銀行融資による資金調達では銀行融資の種類についても把握しておく必要があります。今回は銀行融資の種類「手形割引」について解説します。
「手形割引」とは?
「手形割引」とは
企業が受け取った商業手形を銀行が買い取ることで融資(資金調達)すること
を意味します。
「商業手形」とは
企業取引では一般的に請求書による後払いが基本で信用売買による取引になりますが、この場合は「給付受領日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で定めなくてはなりません」と下請法(第2条の2)で決まっています。
60日以上の長期で企業取引の支払いを繰延するためには商業手形を使うのが都合が良いのです。売買など商取引に基づいて振出された手形のことを「商業手形」と言います。真正手形または実手形、受取手形あるいは支払手形とも呼ばれます。
商品やサービスの代金を「商業手形」で支払われる企業にとっては、売掛債権よりも手形債権の方が回収の確実性が高いというメリットがありますが、商品やサービスの代金が入金されるまでの期間が長期化してしまうため、資金繰り悪化の要因ともなるのです。
「手形割引」は、資金繰り悪化の要因となる「商業手形」を銀行に買い取ってもらうため、すぐに資金化できるというメリットがあるのです。大手のメーカーなどは6か月の手形で下請けに支払いをするというケースも少なくないため、中小企業にとっては手形の満期まで待つと資金繰りの悪化が激しく、手形割引を利用するケースが多いのです。
「手形割引」の特徴
「手形割引」といっても、手形を担保にした融資という位置づけ
「手形割引」を「手形を銀行に売却したら、それでおしまい」という取引だと勘違いしている経営者の方も多いのですが、「手形割引」はあくまでも手形を担保にした融資という位置づけなのです。
そのため、「手形割引」の振出人が倒産したり、支払いができなくなり、担保である手形が不渡りになってしまった場合には、買取してもらう企業(持込人)が銀行に返済をする(手形を買い戻す)義務があるのです。
- 下請けB社 → クライアントA社 1000万円分のサービスを提供
- クライアントA社 → 下請けB社 1000万円の手形を振り出し
- 下請けB社 → 銀行 1000万円の手形割引を依頼
- 銀行 → 下請けB社 1000万円で手形を買取
- クライアントA社が倒産
- 下請けB社 → 銀行 1000万円で手形を買い戻す義務が発生
ということになるのです。
手形の未回収リスクは買取してもらう企業(持込人)が負う形になります。
「銀行に手形を買い取ってもらったから、クライアントが倒産しても影響はない」というのは間違えないのです。
「手形割引」の審査は「証書貸付」よりも通りやすい
「手形割引」の審査では
- 「手形割引」で買取してもらう企業(持込人)の経営状況
- 「手形割引」で買取してもらう企業(持込人)の資産状況
- 「手形割引」で買取してもらう企業(持込人)の信用力
- 「手形割引」で買取してもらう企業(持込人)の担保
- 手形の金額
- 「手形割引」の振出人の信用力
を審査します。
前述した通りで、手形が不渡りになれば買取してもらう企業(持込人)が買い戻す必要があるので、銀行は買取してもらう企業(持込人)の買い戻し余力を審査することになります。
企業(持込人)の買い戻し余力が買い取る手形の金額を上回っていれば、銀行にとっては振出人の貸し倒れリスクも負わないので、審査は通しやすいのです。
「手形割引」の審査は都度行われるのが基本ですが、定期的に「手形割引」を利用する企業に対しては、限度額(極度額)を設定し、その金額の範囲内であればいつでも買取可能するケースが多いです。
手形の割引率
手形の割引率は銀行によって差がありますが、一般的な相場は下記のようになっています。
- 都市銀行:1.5~3.0%
- 普通銀行:2.0~3.5%
- 信用金庫:2.5~4.5%
- 信用組合:3.5~5.5%
手形割引は融資のひとつですので
- 「手形割引」で買取してもらう企業(持込人)の信用力
- 手形の満期まで期間
- 手形の金額
に左右されます。
「手形割引」で銀行融資を受ける際の注意点
手形の不渡り時には買い戻し義務があることを忘れてはいけない!
例えば、1000万円の180日後満期の手形を、手形割引で980万円で銀行に買い取ってもらった場合、すぐに980万円が手元に入ります。
980万円を運転資金や設備投資に全部使ってしまった場合に、180日経過する前に手形の振出人が倒産してしまえば、手形は不渡りになり、銀行から買い戻しを要求されるのです。このときに「買い戻しをする資金がない」となってしまえば、連鎖倒産になってしまう可能性もあるのです。
手形割引で資金調達をした場合には、買い戻しのリスクがあることを念頭に余裕を持った資金繰りをしておく必要があります。とくに手形の振出人の経営状況が悪い場合は注意が必要です。
まとめ
「手形割引」は、手形で商品やサービスの支払いをしてくるクライアントが多い中小企業にとっては、必要不可欠なものと言っていいでしょう。
商品やサービスの提供時にコストがかかっているのに、入金は半年後というのでは資金繰りが悪化するのは当然なのです。
「手形割引」を利用すること自体が悪いことではありませんが、手形による支払いを強要してくるクライアントとの付き合い方を見直すということも資金調達では視野に入れる必要がります。
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