日本政策金融公庫は、起業時、創業時の資金調達方法として、もっとも有力な選択肢になる金融機関です。今回は「日本政策金融公庫の融資審査を通すために絶対に抑えておくべき5つのポイント」について解説します。
日本政策金融公庫の融資審査の大前提
日本政策金融公庫の融資担当者はほぼ公務員!?
日本政策金融公庫は、株式の100%を国が持つ財務省所管の特殊法人です。
簡単に言えば「国の金融機関」です。
「国の金融機関」ですから
- 「貸すこと」が使命
- 民間銀行と比較すれば「採算」に対する意識は低い
金融機関なのです。
民間銀行であれば、「金利(年率) > 貸し倒れ率」でなければ利益が出ないことになるため、貸し倒れ率を引き下げるために融資審査を厳密に行い、利益を出そうとします。
しかし、日本政策金融公庫は
- お役所仕事であること
を忘れてはいけません。
融資審査を行う担当者は「ほぼ公務員」なのです。
民間銀行の融資担当者と違って
- 利益を出すための融資審査に対する教育は受けていない。そもそもノウハウがない
- マニュアル通りに審査をする
- ミスをして減点されないことが何より重要
なのです。
だからこそ、通常の民間銀行への融資審査とは色々な面で違いが出てくるのです。
実際に日本政策金融公庫では、ウソの決算データで融資を受けた会社、融資を受けてから全く違う資金使途にお金を使って計画倒産する会社が後を絶たず、貸し倒れが多発している状況もあるため
の方が重要になっているのです。
- 杓子定規に立派な事業計画を作っても → 日本政策金融公庫の審査に落ちる
- 適当な事業計画でも → 日本政策金融公庫の審査に通る
というのは、民間銀行の融資審査と日本政策金融公庫の融資審査では「見ているところ」が大きく異なるからなのです。
これを理解した上で「日本政策金融公庫の融資審査を通すために絶対に抑えておくべき5つのポイント」について解説します。
その1.ウソを絶対につかない!
と思うかもしれませんが・・・これがかなり重要です。
なぜなら、彼らは「ほぼ公務員」です。
その企業の融資審査を通して、担当者の責任が問われるのは
事業が上手くいかずに回収できずに貸し倒れが発生すること。
ではなく
ウソの申告をした人に貸したこと。(融資後すぐに計画倒産した。別の資金に流用している。悪徳業者だった。)
の方なのです。
- 借入申込書
- 企業概要書
- 創業計画書
の内容はもちろん
- 預金通帳
- 運転免許証
などの記載情報や
- 家族構成
- 過去の職歴
などの情報も面談では聞かれます。
彼らは「整合性の取れない点(ウソの可能性がある箇所)があるかないか?」を長い面談でチェックしているのです。
- 事業経営に失敗した過去があるのに事業経営の「経験なし」としてしまったり
- 借入があるのに「借入なし」としてしまったり
- 売上を多く積み上げて創業計画書を書いたり
・・・
とくに法人や個人の借入状況などは信用情報で把握されているため、自己申告とのかい離が大きければ大きな問題になってしまうのです。
その2.小口の希望額にする
日本政策金融公庫の融資実績は
年度 | 融資先数 |
---|---|
平成23年度 | 989,697社 |
平成24年度 | 958,282社 |
平成25年度 | 930,171社 |
平成26年度 | 903,287社 |
平成27年度 | 886,207社 |
年度 | 1先あたりの平均融資残高 |
---|---|
平成23年度 | 651万円 |
平成24年度 | 666万円 |
平成25年度 | 679万円 |
平成26年度 | 691万円 |
平成27年度 | 689万円 |
となっています。
新創業融資だけに絞ると
年度 | 融資先数 | 1先あたりの平均融資残高 |
---|---|---|
平成26年度 | 20,737社 | 389万円 |
平成27年度 | 26,249社 | 384万円 |
となっています。
平均値よりも下の金額の方が融資審査に通りやすいことは間違えありません。
日本政策金融公庫の融資データのページは
- 300万円以下
- 300万円超~500万円以下
- 500万円超~800万円以下
- 800万円超
という融資額別の実績が掲載されています。
「1,000万円の融資が必要だ。」という方の場合も、審査通過が不安であれば、300万円以下で一度借入て、返済実績を積み上げたうえで、増額していくような形がベストなのです。
返済実績を作っていけば、日本政策金融公庫も追加の融資を持ち掛けてくるのです。
また、日本政策金融公庫からの創業資金の借入には、自己資金に対する割合も大きく影響してきます。
でないと借り入れができないと考えておくと良いでしょう。
融資制度によっては、自己資金の10倍まで借りられるというものもあるのですが、審査を考えると、多くの企業は自己資金が3分の1以上ある形の借入額になっています。
その3.作るべき資料のポイントは「売上と返済の確実性」
事業計画書を作成するときに、創業時の経営者ほど
- どんなにこのビジネスモデルが画期的か?
- どんなにこの商品が良いものなのか?
- どんなにこのサービスが競合優位性があるものか?
・・・
商品やサービス、ビジネスモデルの話を多くしてしまいます。
夢いっぱいの経営者ほど、ここに力を入れた事業計画を作成するはずです。
しかし、意味がありません。
なぜなら、日本政策金融公庫の融資審査担当者は「ほぼ公務員」ですから
- 事業の将来性
- 市場動向
- 商品と競合優位性の価値
- 最新トレンド
・・・
なんて知らないし、わからないのです。
これが今までにない画期的なビジネスモデル、今までにない市場を創出する話なら、なおさらわからないのです。
彼らが知りたいのは
売上の確実性
返済の確実性
です。
- 創業前だけど「これだけ見込客がいて、このぐらいの売上になる予定」
- 「すでに○○万円の月商がある」
- 「同じ商品性の競合他社B社は月商○○万円でそこよりも当社の商品は優位性がある」
- 「前職で同じ業界に10年在籍し、売上構築のノウハウと経験がある」
というようなことなのです。
知りもしない業界の知りもしない新商品の魅力をたっぷり語られたところで理解はされません。
具体的な数字で「いかに売上の確実性が高いのか?」「いかに返済の確実性が高いのか?」をプレゼンテーションできれば
その融資担当者も、上司にそのまま伝えれば良いだけなので、伝言ゲームでの情報の劣化も起きません。
融資を受ける人 → 融資担当者
「弊社の事業計画では3か月後に100名の顧客を想定していますが、すでに創業前のプレ営業で50名の予約を獲得しています。創業後本格的に営業を強化できるので、3か月後の目標値は確実にクリアできる予定です。」
と言えれば
融資担当者 → 融資担当者の上司
「この会社は事業計画で3か月後の顧客数の50%をプレ営業で確保しているので、確実性の高い事業計画になっています。融資しても問題ないと判断しました。」
とそのまま伝えてくれるのです。
これが「この商品は○○が他にない凄い魅力なんです。」と熱弁されてしまったら、融資担当者も上司にどう報告して良いのか?わからないのです。
その4.服装、身だしなみ、丁寧な受け答え
意外かもしれませんが、事業内容で審査できないのですから、日本政策金融公庫の融資審査は「印象」も大きな要素となってしまいます。
マシンガントークの営業的なプレゼンテーションよりも
- 丁寧に落ち着いた話し方
- きちんとした受け答え
- 清潔な身だしなみ
- きちんとした服装
という、誠実さを伝えられるプレゼンテーションの方が日本政策金融公庫の融資審査では重要になるのです。
「Tシャツとジーンズでも、驚くような事業計画があればいいんでしょ。」
と思う方もいるかもしれませんが、そうではありません。
その5.外部専門家(認定経営革新等支援機関)も使うとベター
創業融資を受けることを生業にしている会計事務所、税理士事務所、財務コンサルタントはかなりいます。
確かに、使わなくても、融資審査を通ることは可能です。
しかし、「少しでも融資審査の通過の確率を高めるために」という視点で見れば、日本政策金融公庫の創業融資実績が豊富な外部専門家(認定経営革新等支援機関)を使うというのも、一つの選択肢ではあります。
なぜなら、日本政策金融公庫の融資担当者は「ほぼ公務員」だからです。
- 森友学園の忖度問題
- 一向に減らない天下り
- 一向になくならない談合
・・・
何をとっても、公務員というのは、成果主義ではないため、付き合いのあるところの要望が思った以上に通りやすいのです。
外部専門家(認定経営革新等支援機関)とは
というものですので、国が認定した支援機関を意味します。
外部専門家(認定経営革新等支援機関)は中小企業庁のウェブサイトで公開されています。
東京都だけでも
7623社
もあるのです。
とわけのわからないロジックではありますが・・・
- 面談への同席が認められる可能性がある
- 何社も会社を紹介していて専門家と日頃やり取りしている同じ担当者が面談を受け持つ
まさに公務員的な忖度があるのです。
中小企業庁のパンフレットにも
認定経営革新等支援機関が提供する主な支援内容
3. 中小企業支援施策と連携した支援
中小企業等支援施策の効果の向上のため、補助金、融資制度等を活用する中小企業・小規模事業者の事業計画等策定支援やフォローアップ等を行います。
と書かれてしまっているのですから
こういう人は日本政策金融公庫の融資審査に通らない!
信用情報でブラックになっている方
クレジットカードやカードローン、割賦販売の携帯電話(0円プラン)などの返済を61日以上滞納したり、債務整理や自己破産をすると信用情報に「異動」という表示が掲載されます。
これがあると日本政策金融公庫の融資審査は通りません。
日本政策金融公庫も審査の過程で信用情報を照会して、チェックしているからです。
税金の未納や滞納がある方
税金の支払いは国民の義務ですから「税金を支払わずに税金のお金を使った日本政策金融公庫から融資を受ける」というのは、むちゃくちゃな論理になってしまいます。
公共料金の支払に滞納がある方
電気代、ガス代、水道代・・・など公共料金の支払いに遅延がある方も、融資審査に通らない可能性があります。
まとめ
日本政策金融公庫の融資審査を通すために絶対に抑えておくべき5つのポイントは
- 絶対にウソをつかない
- 初回は300万円以下に希望借入額を抑える、自己資金が資本金の3分の1以上になるように希望借入額を抑える
- 「売上の確実性」「返済の確実性」を具体的な数字で示すことに注力する
- 服装、身だしなみ、丁寧な受け答えで「誠実さ」を演出する
- 外部専門家(認定経営革新等支援機関)を使った方が審査は通りやすい
という点が挙げられます。
これらはすべて
- 日本政策金融公庫は国の金融機関であること
- 日本政策金融公庫は民間銀行とは違って採算を重視していない
- 融資担当者は貸し倒れよりも、不適格な企業(ウソをつくなど)の審査を通してしまうミスを恐れている
という日本政策金融公庫ならではの特徴が影響しています。
日本政策金融公庫は株式会社ではありますが、国が株式の100%を所有しているため
- 日本政策金融公庫 = お役所
- 融資担当者 = 公務員
- 日本政策金融公庫の融資 = お役所仕事
なのです。
日本政策金融公庫は新規事業、創業のビジネスモデルを適切に審査をする能力やノウハウがないのですが、これを責める必要はありません。なぜなら、民間銀行はそもそも新規事業、創業のビジネスモデルへ融資をしようとすらしないからです。民間銀行は創業資金の融資も、信用保証協会の保証付融資以外で融資することは皆無といっていいでしょう。リスクを取りたくないのです。
これを放置してしまうと、起業する方が減ってしまい、日本の経済が停滞してしまうからこそ、国の金融機関である「日本政策金融公庫」は、無理を承知で新規事業、創業の融資をしているのです。