競合他社に優位性があるか?
- 伸びている市場で勝負をしようとしているのか?
- 自社の現状の課題とそれに対する適切な対策が取れているのか?
- 経営がうまくいかなかった場合の対策は準備されているのか?
・・・
などが重要になります。
融資担当者は、事業計画書で様々な角度から「経営者の資質」を読み取るのです。
その5.本気度、熱意をチェックする
本気度、熱意のチェックというと、多くの経営者が
「自分は、この事業に夢ともっていて、日本を変えたいんです!」
と熱く語ることをイメージしてしまいがちです、そんなことは本気度、熱意とは関係ありません。
起業時点であれば
- 起業のために自己資金を貯めていた。
- 起業のために留学や資格の取得などをしていた。
というのが熱意の表れになりますし、
- どこよりも正確な事業計画書を用意してきた。
- どこよりも綿密な事業計画書を用意してきた。
- どこよりも枚数の多い事業計画書を用意してきた。
というのが本気度の表れになるのです。
思いを語ることは、ほとんど本気度や熱意のアピールにつながらないのです。
口だけなら、なんとでも言えてしまうので、アウトプットとして本気度や熱意を伝えなければならないのです。
まとめ
融資担当者が事業計画書でチェックするポイントには
- その1.経営者の経歴で過去にその事業に携わったことがあるかどうか?
- その2.何を誰に売って、どのくらいの利益を出すのか?
- その3.お金と事業計画との整合性をチェックする
- その4.経営者に経営に必要な能力があるかどうか?
- その5.本気度、熱意をチェックする
という点があります。
上記を踏まえて、融資担当者が融資をしたくなる事業計画書を作る必要があるのです。
資金調達を成功させる事業計画書の構成
- 企業概要/代表者略歴
- 事業内容
- 販売商品/サービス
- 市場分析
- 競合分析
- 会社(経営者)の現状の課題と対策
- プロモーション戦略/営業戦略
- 売上予測
- 実行スケジュール
- 資金計画/資金繰り表の説明
別添資料
- 損益計算書(PL)
- 賃借対照表(BS)
- 資金繰り表(CF)
資金調達を成功させる事業計画書の作り方
1.企業概要/代表者略歴
企業概要は、会社概要のようなものですので
- 社名
- 設立年月日
- 本社住所
- 資本金
- 年商
- 役員構成
- 決算期
などを箇条書きにする程度で構いません。
重要なのは「代表者略歴」です。
転職活動をするときの「職務経歴書」のように
- 携わった事業経験
- その中で任されていた役割
- その中で出した実績
を中心に記載する必要があります。
とくに転職したいわけではないので、立ち上げるビジネスモデルに関連性のあるものを抜粋して、強調しながら記載します。
例えば
飲食店経営で飲み屋をやるのであれば
- 飲み屋での販売経験、接客経験
- 飲み屋の店長としての事業の管理経験、従業員の管理経験
- そのときに勤務していたチェーン店で日本1位の売上をたたきだすまでに成長しました。
というような要素を「代表者略歴」に入れていきます。
ここは思っている以上に重要なポイントですので、ある程度の量になっても構いません。
- どんなスキルを身につけたのか?
- どんな結果を出したるのか?
- どんなノウハウを持っているのか?
などをアピールすることで、各段に融資担当者からの印象が良くなります。
重要なポイント
「代表者略歴」は立ち上げるビジネスに即した経験、実績を中心に記載することを心がけましょう。文量が多くなっても構いません。
2.事業内容
事業内容はそれほど重要なポイントではありません。
- 「何をやるのか?」
- 「コンセプトは何か?」
- 「ターゲットはだれなのか?」
- 「どうやるのか?」
をわかりやすく伝えましょう。
- 事業内容
- 営業情報
- 顧客ターゲット
- 事業ドメイン
- 事業コンセプト
さらっと抑えておけば良いでしょう。
3.販売商品/サービス
事業内容の次に来るのは「何を売るのか?」です。
- 商品/サービスの特徴
- 販売価格
- 仕入れ価格
- 利益率
- 販売する工夫
- 競合他社と比較したときの優位性
- どの商品/サービスが主軸になるのか?
などを記載します。
競合他社の業界平均値と大きくかけ離れている場合は理由が必要です。
競合他社にはない○○という付加価値があるので価格を業界平均の1.2倍に設定しています。
と説明してあれば、業界平均と違う価格設定でも問題ありません。
重要なポイント
数値面の算出根拠を説明できるようにしておきましょう。「なぜ、その販売価格にしたのか?」がロジカルに答えられないようだと、次に進めません。
4.市場分析
銀行やベンチャーキャピタルなどは
マクロで市場を見る癖があります。
衰退していく市場の会社よりも
成長している市場の会社の方が
伸びていく可能性が高いからです。
- 紙媒体が衰退しているのにフリーペーパーの会社を立ち上げる
って言っても「えっ、今さら。」と思われてしまいます。
- ビックデータを使ったクラウドサービスの会社を立ち上げる
の方が将来の見込みが大きいのです。
市場分析では、できるだけ
- 市場規模が大きい
- 市場規模が伸びている
ことをアピールすべきです。
飲食店や介護施設など、商圏が限定されているものの場合は、
- 対象の商圏の人口
- 対象の商圏の人口の伸び
- ターゲット年齢・性別の人口
- ターゲット年齢・性別の人口の伸び
などが市場分析になります。
重要なポイント
市場分析では、顧客ターゲットのパイが大きいこと、市場が伸びていることが重要になります。ウソは厳禁ですが、そう表現できるデータを取捨選択すべきです。
5.競合分析
これが実はすごく重要なポイントです。
- 営業
- 商品
- サービス
- 価格
・・・
どこで差別化して、競合他社(敵)に勝つのか?(お客さんに選んでもらうのか?)
を明確に設定できる事業計画書は強いのです。
重要なポイント
競合分析では「競合の情報分析」「競合の差別化戦略」の両方をセットに作る必要があります。
競合の調査をしていないのにイメージだけで差別化戦略を考えても、机上の空論の可能性が高くなりますし、
競合調査をしたのにどう差別化するのか?を考えていないと、意味がないのです。
6.会社(経営者)の現状の課題と対策
融資担当者は「どこに問題点があるのか?理解しているかどうか?」も見ています。
言いことだけを言う人が信用できないのと同じで
事業計画書も、良い点だけを並べるよりも、現状の課題を記載した方が効果があるのです。
ただし、現状の課題を羅列するだけでは意味がありませんので「その問題をどう解決するのか?」についても記載する必要があります。
重要なポイント
- 会社(経営者)の現状の課題をきちんと把握できているのか?
は非常に重要なポイントになります。
すべての課題を記載する必要はありませんが「目標達成に欠かせない重要な問題点がある」のであれば、隠すのではなく、開示した上で現状で考えられる対策をセットで事業計画書に記載しましょう。
7.プロモーション戦略/営業戦略
結局、事業計画書の通りに数字が動くかどうかは「売上」にかかってきます。
「売上」が達成するかどうかは「販売・営業」にかかってくるのです。
- どういう営業をして、目標数値を達成するのか?
- どういうプロモーションをして、目標数値を達成するのか?
は細かく記載する必要があります。
営業計画
- 営業人員は何人か?
- 1日何件アポイントを取るのか?
- 1日何件訪問するのか?
- 1日何件商談するのか?
- 何件の商談で何件の受注を見込むのか?
- 受注した顧客はどのくらいの確率でリピートするのか?
・・・
プロモーション計画
- どんなプロモーション手法を取るのか?
- どんな媒体を利用するのか?
- WEB媒体では、どのくらいのアクセスを予定するのか?
- アクセスした人の何%が販売ページを見るのか?
- 販売ページを見たかの何%が問い合わせや資料請求、購入につながるのか?
- 購入者の客単価はいくらか?
- 購入者の何%がリピートするのか?
・・・
重要なポイント
営業計画、プロモーション計画でツッコミが入らないためには
- 数字算出の根拠
- 仮に数字が計画通りに上手くいかなかった場合の対策
を合わせて記載しておくと良いでしょう。信頼性が上がるはずです。
8.売上予測
- 商品の販売価格
- 顧客の客単価
- 営業計画の数字
- プロモーション計画の数字
が決まれば、売上の予測はスムーズにできるはずです。
ここの売上予測が損益計算書の売上になります。
9.実行スケジュール
上記の販売計画や営業計画、商品の生産、サービスの提供をするために必要なタスクをスケジュールに落とし込みます。
- 融資を申込む
- 採用を開始する
- 人を雇用する
- 仕入れ先を開拓する
- 店舗の賃貸契約をする
・・・
など、重要なマイルストーンをスケジュール化して、記載します。
10.資金計画/資金繰り表の説明
前述した通りで
- 「何にいくら使うのか?」
- 「そのお金は売上を上げるために本当に必要なのか?」
資金使途を融資担当者は重要視しています。
主要な資金使途を説明付きで解説する必要があります。
また、資金繰り表の説明も合わせて入れておきましょう。
まとめ
資金調達を成功させる事業計画書の構成は
- 企業概要/代表者略歴
- 事業内容
- 販売商品/サービス
- 市場分析
- 競合分析
- 会社(経営者)の現状の課題と対策
- プロモーション戦略/営業戦略
- 売上予測
- 実行スケジュール
- 資金計画/資金繰り表の説明
別添資料
- 損益計算書(PL)
- 賃借対照表(BS)
- 資金繰り表(CF)
となります。
一般的な事業計画書とそれほど違いがあるわけではありませんが・・・
資金調達のための事業計画書を作るときに重要になるのは「融資担当者が何を考えているのか?」相手の立場になって予測して、その要求をクリアする事業計画書を作ることです。
融資担当者がチェックするポイントは
- その1.経営者の経歴で過去にその事業に携わったことがあるかどうか?
- その2.何を誰に売って、どのくらいの利益を出すのか?
- その3.お金と事業計画との整合性をチェックする
- その4.経営者に経営に必要な能力があるかどうか?
- その5.本気度、熱意をチェックする
ですので
- 「代表者略歴」でこの事業を成功させる経験、ノウハウ、実績があることを伝える
- 「販売商品/サービス」で、何を誰に売って、どのくらい利益を出すのか?を伝える
- 「競合調査/競合との差別化戦略」で、経営者の資質があることを伝える
- 「会社(経営者)の現状の課題と対策」で、経営者の資質があることを伝える
- 「会社(経営者)の現状の課題と対策」で本気度、熱意をチェックする
- 事業計画書の精度で本気度、熱意をチェックする
・・・
ということを念頭に置きながら、事業計画書を作っていけば、良いのです。
「資金調達を付けやすい事業計画書を作るにはどういうポイントを見れば良いのでしょうか?」
・・・