成功前のベンチャー企業に投資する投資家をエンジェル投資家といいます。
エンジェル投資はリスクの高い投資です。投資先のベンチャー企業(投資先)が成功すれば、投資した金額が1円も回収できないことも珍しくありません。
エンジェル投資は莫大な収益を得られる可能性のある投資です。投資先が成功すれば、莫大な利益を手にします。また、起業家から深く感謝されることも少なくありません。
そもそも投資とは、次のような手順で行われます。
- 投資資金を用意する
- 投資先を探す
- 投資判断のための調査を行う
- 投資条件について交渉し、投資を実行する
エンジェル投資も、この手順を踏んで行われることに変わりはありません。投資実行をベンチャー企業に対して行うことでエンジェル投資家となります。
エンジェル投資家になる手順
エンジェル投資家になる手順(その1.投資資金を用意する)
エンジェル投資家になるには、何よりもまず「投資資金を用意する」必要があります。
経済的なリターンよりも回収を重視する場合
エンジェル投資はそもそもリスクが高い投資です。
しかし、同じエンジェル投資であっても、投資するベンチャー企業によってリスク量には差があります。
薬の開発を目指す、いわゆる創薬ベンチャーへの投資は、非常にリスクの大きな投資です。薬の開発が成功し市販されるようになれば莫大な利益が生じる一方、その確率はとても低いからです。
これに対して有名店で修業したシェフが自分のお店を持つための開店資金を投資する場合、創薬ベンチャーへの投資と比較すればリスク量は小さくなります(成功する確率が高いと言えます)。一方で、いくらお店が繁盛しても生じる利益には限界があります。
損をなるべく減らしたい場合、後者のようにリターンが低くても、リスクの小さな投資を行うことになります。このような投資は、通常、必要資金が少なくてすみ、百万円、場合によってはそれ以下の資金でもエンジェル投資家になることができます。
経済的なリターンよりもベンチャー企業との関係構築を重視する場合
エンジェル投資は、投資先のベンチャー企業やその創業者(起業家)との(良好な)関係を築きたい場合にも行われます。エンジェル投資により調達するベンチャー企業の起業家からは感謝されることになるからです。
関係を築く目的は様々です。一例として以下のような目的でエンジェル投資がなされることがあります。
- そのベンチャー企業との取引を行いたい場合
- そのベンチャー企業の経営者と知り合いで助けてあげたい場合
- そのベンチャー企業への貢献を行うことでスキルアップしたい場合
経済的なリターンを重視する場合
エンジェル投資で経済的なリターンを得たい場合には数千万円から数億円規模の投資資金が必要になります。
それなりのリターンが期待できる投資先には投資家が集まりがちです。他の投資家ではなく自分を選んでもらう(投資させてもらう)ためには、少なくとも数百万円程度の出資が求められます。
加えて、リスクの高い投資を行うこととなるため、複数の投資(分散投資)が必要になります。
エンジェル投資家になる手順(その2.投資先を探す)
資金が用意できればエンジェル投資を行う前提が整い、次に投資先を探すことになります。
- 起業家、または知り合いなどから投資先の紹介を受ける
- エンジェル投資のためのマッチングサイトに登録する
- ピッチコンテストなどのイベントに参加する
- ネット等で情報を収集し、自分から投資先にアプローチする
自ら探すよりも相手から資金提供を求められる方が手間がかかりません。紹介はもちろんのこと、マッチングサイトへの登録やピッチコンテストは投資先からアプローチされる方法です。
一方でマッチングサイトやピッチコンテストは多くの投資家が同じ情報を知ることとなるため、投資家同士の競争が生じる可能性があります。
エンジェル投資家になる手順(その3.投資判断のための調査を行う)
ここぞという会社が見つかれば、本当にその会社に投資してよいのかを判断するための調査(デューデリジェンス)を行うことになります。
エンジェル投資は、投資するかどうかの判断が何より大事です。
投資するかどうか判断するためには投資先を調査して情報を集めるしかありません。
エンジェル投資におけるデューデリジェンスは上場株式への投資の場合のそれとはまったく異なります。
上場株式への投資の場合に真っ先に調査される、投資先の会社や事業内容について情報がない中で投資がなされることも珍しくありません。
理由は三つあります。
- 少額分散投資となることから一つの投資にそれほどの手間をかけることは経済的に見合わない。
- まだ事業が始まっていないようなケースではそもそも投資先を調べることにさほど意味がない。
- 投資先であるベンチャー企業が調査に対応する余裕がない。
一方で上場株式への投資ではそれほど重要視されない経営者の人柄を、最重視しているエンジェル投資家は少なくありません。どう転ぶか分からないベンチャー企業が成功に至るかどうかは、相当の部分が経営者の人柄に左右されるためです。
エンジェル投資家になる手順(その4.投資条件について交渉し、投資を実行する)
デューデリジェンスも終わり投資したい会社を見つけたら、具体的な投資条件に付いてその会社と交渉することになります。
これは国債、社債などの債券や上場株式への投資と大きく異なります。債券や上場株式の場合には取引条件が均一です(つまりどの投資家も同じ条件で投資することになるため、投資条件について交渉する余地がありません)。
エンジェル投資の場合には、取引条件が決まっているわけではないので、投資先と個別に条件を話し合う必要があるのです。
最も重要な条件は「投資金額」及び「取得する株式の議決権に占める割合」です。
他にも、投資家側が求める条件として、投資先からの情報開示の頻度と内容、役員派遣の可否、買戻しの有無、投資先との取引を希望している場合には取引条件などが交渉されます。
反対に投資先の会社がエンジェル投資を受け入れる条件として、資金以外の事柄、特に経営の支援を期待している場合にはその支援内容が話し合われます。
この条件交渉がまとまった後、資金実行することにより、エンジェル投資が完了しエンジェル投資家になります。
エンジェル投資家になる手順(番外編.税務上の要件を満たす)
以上の手順でエンジェル投資を行っても、当然に税務上のエンジェル投資家となるわけではありません。
税務上のエンジェル投資家となるためには、そのエンジェル投資が一定の要件を満たしている必要があります。
加えて、投資したとき、その後投資先の株式を譲渡した時、あるいは投資先が清算した時に、自分で確定申告を行う必要があります。確定申告に当たっては投資先に書面を準備してもらうことが必要となる場合もあります。
税務上のエンジェル投資家となることが投資の重要な目的の一つである場合には、投資する前に税理士などに、税務上のエンジェル投資家になるかどうか、を確認しておくべきでしょう。
エンジェル投資家として成功する方法
エンジェル投資家になることは投資資金さえ用意できれば、さほど難しいことではありませんが、誰もがエンジェル投資家として成功できるわけではありません。
エンジェル投資家の投資環境
ベンチャー企業はほぼ常に資金を必要としています。
一方で、ベンチャー企業への資金提供はリスクが高く、投資家が多くいるわけではありません。
資金需要があるところに資金の供給者が少ない状態、つまり投資機会が豊富です。
問題は、投資機会は豊富であっても、優良な案件がほとんどないことです。そして優良な案件であればあるほど、多くの投資家が群がります。
エンジェル投資で成功するためには
- 優良案件を探し出すこと
- 優良案件でベンチャー企業から選ばれて投資家になること
の2点が必要です。
エンジェル投資ではこの双方に高いハードルがあります。
優良案件を探し出す際のハードルとは
数多くのエンジェル投資案件の中から優良案件を探し出すのが困難であることの背景にはベンチャー企業の情報開示が進んでいないことがあります。
上場企業の場合には、情報開示が進んでいる(法令のほか、上場している証券取引所からも情報開示を求められます)ため、複数の会社を横に並べて自分の投資したい会社を探すことができます。
しかし、ベンチャー企業の情報を複数社分、並べて検討できるようなサービスはほとんどありません。あったとしても、ある程度成功しているベンチャー企業を対象としており、エンジェル投資の対象となるようなベンチャー企業が含まれていることはほとんどありません。
その結果、多くのベンチャー投資案件を一つひとつチェックすることでしか、有望な案件を探せないのです。
ベンチャー企業の情報開示が進まない理由は
- ベンチャー企業が情報開示に積極的ではないこと
- 情報開示に積極的だとしてもハードルがあること
の2つです。
ベンチャー企業が情報開示に積極的ではない理由
そもそも情報開示をしたいという意思が、そもそもないベンチャー企業も多数存在しています。
その理由は様々ですが、情報開示を行うことがベンチャー企業にとってメリットが少なく、相当のデメリットがあることです。
ベンチャー企業が情報開示に積極的であっても実際には情報開示がなされていない理由
情報開示をしたいという意思はあっても、情報開示ができていないベンチャー企業もあります。
ほとんどのベンチャー企業では人手が不足しており、実際に情報開示を行う人や時間を確保すること難しいからです。
また、量としては十分な情報開示が行われていても、ベンチャー企業の共通の開示様式が存在しないため、各社ばらばらの開示がなされている結果、他社との比較は困難になっています。
ベンチャー企業から選ばれるハードルとは
ベンチャー企業は資金を必要としているものの、お金を出してくれるのであれば誰から調達しても同じ、ということはありません。
そのため、必要な資金を調達できそうであれば、投資家の中から誰に投資してもらうかを選ぶことになります。
このようにベンチャー企業が投資家を選別する理由は二つあります。
投資家にかかるコストとリスク
ベンチャー企業側からすると「株主の数はできれば少なくしたい」のが本音です。
その理由は二つあります。
一つは、株主が増えると管理の手間が増えるためです。
そしてもう一つは、株主が増えれば増えるほど、情報漏洩のリスクが高まるためです。
株主には経営の情報を開示する必要がありますが、株主がその情報を秘密にしておいてくれる可能性は株主の数が増えるにしたがって低くなります。
株主の数を減らすためには、一人の投資家当たりの投資金額が大きい方が望ましいです(二人の投資家から100万円ずつ、計200万円を調達するよりも一人の投資家から200万円を調達する方がいい、ということです)。
会社への寄与
会社としては、なるべく会社へ貢献してくれる人に投資家になってほしいと考えます。
会社への貢献の分かりやすい例は
- 営業の支援をしてくれる(取引先を紹介してくれる)
- プロダクトの開発を手伝ってくれる
- 資金調達先を見つけてきてくれる
などです。
会社へより高い価格で投資してくれる投資家も、その分だけ他の投資家よりも多く支援してくれていることになります。
エンジェル投資家に対して会社が割り当てる株式は、持ち株割合に応じて、将来の会社の収益を受け取ることのできる権利です。
持ち株割合10%ということは、この会社が将来1億円の利益を出せば、その10%である1千万円を受け取れることになります。
持ち株割合10%をいくらで投資すれば受け取れるかは投資家と投資先が交渉する事柄です。ある投資家は2千万円、別の投資家は3千万円の投資をしたいのであれば、3千万円投資してくれる投資家が選ばれやすいことになります。
ハードルを乗り越える方法
エンジェル投資をする際に、優良投資先を探し出すことは簡単なことではありません。また優良投資先から投資家として選んでもらうことも簡単なことではありません。
この二つのハードルは、広く、信頼できるエンジェル投資家との評判を得ることによってまとめて解決できます。そのような評判があれば、他の投資家に先んじて投資先の情報を取得でき、また投資先から選ばれやすくなるためです。
具体的にエンジェル投資家として知名度を高め、評判を得るためには、一人でも多くの起業家を支援し、実績を出すことが一番の近道です。なぜなら起業家、そして起業を目指す起業家予備軍同士のネットワークが存在するためです。