クラウドファンディングとは多数の人からお金を集める仕組みです。
これまでも上場企業であれば、公募増資や社債発行を行うことで多数の人からお金を集めることができました。一方で、非上場企業はこれらが使えず、銀行融資や第三者割当増資等により、一人あるいは少数の人からお金を集めることしかできませんでした。
では、実際にクラウドファンディングを用いて資金調達を行うためにはどのような手順で進めたらよいのでしょうか?
クラウドファンディングによる資金調達に当たって考えるべきこと
クラウドファンディングによる資金調達を行う前に検討しておくべきことがいくつかあります。
資金調達の目的を明確にする
クラウドファンディングを用いた資金調達を検討する際、まず最初に考えなければならないことは、資金調達を行う目的です。
クラウドファンディングは万能ではないため、目的によってはクラウドファンディング以外の手段で資金調達を行うことが望ましいこともあります。また、クラウドファンディングにはいくつか種類があるため、目的によってどのクラウドファンディングが望ましいか、が変わってきます。
そもそも、資金調達の目的が次のようなものであればクラウドファンディングに向いていません。
- 急いで資金を必要としている
- 調達した資金を返還するタイミングを会社が選べるようにしたい
クラウドファンディングは資金を調達するまでにある程度(数か月程度)の時間がかかります。また、いつ調達ができるのか、事前に明確に知ることができません。
また、クラウドファンディングは返還条件が決まっています。
例えば売掛金を回収するまでのつなぎの資金を調達するケースを考えてみます。
売掛金が入金されればその資金は必要なくなります。金利を支払うくらいなら返済すべきです。
しかしクラウドファンディングでは、初めに決められた条件が成就しなければ資金を支援者に返還することができません。この条件は通常、期間であるため、決められた期限まで資金を返済できないことになります。
短期の資金繰りの一環としての資金調達に、クラウドファンディングは向いていません。
もっと長期的な財務戦略の一つとして検討すべき資金調達方法です。
どうしてもクラウドファンディングを利用すべきなのか
資金調達の目的が定まったところで、他の手段と比較してクラウドファンディングを利用すべきなのかを考えることになります。
他の資金調達方法よりも、クラウドファンディングを優先して検討すべき場合とは、例えば以下のようなものがあります。
- 他の資金調達方法が使えない
- クラウドファンディングの利用により、資金調達以外のメリットも見込まれる
他の資金調達方法が使えない
他の資金調達が使えない、という状況は銀行などから貸付を断られると発生します。
会社が設立したばかりである、担保がない、過去に貸し倒れを発生させたことがある、など銀行などから貸付を断れる理由は様々です。
資金調達以外のメリットがある
資金を集めるという点ではクラウドファンディングも、従来からある資金調達方法も同じです。しかし、クラウドファンディングにしかない追加的なメリットが発生する場合があります。
他の、つまり資金調達ができる以外のメリットの一つは、クラウドファンディングを通じて自社を多くの人に知ってもらえることです。
また、クラウドファンディングに応募し資金提供してくれた人は会社のファン、応援者になってくれやすいという点も従前からの資金調達では得られなかったメリットの一つです。
人は自分が関与しているものを応援したくなるものです。そのためクラウドファンディングに応募し資金提供した人が自社の製品をSNS等を通じて広めてくれる可能性があります。
クラウドファンディングは望ましいのか
クラウドファンディングと他の資金調達方法を比較するポイントは次の二つです。
- コスト面からの比較
- メリットとデメリットの面からの比較
コスト面からの比較
クラウドファンディングを利用することが既存の資金調達と比べて、コストが安いのであれば、クラウドファンディングを始めやすいといえるでしょう。
クラウドファンディングのコストは
- 資金提供者へのリターン
- クラウドファンディングサイトの運営者に支払う手数料
の二つがあります。
資金提供者へのリターンとは、資金提供者にクラウドファンディングに応募してもらったお礼または対価として提供するものです。
また、運営者へ支払う手数料はサイトによって名前が異なります。共通して必要となるのはクラウドファンディングサイトの利用料と、送金にかかる手数料です(クラウドファンディングでは運営者が、応募者が提供する資金をいったん預かり、クラウドファンディングの実施者へ振り込みます)。
メリット・デメリットの面からの比較
クラウドファンディングを利用することにメリットを感じていても、同時にデメリットも想定される場合、やはり従来の資金調達方法とどちらが望ましいかを比較してみる必要があります。
クラウドファンディングを用いた資金調達のメリットは先に説明した通りです。一方のデメリットは2点あります。
-
- プロジェクトが公開されること
- 多数の個人との関係ができること
クラウドファンディングは集めたお金を何に使うのかを明示して資金調達することになります。この何に使うのかをプロジェクトと言います。
クラウドファンディングはより多くの人にプロジェクトを知ってもらうことにより、資金調達を行います。つまりプロジェクトが公開されることになります。
プロジェクトが公開されることにより、同業他社にアイディアを盗まれたり、風評被害を受ける可能性があります。より多くの人に知られれば知られるほど、応援されることもあれば、逆にねたまれることもありうるためです。
また、クラウドファンディングは多くの人から資金提供してもらうことを目的に実施されます。つまり多くの人に資金提供してもらえるよう働きかけ、結果として多くの人との関係が生じます。
関係とは具体的には、プロジェクトの達成状況を報告し、リターンを提供することです。
この報告やリターンの提供は、相手が多くなればなるほど大変です。
クラウドファンディングの中でも何を利用すべきなのか
クラウドファンディングは「金融型」と「非金融型」に分けることができます。
金融型
金融型はさらに、「貸付型」と「出資型」に分かれます。
資金調達する会社からすれば借入の相手が、銀行などから匿名組合に変わることになります。
資金調達する会社からすれば出資を受ける相手が、エンジェル投資家やベンチャーキャピタル(VC)から多数の投資家に変わることになります。
非金融型
非金融型はさらに、「寄付型」と「購入型」に分かれます。
寄付型は社会課題の解決や、映画の作成などに用いられ、リターンはお礼状であったり、進捗の報告だったりします。
一般の商品販売よりも多数の個人に対して一遍に販売できることがメリットの一つです。そしてもう一つ、通常の商品販売であれば、まだ存在しない商品、つまり開発中の商品は販売することができません。しかし購入型のクラウドファンディングではこのような開発中の商品の販売も行うことが可能です(資金提供者は、商品開発が終わり、販売できる状態になったらその商品を受け取れます)。
クラウドファンディングの具体的な手順
資金調達の目的が明確になったら、いよいよクラウドファンディングに着手することになります。
それぞれのクラウドファンディングをプロジェクトと言います。
チームを組成する
まず最初にやるべきことは
です。
中小企業の資金調達においては社長が一人ですべての交渉を行うことも珍しくありません。場合によっては経理部長が実務を取り仕切ることもありますが、いずれにしても少人数で対応することとなります。
全体がどこに向かって進んでいるかを把握し、書面作成などの実務を回す責任者を決めておくことも必要となります。
運営会社を選定する
クラウドファンディングでは
必要があります。
運営会社の実務的な役割
運営会社の実務的な役割は以下の通りです。
- プロジェクトについて、自社のメディアで宣伝する
- 資金提供者の情報を把握し管理する
- クラウドファンディングに応募してきた人から資金をいったん受取り、プロジェクト実施者に渡す
- 資金提供者に対するリターンを手助けする
運営会社のその他の機能
運営会社は上記の役割を果たすだけではありません。
運営会社は数多くのクラウドファンディングを見てきているプロです。成功のポイントを熟知しています。
また、プロジェクトの成立により手数料を受領できることから、プロジェクトを応援してくれる立場にいます。
そのため、必要に応じてアドバイスしてくれます。
運営会社の選び方
運営会社を選ぶ際には、事前にその運営会社のサイトを見ておくべきです。
どのようなプロジェクトが多く扱われているのか、いくらくらいの調達案件が多いのか、等、サイトを見て分かることはたくさんあります。
また、実際に決める前に多くの運営会社の話を聞くことがおすすめです。
運営会社は自分で選んで申し込むことによって、その運営会社を使ってクラウドファンディングを行えるわけではありません。運営会社による審査があります。その審査に通って初めて、その運営会社のサイトでクラウドファンディングを行うことができます。
通常、この審査は、申込書面を提出し、書類選考とインタビューにて行われます。
プロジェクトの条件を決定する
運営会社が決まったところで、クラウドファンディングの条件を固めます。
条件として定めることは次の事柄です。
- プロジェクトの成立条件
- 超過応募の取り扱い
- リターン
プロジェクトの成立条件
プロジェクトでいくら集めるか(募集金額)
をまずは定めます。
募集金額は多い方がいい、というものではありません。プロジェクトで約束した目標事項を達成するために必要な金額であること、また、リターンを用意できる範囲でなければなりません。
募集金額が決まったところで、
どのような条件でプロジェクトが成立となるのか
を決める必要があります。
これは目標金額まで応募が集まらなかった場合に、集まった金額だけでも受け取るのか(all-in方式と呼ばれます)、募集金額が集まらなければ応募額を受け取らないのか(all or nothing方式と呼ばれます)のどちらかを選ぶことになります。
All-in方式の中には、募集額の一定割合(例えば70%)を超えた場合にのみ、集まった金額を受け取ることができ、それ以下の場合には受け取らないという条件を定めることもあります。
超過応募の取り扱い
プロジェクトの募集金を決めたら、募集金額を超えて応募が集まった場合の取り扱いも定めることになります。
金融型の場合には超過応募は受け取らない(募集金額に至ったところで募集を止める)ことが通常です。しかし、購入型の場合にはリターンを用意できる範囲内で超過応募も受け付けることができます。
この場合には、目標金額1,000万円に対して、調達総額が1,500万円ということも起こりえます。
リターン
プロジェクトに応募して資金提供してくれた人に何を返すのかを定めます。
購入型の場合にはリターンは特定されます。寄付型では複数の返礼の中から応募者が選べるよう条件を定めることも可能です。
金融型の場合には、貸付型であれば利子、出資型であれば株式の発行割合、新株予約権の行使条件を決めることになります。さらに、これらリターンにに加えて、会社のサービスや商品をリターンとして提供することもできます。
リターンが株式や新株予約権である場合、つまり出資型のクラウドファンディングでは、プロジェクト実施者と資金提供者との間で株主間契約が結ばれるケースがあります。
実際に資金提供者それぞれと株主間契約を締結することは煩雑であるため、募集の条件の一つとして株主間契約を規定しておくことも行われています。
資金提供者を探す
運営会社が決まりクラウドファンディングが始まると、次は資金提供者を探すことになります。
運営会社は資金提供者を募るため、自社のメディアに広告を載せるなど、手伝ってはくれます。しかしそれは必要なすべての広告を運営会社にお任せできるという意味ではありません。
運営会社はあくまで手伝いであって、プロジェクト実施者が資金提供者を探してくることになります。
調達された資金を受け取る
クラウドファンディングは応募した人がその都度、応募金額を支払うパターンもあれば、プロジェクトが成功した段階で応募者が資金を提供するケースもあります。
ただ、いずれにしてもその入金は応募者から直接資金調達者に支払うものではありません。
一度、運営会社が応募者から受領したうえで、資金調達者に支払うことになります。
プロジェクトの目的に従って資金を使う
集まったお金はプロジェクトの目的に応じて使う必要があります。
プロジェクトの中で、リターンとして金銭の分配に加えて、それ以外のことを約束している場合には当該約束を果たさねばなりません。例えば、資金を使った後の経過報告を行うなどです。
もちろん、金銭は約束した通りに分配する必要があります。
まとめ
クラウドファンディングは運営会社の選定から、資金提供者探し、クラウドファンディング成功後のリターンの提供までやるべきことは多岐にわたります。
社内の何人かがクラウドファンディングに参加できるのであれば、それぞれの役割も決めておくことが有効です。
クラウドファンディングは大変な上に時間がかかります。
やっている最中に、困難にぶつかることも多くあります。
その際には、なぜクラウドファンディングをやろうと思ったのか、に立ち返ることが重要です。