M&Aで資金をつくるとは|代金が会社に入るか個人に入るかで形が変わる【公的データで確認】

中小企業庁の2024年度の集計による譲渡側4,940件のM&A形態別構成比を3枚のカードで示したアイキャッチ。株式譲渡が69.9%で3,452件、代金は株主である経営者個人へ。事業譲渡が23.9%で1,180件、代金は譲渡した会社へ。その他が6.2%で308件、吸収分割・吸収合併・株式交換など。下に支援は仲介81.5%/FA18.5%と書かれている

先に要点

  1. M&Aで資金をつくるとき、お金の入り先はスキームで変わります。事業譲渡なら会社に、株式譲渡なら株主である経営者個人に入ります。
  2. 実際に選ばれている形は偏っています。中小企業庁の2024年度の集計では、譲渡側4,940件のうち株式譲渡が69.9%(3,452件)、事業譲渡が23.9%(1,180件)です。
  3. 支援の受け方も偏っています。同じ集計で、譲渡側の81.5%(4,024件)が仲介、18.5%(916件)がFAでした。
  4. 公的な無料窓口があります。事業承継・引継ぎ支援センターの相談者数は令和6年度までの累計で150,655件、事業引継ぎ件数は累計12,306件です。
  5. 民間に頼む場合の費用は規模で激変します。報酬率の中央値は、株式譲渡額1千万円以下の区分で50.0%、5億円超の区分で4.3%です。

借入や増資で資金をつくる方法が行き詰まったとき、会社や事業そのものを譲って資金化するという選択肢が残ります。ただし「M&A」という一語には、お金の入り先も手続きも費用もまったく違う複数の形が含まれています。ここでは、どの形がどれだけ使われているか、公的な支援は何をしてくれるか、民間に頼むといくらかかるかを、公表されているデータで確かめます。

誰のところにお金が入るのかで、まず分かれる

資金調達の文脈でM&Aを考えるなら、ここが出発点です。

形 譲るもの 代金の入り先 資金繰りへの効き方
事業譲渡(営業譲渡) 事業そのもの。資産・負債・契約を個別に移す 譲渡した会社 法人の手元資金が増える。運転資金や返済に充てられる
株式譲渡 会社の株式 株主(多くは経営者個人) 会社の手元資金は増えない。個人の資金として残る
吸収分割 事業に関する権利義務を包括的に移す 対価の設計による 株式を対価とする場合は現金が入らない
第三者割当増資 新株(会社を手放さない) 発行した会社 法人に資金が入るが、持株比率が下がる

スキームの性質は会社法の規定および各社の公開資料をもとに当サイトが整理しました(2026年10月13日に条文を確認)。実際の取り扱いは契約の内容と事実関係によります。

よくある誤解は、会社を売れば会社の資金繰りが楽になるというものです。株式譲渡で入る代金は株主のものであり、会社の口座には入りません。会社の資金を増やすのが目的なら、事業譲渡か増資を検討することになります。事業譲渡の手続きと制約は営業権譲渡(事業譲渡)で資金調達する方法で扱っています。

実際には7割が株式譲渡

中小企業庁は、登録支援機関から報告のあったM&A案件を集計して公表しています。資本金1億円以下の法人または個人事業主を当事者とするM&Aが対象で、2024年度の報告件数は譲渡側4,940件、譲受側4,708件です。

M&Aの形態 譲渡側(件) 構成比 譲受側(件)
株式譲渡 3,452 69.9% 3,366
事業譲渡 1,180 23.9% 1,067
吸収分割 34 その他合計6.2%(308件) 24
吸収合併 10 12
株式交換 4 3
株式移転 1 1
その他 259 235
合計 4,940 100% 4,708

出典:中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」の2024年度・M&A形態の割合(2026年10月13日に表示を確認)。構成比は同ページの表示によります。

この比率は、スキームの選び方を考えるうえで参考になります。4件に1件が事業譲渡であり、少数派ではありますが例外的でもありません。会社を残したまま一部の事業だけを譲る形が、現実に一定の割合で使われているということです。

支援の受け方は8割が仲介

同じ集計から、どの形で支援を受けているかも分かります。

区分 FA 仲介 合計
譲渡側 916件(18.5%) 4,024件(81.5%) 4,940件
譲受側 703件(14.9%) 4,005件(85.1%) 4,708件
合計 1,619件 8,029件 9,648件

出典:中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」の2024年度・FAと仲介の利用割合(2026年10月13日に表示を確認)。

中小企業庁は、どちらの支援を受けるかの決定にあたっては、それぞれの特徴や活用例、自社のニーズを踏まえて検討する必要があると注意を促しています。

仲介とFAの特徴(中小企業庁の説明)

仲介の特徴

譲渡側・譲受側双方から依頼を受けているため、いずれか一方の利益のみを優先的に取り扱うことはできないものの、双方の意向を一元的に把握し、双方の共通の目的であるM&Aの成立を目指して助言や調整を行う。

仲介の活用例

自社にとって最も有利な条件で成立させることだけを重視するのではなく、仲介者が双方とコミュニケーションをとることを通じて円滑に手続を進めることを重視する場合。

FAの特徴

一方当事者のみから依頼を受けているため、依頼者の意向を踏まえて、依頼者にとって有利な条件でのM&Aの成立を目指して助言や調整を行う。

FAの活用例

自社にとって最も有利な取引条件で成立させることを重視する場合のほか、債権者や株主との関係で、譲渡額をはじめ最も有利な条件での成立を目指す必要がある場合。

出典:中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」のFAと仲介の利用割合に添えられた解説(2026年10月13日に掲示を確認)。

登録の実態から見ると、この2つは会社の種類ではなく案件ごとの契約形態の違いです。詳しくはM&Aアドバイザリー(FA)と仲介の違いで扱っています。

無料で相談できる公的な窓口がある

民間の仲介会社に相談する前に、公的な窓口を知っておく価値があります。中小企業基盤整備機構が運営する事業承継・引継ぎ支援センターは、全国47都道府県に置かれ、相談は無料です。

中小企業基盤整備機構の事業承継・引継ぎポータルの第三者承継支援についてのページの画面。無料で相談に対応という見出しの下に、事業引継ぎにまつわるあらゆる相談を受けていること、民間機関を活用してM&Aを実行する際のセカンドオピニオンとしても活用できることが書かれ、POINT1として相談件数127,000件超の豊富な経験という見出しと、相談者数の棒グラフ(令和6年度の累計150,655件)、事業引継ぎ件数の棒グラフ(令和6年度の累計12,306件)が並び、下にPOINT2として成約譲渡企業の約7割が小規模事業者という独自性という見出しがある
中小企業基盤整備機構「第三者承継支援について」(2026年10月13日に表示を確認)。

公開されている実績と特徴

相談者数(累計)

150,655件

令和6年度までの累計。同年度の単年は23,540件と表示されています。

事業引継ぎ件数(累計)

12,306件

令和6年度までの累計。同年度の単年は2,132件です。

成約譲渡企業の規模

約7割が小規模事業者

同ページがPOINT2として挙げている特徴です(グラフはいずれも令和6年度実績)。

相談に対応する人

中小企業診断士・金融機関OBほか

税理士、公認会計士も在籍すると記載されています。

出典:中小企業基盤整備機構「第三者承継支援について」(2026年10月13日に表示を確認)。相談者数と事業引継ぎ件数は同ページのグラフの表示によります。同ページのPOINT1の見出しは「相談件数127,000件超」と表記されています。

注目したいのは、同センターが「民間機関を活用してM&Aを実行する際のセカンドオピニオンとしても活用いただけます」と明記している点です。仲介会社から提示された条件が妥当かどうかを、利害関係のない立場で相談できる窓口だということになります。

支援の進め方は3通りが示されています。センター自身がマッチングから成約までをコーディネートする形、登録された民間のM&A仲介業者や金融機関につなぐ形(この場合の支援は有償)、後継者人材バンクを活用する形です。

民間に頼むと、規模によって負担率が10倍以上違う

民間の仲介会社に依頼する場合の費用は、譲渡額の規模で大きく変わります。中小企業庁の2024年度の集計による、株式譲渡額に対する報酬総額の中央値です。

報酬率の中央値(2024年度・株式譲渡額区分別)

5百万円超〜1千万円以下

50.0%

サンプル数200件。第三四分位は90.9%です。

5千万円超〜1億円以下

16.6%

サンプル数401件。

2億円超〜3億円以下

8.3%

サンプル数299件。

5億円超

4.3%

サンプル数641件。第一四分位は3.2%です。

出典:中小企業庁「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」の報酬率の分布(2026年10月13日に表示を確認)。株式譲渡額500万円未満の案件は除かれています。

理由は最低報酬額です。主要な仲介会社の最低報酬は2,000万円から2,500万円に集まっているため、譲渡額がそれを下回る案件では、料率ではなくこの金額が支払額を決めます。中小企業庁も、譲り渡し側が小規模である場合に備えて最低報酬を設けている支援機関は多いとされていると説明しています。費用の詳しい比較はM&Aの手数料相場を6社の公表テーブルと公的集計で比べるにまとめました。

廃業と比べたときに残るもの

会社をやめる方法は、第三者へ譲ることだけではありません。判断の材料として、何が残り何が失われるかを並べます。

比べる点 第三者への譲渡(M&A) 廃業
従業員の雇用 譲受側で継続しうる(契約の内容による) 原則として失われる
取引先との取引 譲受側へ引き継がれうる 終了する
手元に残る金額 譲渡対価(事業譲渡なら会社、株式譲渡なら株主) 資産の処分代金から債務を返済した残り
かかる費用 仲介手数料・専門家費用 原状回復・在庫処分・解雇予告手当など
個人保証 交渉の対象になる 債務が残れば保証も残る

当サイトが一般的な整理として作成した比較です。実際の結果は会社の財務状況と契約の内容によって変わります。個別の判断は税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。

中小企業庁がガイドラインの改訂理由として挙げた課題のひとつが経営者保証に関するトラブルでした。譲渡の交渉では、代表者の個人保証をいつ誰が外すのかを条件に含める必要があります。

ほかの資金調達手段と並べたときの位置

M&Aは、調達できる金額の大きさでは他の手段を上回ります。一方で、所要期間と不可逆性という2点で性質がまったく異なります。

手段 所要期間の目安 返済の要否 やり直せるか
M&A(事業譲渡・株式譲渡) 数か月から1年以上 返済不要 譲った事業は戻らない
銀行融資・制度融資 数週間から数か月 必要 完済すれば関係は終わる
ビジネスローン 数日から数週間 必要 完済すれば関係は終わる
ファクタリング 数日 返済ではなく債権の売却 継続的に使うと手数料が積み上がる
第三者割当増資 数か月 返済不要 持株比率は戻らない

当サイトが一般的な整理として作成した比較です。期間は案件によって大きく変わります。M&Aの期間について、M&A総合研究所は依頼から成約まで最短43日という数字を挙げていますが、これは最短値です。

注意したいのは、資金繰りが切迫してから検討を始めると、期間の面で間に合わない可能性が高いということです。買い手候補を探し、デューディリジェンスを経て最終契約に至るまでには、短くても数か月かかります。当座の資金が必要な局面では、調達コストの比較も含めて、ほかの手段と並行して検討することになります。

逆に、時間に余裕がある段階で検討を始められるなら、M&Aは返済義務のない資金を大きく確保できる手段です。後継者不在が理由であれば、資金調達というより事業そのものを残す手段になります。公的な窓口の成約譲渡企業の約7割が小規模事業者という数字は、規模が小さくても選択肢になりうることを示しています。

制度として注意が呼びかけられていること

M&Aの件数が増えるにつれ、問題も報告されています。中小企業庁は、中小M&Aガイドラインを令和2年3月に公表したのち、令和5年9月と令和6年8月に改訂しました。日本M&Aセンターは、令和6年8月の改訂について、不適切な譲り受け側の存在、経営者保証に関するトラブル、M&A専門業者が実施する過剰な営業・広告等の課題に対応するためだと説明しています。

公的に用意されている確認手段

登録支援機関データベース

相談先が登録されているか、最低手数料がいくらか、成功報酬の算定方式は何かを企業名から検索できます。登録は全3,362件です。

情報提供受付窓口

M&A支援機関登録制度のサイトに設けられています。

トラブルに関する公表資料

不適切な営業行為に係るトラブルの発生を踏まえた対応について、2024年10月、2025年1月、2025年3月、2026年9月に資料が公表されています。

2つの簡易計算ツール

手数料の簡易計算と株式価値の簡易計算が2026年4月20日にリリースされました。いずれも直近期の決算書があれば使えます。

出典:中小企業庁「M&A支援機関登録制度」および日本M&Aセンター「中小M&Aガイドライン(第3版)の遵守について」(いずれも2026年10月13日に掲示を確認)。

検討する順番

資金調達としてM&Aを考えるときの順序

1. 目的を決める

会社に資金を入れたいのか、個人の手元に残したいのか。ここでスキームが決まります。

2. 規模を把握する

中小企業庁の株式価値の簡易計算で、おおよその水準を確かめます。結果は参考値です。

3. 公的な窓口に相談する

事業承継・引継ぎ支援センターの相談は無料です。民間を使う場合のセカンドオピニオンにもなります。

4. 費用の形を比べる

着手金の有無より、成功報酬の算定基礎と最低報酬額を先に見ます。

5. 契約前の説明を受ける

算定基準、金額、最低手数料、支払時期は契約前に説明すべき事項としてガイドラインに挙げられています。

よくある質問

会社を売れば、会社の資金繰りは改善しますか

株式譲渡では改善しません。代金は株主である経営者個人に入るためです。会社の手元資金を増やしたい場合は、事業譲渡や第三者割当増資を検討することになります。

赤字でも譲渡できますか

公表されている集計からは、赤字企業の成約状況は分かりません。中小企業庁の手数料の簡易計算ツールも、対象は黒字企業における株式譲渡と注記されています。実際に譲渡できるかどうかは、事業の内容と買い手のニーズによります。公的な窓口で無料相談を受けられます。

どのくらいの会社が実際にM&Aをしていますか

中小企業庁の集計では、2024年度に登録支援機関から報告されたのは譲渡側4,940件、譲受側4,708件です。これは登録支援機関を通じた案件の報告であり、すべてのM&Aを網羅したものではありません。

仲介会社に払う手数料に補助金は使えますか

M&A支援機関登録制度に登録している支援機関への手数料は、事業承継・M&A補助金の対象になる場合があります。補助の対象経費・補助率・公募時期は年度ごとに変わるため、公募要領で確認してください。

掲載にあたって

この記事の件数と割合は、中小企業庁および中小企業基盤整備機構が公表しているページで2026年10月13日に表示を確認したものです。中小企業庁の集計結果は、登録支援機関から実績報告のあった案件を対象としており、すべての案件を網羅していないこと、サンプル数に制約があることが同庁により注記されています。会社法の条文はe-Gov法令検索で確認しました。条文は改正されることがあり、どの規定がどの案件に当てはまるかは個々の事実関係で変わります。スキームの選択、税務・法務・会計の判断については、税理士・公認会計士・弁護士など適切な専門家にご相談ください。