ベンチャーキャピタルからの資金調達を検討している経営者の方が、最初に当たる疑問がこれだと思います。ベンチャーキャピタルからの資金調達の進め方について解説します。
手順その1.本当にベンチャーキャピタルからの資金調達が必要なのか?再検討する
まず、最初に決めなければならないのは
ということです。
というのも、「ベンチャーキャピタルからの資金調達」にはメリットデメリットがあり、デメリットも決して小さくないからです。
ベンチャーキャピタルから資金調達するメリット
- 調達額が大きくなるので短期間で会社を急成長させられる
- 調達額が大きくなるので一定期間赤字でも耐えられる
- 融資と違って失敗しても返済する必要がない
というものがあります。
出資ですから、「融資でない=借金ではない」ので、失敗しても、出資してもらったお金を返す義務がないのです。
さらにビジネスモデルさえ魅力的であれば、数億円単位での出資も受けられます。自己資金や銀行からの借入で数百万円~1000万円程度で起業するケースと比較すれば、事業の成長スピードは各段に違ってくるのです。
ベンチャーキャピタルから資金調達するデメリット
- 短期間での急成長が義務付けられてしまう
- 経営に対して株主である「VC」が口を出してくる
「出資を受ける」ということは、会社の経営者ではあるが、会社のオーナーではなくなることを意味します。ベンチャーキャピタルは、出資した会社を上場(IPO)させて、投資金額を回収するビジネスモデルですので、遅くても5年以内に上場させることを強いられるのです。
自分が会社のオーナーではないのですから、自分の給料を自分だけで決定することもできなくなるのです。
「ベンチャーキャピタルからの資金調達」はメリットも大きいのですが、デメリットも大きいのです。
それでも、
- 上場を目指して急成長させたい
- 巨額な資金調達でなければ成立しないビジネスモデル
というケースでは「ベンチャーキャピタルからの資金調達」は有効な選択肢になるのです。
手順その2.事業計画書を作成する
ベンチャーキャピタルにアプローチする前に、自社の事業計画書を作成する、作り直す必要があります。
事業計画書の例
- エグゼクティブサマリー
- 事業立ち上げの経緯
- マネジメントチーム
- 会社概要
- 経営理念・事業理念
- 商品・サービスの概要
- 儲けの仕組み
- 市場および競合の分析
- マーケティング/営業
- 立ち上げ戦術
- 成長戦略
- オペレーション計画
- 人事戦略
- 財務計画
- 資金調達
- 出口戦略
- リスク管理
- プロジェクト管理
ベンチャーキャピタルが重視するポイント
その1.市場の成長性
ベンチャーキャピタルは最終的にはIPOによる資金の回収を目的とします。上場するということは、投資家に出資してもらうことを意味します。
「投資家が出資したい。」と思わない会社は証券会社も上場させようとしないのです。
投資家は「成長市場であれば投資のリスクは低い、大きいリターンが見込める」と考えるので、投資がしやすいのです。
ですから、「市場の成長性」を具体的に示す必要性があるのです。
その2.マネジメントチーム(経営陣)の実績
コンビニでアルバイトしていた人に大金を出資するベンチャーキャピタルはいません。
同じビジネスモデルで、同じ資金で起業したとしても、優秀な経営者か?どうか?で成功するかどうかは大きく変わってきてしまうのです。
だからこそ、このビジネスモデルを成功させられる。
という
経営陣の経営能力の資質と、それを会社の成功につなげられる理由を具体的に示す必要があるのです。
その3.競合優位性
確実に成長するために必要なのは
- 「敵はどこか?」
- 「敵に何で勝か?」
ということが明確でないといけません。
- 競合他社のシェア
- 競合他社の商品やサービスのマトリクス
- 自社の商品やサービスでどこで勝つのか?
を明確に示すことで、ベンチャーキャピタルはこの会社に将来性があるのかどうか?を判断するのです。
「今までにない商品やサービスなので競合はいません。」
という経営者もいますが、そんなことはないのです。個人が顧客なら、個人のお財布の中からそのサービスにお金を支払うのですから、代替となる何かをあきらめているのです。商品やサービスが似ていなくても、同じようなニーズを解決する商品やサービスが競合になるはずなのです。
その4.販売戦略の明確化
どんなに魅力的な商品・サービスであっても、販売戦略が描けていなければ売上が伸びることはありません。
- どうやって営業するのか?
- 誰に営業するのか?
- どのエリアで営業するのか?
- 広告はどう展開するのか?
- インターネットはどう活用するのか?
・・・
すくなくとも、販売戦略・営業戦略に長けた、実績のある人材が経営陣に必要なのです。
その5.IPO(上場)に対する道筋
だとすれば、IPO(上場)までの道筋が明確に描けている事業計画が求められるのです。
- IPOをするための事業計画が具体的なロードマップで書かれている
- IPOをするときの事業規模(売上、経常利益、差別化要因)を明確にしている
- IPOまでの売上、利益の伸びの数字による具体的根拠がある
という「この会社はIPO(上場)をリアルに目指しているんだな。」と思われる事業計画が必要になるのです。
- IPO(上場)までの猶予:最大5年
- IPOをするときの事業規模:経常利益2億円以上、その他各市場要件のクリア
- IPOまでの売上、利益の伸びの数字による具体的根拠:なぜ、その数字が達成できるのか?
という点を理解した上で
つまり、
- その1.市場の成長性
- その2.マネジメントチーム(経営陣)の実績
- その3.競合優位性
- その4.販売戦略の明確化
- その5.IPO(上場)に対する道筋
を明確にした事業計画を持って、ベンチャーキャピタルにアプローチしないと、投資というテーブルにすら乗らない可能性が高いのです。
手順その3.ベンチャーキャピタルに連絡を取る
事業計画書ができて
- いくら調達したいのか?
- 何に資金を使うのか?
が明確になったら、ベンチャーキャピタルに連絡を取るフェーズになります。
ベンチャーキャピタルに連絡を取る上でのポイント
その1.20社~30社に連絡して、1社から出資が決まる確率
ベンチャーキャピタルから出資を受けるというのは、そんなに簡単なことではありません。
- 20社~30社に連絡を取って
- 5社ぐらいがテーブルに載って
- 1社から出資が決定する
ぐらいの確率だと認識しておきましょう。
その2.ベンチャーキャピタルにも種類がある。自分の会社に合ったベンチャーキャピタルに申込む
投資先のステージによる分類
-
シードラウンド
スタートアップの段階と言っていいでしょう。実際に売上や利益が出ている状況ではなく、研究・開発段階の会社のことです。資金調達できる金額は数百万円~数千万円です。
-
アーリーステージ(シリーズA)
商品やサービスの提供が始まった段階の会社です。資金調達できる金額は数千万円~2億円です。
-
成長ステージ(シリーズB)
商品やサービスの提供で事業は軌道に乗り、十分な売上・利益があるものの、成長を加速するために資金調達をする会社です。資金調達できる金額は数億円です。
-
レイターステージ(シリーズC)
IPOするために資金が必要な会社です。IPO間近の会社とかんがえて良いでしょう。資金調達できる金額は数億円~数十億円です。
投資先の業種による分類
- IT系にだけ投資をするベンチャーキャピタル
- バイオ系にだけ投資をするベンチャーキャピタル
- 金融系にだけ投資をするベンチャーキャピタル
・・・
ベンチャーキャピタルも、その市場や業界のことを深く理解していないと「出資して回収できるのか?」の正確な判断がつかないのです。また、同じ業界に投資をしていれば、投資先の間でのシナジーも生まれます。
母体による分類
- 銀行系ベンチャーキャピタル
- 政府系ベンチャーキャピタル
- 証券会社系ベンチャーキャピタル
- 保険系ベンチャーキャピタル
- 大学系ベンチャーキャピタル
- 商社系ベンチャーキャピタル
・・・
親会社が違うと投資する目的も変わってきます。
その3.投資先が自分の会社に近いベンチャーキャピタルが狙い目
自分の会社の同業他社に投資をしているベンチャーキャピタルは
- その業界に対する理解が深い
- その業界に対する出資実績がある
- 出資した後のシナジーが見込める
ため、全く関係のないベンチャーキャピタルと比較して「出資を受けやすい」特徴があります。
その4.紹介してもらうのも一つの方法
自分で連絡を取るのは王道ですが、ベンチャーキャピタルは「誰に紹介された案件か?」というのも重視します。
- ベンチャーキャピタルからの出資を受ける投資コンサルタント
- 知り合いのベンチャーキャピタルから投資を受けている社長
- 銀行
などから紹介を受けるというのも一つの方法なのです。
手順その4.ベンチャーキャピタルに要求された書類を提出する
ベンチャーキャピタルに持ち込むと、資料の提出が求められます。
- 定款
- 会社案内もしくはパンフレット
- 決算書や税務申告書
- 事業計画書
- 株主名簿
- 役員経歴書
- 組織図
- 登記簿謄
- 資金繰表
- 重要な契約書類等
などです。
見込があれば面談をしたり、資料の追加提出、修正などを求められることもあります。
手順その5.ベンチャーキャピタルの調査・分析・審査
ベンチャーキャピタルは
- 入手した資料
- 経営者との面談
とは別に独自に
- 市場動向の調査
- 業界動向の調査
- 事業計画の妥当性の調査
- 会計士による財務調査
を行い、最終的に「投資委員会の審査」にかける案件か?どうか?の判断を行います。
手順その6.ベンチャーキャピタルの投資条件の決定
「投資委員会の審査」にかける案件と判断されれば、投資条件が設定されます。
- 現在の企業価値(バリュエーション)はいくらなのか?
- 株価をいくらに設定するのか?
- 株をどのくらいのシェアで持つのか?
- 出資額はいくらになるのか?
- いつ出資するのか?
など細かい条件が決定され、投資契約書が提示されます。
これは会社側の経営者の意向が考慮されることも、されないこともありますし、交渉することも可能です。
投資契約書をレビューする上で重要なポイント
その1.「取締役への株式買取請求や損害賠償請求」がないかチェックする
「出資」というのは、経営が失敗しても、経営者に責任が及ばないことが最大のメリットなのです。
「融資」による資金調達の場合は、経営者が連帯保証人になるので返済できなければ、経営者個人が返済しなければなりません。「出資」による資金調達には、本来返済の義務はないのです。
しかし、投資契約書の中に「経営が失敗したら、経営者個人が株価がベンチャーキャピタルが購入した金額で買取れ。」というような株式買取請求の条項があれば、そのまま経営者の借金になってしまいます。出資を受ける意味がありません。
「このような条項がないか?」隅々まで契約書を読みこむ必要があります。
その2.「重要事項に関する事前協議や事前承認事項」の確認
ベンチャーキャピタルは経営に対して口出しをしてきます。出資金額が大きいので口出しをすること自体が問題ではありませんが、あまりに多くの「事前協議事項」「事前承認事項」があると、経営がスムーズに進まなくなります。
「事前協議事項」「事前承認事項」の内容を確認した上で、これは経営陣の判断ですすめさせて欲しいというものがあれば、外してもらえるように交渉すべきなのです。
その3.「希薄化防止条項」の確認
ベンチャーキャピタルが出資した後に、他の出資先(株主)を増やしてしまうとベンチャーキャピタルの持ち株比率が下がってしまいます。
「希薄化防止条項」をつけるのは一般的ですので、それ自体が問題なのではありませんが、過度なストックオプションの禁止など、内容を確認した上で、経営上受け入れられないものは交渉する必要があります。
手順その7.ベンチャーキャピタル内の投資委員会の審査
投資条件・契約内容も決まれば、後は審査を待つのみです。
ベンチャーキャピタルの投資審査は1ヶ月~2ヵ月かかります。
手順その8.ベンチャーキャピタルの投資実行
ベンチャーキャピタルの投資審査が通れば、投資契約を締結して、出資が実行されます。
まとめ
ベンチャーキャピタルからの資金調達をするときの手順と進め方は
- 本当にベンチャーキャピタルからの資金調達が必要なのか?再検討する
- 事業計画書を作成する
- ベンチャーキャピタルに連絡を取る
- ベンチャーキャピタルに要求された書類を提出する
- ベンチャーキャピタルの調査・分析・審査
- ベンチャーキャピタルの投資条件の決定
- ベンチャーキャピタル内の投資委員会の審査
- ベンチャーキャピタルの投資実行
という流れになります。
ベンチャーキャピタルから出資を受けるためには
- 魅力的な事業であること
が大前提ですが
ベンチャーキャピタルがどういうビジネスモデルで、どういう会社に出資したいのか?
を理解することが重要なのです。
彼らが投資したい会社というのは
- 経営陣のスキルや経験値が高い
- 成長市場
- 競合優位性が高い
- 販売戦略が明確
- IPOまでの計画が具体的に描けている
という会社であり、その上で
- 自社の投資方針に合致している業界、業種、ステージ
- 自社の投資先とのシナジーが見込める
- 信頼できる方から紹介された
- 経営者の熱意がある
会社に投資をしたいのです。