苦労してベンチャーキャピタル(VC)との面談に進んでも出資を断られることがあります。へこむか、怒るかは人それぞれですが、愉快な気持ちにはならないでしょう。
ベンチャーキャピタル(VC)の立場からすると、出資検討案件のほとんどは断ります。俗に「千三つ」という言い方がありますが、それに近い状態(1,000件の投資候補先があれば997件は断る)です。
銀行等の融資が一定の基準を上回っていれば受けられることとは全く異なります(しかも銀行等はできることなら融資を積極的に増やしていきたいと考えているのに対して、ベンチャーキャピタル(VC)は出資先を増やしたいとはそれほど考えていません)。
また、ベンチャーキャピタル(VC)は出資を断ってもその本当の理由を説明してくれることはほとんどありません。
ベンチャーキャピタル(VC)から出資を断られると、原因は自分(出資を求める側)にあると考えがちです。しかし、ベンチャーキャピタル(VC)側の都合で断っていることも多くあります。
ベンチャーキャピタル側の都合で出資を断る理由
ベンチャーキャピタル(VC)はいいベンチャー企業を見つけてきて、そのベンチャー企業に出資するのが仕事です。
しかし、ベンチャー企業がいくら出資先として有望であっても、専らベンチャーキャピタル(VC)の都合から出資を断られるケースがあります。
具体的には次の3つのケースがあります。
- ベンチャーキャピタル(VC)自体に問題があって出資できない
- ベンチャーキャピタル(VC)の方針と異なるために出資できない
- ベンチャーキャピタル(VC)の出資の状況との兼ね合いで出資できない
ベンチャーキャピタル(VC)自体に問題があって出資を断るケース
ベンチャーキャピタル(VC)自体が出資できる状態にないことがあります。
「銀行が貸出ができない状態にある」のは異常事態ですが、「ベンチャーキャピタル(VC)が出資できない状態にある」のはそれに比べると珍しいことではありません。
出資を断られる理由1:出資できるお金がない
ベンチャーキャピタル(VC)は投資家からお金を集めて、その集めたお金をベンチャー企業に出資する仕組みですが、そのお金がまだ集まっていないことがあります。
ベンチャーキャピタル(VC)は投資家からお金を集めてファンドを組成し、ファンドが組成できると、そのファンドから出資を始めます。ファンドから出資できる期間は通常5年間です。
5年が経過するか、あるいはその前にお金を使い切り、そのファンドでの出資が終わると、またお金を集めて次のファンドを組成することになります。
そのため、お金がなくて投資できない(つまりファンドがまだ組成できていない)期間があることは珍しくないのです。
出資を断られる理由2:投資家から出資を止められている
ベンチャーキャピタル(VC)は、お金はあっても、ファンドの投資家から出資を止められていることがあります。
具体的には、投資者とベンチャーキャピタル(VC)とのファンド契約の中に定められた、ファンドが出資できる条件(期間や社数)を超えてしまっている場合です。
この場合にも出資を断ることになります。
もっと端的に、ベンチャーキャピタル(VC)がファンド契約に違反をしている場合も出資ができないので、断ることになります。
具体的にはベンチャーキャピタル(VC)の主要な担当者が辞めるなどした場合(ファンドの契約では「主要担当者事由」とか「キーパーソン条項」と呼ばれます)があります。
このようにベンチャーキャピタル(VC)が出資者との間の契約に違反している場合には、次のファンドを組成することで解消される可能性は低くなります(そもそも次のファンドを組成できる可能性が低くなります)。
ベンチャーキャピタル(VC)の方針と異なるために出資を断るケース
ベンチャーキャピタル(VC)はそれぞれ投資方針を定めています。投資方針から外れた会社には出資しませんので、断ることになります。
出資を断られる理由3:投資ステージが合っていない
ベンチャーキャピタル(VC)は、投資方針として、出資するベンチャー企業の投資ステージを決めており、そのステージから外れた会社には出資しません。
投資ステージとは「会社の事業の成長のどのタイミングなのか」です。
事業がまだ始まっていない(仮説検証やプロダクトの作成を行っている)段階のベンチャー企業を「アーリーステージ」、プロダクトが完成してユーザーを獲得している段階を「ミドルステージ」、上場が見えてきている段階を「レイターステージ」などと言います。
「アーリーステージ」に特化しているベンチャーキャピタル(VC)はそれなりにあります。このようなベンチャーキャピタル(VC)が「ミドルステージ」に投資するのは、「アーリーステージ」で投資済みの会社が成長した場合の追加投資に限定されます。
一番多いのは、「ミドルステージ」をメインの投資対象としているものの、一部の投資は「アーリーステージ」にも行っているケースです。
「レイターステージ」への投資も、そこに特化しているするベンチャーキャピタル(VC)から行われることが多いです。ただ、「ミドルステージ」への投資をメインに行っているベンチャーキャピタル(VC)が投資するケースもままよくみられます。
出資を断られる理由4:事業領域が合っていない
ベンチャーキャピタル(VC)は、投資方針として、出資するベンチャー企業の事業領域を決めており、その領域から外れていれば出資しません。
かなり絞った領域だけに投資を集中するベンチャーキャピタル(VC)を「特化型」ということがあります。ドローン関連の事業や創薬事業にだけ投資するベンチャーキャピタル(VC)などが典型です。
一方、ほとんどのベンチャーキャピタル(VC)は事業領域を広く設定しています。IT関連の事業、であれば相当のベンチャー企業が当てはまります。
大半のベンチャーキャピタル(VC)は、社会的に見て不適格な事業にも出資しません。また上場が難しい事業(エステや、仮想通貨が典型です)を出資の対象から外しているベンチャーキャピタル(VC)も多くあります。
出資を断られる理由5:リードになるかどうか
出資先の良し悪しとは別に、「リード投資家になる、ならない」によって出資するか、断るかを決めるベンチャーキャピタル(VC)はかなりの数に上ります。
厳密にリード投資家となるかどうかだけではなく、ベンチャーキャピタル(VC)として投資先に何等かの価値提供ができる(その結果、そのベンチャーキャピタル(VC)の力で投資先企業を成長させられる)ことを投資判断の基準にしているベンチャーキャピタル(VC)もあります。
ベンチャーキャピタル(VC)の投資の状況との兼ね合いで出資を断るケース
投資できる領域であり、ベンチャーキャピタル(VC)に資金があっても、そのベンチャーキャピタル(VC)が既に行っている投資との兼ね合いで出資を断る場合もあります。
ベンチャーキャピタル(VC)が1社にだけ、投資するということはまずありません。複数の会社に分散して投資しています。これをポートフォリオと言います。
出資を断られる理由6:ポートフォリオにそぐわない
ベンチャーキャピタル(VC)が望んでいるポートフォリオにそぐわない会社であれば出資を断られます。
ポートフォリオは、各ベンチャーキャピタル(VC)ともに漠然とであっても方針を持っています。
ポートフォリオの方針には以下のようなものがあります。
- IT関連の会社に5割、ドローン関係の会社に5割等、事業領域ごとの比率
- 「アーリーステージ」の会社に1割、「レイトステージ」の会社に1割、「ミドルステージ」の会社が8割、というように事業ステージによる比率
投資を受けるためにはその時々のベンチャーキャピタル(VC)のポートフォリオにマッチする必要があるということです。
また、ポートフォリオが原因で出資を断られる理由の一つに、既に出資しているベンチャー企業との競合であるから、ということもあります(逆に競合すべてに投資する、という方針のベンチャーキャピタル(VC)もあります)。
出資を受けることを希望する側の問題
ベンチャーキャピタル(VC)が出資しない理由には、出資を受けるベンチャー企業側に問題があるケースもあります。
出資を断られる理由7:経営者(経営チーム)に問題がある
ベンチャーキャピタル(VC)の出資判断は、何よりもまず、出資先の経営チームを見ておこなわれます。そのため、経営チームに問題がある会社に投資することはありません。
経営チームに問題があるとは、様々なケースがあります。
- 経営チームに反社会的勢力が混じっている場合もあります。
- 社長の人となりをベンチャーキャピタル(VC)が信頼できないと感じている場合もあります。
出資を断られる理由8:事業モデルに問題がある
ベンチャーキャピタルが出資を断る理由として、その会社・事業に魅力を感じなかったから、ということがあります。
魅力を感じなかった原因としては以下の事柄があります。
- 事業の成功に疑問が残る
- マーケットサイズが小さい
- 成功までの時間軸が合わない
事業の成功に疑問が残る
会社の行っている事業が成功するかどうか、ベンチャーキャピタル(VC)が自信を持てない、あるいは成功しないと確信している場合です。
投資した資金を回収できると判断できないのであればベンチャーキャピタル(VC)は出資を断ります。
マーケットサイズが小さい
事業として成功した場合であっても、小さな成功に留まるのであれば、ベンチャーキャピタル(VC)の儲けは小さくなります。
投資の回収が大きく見込めない事業であればベンチャーキャピタル(VC)は出資を断ることになります。
成功までの時間軸があわない
ベンチャー企業が提示する事業計画の中で、成功するまでにどのくらいの時間を想定しているのかは、ベンチャーキャピタル(VC)が出資を検討するうえで重要です。
ベンチャーキャピタル(VC)は他人からお金を預かって運用(ベンチャー企業への投資)を行っていますが、預かったお金は返す必要があります。つまりベンチャーキャピタル(VC)は投資回収までの期間に制限があります。そのため、成功までに時間がかかりすぎる事業には投資しません。
投資回収までの期間は一般的には10年です。ベンチャーキャピタル(VC)がお金を預かった直後に投資がなされるわけではないため、実際には長くても7,8年後の回収を見込みます。
ベンチャー企業が計画通りに成長できるとは限らず、計画に遅れが生じることも考えると、実際には出資を受けてから3年程度で収支均衡になるような計画でないと出資を受けられません。
出資を断られる理由9:資本政策に失敗している
資本政策に失敗しているとは、経営者の持ち株が著しく低いことを言います。
経営者の持ち株が低い場合には、経営者のモチベーションが上がらないことや、その先の資金調達が困難であることからベンチャーキャピタル(VC)からの出資を断られることが多くあります。
出資を断られる理由10:価格目線が合わない
ベンチャーキャピタル(VC)は割安だと感じた会社に出資します(割高だと感じたら出資を断ります)。取得する株式の価格が安いや高いかを判断しているということです。
株式の価値は、(1)会社の事業が成功した際にどれだけ価値が上昇するか、と、(2)どれだけの確率で成功するか、によって決まります。
ベンチャーキャピタル(VC)は数多くの出資検討を行う中で、他社と比較して、割安かどうかを判断しています。
ベンチャーキャピタル(VC)の儲けは、会社がどれだけ成功するか、と必ずしも一致しません。
一例として、投資を検討している会社が二つあり、どちらかに1億円投資するとします。片方の会社(A社)は将来、企業価値が2億円増加するのに対して、片方の会社(B社)は将来、企業価値が3億円増加すると見込まれるとします(両社ともに成功確率は同じとみているものとします)。
一見すると、企業価値がより多く増える会社(B社)に投資することになりそうです。
しかし、株式の場合は、持ち分も考える必要があります。
A社の企業価値が投資後に4億円、B社の企業価値は投資後に8億円だとします。同じ1億円の投資がA社では、25%の持ち分に(4億円のうちの1億円なので)、またB社では12.5%の持ち分に、それぞれなります。
- A社の企業価値が2億円増えるとA社の企業価値は6億円(4億円+2億円)になります。1億円の投資は、6億円の25%で1.5億円になります。
- B社の企業価値が3億円増えると、B社の企業価値は11億円になりますので、1億円の投資は11億円の12.5%で1.375億円になります。
つまりA社に投資すべき、ということです。この状態でA社への投資は安い買い物であるのに対して、B社への投資は高い買い物になるわけです。
まとめ
ベンチャーキャピタル(VC)が出資を断る理由は二つあります。
一つは出資を求める側に問題があり、ベンチャーキャピタル(VC)が出資できないと判断した場合です。しかし、もう一つ、ベンチャーキャピタル(VC)側に問題があり出資を断るケースもあります。
銀行からの融資を断られた場合、その理由をよく考えてみるべきです。なぜなら、他の銀行に行っても同じ理由で融資を断られる可能性が高いからです。