キャリアアップ助成金は令和8年度6コース|正社員化コースは中小・重点支援対象者で1人80万円、計画書は実施日の前日まで

キャリアアップ計画の提出から正社員転換、6か月の賃金支払い、2か月以内の支給申請までを4点で示した時間軸のアイキャッチ

キャリアアップ助成金は、契約社員やパート、派遣社員といった有期雇用労働者等を正社員に切り替えたり、処遇を改善したりした事業主に国が支給する助成金です。返済は要りませんが、先に人件費を負担してから後で受け取る仕組みなので、資金繰りの上では立替えが発生します。令和8年度のコース構成、1人当たりいくら出るのか、いつまでに何を出すのかを、厚生労働省が公開しているリーフレットと制度ページの記載だけで組み立てます。

この記事で確定させること

令和8年4月8日版のリーフレットに載っているコースは6つです。正社員化支援が2コース、処遇改善支援が4コース。「年収の壁」対応で使われてきた社会保険適用時処遇改善コースは、厚生労働省の該当ページに令和8年3月末までに取組を行った事業主が対象と注記されています。

金額がいちばん大きいのは正社員化コースで、中小企業・重点支援対象者・有期雇用から正規雇用の組み合わせで1人当たり80万円。同じ正社員転換でも、重点支援対象者に当たらなければ40万円で、ちょうど半分になります。

手続きで先に効いてくるのは金額ではなく順番です。キャリアアップ計画は各コースの実施日の前日までに提出が必要で、取組を先に始めてしまうと、あとから計画を出しても間に合いません。

入金までは長めに見ます。正社員化コースは転換後6か月分の賃金を支払い、その支払日の翌日から起算して2か月以内に支給申請という流れで、申請してから審査が入ります。

キャリアアップ助成金とは、非正規雇用の正社員化と処遇改善に出る国の助成金

厚生労働省は、キャリアアップ助成金を「有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者といったいわゆる非正規雇用の労働者(以下、『有期雇用労働者等』という。)の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化、処遇改善の取組を実施した事業主に対して助成するもの」と説明しています。対象になるのは労働者ではなく事業主で、申請するのも事業主です。

資金調達の手段として並べたとき、この助成金の位置づけは補助金とも融資とも違います。融資は返済が必要で、補助金の多くは公募期間が区切られ、審査で採択されるかどうかが分かれます。雇用関係助成金は通年で受け付けられ、要件を満たしていることを書類で示せるかどうかが判定の中心になります。ただし要件を満たしていれば自動的に出るわけではなく、労働局の審査を経ます。当サイトの補助金・助成金を探すでも、制度ごとの性格の違いを整理しています。

窓口は都道府県労働局とハローワークです。厚生労働省は「キャリアアップ助成金の申請方法や助成額など制度の詳細は、都道府県労働局または最寄りのハローワークまでお問い合わせください」とリーフレットに記載しています。実務の判断が必要な場面では、この窓口が正面になります。

厚生労働省のキャリアアップ助成金のページで、コース一覧と重要なお知らせが表示されている画面キャプチャ
厚生労働省「キャリアアップ助成金」のページ。上部の重要なお知らせに、令和8年度版のパンフレット・リーフレットと、令和8年7月29日改訂のQ&Aが並んでいる。

令和8年度のコース構成は6つ、正社員化支援2コースと処遇改善支援4コース

厚生労働省のキャリアアップ助成金のページには、コースを「正社員化支援」と「処遇改善支援」の2つに分けた表が置かれています。掲載されているのは次の6コースです。

表1 キャリアアップ助成金の6コースと対象になる取組(厚生労働省の制度ページの記載を整理)
区分 コース名 助成の対象になる取組 助成の単位
正社員化支援 正社員化コース 有期雇用労働者等を正社員化する 1人当たり
障害者正社員化コース 障害のある有期雇用労働者等を正規雇用労働者等に転換する 1人当たり
処遇改善支援 賃金規定等改定コース 有期雇用労働者等の基本給の賃金規定等を改定し3%以上増額する 1人当たり
賃金規定等共通化コース 有期雇用労働者等と正規雇用労働者との共通の賃金規定等を新たに規定・適用する 1事業所当たり
賞与・退職金制度導入コース 有期雇用労働者等を対象に賞与または退職金制度を導入し、支給または積立てを実施する 1事業所当たり
短時間労働者労働時間延長支援コース 有期雇用労働者等が新たに社会保険の適用となる際に、労働時間の延長等により収入を増加させる 1人当たり

「1人当たり」と「1事業所当たり」が混ざっている点は、金額を読むときに効いてきます。賃金規定等共通化コースと賞与・退職金制度導入コースは、対象になる労働者が何人いても1事業所単位の金額です。逆に正社員化コースと賃金規定等改定コースは人数分が積み上がります。

社会保険適用時処遇改善コースは令和8年3月末までの取組が対象

ここは表記が分かれているので、そのまま書きます。厚生労働省の「雇用関係助成金一覧」のページでは、キャリアアップ助成金の下に社会保険適用時処遇改善コースを含む7コースが並んでいます。いっぽう、キャリアアップ助成金の制度ページに置かれた一覧表と、令和8年4月8日版のリーフレットに載っているのは6コースで、社会保険適用時処遇改善コースは入っていません。

社会保険適用時処遇改善コースのページを開くと、冒頭に注意書きがあります。「社会保険適用時処遇改善コースは令和8年3月末までに取組を行った事業主の方が対象となります。令和8年4月1日以降に、労働者を新たに社会保険に加入させるとともに収入増加の取組を行うことを予定している場合は、以下キャリアアップ助成金『短時間労働者労働時間延長支援コース』の活用をご検討ください」という内容です。同じページには、短時間労働者労働時間延長支援コースが令和7年7月1日に新設され、旧社会保険適用時処遇改善コースの労働時間延長メニューの要件や助成額を見直したものである旨も書かれています。

つまり一覧ページに名前が残っているのは、すでに取組を終えた事業主の申請や過去の資料への導線としてであり、これからの取組で狙う先ではありません。「年収の壁」への対応でこの助成金を検討している場合、いま見るべきは短時間労働者労働時間延長支援コースです。制度名だけを頼りに古い解説記事を読むと、この切り替えを見落とします。

正社員化コースの助成額は、中小企業・重点支援対象者・有期から正規で1人80万円

正社員化コースの金額は、①企業規模(中小企業か大企業か)、②対象者が重点支援対象者に当たるか、③転換前の雇用形態(有期雇用か無期雇用か)の3つで決まります。令和8年4月8日版のリーフレットに載っている1人当たりの金額は次のとおりです。

表2 正社員化コースの助成額(1人当たり、令和8年4月8日版リーフレットの記載)
対象者・企業規模 有期雇用労働者から正規雇用 無期雇用労働者から正規雇用
重点支援対象者・中小企業 80万円(40万円×2期) 40万円(20万円×2期)
重点支援対象者・大企業 60万円(30万円×2期) 30万円(15万円×2期)
上記以外・中小企業 40万円(40万円×1期) 20万円(20万円×1期)
上記以外・大企業 30万円(30万円×1期) 15万円(15万円×1期)

括弧の中の「×2期」「×1期」が、入金のタイミングを表しています。重点支援対象者は2期に分けて受け取る形で、リーフレットにも「重点支援対象者については2期目の申請が可能です」と注記されています。1回の申請で全額が入るわけではない、という点は資金繰り表を作るときに効きます。

読み落としやすい注記が2つあります。1つは「雇用された期間が通算5年を超える有期雇用労働者については無期雇用労働者とみなします」。長く契約を更新してきた人を正社員にした場合、有期雇用からの転換ではなく無期雇用からの転換として扱われ、金額が半分になります。もう1つは「新規学卒者で雇い入れから一定期間経過していない者については支給対象外です」。新卒で採って早めに正社員にする動きは、この助成金の想定外です。

厚生労働省のキャリアアップ助成金のご案内リーフレットで、6コースの助成額が1枚の表にまとまっている画面キャプチャ
厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内(令和8年4月8日)」。正社員化支援2コースと処遇改善支援4コースの助成額が1枚の表に収まっている(資料番号LL080408 No.9)。

重点支援対象者に当たるかどうかで、同じ正社員転換の額が2倍変わる

金額を半分にも2倍にもするのが重点支援対象者の判定です。リーフレットでは、a〜cのいずれかに該当する者と定義されています。

図1 重点支援対象者の3つの類型(リーフレットの定義をそのまま整理)

a 勤続3年以上

雇入れから3年以上の有期雇用労働者。長く有期で働いてきた人が該当します。

b 勤続3年未満で正規経験が乏しい

雇入れから3年未満で、①過去5年間に正規雇用労働者であった期間が合計1年以下、②過去1年間に正規雇用労働者として雇用されていない、の①②いずれにも該当する者。

c 派遣・ひとり親・訓練修了者

派遣労働者、母子家庭の母等、人材開発支援助成金の特定の訓練修了者が該当します。訓練から正社員化へつなぐ設計が金額に反映されています。

cに「人材開発支援助成金の特定の訓練修了者」が入っているのは、制度の組み立てとして重要です。訓練を人材開発支援助成金で実施し、その修了者を正社員化してキャリアアップ助成金を受けるという順番を踏むと、同じ人でも重点支援対象者として扱われる可能性が出てきます。訓練側の制度は人材開発支援助成金の7コースで整理しています。

bの条件は「①②いずれにも該当する」と書かれている点に注意が要ります。どちらか一方ではなく両方です。過去5年で正規雇用が1年以下であっても、直近1年のあいだに正規雇用で働いていた期間があれば、bには当たりません。

正社員化コースの加算額は3種類、1事業所当たり1回ずつ

正社員化コースには、1人当たりの助成額とは別に、1事業所当たりの加算額が用意されています。いずれも「1事業所当たり1回のみ」です。

表3 正社員化コースの加算額(1事業所当たり1回のみ、令和8年4月8日版リーフレットの記載)
措置内容 中小企業 大企業
① 正社員転換制度を新たに規定し、当該雇用区分に転換等した場合 20万円 15万円
② 多様な正社員制度(勤務地限定・職務限定・短時間正社員のいずれか1つ以上)を新たに規定し、当該雇用区分に転換等した場合 40万円 30万円
③ 正規雇用労働者への転換等に係る所定の情報を、自ら管理するウェブサイトまたは職場情報総合サイト(しょくばらぼ)に公表した場合 20万円 15万円

③はリーフレットで「NEW!」と表示されている項目です。就業規則の改定や制度の新設と違って、公表という作業だけで足ります。しょくばらぼは厚生労働省が運営している職場情報の総合サイトで、自社サイトでの公表でも要件に入ると書かれています。すでに正社員転換制度がある会社にとっては、①②が使えなくても③だけは残る可能性があるということです。

①と②は「新たに規定し」が条件なので、もともと転換制度を持っている会社には当たりません。制度を持っていない会社が、これから就業規則を整えて転換を始めるなら、②の多様な正社員制度まで一度に規定しておくと40万円の側に乗ります。

処遇改善支援の4コースは、増額率と制度導入で金額が分かれる

正社員化をしない場合でも、処遇の改善で使えるコースが4つあります。金額の決まり方はコースごとに違います。

表4 処遇改善支援4コースの助成額(令和8年4月8日版リーフレットの記載)
コース 条件 中小企業 大企業
賃金規定等改定コース
(1人当たり)
基本給の賃金規定等を3%以上4%未満増額改定 4万円 2.6万円
4%以上5%未満 5万円 3.3万円
5%以上6%未満 6.5万円 4.3万円
6%以上 7万円 4.6万円
賃金規定等共通化コース
(1事業所当たり)
有期雇用労働者等と正規雇用労働者との共通の賃金規定等を新たに規定・適用 60万円 45万円
賞与・退職金制度導入コース
(1事業所当たり)
有期雇用労働者等を対象に賞与または退職金制度を導入し、支給または積立てを実施 40万円 30万円
賞与・退職金制度導入コースの加算
(1事業所当たり)
賞与と退職金を同時に導入した場合 16.8万円 12.6万円

賃金規定等改定コースには、金額表の下に2つの加算が書かれています。「職務評価の手法の活用により増額改定を実施した場合」に1事業所当たり20万円(大企業の場合15万円)、「有期雇用労働者等の昇給制度を新たに設けた場合」に1事業所当たり20万円(大企業の場合15万円)です。1人当たりの金額は数万円台ですが、1事業所当たりの加算はその何倍にもなります。対象人数が少ない会社ほど、加算を取りにいく設計が効きます。

図2 賃金規定等改定コースは増額率で1人当たりの金額が変わる(中小企業、リーフレットの数値)

3%以上4%未満

4万円

4%以上5%未満

5万円

5%以上6%未満

6.5万円

6%以上

7万円

職務評価の手法を活用した場合の加算(1事業所当たり)

20万円

短時間労働者労働時間延長支援コースは、延長時間と賃金の増加を組み合わせる

「年収の壁」への対応として新設されたのが短時間労働者労働時間延長支援コースです。厚生労働省は、労働者を新たに被用者保険に適用させるとともに、収入増加の取組を行った事業主に助成するコースだと説明しています。金額は1人当たりで、1年目と2年目に分かれます。

1年目は、短時間労働者に対して次の①〜④のいずれかの取組を行った場合が対象です。①所定労働時間を5時間以上延長(賃金の増加の要件なし)、②4時間以上5時間未満の延長かつ賃金を5%以上増加、③3時間以上4時間未満の延長かつ10%以上増加、④2時間以上3時間未満の延長かつ15%以上増加。延長時間が短いほど、求められる賃金の増加率が上がる形です。金額は小規模企業50万円、中小企業40万円、大企業30万円と、企業規模が3段階に分かれています。

2年目は、1年目の取組をしたうえで、①労働時間をさらに2時間以上延長、②基本給をさらに5%以上増加または昇給、賞与もしくは退職金制度の適用、のいずれかを行った場合が対象で、小規模企業25万円、中小企業20万円、大企業15万円です。他のコースが中小企業と大企業の2区分であるのに対し、このコースだけ小規模企業の枠が立っている点が特徴です。

受給の3条件は、キャリアアップ計画・制度の規則化・3%以上の増額

正社員化コースのリーフレットは、受給条件を3つに整理しています。金額の話よりも先に、ここを満たせるかどうかで使えるかが決まります。

図3 正社員化コースの受給条件3つ(正社員化コースのご案内リーフレットの記載)

① キャリアアップ計画

正規雇用労働者に転換する前日までに「キャリアアップ計画」を作成・提出していること。労働者のキャリアアップに向けた取り組みを計画的に進めるための、今後の大まかなイメージを記載した計画です。

② 制度の規則化

正規雇用労働者に転換する制度を、就業規則などに規定していること。運用だけで転換してきた会社は、ここで就業規則の改定が要ります。

③ 正社員転換

転換後6か月間の賃金を、転換前6か月間の賃金より3%以上増額させていること。転換の事実だけでは足りません。

制度ページ側には、キャリアアップ計画について「各コース実施日の前日までに『キャリアアップ計画』(労働組合等の意見を聴いて作成)等を作成し、提出することが必要です」と書かれています。労働組合等の意見を聴くという手順が入るため、提出したい日の直前に作り始めると間に合わない可能性があります。正社員化コースに限らず、どのコースでも実施日の前日までという線は共通です。

③の3%以上という数字は、賃金規定等改定コースの3%と同じ数字ですが、意味が違います。正社員化コースの3%は「転換前6か月と転換後6か月の賃金の比較」であり、賃金規定等改定コースの3%は「基本給の賃金規定等の増額改定率」です。同じ3%でも比べている対象が異なります。

キャリアアップ助成金上の「正規雇用労働者」には、賞与または退職金と昇給が要る

受給条件と並んで見落としやすいのが、この助成金でいう正規雇用労働者の定義です。リーフレットには「同一の事業所内の正規雇用労働者に適用される就業規則が適用されている労働者。ただし『賞与または退職金の制度』かつ『昇給』が転換時点で適用されている者に限る」と書かれています。

ここは「かつ」です。賞与または退職金のどちらかがあればよいのですが、それに加えて昇給が必要です。賞与も退職金もなく昇給だけがある会社、あるいは賞与はあるが昇給の定めがない会社では、社内の呼称としては正社員でも、この助成金の定義を満たさないことになります。

さらに注記があります。「支給対象期間中に実施が予定されている『賞与』『昇給』等が適用されていない場合、正規雇用労働者の要件を満たさず、支給対象とならない場合があります」。制度として就業規則に書いてあるだけでなく、支給対象期間に実際に適用されているかを見られるという読み方になります。就業規則を整えるときは、転換時点で適用されている状態にしておく必要があります。

正社員化コースのリーフレット裏面で、受給条件3つと正規雇用労働者の定義、受給までの流れが図で示されている画面キャプチャ
厚生労働省「キャリアアップ助成金(正社員化コース)のご案内」の裏面。受給条件3つ、正規雇用労働者の定義、正社員転換から受給までの流れが並んでいる(資料番号LL080408 No.10)。

申請から入金までの流れ、支給申請は6か月分の賃金を払った日の翌日から2か月以内

正社員化コースのリーフレットは、受給までを5つのステップで示しています。どの段階でどれだけ時間が経つかを、資金繰りの側から読み替えます。

図4 正社員転換から受給までの5ステップ(正社員化コースのご案内リーフレットの記載)

  1. キャリアアップ計画の作成・提出 労働組合等の意見を聴いて作成し、転換の前日までに提出します。
  2. 就業規則等の改定 転換規定がない場合等に行います。すでに規定がある会社はこの段階を飛ばせます。
  3. 就業規則等に基づく正社員転換 規定に沿って転換します。ここが「取組を行った日」の起点です。
  4. 正社員転換後6か月分の賃金の支払い 転換後6か月間、3%以上増額した賃金を支払い続けます。
  5. 支給申請 取組後6か月分の賃金を支払った日の翌日から起算して2か月以内に申請します。重点支援対象者はさらに6か月雇用したうえで2期目の申請ができます。

ステップ4の時点で、増額した人件費はすでに6か月分が出ています。ステップ5で申請し、そこから労働局の審査を経て入金されるので、支出が先、入金が後という順番は動きません。重点支援対象者で2期に分ける場合は、2期目の対象期間がさらに6か月あるため、正社員転換の日から数えると、2期目の申請ができるようになるまでに1年以上かかる計算になります。

厚生労働省は、支給申請様式や支給金額は各コースの取組を行った日で変化すると案内し、申請時にはその時点の様式をダウンロードするよう求めています。制度の見直しのたびに様式が改定されるためで、実際に申請様式のページには令和2年度から令和8年度まで、適用期間を区切った様式が並んでいます。手元に古い様式を保存して使い回すと、取組日と様式が合わなくなります。

電子申請にも対応しています。制度ページには、正社員化コース、賃金規定等改定コース、賃金規定等共通化コース、賞与・退職金制度導入コース、短時間労働者労働時間延長支援コースの5コースについて、電子申請の入口が個別に用意されています。郵送で出す場合、厚生労働省は簡易書留等の配達記録が残る方法を求め、申請期間内に到達していることが必要だとしています。

雇用関係助成金に共通の要件も満たす必要がある

キャリアアップ助成金の個別要件とは別に、雇用関係助成金すべてに適用される共通要領があります。厚生労働省は「実際に助成金を受給するためには、各助成金の個別の要件も満たす必要がありますので、各助成金の個別の支給要領や申請様式もあわせてご確認ください」と案内しています。公開されている共通要領は、令和8年4月8日現在の版です。

表5 共通要領まわりで先に押さえるもの(厚生労働省「雇用関係助成金の申請にあたって」の記載)
項目 内容
共通の申請様式 共通要領 様式第1号「支給要件確認申立書」(令和8年4月1日更新)と、その別添「支払方法・受取人住所届」(令和5年4月1日更新)
生産性要件 2023(令和5)年3月31日で廃止。算定シート(様式第2号系列)は経過措置の扱いで残されている
併給調整 複数の助成金を申請する場合、併給調整がかかることがある。厚生労働省は「併給調整早見ツール」で確認するよう案内し、個別の申請ではこれによらない場合があるとしている
離職者の要件 一部の助成金では、特定受給資格者となる離職理由のうち離職区分1Aまたは3Aとされる離職理由により離職した者が一定数以上存在しないことが要件になる
郵送申請 簡易書留等、配達記録が残る方法で郵送する。申請期間内に到達していることが必要

併給調整は、複数のコースや複数の助成金を同時に狙うときに効いてきます。たとえば訓練を人材開発支援助成金で行い、その修了者を正社員化してキャリアアップ助成金を申請するような組み合わせでは、事前に早見ツールで確認し、判断が割れそうなら管轄の労働局に相談しておくほうが安全です。厚生労働省自身が「申請前に管轄の労働局へご相談ください」と書いています。

不正受給のペナルティは全額返還と延滞金、2割の納付、5年間の受給停止

不正受給の定義は「事業主等が偽りその他不正の行為により本来受けることのできない助成金の支給を受け、又は受けようとすること」です。対象は代表者だけではありません。「事業主等の代表者のほか、事業主等の役員、従業員、代理人その他当該事業主等の支給申請、申請書類の作成に関わった者が、偽りその他不正の行為をした場合には、当該事業主等が不正の行為をしたものとみなします」と書かれています。申請書類の作成を外部に任せていても、事業主の行為とみなされるという読み方になります。

不正受給の場合に生じること(厚生労働省の記載)

・不正に受給した助成金は全額返還。加えて、不正受給日の翌日からの延滞金と、不正受給した額の2割に相当する額も納付する。

・不正受給決定日から5年間、雇用関係助成金(不正受給を行った以外の助成金を含む)は受給できない。全額返納されていない場合、この期間は延長される。

・公表基準に該当する場合、「事業主名及び代表者名」などが公表される。

受給停止の5年について「不正受給を行った以外の助成金を含む」と書かれている点が、とくに効いてきます。キャリアアップ助成金で問題が起きれば、人材開発支援助成金も両立支援等助成金も同じ期間は使えなくなります。助成金を資金計画に織り込んでいる会社ほど、書類の作り方を外部任せにしないほうがよいことになります。

資金繰りから見ると、キャリアアップ助成金は後払いの立替え

返済不要という点だけを見ると借入より有利に見えますが、時間軸は逆です。正社員化コースの場合、3%以上増額した賃金を6か月払い終えてから申請し、そこから審査を経て入金されます。増額分の人件費は、その間ずっと自社のキャッシュから出ていきます。

数字を置いて考えます。月給25万円の有期雇用労働者を正社員に転換し、3%増額して25万7,500円にした場合、増額分は月7,500円、6か月で4万5,000円です。人数が3人なら13万5,000円。中小企業・重点支援対象者・有期雇用からの転換であれば1人80万円が2期に分かれて入るため、金額そのものは増額分を上回ります。ただし入るのは先の話で、増額分の支出は転換した月から始まります。社会保険料の事業主負担も同時に増えます。

助成金を当てにして人件費を先に増やすと、入金までのあいだに資金が細ります。使うなら、増額分と社会保険料の事業主負担増を先に見積もり、入金がなくても回る範囲で転換人数を決める順番になります。転換人数と増額分を月次に落とす手順は資金繰り改善の具体策100にまとめています。制度の全体像は助成金とは?申請条件・申請から受給までの流れもあわせて確認してください。

どのコースから検討するかの目安

6コースのうち、どこから見るかは自社の状況で決まります。判断の入口を整理します。

表6 自社の状況とコースの当たり(本記事による整理。金額はいずれも中小企業の額)
いまの状況 先に見るコース 金額の目安
有期雇用の人を正社員にしたい 正社員化コース 1人40万〜80万円+加算最大80万円
正社員化はしないが基本給を上げたい 賃金規定等改定コース 1人4万〜7万円+加算20万円×2
正社員と非正規の賃金規定を揃えたい 賃金規定等共通化コース 1事業所60万円
賞与や退職金の制度がまだない 賞与・退職金制度導入コース 1事業所40万円(同時導入で+16.8万円)
短時間労働者を社会保険に入れたい 短時間労働者労働時間延長支援コース 1人30万〜50万円(1年目)
障害のある有期雇用の人を正社員にしたい 障害者正社員化コース 1人45万〜120万円

障害者正社員化コースには、他のコースにない上限の考え方があります。リーフレットには「助成額が支給対象期間における対象労働者に対する賃金の額を超える場合には、当該賃金の総額を上限として支給します」と注記されています。金額表の数字がそのまま出るとは限らない、という条件です。

正社員化コースのリーフレット表面で、助成額の表と加算額の表が示されている画面キャプチャ
厚生労働省「キャリアアップ助成金(正社員化コース)のご案内」の表面。助成額が2期に分かれる内訳と、3種類の加算額が示されている。

よくある質問

キャリアアップ計画は、正社員転換のあとに出しても間に合いますか。
厚生労働省は、各コースの実施日の前日までに作成し提出することが必要だとしています。正社員化コースのリーフレットでも、受給条件の1つ目として「正規雇用労働者に転換する前日までに作成・提出していること」と明記されています。
社内で「正社員」と呼んでいれば、正規雇用労働者として扱われますか。
リーフレットの定義では、同一の事業所内の正規雇用労働者に適用される就業規則が適用されていることに加え、「賞与または退職金の制度」かつ「昇給」が転換時点で適用されている者に限る、とされています。呼称ではなく適用されている制度で判断されます。
社会保険適用時処遇改善コースは、いまから申請できますか。
厚生労働省の同コースのページには、令和8年3月末までに取組を行った事業主が対象と注記されています。令和8年4月1日以降に社会保険の加入と収入増加の取組を行う予定であれば、短時間労働者労働時間延長支援コースの検討を案内しています。
1人当たりの助成額は、1回の申請でまとめて入りますか。
正社員化コースの重点支援対象者は「40万円×2期」のように2期に分かれており、リーフレットにも2期目の申請が可能である旨が書かれています。1期目の申請だけでは表の全額にはなりません。
複数の助成金を同時に申請できますか。
厚生労働省は、複数の助成金の支給申請にあたって併給調整がかかる場合があるとして、「併給調整早見ツール」での確認を案内しています。同時に、このツールは基本的な併給の可否を示したものであり、個別の申請ではこれによらない場合があるとして、申請前に管轄の労働局へ相談するよう求めています。
申請書類の作成を社外に依頼した場合、不正があっても自社の責任にはなりませんか。
厚生労働省は、代表者のほか役員、従業員、代理人その他支給申請や申請書類の作成に関わった者が不正の行為をした場合、当該事業主等が不正の行為をしたものとみなす、としています。

まとめ

令和8年度のキャリアアップ助成金は、正社員化支援2コースと処遇改善支援4コースの計6コースです。社会保険適用時処遇改善コースは令和8年3月末までの取組が対象で、これからの取組は短時間労働者労働時間延長支援コースが受け皿になります。

金額の中心は正社員化コースで、中小企業・重点支援対象者・有期雇用からの転換で1人80万円。重点支援対象者に当たらなければ40万円と、判定ひとつで倍の差がつきます。加算は3種類あり、いずれも1事業所当たり1回のみです。

手続きで効くのは順番と期限です。キャリアアップ計画は各コースの実施日の前日まで、支給申請は取組後6か月分の賃金を支払った日の翌日から起算して2か月以内。増額した人件費を先に出してから受け取る後払いの構造なので、入金を織り込まずに回る範囲で人数を決めるのが現実的です。個別の適用可否は、管轄の都道府県労働局またはハローワークにご確認ください。

他の雇用関係助成金と並べて金額・期限・窓口を比べたい場合は雇用関係助成金13分類の比較をご覧ください。制度そのものの仕組みは助成金とはで扱っています。

参照した一次情報

金額・要件・期限は2026年9月30日に厚生労働省の公式ページおよびリーフレットに掲載されていた内容です。制度は改定されることがあり、支給申請様式や支給金額は取組を行った日によって変わります。受給を保証するものではなく、適用の可否は管轄の都道府県労働局またはハローワークの判断によります。本記事は情報提供を目的としたもので、個別の労務・税務の判断については社会保険労務士等の専門家にご相談ください。