第三者割当増資はそうそう頻繁におこなわれるものではありません。しかし、「よく分からなかった。」からと言って手続きを間違えると大変なことになります。
第三者割当増資の手続きの中には、忘れていると
- 第三者割当増資の効力が否定されるもの
- 罰則の適用を受けるもの
など重要なものが多く存在するからです。
また、法律(主として会社法)に従って必要とされる手続きに加え、実務上は必要になること、やっておいた方がよいこともあります。
第三者割当増資の手続き
第三者割当増資は単なる資金調達ではなく、会社に重要な変更をもたらすため、影響の範囲も大きくなります(なすべき手続きも多岐にわたります)。以下では、「共通して必要となる手続き」と「よく問題になる点」を説明していきます。
手続き1.株主へ説明し、株主総会で募集の条件決定を行う
第三者割当増資は既存の株主の権利に大きな影響を及ぼします。そのため、会社法には既存株主の意思を確認する手続きが組み込まれています。
その理由は、二つあります。
まず、「会社の利益」は最終的には「株主の利益」となるため、株主は会社と利益を共通にしています。会社の事業への協力を期待できるなど、株主は会社がもっとも大事にすべき相手です。第三者割当増資を行うことが会社の成長にどう寄与するのかを株主が理解し、第三者割当増資を行った後も会社事業に協力してもらう必要があります。
そしてもう一つは、第三者割当増資が株主に多大な影響を与え、とくに株式の「希薄化」などで迷惑をかける可能性があるからです。「希薄化」を避けるために、株主が第三者割当増資を引き受けてくれる可能性もあります。
。
募集条件を決めるための株主総会を開催するためには、株主総会を開催することについて「取締役会で決議」する必要があります。これをまとめると、
- 取締役会で「株主総会を開催すること」「その株主総会の議題を第三者割当増資の募集条件とすること」を決議する
- 株主総会の招集通知を発送して株主総会を開催する。そこでの「第三者割当増資の募集の条件」について決議する
募集条件として株主総会で決議する必要がある事項は
- 「募集株式の数」:第三者割当増資により何株発行するか。これによって既存株主の議決権がどれだけ希薄化するかが決まります。
- 「募集金額」:第三者割当増資により、いくらの出資を求めるか。株式数と金額により、既存株主の分配請求権が希薄化するかどうかが決まります。
- 「出資の方法」:金銭のほか、現物での出資も可能です。
- 「出資の期日」:第三者割当増資をいつまでに行うかです。
- 「増資により会社に振り込まれた金銭のうち、資本に組み入れる金額」:増資により調達した金額は資本金と資本準備金に振り分けらますが、いくらを資本金にするかです(少なくとも半分は資本金にする必要があります)
この条件のうち、「募集株式の数」と「募集金額」について枠を設定することも可能です。つまり、「募集株式」は上限(多くても何株まで)、「募集金額」は下限(一株当たりの増資金額はいくら以上)と決めるだけでもかまいません。枠を設定することができるのは「希薄化の限度」を決めておくことは最低限必要、という趣旨です。
決められた枠の中で、実際にいくらで募集するかは取締役会で決める(つまり取締役会に委任する)ことになります。
会社が第三者割当増資を行う際の「制約条件」がある場合には、募集条件を決める際に手当てしておく必要があります。
制約条件とは、具体的には「発行可能な株式数(授権株式数とも言います)に余裕がなく、増資ができない(この場合には発行可能株式総数を増加しておく)」などがあります。
手続き2.自社の紹介資料、事業計画を作る
「自社の紹介資料」は、第三者割当増資の引受先を探すために必要になるもので、引受先がすでに決まっているような場合など必要ないケースもあります。会社の紹介資料は、営業活動などで必要になるため、わざわざ作らなくても持っている会社が多いでしょう。既に用意されていればそれを利用できます。
一方で「事業計画」も、引受先を探す際、自社に興味を持ってもらい、自社の理解を深めてもらうために利用します。加えて、「第三者割当増資の増資価格の妥当性」を納得してもらうことにも使います。この増資価格の妥当性を判断するのは「引受先」と「既存株主」です。
将来の成長は「だれが第三者割当増資を引き受けるか」によって変わってくる可能性があります。とくに「出資」と合わせて「事業上の提携」を引受先との間で行うことができれば、会社が成長する可能性が高まるためです。
手続き3.第三者割当増資の引受先を探す
実際には、まず「業務提携」の話があり、それに伴って「資本提携」「第三者割当増資」を検討する事例も多くみられます。この場合にも「より良い条件を提示してくれる引受先を探したい」「提携先1社では調達希望額に足りない」といった場合には同様に引受先を探すことになります。
募集の条件が決まっているとしても、中小企業の場合には、公告をして引受先が見つかることはまずありません。
そのため、以下のような人的なつながりのある相手に打診することになります。
- 株主や知人
- 取引先
- 銀行の紹介先
- 金融機関やファンド(ベンチャーキャピタル等)
手順4.引受先(候補)のDDを受ける
自社の第三者割当増資の引受に関心を持つ人が見つかったとして、「じゃあ明日にでも」と増資が行われることは稀です。
とくに自社とのつながりが薄ければ薄いほど、会社のことを知らないため、すぐに決断できないでしょう。決断してもらうために、もっと会社をよく理解してもらわなくてはなりません。
自分が第三者割当増資に応じる立場だと仮定すれば、「引受ける会社(つまり自分が株主になる会社)」についてよく理解しておくべきであることは明らかです。また、引受先が上場企業や、ファンドなどの場合には、相手をよく知らないで引受を行った場合、その株主となった会社の経営が悪化した場合や、その会社が法令違反を行った場合などに、後から責任を問われかねません。
DDにおいて調べられることは、引受先の関心に応じて、多岐にわたります。
代表的なのは
- ビジネスDD:ビジネスに将来性があるのか、事業計画は妥当なのか
- 法務DD:会社の法律関係、具体的には取引条件が適切か、コンプライアンスに漏れがないか
- 税務DD:脱税など税務的な漏れはないか
この他にも、株主となる会社が工場をもっている場合にその工場の敷地の環境的な問題(汚染物質があるとか)がないか、その会社の特許が重要である場合に特許が有効に成立しているのか、などを調べることがあります。
調査は書面を徴求して行われえることもありますし、経営者や現場責任者、場合によっては取引先などへの聞き取りによって行われることもあります。
手続き5.引受先を確定させる(募集と通知を行う、または総数引受契約契約を締結する)
法律上は、以下の手順を踏むことが求められています。
- 「引受を希望する人に対して募集事項等を通知する」:通知すべき事項は、会社の商号(会社名)、募集株式の数や金額、期日などです。
- 「引受を希望する人から申込を受ける」:申し込みには誰が、何株申し込むのかを記載してもらいます。
- 「割当を決議する」:申込に対して、その人を引受人を、何株の割当先と認めるのかを取締役会で決議します。
- 「割当の通知を行う」:取締役会の決議内容(引受人と認めるのか、何株割り当てるのか)を申込みをした人に通知します(これにより申込への回答がなされることになります)。
しかし、会社が引受人と「総数引受契約」を締結する場合には、この手続きを省略することができます。
総数引受契約とは
第三者割当増資を行う会社側では、契約締結に当たって「取締役会の承認」が必要になります。
手続き6.投資契約を交渉する
第三者割当増資は「引受人」から特別な要請があることも珍しくありません。
例えば
- 自分の指名するものを取締役にしてほしい
- 現在の役員は退任せず、また会社の経営に専念してほしい
- 大株主が持ち株を売約する際は自分の持ち株も併せて(また同じ条件で)売却できるようにしてほしい
- 会社の経営に関する情報を定期的に(月に1度などで)提供してほしい
逆に会社がその株主に特別な要請をしたい場合もあります。
とくに、第三者割当増資と引き換えに事業提携を求めている場合、この段階でしっかりと提携内容について話を詰めておく必要があります。
手続き7.入金を確認する
契約が締結されると、あとは入金を待つことになります。
手続き8.第三者割当増資後の手続き
第三者割当増資が成立すると、事務的な手続きを行うことになります。
- 登記を変更するための申請を行う
- 株主名簿を書き換える
引受人が推薦する取締役を選任権する場合など(投資契約に基づく場合であっても、そうでなくても)は、変更登記前に手続きをしておくと登記が一度で済みます。
変更登記申請は、第三者割当増資の後、2週間以内に行うことが法律で定められています。
資本金の変更を登記する際に必要な書類は次の通りです。
- 株主リスト
- 取締役会議事録
- 申込みを証する書面
- 払込証明書
- 資本金計上証明書
上記の株主リストは株主名簿を利用できます。
株主名簿は増資手続きの中で下書きを作成していることが多く(第三者割当増資をした後の状態を説明するために通常は必要)なので、それを完成版にすれば足ります。
まとめ
第三者割当増資の手続き中、法律で必要とされているのは
- 株主総会で募集の条件決定を行う
- 引受先を確定させる(募集と通知を行う、または総数引受契約契約を締結する)
- 入金を確認する
- 第三者割当増後の変更登記を申請する
しかし、実務上は、他にも株主へ説明する、事業計画を作成する、投資契約を交渉する、等すべきことは多くあります。
手続きは弁護士や司法書士、税理士など、専門家に確認してもらいながら進めていくと安心です。しかし、まずは自分でもしっかり理解しておきましょう