資金繰りは、苦しくなる前に、厳しくなる前に、手を打つべきものですが、会社経営の中では「どうしても資金繰りが苦しくなってしまって、すべての支払先に支払いをすることができない。」というピンチも訪れてしまいます。
実は、このときにも「どの支払いから先に返済をすればいいのか?」という返済の優先順位があるのです。今回は、資金繰りが苦しい・厳しいときに返済を後回しにして良い支払先の順番について解説します。
資金繰りが苦しい・厳しいときに返済を後回しにして良い支払先の順番
まずは、結論から
返済を後回しにして良い支払先の順番
- 税金
- 社会保険料
- 銀行
- 家賃など会社運営に必要な経費
- 仕入れ費・外注費
- 社員の人件費
- 手形・小切手
です。
返済すべき支払先の順番は逆になります。
返済すべき支払先の順番
- 手形・小切手
- 社員の人件費
- 仕入れ費・外注費
- 家賃、光熱費など会社運営に必要な経費
- 銀行
- 社会保険料
- 税金
一つ一つ解説していきます。
資金繰りが苦しい・厳しいときに後回しにして良い支払先
後回しにすべき順位1位.税金の支払い
「税金」は税務署が取り立てに来るものです。
税金を滞納すると
- 税務署や地方自治体から「督促状」が送られてきます。
- 支払いができない場合「市役所や税務署に来て、事情を説明するよう」求められる形になります。
- 滞納していた期間に応じて「延滞税」が加算されます。
「延滞税」は
平成30年1月1日から平成30年12月31日まで
- 納付期限の翌日から2月を経過する日まで:年2.6%
- 納付期限の翌日から2月を経過した日以後:年8.9%
となっています。
ここまで見ると「税金って滞納して大丈夫なの?」と思ってしまいますが
「税金」は、他の債務よりも回収の強制力が強いものです。
- 自己破産しても、免責になりませんし
- 裁判所の判決を得ずに、職員の判断で強制執行(差押え)が可能で
- 会社が倒産すると金融機関の債権よりも、税金の回収が優先されます。
というのが税務署の考え方なのです。
最近では、市区町村など税金回収が若干厳しくなっているようですが、まだまだ税金は多少の滞納には甘く見てくれる支払先と言えるのです。
後回しにすべき順位2位.社会保険料の支払い
厚生年金の場合
- 毎月20日頃に各事業所へ「保険料の納入告知書」が送付
- 納付期限は月末
となっています。
社会保険料も、当然支払うべきものではありますが、税金と同じく、納付期限までに納付がなかったからと言って、すぐに差し押さえされるわけではありません。
- 納付日から一週間経過:年金事務所から督促状の送付・年金事務所から電話がある
- 督促状の納付期限(約3週間後)でも支払いがない場合:延滞金の発生
たしかにそうなのですが、年金事務所は「会社の事情をある程度考慮してくれる」のです。
年金事務所にとっても、無理な返済を迫って、会社を倒産させてしまえば、保険料の支払いがなくなってしまうので意味がありません。
注意しなければならないのは「督促状の無視」は厳禁という点です。
年金事務所は、かなり聞く耳を持ってくれて、会社の都合を汲み取ってくれますが、督促状を送ったのに連絡がない、連絡をしない場合は、督促状の10日後ぐらいから「税務調査」が行われ、「差し押さえ処分」が実行されてしまいます。
後回しにすべき順位3位.銀行
「銀行の借入」も優先度の低い支払先となります。
「銀行の借入」については、相談が可能だからという点に尽きます。
銀行の立場
と同時に
のです。
5,000万円の融資をしている銀行があったとして、毎月の返済額が50万円だった場合
50万円の返済が厳しい会社に無理に50万円の返済を強制して倒産してしまえば、残りの4950万円が未回収になってしまいます。
それよりは、50万円の返済を半額の25万円に減額してでも、倒産させずに返済を継続してもらった方が良いのです。
だからこそ、銀行の借入は「リスケジュール(返済条件の変更)」が可能になるのです。
リスケジュールとは
リスケジュールは「延滞」ではなく、「返済条件の組みなおし」です。
リスケジュールを依頼するタイミングは、返済できなくなる返済日の数日前までが目安です。
それまでには銀行に説明できる資料を用意して、交渉すれば良いのです。
- 返済条件変更申込書
- 返済条件をどのように変更してほしいか?
- 返済条件の変更を希望する日
- 返済条件の変更を希望するに至った理由
- 経営改善計画書
- 資金繰り表
リスケジュールを行ったら、リスケジュール中にはその銀行から融資を受けることはできません。
しかし、その何倍も、リスケジュールによって返済額を減らせる、返済までの猶予期間ができる、ことのメリットの方が大きいのです。
後回しにすべき順位4位.家賃、光熱費など会社運営に必要な経費
会社の経費の中でも、サービスの提供が止まってしまうと、事業継続ができないものがあります。
例えば
- 家賃
- 水道光熱費
- インターネット回線費用
- 通信費
・・・
などが該当します。
- オフィスの立ち退き
- 工場・店舗の立ち退き
- 水道の停止
- 電気の停止
- 通信の停止
- 電話の停止
・・・
などがあれば、事業の継続が難しくなってしまうからです。
また、同じ経費を見ても、支払の優先順位があります
- 事業継続への影響が大きい経費支払 → 優先的に支払うべき
- 事業継続への影響が小さい経費支払 → ある程度後回しにして良い
ことになります。
例えば
インターネットの企業の場合は、オフィスの家賃を滞納して、立ち退きを求められても、ネット環境とパソコンさえあれば、カフェやファミレスで営業活動を継続できるかもしれません。しかし、工場などの家賃を滞納して、立ち退きを求められてしまえば、工場が稼働できなくなり、商品が生産できなくなってしまいます。
同じ経費であっても、後者の方が「支払を優先的にしなければならない経費」に該当するのです。
経費の中でも、なかなかすぐに立ち退きを求められるものではない「家賃」は返済の優先度の低い経費と言えます。
後回しにすべき順位5位.仕入費・外注費
仕入費・外注費は、売上に直結する費用です。
- 仕入れをしなければ、商品が生産できません。
- 外注を利用しなければ、販売できるサービスの規模が減ってしまいます。
どちらも、「売上」に直結する支払いですから、優先的に支払うべきものと考えて良いでしょう。
仕入費・外注費は、会社経営に必要不可欠な費用なのです。
仕入れ先や外注先に対しての支払いを遅延させてしまえば
「次からはあの会社へは商品を供給できない。」
「次からはあの会社の仕事は受けない。」
と、悪評が広まってしまいます。
資金繰りが厳しいからと言って、協力会社の信用を失ってしまえば、今まで通りの商品やサービスが提供できなくなってしまい、売上が落ちて、より資金繰りが悪化してしまうのです。
これでは、資金繰りを改善するどころか、事業継続も危うくなってしまいます。
ただし、その中にも優先順位があります。
支払いを優先すべき仕入れ先・外注先
- 商品やサービスを提供する上で必要不可欠な仕入れ先・外注先
- 独自の技術があり、競合他社ではできないノウハウを持っている仕入れ先・外注先
- 支払いの遅延などにうるさい仕入れ先・外注先
です。
支払いを後回しにして良い仕入れ先・外注先
- 強固な信頼関係があって、相談に応じてくれる仕入れ先・外注先
- 失っても、業界に悪評が立たない影響力の小さい仕入れ先・外注先
- 商品やサービスを提供する上で重要度が低い仕入れ先・外注先
- 支払いの遅延にルーズな仕入れ先・外注先
です。
後回しにすべき順位6位.社員の人件費
社員の給与支払いを遅延してしまうと、会社経営は成り立ちません。
よほど、社歴が長く、人間関係ができている社員であれば、事情を汲み取ってくれるかもしれませんが・・・
ほとんどの社員は「給与」という対価のために仕事をしています。
対価である「給与」が支払われないのであれば、仕事をする意味がなくなってしまうのです。すぐに会社に来なくなるということはないかもしれませんが、仕事に対するモチベーションは激減してしまいますし、上司や経営者から指示をしても、言うことを聞いてもらえなくなってしまいます。
そうなれば、売上も当然激減してしまい、資金繰りを改善するどころか、資金繰りは大きく悪化してしまいます。
また、給与支払いを一度でも遅らせてしまえば、従業員から会社の信頼は失墜してしまいますので、退職者が続出してしまい、結局、会社運営が回らなくなってしまうのです。退職した社員のリカバーで新しい社員の雇用を考えても、またそこに採用コストが発生します。なかなか人員を補充できなければ、より退職者が増え、会社経営が頓挫してしまうのです。
役員が会社の株も保有している副社長というのは立ち位置であれば、社長と同様に相談の上、一定期間給料支払いを0円にするような対応も可能です。
しかし、会社の株も持っておらず、執行役員として現場の実務だけを行っている役員の場合は、社員と同様に給料支払いをストップすると、すぐに辞めてしまい、その不安が従業員にも伝播してしまいます。
後回しにすべき順位7位.手形・小切手
真っ先に支払う必要があるのが「手形・小切手」です。
その理由は「手形・小切手」の支払いができないと、今後の銀行取引ができなくなるからです。
不渡りとは?
不渡りには3種類あります。
- 0号不渡り:形式の不備や期日の間違い
- 1号不渡り:当座預金の残高不足
- 2号不渡り:契約不履行や詐欺、偽造
一般的に言う「不渡り」は「1号不渡り」のことです。
「不渡り」を出してしまった場合
「不渡り処分」を受けて、手形交換所によって「不渡り報告」に掲載されます。
→ すべての金融機関にこの会社が不渡りを出したことを知られる ≒ 金融機関との取引が事実上難しくなるのです。
1度目の「不渡り」から6ヶ月以内に2度目の「不渡り」を出してしまった場合
手形交換所によって「取引停止報告」に掲載されます。
→ 通知日から2年間、当座預金取引や融資ができなくなってしまうのです。
不渡りを一回でも出してしまえば、すべての金融機関に知られてしまうので、その直後から、取引銀行からは矢継ぎ早に連絡がかかってきます。「倒産するのか?」「今後どうなるのか?」「なぜ、不渡りを出したのか?」などの確認の電話です。
結果として、銀行全体、業界全体にその噂は波及してしまいます。
取引先からも、連絡が来るようになり、業界内での信用も失墜してしまうのです。
ただし、1回目の不渡りだけであれば、営業自体は継続することができます。
2回目の不渡りを出してしまうと、今後は取引の停止です。
当座取引停止処分では
- 当座勘定取引
- 貸出の取引
が制限されます。
普通預金口座は開設できるので、普通預金口座で営業することはできなくはありませんが、不渡りを出して取引停止している企業の新規の口座開設を受け付けてくれる銀行はほぼないでしょう。(すでに保有している普通預金口座は利用できる可能性が高いです。)
会社経営において、致命的な状態に追い込まれてしまいます。
これが真っ先に「手形・小切手」の支払いを優先しなければならない理由です。
まとめ
返済を後回しにして良い支払先の順番
- 税金
- 社会保険料
- 銀行
- 家賃など会社運営に必要な経費
- 仕入れ費・外注費
- 社員の人件費
- 手形・小切手
です。
支払いの優先順位が決まってくるポイントは
- 支払いを遅らせると会社運営にどのくらい影響があるのか?
です。
- 手形・小切手
- 社員の人件費
- 仕入れ費・外注費
- 家賃など会社運営に必要な経費
ぐらいは、支払ができないと、会社運営ができなくなってしまいます。会社運営が回らなくなれば、売上も激減してしまうので、資金繰りが改善するどころから、資金繰りがさらに悪化してしまい、倒産に追い込まれてしまいます。
一方で、ある程度の猶予があるのは
- 銀行
- 社会保険料
- 税金
です。
どれも、はじめから遅延をして良いものではありませんが、現状の会社の状況を丁寧に説明した上で、交渉すれば返済を猶予してくれる可能性が高いものです。
督促が来た場合に「無視」という行動は絶対に取らずに、早期に相談をしたうえで、支払条件の緩和を交渉しましょう。ある程度の猶予がある支払先とは言え、「無視」をしてしまうと、取り返しのつかない状態になってしまいます。