特定調停とは|多数決のない債務整理。合意は裁判上の和解と同一の効力、民事執行の停止は申立てと疎明が要る

多数決の有無、民事執行の停止、成立したときの効力を3枚のカードで並べたアイキャッチ

特定調停は、裁判所の調停委員会が間に入って、債権者と一件ずつ話をまとめていく手続きです。これまで見てきた手続きと違い、債権者全体の多数決はありません。合意できた相手との間だけで条件が変わります。根拠は民事調停法の特例として置かれた「特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律」です。条文で確かめます。

条文に書かれている枠組み

  • 目的は支払不能に陥るおそれのある債務者等の経済的再生。民事調停法の特例として手続を定めている(特定調停法1条)。
  • 「特定債務者」は、支払不能に陥るおそれのある者、事業の継続に支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することが困難な者、または債務超過に陥るおそれのある法人(2条1項)。
  • 申立ての際に特定調停手続を求める旨の申述をし、財産の状況を示すべき明細書等と関係権利者の一覧表を提出する(3条)。
  • 調停委員には法律、税務、金融、企業の財務、資産の評価等の専門的知識経験を有する者を指定する(8条)。
  • 調停条項は公正かつ妥当で経済的合理性を有する内容でなければならない(15条・17条2項)。
  • 合意が調書に記載されると裁判上の和解と同一の効力を持つ(民事調停法16条)。

この法律は民事調停法の特例として置かれている

特定調停法1条は「この法律は、支払不能に陥るおそれのある債務者等の経済的再生に資するため、民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)の特例として特定調停の手続を定めることにより、このような債務者が負っている金銭債務に係る利害関係の調整を促進することを目的とする」と定めています。

「特例として」と書かれている以上、この法律だけで手続きが完結するわけではありません。22条が「特定調停については、この法律に定めるもののほか、民事調停法の定めるところによる」と明記しています。2つの法律を並べて読む必要があります。

e-Gov法令検索の公式画面。特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律の第1条から第3条までが表示されている
e-Gov法令検索の特定調停法。目的、定義、特定調停手続が冒頭に並ぶ(2026年10月21日に表示)。

「特定債務者」に当たる3つの類型

2条1項が定義を置いています。「特定債務者」とは、金銭債務を負っている者であって、支払不能に陥るおそれのあるもの若しくは事業の継続に支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することが困難であるもの又は債務超過に陥るおそれのある法人です。

特定債務者の類型(特定調停法2条1項)
類型 内容 対象
1つ目 支払不能に陥るおそれのあるもの 個人・法人
2つ目 事業の継続に支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することが困難であるもの 個人・法人
3つ目 債務超過に陥るおそれのある法人 法人のみ

いずれも「おそれ」「困難」の段階で入れる書き方になっています。破産の開始原因である支払不能そのものに至る前を想定した設計です。第4項は「関係権利者」を、特定債務者に対して財産上の請求権を有する者と、特定債務者の財産の上に担保権を有する者と定義しています。

申立てのときに出すものが決まっている

3条1項は、特定債務者が特定債務等の調整に係る調停の申立てをするときに特定調停手続により調停を行うことを求めることができるとしています。第2項により、この申述は調停の申立ての際にしなければなりません。後から切り替える形ではありません。

第3項は提出書類です。申立人は、申立てと同時に(やむを得ない理由がある場合は申立ての後遅滞なく)、財産の状況を示すべき明細書その他特定債務者であることを明らかにする資料と関係権利者の一覧表を提出しなければなりません。

「関係権利者の一覧表」を出す段階で、相手を特定しておく必要がある。

特定調停は相手方ごとに合意を積み上げる手続きです。誰を相手にするかを申立ての時点で決めることになるため、債権者の洗い出しが前段の作業になります。

調停委員は専門知識を持つ者が指定される

8条は「裁判所は、特定調停を行う調停委員会を組織する民事調停委員として、事案の性質に応じて必要な法律、税務、金融、企業の財務、資産の評価等に関する専門的な知識経験を有する者を指定するものとする」と定めています。

列挙されている5分野は、債務の整理で実際に判断が割れる領域とほぼ重なります。法律だけでなく、税務・金融・財務・資産評価が条文に並んでいるのがこの手続きの性格を表しています。

当事者には事実を明らかにする責務がある

10条は「特定調停においては、当事者は、調停委員会に対し、債権又は債務の発生原因及び内容、弁済等による債権又は債務の内容の変更及び担保関係の変更等に関する事実を明らかにしなければならない」としています。

対象は「当事者」であり、申立てをした側だけではありません。債権者の側にも、債権の発生原因や内容を明らかにする責務が課されています。

民事執行を止めてもらえることがある

7条1項は、事件を特定調停によって解決することが相当であると認める場合に、特定調停の成立を不能にしもしくは著しく困難にするおそれがあるとき、または特定調停の円滑な進行を妨げるおそれがあるときは、申立てにより、特定調停が終了するまでの間、担保を立てさせて、または立てさせないで、特定調停の目的となった権利に関する民事執行の手続の停止を命ずることができると定めています。

ただし書きに除外があります。給料、賃金、賞与、退職手当および退職年金ならびにこれらの性質を有する給与に係る債権に基づく民事執行の手続は、この停止の対象になりません。

民事執行手続の停止(特定調停法7条)
項 内容
1項 特定調停が終了するまでの間、民事執行の手続の停止を命じることができる。申立てが必要
1項ただし書 給料・賃金・賞与・退職手当・退職年金等に係る債権に基づく民事執行は対象外
2項 必要があると認めるときは、申立てにより続行を命じることができる
3項 1項・2項の申立てをするには、その理由を疎明しなければならない
4項 1項・2項の決定に対しては即時抗告ができる

破産や会社更生のように開始決定で一律に止まるのではなく、申立てと疎明を経て、個別に止める仕組みです。

特定調停をしないまま終わることがある

11条は、調停委員会が民事調停法13条に規定する場合のほか、申立人が特定債務者であるとは認められないとき、または事件が性質上特定調停をするのに適当でないと認めるときは、特定調停をしないものとして事件を終了させることができると定めています。

入口で2条1項の定義に当たらないと判断されれば、そこで終わるということです。

関係権利者は許可なく手続に入れる

9条は「特定調停の結果について利害関係を有する関係権利者が特定調停手続に参加する場合には、民事調停法第十一条第一項の規定にかかわらず、調停委員会の許可を受けることを要しない」と定めています。

通常の民事調停では参加に許可が要るところを、特定調停では外しています。関係権利者が自分の判断で入ってこられるという点は、申立てをする側から見れば相手方が増える可能性を意味します。19条により、9条から18条までの規定は裁判官だけで特定調停を行う場合にも準用されます。

調停委員会には資料を集める手段がある

12条は「調停委員会は、特定調停のために特に必要があると認めるときは、当事者又は参加人に対し、事件に関係のある文書又は物件の提出を求めることができる」としています。10条の当事者の責務と対になる規定です。

14条1項は、必要があると認めるときに官庁、公署その他適当であると認める者に対し、意見を求めることができると定めています。

第2項には法人の事件についての定めがあります。法人の申立てに係る事件について特定調停をしようとするときは、使用人その他の従業者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、ないときは使用人その他の従業者の過半数を代表する者の意見を求めるものとするとされています。会社更生法46条3項や民事再生法42条3項と同じ構造です。

調停委員会が使える手段(特定調停法12条・14条・16条)
条文 内容 相手
12条 事件に関係のある文書または物件の提出を求める 当事者または参加人
14条1項 意見を求める 官庁、公署その他適当であると認める者
14条2項 法人の事件では意見を求めるものとする 従業者の過半数で組織する労働組合、またはその過半数を代表する者
16条 書面による調停条項案の受諾で合意の成立とみなす 出頭が困難であると認められる当事者

出頭できなくても書面で受諾できる

16条は、当事者が遠隔の地に居住していることその他の事由により出頭することが困難であると認められる場合に、その当事者があらかじめ調停委員会から提示された調停条項案を受諾する旨の書面を提出し、他の当事者が期日に出頭してその調停条項案を受諾したときは、当事者間に合意が成立したものとみなすと定めています。

全員が同じ期日に顔をそろえなくても合意が成立し得るということです。ただし、他の当事者が期日に出頭して受諾することが条件になっています。両方が書面で済ませる形は条文に書かれていません。

調停前の措置には執行力がない

民事調停法12条1項は、調停委員会が調停のために特に必要があると認めるときに、当事者の申立てにより、調停前の措置として、相手方その他の事件の関係人に対して現状の変更または物の処分の禁止その他、調停の内容たる事項の実現を不能にしもしくは著しく困難ならしめる行為の排除を命ずることができると定めています。

ただし第2項が「前項の措置は、執行力を有しない」と明記しています。命令は出せても、それ自体で強制はできません。この点が、特定調停法7条による民事執行手続の停止と性質が違うところです。

「調停をしない」と「成立しない」は別の条文

終わり方の条文は2つあります。民事調停法13条は事件が性質上調停をするのに適当でないと認めるとき、または当事者が不当な目的でみだりに調停の申立てをしたと認めるときに、調停をしないものとして事件を終了させることができるとしています。

民事調停法14条は当事者間に合意が成立する見込みがない場合、または成立した合意が相当でないと認める場合に、裁判所が17条の決定をしないときは、調停が成立しないものとして事件を終了させることができるとしています。

事件が終了する場面の対比
条文 終わり方 判断の内容
民事調停法13条 調停をしない 性質上適当でない、または不当な目的でみだりに申し立てた
特定調停法11条 特定調停をしない 13条の場合のほか、申立人が特定債務者であるとは認められない、または性質上適当でない
民事調停法14条 調停が成立しない 合意の見込みがない、または成立した合意が相当でない
特定調停法18条1項 特定調停が成立しない 公正かつ妥当で経済的合理性を有する合意の見込みがない、または成立した合意がそう認められない

特定調停法の11条と18条は、民事調停法の13条と14条に「特定債務者であるか」「経済的合理性があるか」という2つの審査を上乗せした構造になっています。

条項には「経済的合理性」が求められる

15条は、調停委員会が当事者に調停条項案を提示する場合に、その案は「特定債務者の経済的再生に資するとの観点から、公正かつ妥当で経済的合理性を有する内容のものでなければならない」と定めています。

同じ表現が17条2項にも繰り返されています。公正・妥当・経済的合理性という3語が、この手続きの条項の質を測る物差しとして条文に書き込まれています。

当事者の共同申立てで条項を定めてもらえる

17条1項は「特定調停においては、調停委員会は、当事者の共同の申立てがあるときは、事件の解決のために適当な調停条項を定めることができる」としています。合意の内容そのものを調停委員会に委ねる仕組みです。

調停委員会が調停条項を定める手順(特定調停法17条)

3項

当事者の共同の申立ては書面でする。その書面に、定められた調停条項に服する旨を記載する。

2項

定める条項は、公正かつ妥当で経済的合理性を有する内容でなければならない。

4項

条項の定めは、期日における告知その他相当と認める方法による告知によってする。

5項

当事者は告知前に限り申立てを取り下げられる。相手方の同意は要らない。

6項

告知が当事者双方にされたときは、当事者間に合意が成立したものとみなす。

5項と6項の関係が実務上の分かれ目です。告知の前なら一方的に降りられますが、告知が双方にされた時点で合意が成立したものとみなされます。

成立しないものとして終わる場合

18条1項は、民事調停法14条の規定にかかわらず、調停委員会が特定債務者の経済的再生に資するとの観点から、当事者間に公正かつ妥当で経済的合理性を有する内容の合意が成立する見込みがない場合、または成立した合意がそのような内容のものであるとは認められない場合に、裁判所が民事調停法17条の決定をしないときは、特定調停が成立しないものとして事件を終了させることができると定めています。

注目すべきは後段です。合意が成立していても、その内容が経済的合理性を欠くと判断されれば終了させられます。当事者がよいと言えば通る手続きではありません。

成立した調停は裁判上の和解と同じ効力を持つ

効力は民事調停法が定めています。16条は「調停において当事者間に合意が成立し、これを調書に記載したときは、調停が成立したものとし、その記載は、裁判上の和解と同一の効力を有する」としています。

裁判上の和解と同一の効力ということは、債務名義になるということです。合意した内容を守らなければ、その調書に基づいて強制執行を受ける可能性があります。条件を決める段階で、履行できる水準かどうかの検討が要ります。

調停に代わる決定と、2週間の異議

民事調停法17条は、調停委員会の調停が成立する見込みがない場合に相当と認めるときは、民事調停委員の意見を聴き、当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情を見て、職権で、当事者双方の申立ての趣旨に反しない限度で、事件の解決のために必要な決定をすることができるとしています。この決定では金銭の支払、物の引渡しその他の財産上の給付を命じられます。

18条が異議の手続きです。

調停に代わる決定への異議(民事調停法18条)
項 内容
1項 当事者または利害関係人は異議を申し立てられる。期間は決定の告知を受けた日から2週間
2項 異議の申立てが不適法であると認めるときは却下しなければならない
4項 適法な異議の申立てがあったときは、決定は効力を失う
5項 2週間内に異議がないときは、決定は裁判上の和解と同一の効力を有する

2週間という期間が、決定を確定させるかどうかを分けます。何もしなければ、裁判上の和解と同じ効力が生じます。

不成立でも訴えは申立ての時にさかのぼる

民事調停法19条は、14条により事件が終了し、または18条4項により決定が効力を失った場合に、申立人がその旨の通知を受けた日から2週間以内に調停の目的となった請求について訴えを提起したときは、調停の申立ての時に、その訴えの提起があったものとみなすと定めています。

調停を試みたことで時機を失わないようにする規定です。こちらも2週間が区切りになっています。

他の手続きとどこが違うか

これまで見てきた手続きと並べると、拘束の及ぶ範囲が決定的に違います。

特定調停と法的整理手続の対比
項目 特定調停 民事再生 破産
合意しない債権者 拘束されない(個別に合意を積み上げる) 可決・認可された計画に拘束される 法定の順位で配当を受ける
多数決 条文に定めなし 頭数の過半数+議決権総額の2分の1以上(民事再生法172条の3) なし
執行の停止 申立てと疎明により個別に停止(7条) 手続開始により中止 開始決定により失効(破産法42条2項)
成立したものの効力 裁判上の和解と同一(民事調停法16条) 認可決定の確定により権利が変更される 配当により終了
入口の要件 「おそれ」「困難」の段階(2条1項) 破産原因の生ずるおそれ等(民事再生法21条1項) 支払不能または債務超過(破産法15条・16条)

各手続きの条文は民事再生とはと破産手続とはで個別に整理しています。

この記事で扱っていないこと

確認したのは特定調停法と民事調停法の条文です。申立手数料、予納郵券の額、期日の回数、申立てから終了までの期間は、裁判所ごと・事件ごとに決まるもので、今回は一次情報で確認していないため書いていません。

また、個人の債務整理で問題になる利息制限法に基づく引直し計算、過払金の扱い、住宅ローンのある場合の取扱いについても、この記事では触れていません。個別の判断は弁護士または司法書士に相談してください。税務の取扱いは税理士に確認してください。

よくある質問

法人でも使えますか

2条1項は「債務超過に陥るおそれのある法人」を特定債務者に含めています。他の2類型には法人・個人の限定がありません。

申立てのあとで特定調停に切り替えられますか

3条2項は、特定調停手続により調停を行うことを求める旨の申述は「調停の申立ての際にしなければならない」と定めています。

給与の差押えも止められますか

7条1項ただし書は、給料、賃金、賞与、退職手当および退職年金ならびにこれらの性質を有する給与に係る債権に基づく民事執行の手続を、停止の対象から除いています。

全員と合意しないと意味がありませんか

条文に多数決の定めはありません。16条(民事調停法)により、合意が成立して調書に記載された範囲で裁判上の和解と同一の効力が生じます。

合意の内容は当事者の自由ですか

18条1項は、成立した合意が公正かつ妥当で経済的合理性を有する内容のものであるとは認められない場合にも、事件を終了させることができると定めています。

決定に納得できないときはどうしますか

民事調停法18条1項により、決定の告知を受けた日から2週間以内に異議を申し立てられます。適法な異議があれば決定は効力を失います(4項)。

多数決のある手続きとの違いは債務整理・事業再生の5手続きを条文で比較、合意型を選ぶ前後の段取りは会社の債務を整理する方法の一覧で扱っています。

出典