銀行にリスケを依頼するにあたって、経営者は色々なポイントが気になるはずです。今回は、銀行とのリスケ交渉を成功させるためのテクニックについて解説します。
銀行とのリスケ交渉を成功させるリスケ交渉テクニック
交渉テクニックその1.リスケの内容を正確に把握する
リスケについて無知であると、そもそも銀行の融資担当者との交渉の土台が崩れてしまいます。見当ちがいなことを話していては、交渉がスムーズに行かないことは明らかです。「リスケ」について正確に把握する必要があります。
リスケについて抑えておくべきポイント
1.リスケとは?
リスケとは
をいいます。
2.返済額がゼロになるわけではない!
リスケというのは、返済をしなくてよいわけではありません。
借入金の返済は
という構造ですから、この「元本の返済」の部分が、リスケによって減額できる、もしくはゼロにできるものです。
交渉によっては「利息の支払い」もゼロにすることができないわけではありませんが、ほとんどのケースで「利息の支払い」はリスケ後も、継続しなければならないのです。
通常の返済(元金均等返済)
月 | 融資残高 | 元本返済 | 利息返済 | 返済金額 |
---|---|---|---|---|
1カ月目 | 30,000,000円 | 500,000円 | 75,000円 | 575,000円 |
2カ月目 | 29,500,000円 | 500,000円 | 73,750円 | 573,750円 |
3カ月目 | 29,000,000円 | 500,000円 | 72,500円 | 572,500円 |
4カ月目 | 28,500,000円 | 500,000円 | 71,250円 | 571,250円 |
5カ月目 | 28,000,000円 | 500,000円 | 70,000円 | 570,000円 |
6カ月目 | 27,500,000円 | 500,000円 | 68,750円 | 568,750円 |
7カ月目 | 27,000,000円 | 500,000円 | 67,500円 | 567,500円 |
8カ月目 | 26,500,000円 | 500,000円 | 66,250円 | 566,250円 |
9カ月目 | 26,000,000円 | 500,000円 | 65,000円 | 565,000円 |
10カ月目 | 25,500,000円 | 500,000円 | 63,750円 | 563,750円 |
11カ月目 | 25,000,000円 | 500,000円 | 62,500円 | 562,500円 |
12カ月目 | 24,500,000円 | 500,000円 | 61,250円 | 561,250円 |
リスケ中の返済(元金均等返済)
月 | 融資残高 | 元本返済 | 利息返済 | 返済金額 |
---|---|---|---|---|
1カ月目 | 30,000,000円 | 0円 | 75,000円 | 75,000円 |
2カ月目 | 30,000,000円 | 0円 | 75,000円 | 75,000円 |
3カ月目 | 30,000,000円 | 0円 | 75,000円 | 75,000円 |
4カ月目 | 30,000,000円 | 0円 | 75,000円 | 75,000円 |
5カ月目 | 30,000,000円 | 0円 | 75,000円 | 75,000円 |
6カ月目 | 30,000,000円 | 0円 | 75,000円 | 75,000円 |
7カ月目 | 30,000,000円 | 0円 | 75,000円 | 75,000円 |
8カ月目 | 30,000,000円 | 0円 | 75,000円 | 75,000円 |
9カ月目 | 30,000,000円 | 0円 | 75,000円 | 75,000円 |
10カ月目 | 30,000,000円 | 0円 | 75,000円 | 75,000円 |
11カ月目 | 30,000,000円 | 0円 | 75,000円 | 75,000円 |
12カ月目 | 30,000,000円 | 0円 | 75,000円 | 75,000円 |
3.リスケが認められるのは最長でも1年間まで
リスケは、基本的に6カ月~1年間で申し込むものです。それ以上の期間のリスケは基本的には認められません。
1年間のリスケをした場合に、1年間経過後に再度リスケが必要であれば、そのときに再審査され、もう一度最長1年間のリスケが認められることになります。
当然、「1年間のリスケ中に経営改善計画書に応じて、どれだけの改善が見られたのか?」がリスケを再申請するときの審査のポイントになります。
リスケは、簡単に延長できるものではない。最長で1年間であることを理解しておく必要があります。
4.銀行も、融資担当者も、リスケはしたくない!
という前提を忘れてはいけません。
銀行がなぜリスケをしたくないのか?
銀行は、融資先を「債権者区分」で分類しています。銀行が貸し倒れによって、資金繰りが悪化しないように「債権者区分」の悪い融資先は、万が一貸し倒れしたときに急に損益が悪化しないように「貸倒引当金」という経費計上をするのです。
この貸倒引当金は、債権者区分が悪くなるほど、大きく積み上げなければならないものです。
債務者区分による「計上しなければならない貸倒引当金」の割合
- 「正常先」:0.2%
- 「要注意先」:5.0%
- 「要管理先」:20.0%~60.0%
- 「破綻懸念先」:60.0%~100.0%
- 「実質破綻先」:100.0%
- 「実質破綻先」:100.0%
リスケをしても、経営改善計画書がしっかりしていれば、債権者区分を組み替える必要はないのですが、リスケを申込まれたう上で、断らざるを得ない(再建のめどが立たない)場合には
へ区分を変更しなければならないのです。
1億円の融資をしている会社が
- 「正常先」であれば、「貸倒引当金」は20万円です。
- 「要管理先」になってしまえば、「貸倒引当金」は2000万円~6000万円となります。
銀行の融資担当者がなぜリスケをしたくないのか?
です。
銀行の融資担当者は、新規開拓、新規の融資、既存の融資残高などで成績を評価されます。
リスケが成功しても、成績の評価には加味されません。
それどころか、稟議書起案の手間は大きく、かつ上司にも「管理はどうなっていたんだ。」とお叱りを受けてしまいます。
交渉テクニックその2.資金がなくなる6カ月前には申し込む
なぜなら、再建できなくなるギリギリの状態まで引っ張ってしまうと、リスケをしたところで、経営を立て直すことが難しくなっている可能性が出てくるからです。
6カ月の猶予があれば、借入金の返済を待ってもらうことで、できた資金的な余裕で経営改善できる可能がありますが・・
後、1カ月で資金が尽きるという状態で、借入金の返済を待ってもらえたところで、経営を改善できる可能性は低いのです。資金的な余裕、時間的な余裕がなくなってしまっているからです。
リスケを実行すると、追加の借り入れができなくなるため、リスケ実行の決断に躊躇してしまうのは当然だと思いますが、リスケを後伸ばしにして、ズルズルいってしまうことの方が経営再建の道を閉ざしてしまうことになるのです。
交渉テクニックその3.銀行からの追加融資を受けられないことを確定する
ということが認められなければ、リスケ申請は認められない可能性が高いです。
資金調達の可能性をやりつくしたことを証明しなければならないのです。
- 「リスケ」を申請するのに、資産として不動産を持っている
- 他の銀行から追加融資を受けられるに、「リスケ」を申請してくれる
・・・
このような状況下では、銀行だけがダメージを負う「リスケ」が認められないのは当然なのです。
目ぼしい銀行には、「追加融資」の依頼をして、断られた実績が必要になる
目ぼしい資産は、すべて売却して、資金調達になる充てる
必要があります。
交渉テクニックその4.完済までの経営改善計画書を書く
リスケの期間は1年間ですが・・・
と考えて良いでしょう。
これは銀行もわかっています。
ということです。
5年、10年というスパンでも良いので
という経営改善計画書を作ると
と銀行も「リスケの承認」をしやすいのです。
ということを示して、リスケを承認してもらう必要があります。
交渉テクニックその5.経営改善計画書の数値の根拠を示す
経営改善計画書は、どの会社も、きれいな数字で経営が改善する計画書を作ります。
銀行の融資担当者が思うのは
という一点に尽きるのです。
例えば
と書かれていても
という点が重要になります。
と書かれていても
となります。
という形まで落とし込めれば
となるのです。
他にも
と書かれていても
と聞かれます。
「退職者はできかもしれませんが、2割の社員が辞めても、配置転換によって会社はまわります。」
という形まで落とし込めれば
となるのです。
交渉テクニックその6.ウソをつかない
リスケ交渉でもっともやってはいけないことは「ウソ」です。
「ウソ」がベースになった、経営改善計画書には、何の信頼もおけないからです。
- 他の銀行がリスケに難色を示している
- 社員が辞めるそぶりを見せている
- 売上が減るマイナスの要因がさらに出てきた。
・・・
など、言いにくい情報もあるはずですが、包み隠さず銀行には伝えなければなりません。マイナスの情報を伝達してくれる方が銀行の融資担当者にとっては、信頼がおける経営者だと感じるはずです。
交渉テクニックその7.できない約束はしない
銀行もリスケ交渉の際には
- 手数料の値上げ
- 金利の引き上げ
- 返済額の引き上げ
- 追加の保証人
- 追加の担保の差し入れ
- 他の銀行の口座残高を自行に移す
・・・
などの要求をしてきます。
当然、リスケをお願いしているのはこちらなので、弱い立場ですから、「はい。はい。」言ってしまう方もいます。
しかしながら、無理な要求を呑んだうえで、経営改善計画書通りに改善できなければ、こちらの責任として、次回のリスケの延長が認められない可能性が出てきてしまいます。
交渉テクニックその8.目標は低めに設計する
経営改善計画書を作る際に
「リスケ」を承認してもらいたいがために無茶なV字回復の計画を作成してしまう方も少なくありません。
結局、これでは1年後に経営改善計画書が全然実行できいない、未達の状況になってしまい、リスケの延長が認められない可能性が高まってしまいます。
同じ結果だとしても
- できるだけ経営改善計画書の目標は低く設定して、大きく上振れで達成する
- 経営改善計画書の目標を高く積み増して、未達で終わる
のでは、銀行の信用が全く違う結果になるのです。
交渉テクニックその9.事前にリスケ準備をしておく
リスケの準備をしておかなければ、リスケが失敗してしまう可能性があります。
- リスケ先の銀行口座の残高をゼロにしておく
- 預金を解約しておく
- 売上の入金口座を借り入れのない(リスケとは関係のない)銀行に移しておく
- 借り入れのない(リスケとは関係のない)銀行に預金を移しておく
このことをしておかなければ、リスケ交渉時に
となってしまいます。
銀行口座がロックされてしまえば、資金繰りがすぐに破綻してしまいます。銀行は、回収が危ういと感じた場合には口座をロックすることができるのです。
このほかにも
- 手形割引ができる銀行をリスケ先とは別に確保する
- 公共料金やリース料金の支払口座を借り入れのない(リスケとは関係のない)銀行に移しておく
必要があります。
リスケを申請する前に口座残高を移すときには
適当な理由を付けて、口座からお金を引き出さないと、その前に口座がロックされてしまい、資金繰りが破綻してしまいます。
交渉テクニックその10.粘り強く交渉する
最後は「根気」の勝負です。
「必ず完済させますから、リスケの期間は1年間でお願いします。」
と、妥協をせず粘り腰の交渉をしなければなりません。
ただし、「根気」のある交渉というのは、単にこちらの要望を言い続けるものではありません。
- どこにボトルネックがあるのか?
- どこを不安視されているのか?
- 資料には何が不足しているのか?
- どうすれば要望通りにしてもらえるのか?
・・・
相手のボトルネックをヒアリングしながら、その不安を払拭する材料を提供しながら、交渉をまとめなければなりません。
その姿勢があれば、リスケ交渉も上手く行くはずです。
まとめ
銀行とのリスケ交渉を成功させるリスケ交渉テクニックには
- 交渉テクニックその1.リスケの内容を正確に把握する
- 交渉テクニックその2.資金がなくなる6カ月前には申し込む
- 交渉テクニックその3.銀行からの追加融資を受けられないことを確定する
- 交渉テクニックその4.完済までの経営改善計画書を書く
- 交渉テクニックその5.経営改善計画書の数値の根拠を示す
- 交渉テクニックその6.ウソをつかない
- 交渉テクニックその7.できない約束はしない
- 交渉テクニックその8.目標は低めに設計する
- 交渉テクニックその9.事前にリスケ準備をしておく
- 交渉テクニックその10.粘り強く交渉する
というものがありまう。