営業権を譲渡することで、資金調達をすることが可能です。今回は、営業権譲渡・M&Aで資金調達するメリットデメリット・手順をわかりやすく解説します。
営業権譲渡とは?
営業権とは?
昭和51年7月31日最高裁判決
営業権とは、当該企業の長年にわたる伝統と社会的信用、立地条件、特殊の製造技術及び特殊の取引関係の存在並びにそれらの独占性等を総合した、他の企業を上回る企業収益を稼得することができる無形の財産的価値を有する事実関係である。
わかりやすくいえば
会社が保有する財産価値には「有形資産」と「無形資産」があります。
有形資産(賃借対照表に明記される資産)
- 預金
- 売掛金
- 有価証券
- 在庫
- 店舗
- 工場
- 土地
- 建物
- 機械設備
無形資産(賃借対照表に明記されない資産)
- 人材
- ノウハウ
- 立地条件
- 会社のブランド(知名度)
- 取引先との関係
会社法適用以前に使われていた言葉が「営業権」であり、現在は「のれん(goodwill)」と呼ぶことが一般的です。
「のれん」というのは、元々、店先に掛ける布のことであり、お店の看板的な役割を担うものでした。そのため、布自体に価値はないものの、お店のブランドという価値があるものの象徴として、使われている言葉なのです。
であり、「のれん」の部分を「プレミアム」と呼ぶこともあります。
営業権譲渡とは
を言います。
- 一つの事業のみを譲渡する
- 販路を譲渡する
- 会社のブランド(商品名)を譲渡する
- 一つの事業部を譲渡する
など、様々な選択肢があります。
呼び方の違いです。
- 商法 → 営業譲渡
- 会社法 → 事業譲渡(以前の旧商法のときは、営業譲渡)
と、商法と会社法で、呼び方が異なるため、2つの呼び方があるというだけです。
営業権譲渡(営業譲渡)で資金調達する方法とは?
M&Aには、大きく分けて3種類の方法があります。
- 事業譲渡:会社の事業の全てまたは一部を譲渡する
- 株式譲渡:株式を譲渡して、経営権を譲り渡す
- 会社分割:会社の事業の全てまたは一部を包括的に譲渡する
の3つです。
ですので
となります。
M&Aの事業譲渡の仕組み
事業譲渡は、一定の目的のために組織化された「有形資産」「無形資産」を譲渡する手続きです。
有形資産(賃借対照表に明記される資産)
- 預金
- 売掛金
- 有価証券
- 在庫
- 店舗
- 工場
- 土地
- 建物
- 機械設備
無形資産(賃借対照表に明記されない資産)
- 人材
- ノウハウ
- 立地条件
- 会社のブランド(知名度)
- 取引先との関係
M&Aの事業譲渡の金額
M&Aの事業譲渡の金額は
で計算されます。
営業権(のれん・プレミアム)の金額の計算
一般的に
で計算されます。
「2年~5年って結構、幅がありますが、実際にどうやって決まりますか?」
- 安定した業種 → 長く設定される(例:調剤薬局)
- 不安定な業種 → 短く設定される(例:飲食店、建設業)
- 将来有望な市場 → 長く設定される
- 衰退が見込まれる市場 → 短く設定される
- 最先端の技術がある → 長く設定される
など、複数の要因に左右されます。
営業権譲渡(営業譲渡)で資金調達するメリット
メリットその1.事業単位で譲渡できる
資金繰りが悪化していているために「営業権譲渡(営業譲渡)」を検討する会社にとっては、事業の一部だけをM&Aの売却対象にできるため、メイン事業には手を付けずに、売却金額分の資金調達が可能になります。
- 事業部の譲渡
- 商品の譲渡
- ブランドの譲渡
- 販路の譲渡
- ノウハウの譲渡
メリットその2.不採算事業でも譲渡できる可能性がある
当然ですが
利益が出ている事業の方が、利益が出ていない事業よりも、買い手が多く、売りやすいのですが、事業内容によっては「不採算事業」であっても、売却することができます。
自社では、利益を出すことができなかった事業だとしても、
買い手企業の「ノウハウ」「販路」「商流」「人材」などを活かすことによって、収益性が上がる可能性があるからです。
不採算事業を売却できる可能性があるのが、営業権譲渡(営業譲渡)での資金調達の大きなメリットと言えます。
メリットその3.経営権が残る
オーナー企業が株式譲渡を選択した場合は、経営者の持つ株式を譲渡することになるため
ことになるのです。
中小企業の場合は、社長が100%株式を保有しているケースも多く、株式譲渡では、経営権が薄まり、今後の経営方針、運営を自分で決定できなくなるリスクがあるのです。
メリットその4.すべての債権者へ通知や同意の必要性がない
一般的にM&Aでは、債権者を保護するための「債権者保護手続き」というものが用意されています。
銀行が有望な事業を持つ会社だから、10億円を融資していたのに、知らないところで有望な事業のみを安く売却されてしまったら、10億円を回収できる目途がなくなってしまい、大きな不利益を被るからです。
そうならないために会社法は、重大な影響を受ける債権者は一定期間内に異議を述べることができ、異議を述べたときには「債権者を害するおそれがないときを除き、弁済、相当の担保提供などをしなければならない」という「債権者保護手続き」を用意しているのです。
債権者保護手続きは、事業譲渡では、会社法に定めはありません。つまり、適用されないのです。
なぜなら、事業を構成する債務・契約上の地位の移転をしようとすれば、契約の相手方の同意が必要になるからです。
ただし、あきらかに安く有望な事業を譲渡してしまう場合などは、民法の詐害行為にあたる可能性があるので注意が必要です。
営業権譲渡(営業譲渡)で資金調達するデメリット
デメリットその1.譲渡する事業と同じ事業ができなくなる
事業譲渡では「商法第16条」「会社法第21条」によって
第21条 事業を譲渡した会社(・・・「譲渡会社」という。)は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村(東京都の特別区の存する区域及び地方自治法・・・の指定都市にあっては、区・・・)の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内においては、その事業を譲渡した日から20年間は、同一の事業を行ってはならない。
と、譲渡した事業と同じ事業を同一の市町村、隣接する市町村の区域内で行うことができなくなります。
また、上記とは別に、事業譲渡契約には一定期間・一定範囲の競業避止義務条項を締結することが多く、エリアを限定せず、同一事業を行うことができなくなります。
デメリットその2.従業員に対するケアが必要になる
事業だけを切り出して売却する場合には
- その事業に携わる従業員もセットで売却する
ケースが少なくありません。
買い手企業にとっても、従業員の譲渡がなく、事業だけを売却されても、上手く運用できない可能性が高いからです。ノウハウが従業員に紐づいているという考え方です。
このようなケースでは、あらかじめ従業員に「事業を売却する理由」「事業を売却する相手方の会社」「事業を売却する相手方の会社の今後の雇用」など、丁寧な説明が必要になります。
しかしながら、従業員も含めて譲り受けた会社の基準に、その従業員のスキルやマインドが合わない場合には、リストラされる可能性も出てきます。
デメリットその3.取引先に対する対応が必要になる
ある事業部を譲渡するとなれば
- 現状の提携先への説明
- 現状のクライアントへの説明
- 現状の外注先・仕入れ先への説明
が必要になります。
デメリットその4.契約、登記、許認可を取り直す必要がある
株式譲渡で会社ごと譲渡するのであれば、その会社の契約、登記、許認可はそのまま移行できます。
しかし、事業譲渡の場合は、その事業に関する
- 契約
- 登記
- 許認可
を、買い手企業に移行しなければならないのです。
買い手企業の許認可の移行などは、手伝わなければならないでしょうし、そもそも、認可されるかも、確定ではありません。
移行作業の負担は、少なくないのです。
デメリットその5.資金調達までに時間がかかる
資金調達という視点で見ると、M&Aは、成立(資金が手に入る)までに、かなりの時間を要します。
とくに事業譲渡の場合は、規模が大きくなればなるほど、移行にかかる時間と手間は増え、買い手企業も見つかりにくくなるため、すぐにできる資金調達方法とはならないのです。
デメリットその6.税金が発生する
営業権の譲渡に伴い「税金」が発生します。
- 法人であれば「法人税」「消費税」
- 個人であれば「所得税」
が、営業権の譲渡益に対して発生します。売却した資産によって、税金(税率)は変動します。
営業権譲渡(営業譲渡)で資金調達する手順とは?
手順その1.買い手企業を探す
- M&Aの仲介会社
- M&Aのマッチングサイト
を利用して、買い手企業を探します。
手順その2.買い手企業のデューディリジェンス
手を挙げた買い手企業がデューデリジェンスを行います。
デューデリジェンスとは
を言います。
資産価値やリスク、今後の収益性をデューデリジェンスで評価することで、買取したい金額も、決まってくるのです。
そのほかに法務的な調査も行います。
手順その3.条件交渉
よほど魅力的な事業でない限り、また適正価格よりも安い値付けでない限りは、価格交渉、条件交渉をするケースが少なくありません。
- 「もう少し安くしてほしい。」(価格交渉)
- 「この事業も含めて譲渡して欲しい。」(条件交渉)
- 「売却後、1年間は、サポートして欲しい。」(条件交渉)
・・
さまざま、合意形成のための交渉が行われます。
手順その4.契約
双方、条件に合意できれば、営業権譲渡契約書を作成し、締結します。
手順その5.決済の準備、引継ぎ
決済日までに、契約書で合意した準備を行います。
手順その6.決済
営業権の譲渡が行われ、契約書で合意した金額が、合意した支払日に入金されます。
手順その7.アフターフォロー
譲渡して完結ということは、ほとんどありません。譲渡後、一定期間は、上手く引継ぎができているか、フォローアップする必要があります。フォローアップの期間や内容は、契約の段階で相手方と取り決めておきます。
まとめ
営業権譲渡(営業譲渡)で資金調達する方法とは?
M&Aで事業譲渡することによる資金調達方法のことを意味します。
営業権譲渡(営業譲渡)で資金調達するメリットには
- メリットその1.事業単位で譲渡できる
- メリットその2.不採算事業でも譲渡できる可能性がある
- メリットその3.経営権が残る
- メリットその4.すべての債権者へ通知や同意の必要性がない
というものがあり、
営業権譲渡(営業譲渡)で資金調達するデメリットには
- デメリットその1.譲渡する事業と同じ事業ができなくなる
- デメリットその2.従業員に対するケアが必要になる
- デメリットその3.取引先に対する対応が必要になる
- デメリットその4.契約、登記、許認可を取り直す必要がある
- デメリットその5.資金調達までに時間がかかる
- デメリットその6.税金が発生する
というものがあります。
「営業権譲渡の資金調達ってどうやるの?」
「営業権譲渡の資金調達のデメリットは?」
「営業権譲渡と事業譲渡との違いを教えてください。」
・・