キャリアアップ助成金も人材開発支援助成金も両立支援等助成金も、コースごとの要件を満たしただけでは受け取れません。すべての雇用関係助成金に共通して適用される「共通要領」があり、そこに支給対象になる事業主の条件と、当てはまると支給しない不支給要件が書かれています。労働保険料の未納や過去の法令違反のように、コースの内容とは無関係のところで止まる項目が並びます。どこで落ちるのかを、令和8年4月8日現在の共通要領で確認します。
不支給要件は共通要領0302にイからワまでの記号を振って並んでいます。1つでも当たれば、コース側の要件を満たしていても支給されません。
実務でいちばん引っかかりやすいのが労働保険料の未納です。支給申請日の属する年度の前年度より前のいずれかの保険年度の労働保険料を納付していない事業主は不支給になります。ただし救済の例外が2つ書かれています。
「労働関係法令の違反」は送検された場合に限定されています。是正勧告を受けたことそのものが不支給要件として書かれているわけではありません。
共通要領とは、すべての雇用関係助成金に適用される支給要領
厚生労働省は「雇用関係助成金の申請にあたって」のページで、「このページには、雇用関係助成金すべてに適用される『共通の支給要領』『共通の申請様式』のほか、申請方法や申請先などを掲載しています」と説明し、続けて「実際に助成金を受給するためには、各助成金の個別の要件も満たす必要がありますので、各助成金の個別の支給要領や申請様式もあわせてご確認ください」としています。
つまり要件は二段構えです。共通要領の要件を満たし、そのうえで各助成金の要領の要件を満たす必要があります。コースのパンフレットだけを読んで準備を進めると、共通側の条件を見落とします。共通要領は令和8年4月8日現在のものが公開されています。

支給対象事業主等の4つの条件
共通要領の0301は、助成金を支給する相手を4つのいずれにも該当する事業主等と定めています。
| 記号 | 条件 |
|---|---|
| イ | 雇用保険適用事業所の事業主(支給申請日及び支給決定日の時点で雇用保険被保険者が存在する事業所の事業主であること) |
| ロ | 助成金の支給又は不支給の決定に係る審査及び支給決定後においても適正支給のための調査に必要な書類等を整備、保管している事業主等 |
| ハ | 審査及び調査に必要であると管轄労働局の長が認める書類等を、管轄労働局長の求めに応じ提出又は提示する、管轄労働局の実地調査に協力する等、審査及び調査に協力する事業主等 |
| ニ | 「第2 各助成金別要領」に定めがある場合は、各助成金ごとに定める要件を満たす事業主等 |
イで注目したいのは「支給申請日及び支給決定日の時点で」という書き方です。申請の時点だけでなく、支給決定の時点でも雇用保険被保険者が存在している必要があります。申請してから決定までの間に被保険者がいなくなると、条件を外れる可能性があります。
ロとハは書類の話ですが、支給決定後の調査も想定されています。受け取ったら終わりではなく、あとから調査に必要な書類を出せる状態で保管しておくことが条件に組み込まれています。
不支給要件はイからワまで並んでいる
共通要領の0302は、0301の規定にかかわらず、イからワまでのいずれかに該当する事業主等に対しては支給しないと定めています。早期再就職支援等助成金(再就職支援コース)についてはトを除き、加えてワのうち職業訓練実施支援に関する訓練に限る、という例外も書かれています。
| 記号 | 内容 | 性質 |
|---|---|---|
| イ | 偽りその他不正の行為により本来受けることのできない助成金の支給を受け、又は受けようとしたことにより、支給申請日又は支給決定日の時点で不支給措置が取られている事業主等 | 過去の不正 |
| ロ | 支給申請日の属する年度の前年度より前のいずれかの保険年度の労働保険料を納付していない事業主等 | 労働保険料 |
| ハ | 支給申請日の前日から起算して1年前の日から支給申請日の前日までの間に労働関係法令の違反を行った事業主等 | 法令違反 |
| ニ | 風俗営業等関係事業主等 | 業種・属性 |
| ホ | 暴力団関係事業主等 | 業種・属性 |
| ヘ | 事業主等又はその役員等が、破壊活動防止法第4条に規定する暴力主義的破壊活動を行った又は行うおそれがある団体等に属している事業主等 | 業種・属性 |
| ト | 支給申請日又は支給決定日の時点で倒産している事業主等(再生手続開始の申立て又は更生手続開始の申立てを行った事業主であって、事業活動を継続する見込みがある者を除く) | 経営状態 |
| チ | 調査への協力や、不正受給時の事業主名等の公表、返還について承諾していない事業主等 | 承諾 |
| リ | 「支給要件確認申立書」(様式第1号)の別紙「役員等一覧」又は同内容の記載がある書類を提出していない事業主等 | 書類 |
| ヌ | 本支給要領に従うことについて、承諾していない事業主等 | 承諾 |
| ル | 0902に定める不受理期間中に当該不受理措置を受けている社会保険労務士又は代理人による申請を行った事業主等 | 代理人 |
| ワ | 不正受給に関与した訓練を行う者が実施した訓練を行った事業主等(不支給とした日又は支給を取り消した日から起算して5年を経過するまで等) | 訓練実施者 |
並んでいる項目のうち、自社の行動で直せるのはロ・リ・チ・ヌあたりで、ニ・ホ・ヘは属性の問題、ル・ワは自社以外の関係者に起因します。社会保険労務士や訓練を行う者の側に問題があると、事業主が不支給になる構造になっている点は覚えておく価値があります。
表は条文を要約したもので、各項目には括弧書きの除外規定や細かい定義が付いています。該当しそうな項目があるときは、要約ではなく共通要領の原文を読んでください。

労働保険料の未納で止まる。ただし救済の例外が2つある
ロの労働保険料は、実務でもっとも多く引っかかる項目です。条文は「助成金の支給に係る事業所において、支給申請日の属する年度の前年度より前のいずれかの保険年度の保険料(徴収権が消滅しているものを除く)を納付していない事業主等」としています。
読むときの要点は3つです。1つ目は対象が「支給申請日の属する年度の前年度より前」であること。当年度や前年度の分ではなく、それより前の未納が問題になります。2つ目は「いずれかの保険年度」であること。何年か前の1年分だけ納め忘れていても該当します。3つ目は「徴収権が消滅しているもの」が除かれることです。
ロの括弧書きにある2つの救済(共通要領0302ロ)
・支給申請日の翌日から起算して2か月以内に当該労働保険料を納付した事業主
・納付の猶予期間内に支給申請を行う事業主であって、猶予期間の終了日の翌日から2か月以内に当該労働保険料を納付した事業主
未納に気づいたあとでも、この期間内に納付すれば不支給にならない余地があるという書き方です。とはいえ期限は2か月と短いので、申請を考えた時点で労働保険料の納付状況を確認しておくのが順番になります。
「労働関係法令の違反」は送検された場合に限定されている
ハの労働関係法令違反は、対象期間が「支給申請日の前日から起算して1年前の日から支給申請日の前日まで」と区切られています。そして「労働関係法令の違反を行った」の意味が、次の3つのいずれかに該当する場合と明示されています。
図1 共通要領が定義する「労働関係法令の違反を行った」場合
(イ) 労働基準部からの送検
都道府県労働局労働基準部(労働基準監督署を含む)から送検された場合です。
(ロ) 職業安定部等の告訴・告発
都道府県労働局職業安定部又は需給調整事業部若しくは運輸局の告訴又は告発により捜査機関から送検された場合です。
(ハ) その他の告訴・告発
(イ)及び(ロ)以外の者の告訴又は告発により捜査機関から送検されたことが明確な場合です。
3つとも「送検」が共通しています。労働基準監督署から是正勧告を受けたことそのものは、この定義には書かれていません。もちろん是正勧告を放置してよいという意味ではなく、各助成金の個別要領や審査の過程で別の扱いがある可能性はありますが、共通要領の不支給要件としての線はここに引かれています。
不正受給の定義。故意でない記載ミスは不正の行為に当たらない
共通要領0205は不正受給を定義しています。「事業主等が偽りその他不正の行為(詐欺、脅迫、贈賄等刑法各条に触れる行為のほか、刑法上犯罪を構成するに至らない場合であっても、故意に支給申請書に虚偽の記載を行い又は偽りの証明を行うことが該当する)により本来受けることのできない助成金の支給を受け、又は受けようとすることをいう」というものです。
続けて重要な但し書きがあります。「ただし、支給申請書に事実に反する記載があった場合であっても、当該記載が故意によらないものと認められる場合は不正の行為には該当しない」。記載ミスがそのまま不正受給になるわけではなく、故意かどうかで分かれます。
いっぽうで、責任の範囲は広く取られています。「事業主等の代表者のほか、事業主等の役員、従業員、代理人その他当該事業主等の支給申請、申請書類の作成に関わった者が、偽りその他不正の行為をした場合には、当該事業主等が不正の行為をしたものとみなす」とされています。申請を外部に委託していても、事業主の行為とみなされます。
「不正受給に係る請求金」の定義も置かれています。返還を求めた額、不正受給の日の翌日から納付の日まで年3分(不正受給申請が行われた日が令和2年3月31日以前の場合は年5分)の割合で算定した延滞金、そして返還を求めた額の2割に相当する額の合計です。個別の助成金のページに書かれている「全額返還+延滞金+2割」は、この定義に基づいています。各助成金での扱いはキャリアアップ助成金や人材開発支援助成金の記事でも触れています。
実地調査には3つの形がある
共通要領0204は「実地調査」を3つに分けています。イは雇用保険法第79条に基づく立入検査。ロは管轄労働局が事業主又は事業所の長の任意の協力の下に行う事業所訪問による調査。ハは管轄労働局が社会保険労務士、代理人又は訓練を行う者の任意の協力の下に行う事務所等への訪問による調査です。
ロとハは「任意の協力の下に行う」と書かれていますが、0301のハで「実地調査に協力する等、審査及び調査に協力する事業主等」が支給対象の条件になっているため、協力しないという選択は実質的に不支給につながります。
なお管轄労働局は、助成金の支給に係る事業所の所在地を管轄する都道府県労働局です。65歳超雇用推進助成金については、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構と読み替えると注記されています。

電子申請と郵送申請、どちらも認められている
共通要領0206は電子申請を「ハローワークシステム(助成金電子申請事務処理。以下『雇用関係助成金ポータル』という。)又はe-Gov電子申請により行われた申請」と定義しています。制度ページ側では、雇用関係助成金の電子申請のページが案内されています。
郵送申請も可能です。厚生労働省は、簡易書留等の配達記録が残る方法で郵送すること、そして申請期間内に到達していることの2点を求めています。発送日ではなく到達日で判定されるため、期限ぎりぎりの投函は避ける必要があります。一部の助成金については申請書類のチェックリストが用意されています。
共通の申請様式と、廃止された生産性要件
共通の申請様式は2つです。共通要領 様式第1号「支給要件確認申立書」(令和8年4月1日更新)と、その別添「支払方法・受取人住所届」(令和5年4月1日更新)。不支給要件のリに「支給要件確認申立書の別紙『役員等一覧』を提出していない事業主等」とあるとおり、この申立書と別紙は提出しないと不支給になります。
生産性要件は2023(令和5)年3月31日で廃止されました。様式第2号系列の生産性要件算定シートは経過措置として残されていますが、現行の助成率の割増しは生産性要件ではなく、賃金要件・資格等手当要件などコースごとの条件で判断されます。古い解説記事が生産性要件を前提に書いている場合、その部分は現行の制度と合いません。
申請前に確認する順番
図2 コースの要件を詰める前に済ませておく確認
- 労働保険料の納付状況を確認する 支給申請日の属する年度の前年度より前に未納の保険年度がないかを見ます。未納があれば、申請日の翌日から2か月以内という救済の期限を意識して動きます。
- 雇用保険被保険者がいる状態を保つ 支給申請日と支給決定日の両方の時点で必要です。決定までの期間も見込んで人員計画を確認します。
- 役員等一覧を用意する 支給要件確認申立書(様式第1号)の別紙です。提出していないこと自体が不支給要件です。
- 併給調整を確認する 複数の助成金を申請する予定があれば、併給調整早見ツールで確認します。厚生労働省は、このツールは基本的な併給の可否を示したものであるため、個別の申請ではこれによらない場合があるとして、申請前に管轄の労働局へ相談するよう求めています。
- 各助成金の個別要領を読む 共通要領を満たしたうえで、コースごとの要領の要件を確認します。要領は年度途中にも改定されます。
資金計画に助成金を織り込む場合、この確認を先に済ませておかないと、コース側の準備がすべて無駄になります。助成金全体の位置づけは助成金とは?申請条件・申請から受給までの流れ、資金繰り表の作り方は資金繰り改善の具体策100で扱っています。
まとめ
雇用関係助成金は、コースの要件だけでは受け取れません。共通要領0301の支給対象事業主等の4条件を満たし、0302の不支給要件イからワまでのいずれにも当たらないことが必要です。
実務で効くのは、労働保険料の未納(支給申請日の属する年度の前年度より前のいずれかの保険年度)、支給申請日と支給決定日の両時点での雇用保険被保険者の存在、役員等一覧の提出、そして調査への協力です。労働関係法令の違反は、共通要領では送検された場合として定義されています。
不正受給は故意によらない記載ミスを含まないと明記されていますが、役員・従業員・代理人など申請書類の作成に関わった者の行為は事業主の行為とみなされます。共通要領は改定されるため、申請の前に最新版を確認し、個別の判断は管轄の都道府県労働局にご相談ください。
コース側の要件を比べる段階に進んだら雇用関係助成金13分類の比較、制度の仕組みそのものは助成金とはをご覧ください。
参照した一次情報
- 厚生労働省「雇用関係助成金の申請にあたって」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/index_00018.html(共通要領と各助成金の個別要領の関係、共通の申請様式(様式第1号 支給要件確認申立書、別添 支払方法・受取人住所届)、生産性要件の廃止、併給調整早見ツール、郵送申請の方法、電子申請)
- 厚生労働省「雇用関係助成金共通要領」(令和8年4月8日現在)https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001688318.pdf(0203 常時雇用する労働者、0204 実地調査の3類型、0205 不正受給の定義と不正受給に係る請求金、0206 電子申請、0301 支給対象事業主等、0302 不支給要件イからワまで)
- 厚生労働省「雇用関係助成金共通要領Q&A」https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001749391.pdf(共通要領の運用についての問答集として掲載されているもの)
条文の内容は2026年10月1日に厚生労働省が公開していた令和8年4月8日現在の共通要領によります。表は条文を要約したもので、判断にあたっては原文を確認してください。共通要領は改定されることがあります。受給を保証するものではなく、個別の該当性は管轄の都道府県労働局の判断によります。労務の実務判断については社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

