ベンチャーキャピタル(VC)から資金調達を行う際に必ず必要になる資料の一つに事業計画書があります。
出典:中小企業庁
事業計画とは
ここで数字というのは「貸借対照表」や「損益計算書」などの「財務数値」のことを言います。
もちろん単に数を記載するものではなく、なぜそのような数値が達成可能であるのかを合わせて説明します。
事業計画書には次の事柄を記載します。
- 会社が取り組む課題が何なのか
- その課題の解決により誰がいくら支払ってくれそうなのか
- その課題の解決策として何を用意するのか。それにはいくらかかるのか
- その課題の解決策を提供するために必要な組織(仲間)をそろえる当てがあるのか
- どのような時間軸で事業を進めていく予定なのか
- そしてその結果、会社の財務諸表(貸借対照表、損益計算書等)がどのような状態になるか
事業計画書には通常、このような事柄が記載されています。
ベンチャーキャピタル(VC)から資金調達を行う際に事業計画書が必要な理由
ベンチャーキャピタル(VC)はリスクの高いベンチャー企業に投資することにより、高い利益(リターン)を求めています。
そのため、投資したベンチャー企業に急成長してもらう必要があります。成長したベンチャー企業が株式公開(IPO)したり、投資した株式を事業会社やプライベートエクイティファンドなどに売却することで利益を得られるからです。
つまり、ベンチャーキャピタル(VC)が投資するかどうかを判断するに当たっては、そのベンチャー企業が急成長しそうか?というのが大事なポイントになります。
事業計画書は
と説明するための資料です。
事業計画書は日本政策金融公庫などからの創業融資を受ける際にも必要になります。このような補助金や融資のための事業計画書と、ベンチャーキャピタル(VC)から資金調達するための事業計画書は似ている点も多くあるものの、決定的に異なる点が一つあります。
それは
- 補助金や融資の際に求められる事業計画書は「求められる基準に達していること」を説明する資料
であるのに対して
- ベンチャーキャピタル(VC)から資金調達する際に求められる事業計画書は「たくさんいるベンチャーキャピタル(VC)の投資候補先の中から自社を選んでもらうためのもの」
であることです。
ベンチャー企業を思い出すための資料として
何よりもまず、その事業計画書を作成した会社のことを思い出すための資料として利用しています。
ベンチャーキャピタル(VC)は、日々、多くのベンチャー企業に会っています。
そのベンチャー企業を理解するための資料として
ベンチャーキャピタル(VC)の人は世の中の全てを知っているわけではもちろんありません。
そのため、そのベンチャー企業がやろうとしていることを理解するために事業計画書を見ています。
ベンチャー企業がやろうとしていることを理解するためには、まずそのベンチャー企業の取組む課題が何かを理解する必要があります。
例えば、コンビニチェーンを作ろうとするベンチャー企業があったとします。コンビニなんて誰でも毎日のように通う場所、ではありますが、その店舗の運営をしようとすると何も知らないのではないでしょうか。
そのため、事業計画書では以下のようなことも記載する必要があります。
- 毎日いくらぐらいの売り上げがあれば利益がでるのか?
- 誰から商品を仕入れればいいのか?
- 店員は何人くらい必要なのか?
そしてそこには解決すべき課題があります。
売れ筋商品が分からない、かもしれませんし、バイトを雇うのが大変、かもしれません。
ベンチャーキャピタル(VC)が投資をするためには、この「課題」と「解決策」を理解する必要があります。
ということです。
投資の妥当性を判断する資料として
ベンチャーキャピタル(VC)は、受け取った事業計画書をもとに投資するかどうかを判断します。
ではその際、一番、利益が大きくなる事業計画書を提出してきたベンチャー企業に投資するのでしょうか?
もちろん、そんなことはありません。
ベンチャーキャピタル(VC)は「受け取った事業計画書が、達成できそうなのか?」を確認します。
- そのベンチャー企業がやろうとしている事業は十分な見込み顧客がいるのか?
- 見込み顧客への販売単価は妥当な設定になっているか?
- 売上を達成するための投資は十分想定されているか?
- 会社が存続するために十分な資金が確保できるのか?
上記のような項目を確認します。
その結果、事業計画書に沿って事業を進めれば利益が出そうだと思えば、社内で投資するかどうかを判断することになります。
投資の妥当性を説明する資料として
ベンチャーキャピタル(VC)の担当者が自分の直感に従って、自分の判断だけで投資することはまずありません。
社内で投資を認めてもらうために、社内、上司に説明して納得してもらう必要があります。また、ベンチャーキャピタル(VC)は投資家から預かったお金を運用しているため、投資家に対しても「その投資が妥当なものである」と納得してもらう必要があります。
ベンチャーキャピタル(VC)から資金調達できる事業計画書とはどのようなものか?
ベンチャーキャピタル(VC)がどのように事業計画書を使っているかを理解したところで、どのような事業計画であればベンチャーキャピタル(VC)から資金調達できるのかを見ていきましょう。
ベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達を行うための事業計画書は、最低限、以下の項目を満たしている必要があります。
会社を理解するために必要な資料が揃っている
まず、資金調達しようとしているベンチャー企業が
- 何をしている会社なのか
- この先、会社が成長していけると考えている根拠は何か
事業計画書を読んだベンチャーキャピタル(VC)にこの点を理解してもらわなければなりません。
何をしている会社なのかを説明する際は、どのような業界で事業を行っているのかを説明します。その業界の中で、
自社が先成長していけるというためには、業界がどうなっているか、業界がこの先伸びていくのか、同業にはどのような会社があるのか、などを説明します。
説明の際には、根拠となる資料を用意しておく必要があります。業界がこの先、どの程度成長するのかはシンクタンクなどの資料を使います。普段から意識して集めておくべきです。
ストーリーが破綻していない
- 今後の計画
- それを実現するために会社が今持っている(あるいは今後獲得していく)強み
- これから先のお金の使い道
は、整合している必要があります。
消費者向けのサービスを行う場合には、顧客が増えていく計画になっているはずですが、それに伴ってサービスを提供する人も増えていくことが通常です。そのため、人件費は増えていくことになるはずです。顧客が増えていくのに人員が増えていない計画はストーリーとして破綻しているのです。
また、サービスを提供する人を雇えるだけの魅力が会社にあることの説明も必要になります。
右肩上がりに成長している
- 事業計画書はこの先の会社がどのように成長するのか
の見込みです。
その見込みを作成するにあたって、非常に保守的な計画を作成するケースがよくあります。将来のことは分からないため、「嘘つき」と言われないためにも、「確実にできることを記載しておく」というのは一つの考え方です。
しかし、ベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達を希望するのであれば「すべてが目論見通りに進むとどうなるか」を示す必要があります。
ベンチャーキャピタル(VC)は、事業計画が意図しない理由で上手く行かないことがあることを理解しています。そのため不測の事態が生じて事業計画通りにことが進まなかった場合、会社の数値がどうなるのかは自分たちでシミュレーションします。
しかし、逆に上手く行ったときにどうなるのか、ベンチャーキャピタル(VC)には分からないのです。そのため、事業計画でそれを示してあげる必要があるのです。
ベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達を成功させる事業計画書作成のコツとは?
どのような事業計画書が望ましいのかが分かったところで、作成に取り掛かったとしても、手が止まってしまうことがあります。事業計画書には作成のコツがあります。それを順番に見ていきましょう。
他社の事業計画書を参考にする
ベンチャーキャピタルの担当者の机には投資を検討している事業計画書が山のように積まれています。
その中で、自社の事業計画書を観てもらうためには、オリジナリティあふれるものが望ましいのは言うまでもありません。
しかし、事業計画書は説明資料であり、他人が見て分かりやすいことも重要です。もっと言えば、他人が見て分からない資料では意味がありません。
実際に、多くの事業計画書は「分かりにくい」のではなく「分からない」のです。
まずは、分かってもらえる資料を作成する必要があります。
また、事業計画書の作成のためのテンプレートもたくさんあります。テンプレートの通り書けばそれで事足りるわけではないものの、何を書いていいのか分からないときには非常に役にたつでしょう。
なるべく多くの人に見てもらう
誰に見てもらったらいいのか分からない、という場合にはベンチャーキャピタル(VC)に持ち込んで見てもらうのが一番です。
また、日々の採用や営業活動の中でも積極的に事業計画書を使って説明すべきです。
作成のためのツールを使いこなす
有料・無料と問わず、多くの事業計画を作成するツールが提供されています。
最近では事業計画作成のアプリも登場しています。
このようなツールを使いこなすことで事業計画書の作成を効率化すべきではありますが、一方で
ベンチャーキャピタル(VC)が事業計画をみて投資を決める際には、調達を望む会社の言い分だけではなく、「ベンチャーキャピタル(VC)の見方で評価するとどうなるか」を確認されます(つまり、「事業計画の通りに進まなかった場合にどの程度会社の資金に余裕があるのか」などをベンチャーキャピタル(VC)は自分で試算します)。
作成を手伝ってくれる人を探す
事業計画書はどこまで作りこめばよいのか、という正解がありません。もっと見栄えをよくしたい、と思えばいくらでも手をかけられます。
会社の将来の計画を思い描くのは起業家(創業者)の仕事です。しかし、事業計画書の作成だけが仕事ではなく、「会社を成長させる」というもっと重要な仕事があります。
そのため、事業計画書の作成を手伝ってくれる人を見つけることができれば会社の成長に大きく寄与します。
会社の事業に賛同してくれ、事業計画書の作成に長けた人が見つかればそれに越したことはありません。なかなか見つからなければコンサルタントなどを活用する方法もあります。
まとめ
事業計画書を作成することはベンチャーキャピタル(VC)から資金調達をする上で必要となるだけではなく、会社を経営していく上で他人の助けを借り、自分のやるべきことを見失わないためにも重要なことです。
しかし、ベンチャーキャピタル(VC)から資金調達を受けるうえで利用する事業計画は、財務数値が重要である等、やや異なる点もあります。