売掛金の一部が未回収という企業は、少なくありません。100%回収できている会社の方が圧倒的に少ないぐらいです。回収できていない売掛金の未収金回収を確実に行うことができれば、資金調達と同義になり、資金繰りを改善することができるのです。
売掛金(売掛債権)の未収金回収による資金調達とは?
売掛金(売掛債権)とは
売掛金の未収金とは
を言います。
ある程度の売上高がある企業で売掛金の回収率100%という企業は、ほとんどありません。
多くの会社が
「資金繰りが悪化したので、支払が遅れている。」
「倒産したため、支払ができない。」
といような売掛先の都合で、売掛金を入金してこないケースがあるため、回収率が100%にならないのです。
売掛金(売掛債権)の未収金回収による資金調達とは?
を意味します。
例えば
毎月の売上高:1,000万円
原価:200万円
販促費:500万円
営業利益:300万円
という会社があったとしても、回収率が90%であれば、実際のキャッシュフローで考えると
毎月の売上高:900万円
原価:200万円
販促費:500万円
営業利益:200万円
と、売上が100万円減ったのではなく、利益が100万円減ったことになってしまいます。
回収率を95%に上げられれば
毎月の売上高:950万円
原価:200万円
販促費:500万円
営業利益:250万円
営業利益が50万円増やせるのです。
また、売掛金(売掛債権)の未収金回収をすべき理由には「売掛債権の時効」という問題もあります。
売掛債権の時効
時効期間 | 時効債務 |
---|---|
1年 | 宿泊料 運送費 飲食代金 |
2年 | 月謝/教材費 製造業/卸売業/小売業の売掛金 |
3年 | 診療費 建築代金/設計費 自動車修理費 工事代金 |
5年 | 上記以外の商取引で生じる売掛金 |
当然、時効が成立すれば、売掛債権はなくなってしまい、納品済の商品やサービスを回収する権利が消えてしまいます。
ちなみに
- 債権者が債務について認める
- 売掛金の一部を支払う
ことで、「時効の中断」が成立し、時効の期限が遅れます。
売掛金(売掛債権)の未収金回収で、まずやるべきこと
対応その1.連絡を入れる
まずは、売掛先に「入金されていない」旨を伝えて、「なぜ入金されていないのか?」をヒアリングします。
回答のパターンとしては
- 手続きのミス
- 払う意思があるけれども、待って欲しい
- 払う意思がない(連絡が付かない)
3パターンです。
「どの状況なのか?」をまず把握することが重要になります。売掛金の未収金回収は「遅延発生からの迅速な連絡」がカギになります。
1.手続きのミスの場合
これは連絡すれば、普通に解決します。
というようなやり取りで問題は解決します。
2.払う意思があるけれども、待って欲しい
信頼関係の強固な売掛先であれば、シンプルに支払いタイミングを遅らせてあげる選択肢もありますが、基本的には
- 一部の支払を打診する
- 分割での支払いを打診する
- 返済日を確定する
など、返済計画を立てる必要があります。相手側の同意も得た上で、返済計画を立案し、同意を得た旨を書面やメールで送ります。
- 合意した返済計画通りに返済してもらえれば、とくに問題はなく、解決します。
- 合意した返済計画の返済日も、守らなければ、返済の意思がないと判断できます。
3.払う意思がない(連絡がつかない)
法的な対応を取るしかありません。
法的な対応は後述します。
対応その2.サービスや商品の提供を辞める
継続取引の場合は、サービスや商品を引き続き納品しているケースがあります。
納品を継続してしまうと、その分だけ、支払われない売掛金が増えてしまいます。
対応その3.相殺できる債権があれば相殺する
相殺する場合は、内容証明郵便で売掛先(この場合の買掛先)に相殺の内容を通知します。先に相手方が破産してしまうと、相殺もできなくなるため、先にこちらから通知をする必要があります。
対応その4.契約書の内容を確認する
売掛先と締結している契約書関係の書類を今一度確認します。
- 契約書
- 発注書
- 納品書
- 請求書
- 見積書
どの書類があるのか?をチェックする必要があります。
その上で
- 期限の利益喪失条項の有無
- 所有権移転時期(引き渡し時 or 支払時)
を確認します。
- 期限の利益喪失条項があれば、支払いが遅れた場合、すべての債務の一括返済を求めることができます。
- 所有権が「支払時」に移行する契約であれば、売掛先の破産後も、所有権は移転していないため、商品を引き揚げることがことが可能になります。
払う意思があるけれども、待って欲しいという場合の対応
売掛先と連絡は取れていて、払う意思はあるけれども、待って欲しいという場合でも、売掛先との信頼関係が薄い場合には、下記の対応を取ることで、回収を確実にしていきます。
長い取引関係があったり、売掛先が上場企業など信頼できる企業である場合は、下記のような比較的強めの対応を取らないで済む場合もあります。
対応その1.未払金残高確認書の作成
を確認するための書類です。
未払金残高確認書の例
残高確認書
弊社の貴社に対する買掛金の残高が○年○月○日現在、△△円であることを確認いたします。その内訳は以下の通りです。このたびは遅れて申し訳ありませんが、必ずお支払いいたします。
(内訳)
○年○月○日分△△円
○年○月○日分△△円
○年○月○日分△△円
○年○月○日分△△円(住所)
(社名) 印
対応その2.決算書の提出要求
売掛先の経営状況・資産を把握するために、決算書の提出を要求します。
対応その3.商品引き揚げ
法的な手続き(動産引渡断行仮処分)の前は、強制的な引き揚げはできませんので、売掛先と話し合って、返済できないのであれば、商品を引き揚げさせたもらうことを了承してもらいます。当然、相手方の同意が得られた場合は、承諾書を作成する必要があります。
対応その4.連帯保証の要求
経営者個人、もしくは役員に売掛金の支払に関する連帯保証人になってもらいます。
払う意思がない(連絡がつかない)場合の法的な対応
対応その1.内容証明郵便で支払請求をする
内容は
という警告になります。
これは一種の心理的プレッシャーを与えることで、支払わせるためのジャブのようなものです。
また、催告には「時効を中断させる」効果があります。
時効は、債務者が債務の承認をすると時効は中断するため、内容証明郵便であれば「送付した日時」「届いた事実」を証明できるため、時効の中断の確かな証拠になるのです。
対応その2.財産の「仮差押え」
内容証明郵便を送っても、支払がない、連絡が取れないという場合には財産の「仮差押え」を行います。
仮差押えとは
を言います。
仮差押えの対象となる財産
- 預貯金
- 不動産
- 売掛債権
- 生命保険
- 自動車
- ゴルフ会員権
- 現金
- 機械設備
対応その3.訴訟・支払督促
訴訟とは
を意味します。
今回の場合は、売掛金の支払を命じる判決を出してもらうための「訴訟」となります。
判決が出れば「強制執行」ができるので、強制的に回収ができるのです。
支払督促とは
を言います。
「金銭の支払い」に特化していることと、「簡易裁判所」でできるため、通常の「訴訟」手続きよりも
- 裁判所への出頭が不要(相手方の異議がない場合)
- 1カ月半ほどの短期間で終わる
- 弁護士などの費用が安い
というメリットがあるため、多くのケースで「支払督促」が選ばれます。大抵は、相手方の異議は出てこないので、スムーズに完了します。相手方の異議がある場合は、通常の「訴訟」に移行します。
「訴訟」を選ぶ場合のメリットは
- 自社の住所の裁判所で審理できる
- 1回の訴訟で、法人と連帯保証人に同時に請求が可能(併合請求)
という点が挙げられます。
対応その4.強制執行
訴訟・支払督促で支払いを命じる判決が出れば「強制執行」することができます。
強制執行とは
を言います。
裁判所が行う取立のことです。
強制執行には
- 預貯金
- 不動産
- 売掛債権
- 生命保険
- 自動車
- ゴルフ会員権
- 現金
- 機械設備
などの財産(お金にできるもの)が対象になり、保有する資産の中で、適したものが強制執行され、支払に充てられます。
売掛先が破産してしまった場合の対応
売掛先が破産してしまうと、「仮差押え」「訴訟」「強制執行」などをしても、意味がありません。
売掛先が破産時に取れる対応は
- 商品引き揚げ
- 動産売買先取特権
の2つです。
どちらも、売掛先に商品を納品している場合に取れる対策です。
対応その1.商品引き揚げ
前述した通りで、契約書の所有権移転時期が「代金支払時」となっている場合は、破産したとしても、入金がない以上、自社の所有権が保持されていることになります。
この場合は破産時でも、破産管財人に承諾を得ることで商品を引き揚げることが可能です。
対応その2.動産売買先取特権
民法311条5号
動産の売買を原因として債権を取得した者は、債務者の特定の動産について先取特権を有します
債務者と合意がなくても、特定の財産に対して、法律上優先的に債権回収をする権利のことを「先取特権」と言います。
取引先が代金の支払いをしない場合、取引先に対して販売した商品から優先的に債権回収ができる権利があるということです。
- 債務者の動産を競売により換価する
- 債務者が商品を転売した代金を差し押さえる
形で、回収することが可能になります。
売掛先の資産隠しが疑われる場合
通常の訴訟では「仮差押え」「訴訟・支払督促」「強制執行」という形で、財産を処分して、売掛金を回収することが可能です。
ただし、回収できるのは「財産がある」ことが前提なのです。
悪質な取引先の場合は、この財産を意図的に隠して、強制執行から免れようとする方もいます。
このようなケースに対応するために「債権者破産の申し立て」というものがあり、裁判所が認めてくれれば、裁判所が破産管財人を選定し、「隠し財産がないか?」を調査してもらうことができるのです。
債務者に隠し財産があれば、債権者に配当されることになります。
この手続きは、費用が約100万円程度発生し、実際に隠し財産があるかも想像でしかないため、あまり利用する方はいませんが、隠し財産の疑いが強い場合に、取るべき手続きと言えます。
まとめ
売掛金(売掛債権)の未収金は
- 資金繰りに与えるマイナスの影響が大きい
ため、売掛金の回収率を上げることが資金調達・資金繰りの改善につながるのです。
売掛金の回収率を上げるためには
- 未収金が発生した場合のスピーディーな対応
- 法的な手続きの警告による支払圧力
が重要になります。
多くの企業が「何も言ってこない買掛先」よりも、「法的手段で脅してくる買掛先」「うるさく連絡してくる買掛先」の支払いを優先するからです。
「売掛金を確実に回収する方法はありますか?」