M&Aで会社を売却する、事業を譲渡するときに誰でも「高く売りたい。」と思うのが当然です。高く売るためにはどういう見せ方をすれば良いのか?は、「売りやすい会社」と「売りにくい会社」の違いを知ることで見えてくるものです。今回は、高く会社を売る方法。M&Aで売りやすい会社と売りにくい会社の違いをわかりやすく解説します。
M&Aでの買い手の意向を考える
まずは、「高く会社を売る方法」を考える前に「買い手の思考を探る」必要があります。
「なぜ、会社を買収するのか?」
という点です。
「会社の買収理由」には主に
- 売上を増やしたい
- 利益を増やしたい
- シェアを拡大したい
- 業績を安定させたい
- 事業を拡大したい
- 役員や社員にポジション・仕事を与えたい
- 自社のノウハウがあれば、買収先の事業を拡大させられる
- 頼まれたから
というものが挙げられます。
売上を増やしたい
買収すれば、その買収先の会社の売上が自社の売上に追加されるため、売り上げ規模は大きくなります。
上場企業などは、投資家に対して、常に「売上が伸びている」結果を見せなければならないため、売上目的の買収が多くなります。
利益を増やしたい
買収すれば、その買収先の会社の利益が自社の利益に追加されるため、利益額は増加します。
買収余力、資産のある会社が利益を増やす目的で買収をするケースが多いです。
シェアを拡大したい
シェアを拡大することによって、スケールメリットが生まれ、売上、利益を伸ばすことができます。
飲食店や薬局など、同業者同士の買収がこれに当たります。また、海外展開などもこれに含まれます。
業績を安定させたい
自社の業績が不安定、悪化している、衰退している企業の場合は、安定した利益を上げている会社を買収して、経営を安定させるという機能を持ちます。
自社の業績が悪化している、不安定、衰退が予想される企業に多い買収の形です。
事業を拡大したい
新規事業などを意図している企業が、「時間を買う」目的で買収する形となります。
買収先は、利益や売上が少なくても、画期的なサービスがある、ブルーオーシャンの事業領域である程度の顧客を抱えている、独自の商品・サービス・技術がある、という特徴があれば売却が成立します。
役員や社員にポジション・仕事を与えたい
自社の事業に対して、人材が余っている状況の場合、もしくは将来社長就任を期待する役員に会社の経営経験を身につけさせたい場合などに行われる買収の形です。
自社のノウハウがあれば、買収先の事業を拡大させられる
「買収先の事業に自社のノウハウや商品、サービス、顧客。設備などを活用すれば、買収額の何倍もの収益性を生むことができる」と判断するケースで買収される形です。
頼まれたから
「知り合いから頼まれた。」というケースで買収をするケースもあります。
これらが「買収をする理由」の主なものです。
逆に「買い手が買収時に懸念する事項」についても、考えておく必要があります。
「買い手が買収時に懸念する事項」には主に
- 売り手であるオーナー社長が抜けると業績がとたんに悪化する
- 買収後に従業員が辞めてしまい、事業が継続できなくなる
- 買収後に顧客が解約してしまい、事業が継続できなくなる
- 赤字を垂れ流してしまい、持っているだけで損をする状態になる
- 買収直後に業績が悪化する
- 借り入れが自社の経営にも悪影響を及ぼす
- 思っていたシナジーが出せない
- コンプライアンスの問題が出てくる
というものが挙げられます。
売り手であるオーナー社長が抜けると業績がとたんに悪化する
中小企業の場合は、とくにオーナー社長の力のみで業績を上げているケースが少なくありません。
- 社長がトップ営業マン
- 社長がトップエンジニア
で、誰よりも働いて成果を出すから、実現されていた「売上」と「利益」という場合には
と買い手が懸念するのです。
実際に、このケースは多く、売り手のオーナー社長が会社に残ることを条件に買収するケースもあります。
買収後に従業員が辞めてしまい、事業が継続できなくなる
買収後は、一旦従業員と会社の関係がリセットに近い状態になります。
今までは
「社長に恩義を感じていたから、働いていた。」
という従業員が多い場合は、買収後に人間関係がリセットされ、辞めてしまうケースもあります。
コアの人材が流出してしまうと、買収前の業績は実現できなくなってしまいます。
買収後に顧客が解約してしまい、業績が悪化する
人材と同様ですが・・・顧客も
「○○さんの対応が完ぺきだったから、利用していた。」
「長年の付き合いでやってきたが、買収のタイミングで発注先を見直そう。」
と離脱してしまう可能性も高いのです。
とくに大口顧客に売り上げを依存している会社の場合は、その大口顧客の離脱で大きく業績が悪化してしまいます。大口顧客がその商品、サービスを利用している理由が「人(社長やトップ営業マン)」に依存するものである場合、買収のリスクは大きいのです。
赤字を垂れ流してしまい、持っているだけで損をする状態になる
買収する目的にもよりますが、赤字が続いてしまって、会社全体の「お荷物」になることを買い手は危惧します。「買収額の元が取れない状態」を避けたいのです。
買収直後に業績が悪化する
買収直後に業績が悪化するケースも少なくありません。売り手しか知らない、今後業績が悪化する情報があって、買い手が買収直後に損をするケースを危惧するのです。
借り入れが自社の経営にも悪影響を及ぼす
借り入れが大きすぎる場合は、なかなか買収が成立しません。買い手の会社の債務が増加してしまい、それが本業への悪影響を及ぼす可能性があるからです。
思っていたシナジーが出せない
自社のノウハウをもってすれば、良いシナジー効果が生まれると想定していたが、実際にやってみると、ほとんどシナジー効果は出なかった。という状態にならないかを考えます。
上記のような懸念事項・リスクを考えながら、買い手の方は「買収して良いか?どうか?」を慎重に検討するのです。
コンプライアンスの問題が出てくる
中小企業であれば、問題視されないグレーゾーンのサービスも、大企業・上場企業が買収するとなると、たたかれるケースも増えてきます。買い手の企業規模が大きければ大きいほど、コンプライアンスのリスクは大きくなり、買収の障壁となるのです。
M&Aで売りやすい会社と売りにくい会社の違いとは?
売りやすい会社の特徴
業績・事業領域
売上規模が大きい
売上規模が大きい場合には、上場企業の買収対象になってきます。1億円以上の売上があれば、赤字であっても、売れる可能性が出てきます。
実質的な黒字
黒字決算であると、買収先にはリスクが少なく、売れる可能性が高くなります。税金対策や過大な役員報酬で意図的に赤字にしている会社も、適切な役員報酬や経費にすれば利益がでる実質的な黒字であれば、売れる可能性が出てきます。
ストック型のビジネスモデル
ストック型のビジネスモデルは、会員が毎月料金を支払うビジネスモデルですので、すぐに売上や利益が激減するリスクがないのです。ストック型のビジネスモデルの会社は非常に売りやすくなっています。
自己資本比率が高い
自己資本比率が高い会社ほど、売れやすくなります。借入金0円がベストですが、年商の2割~3割以下なら買い手がつく適正水準と言えます。年商の半分を超えてくると、なかなか売却は成立しません。
一般的な業種
あまりにニッチな市場で展開している会社の場合、買収しても、市場のパイが限られていて、それ以上の発展性(売上増)を期待できないことになり、売却が成立しにくいのです。一般的な業種、市場であれば、市場のパイが大きいため、今後の成長期待で買収が成立しやすいのです。
社内体制
オーナー社長が会社から離脱しても経営の影響が軽微
オーナー社長がトッププレイヤーとして業績を支えている会社よりも、オーナー社長はほとんど何もせずに社員が業績を作っている会社の方が売却が成立しやすいのです。
マニュアル化、組織化が進んでいる
会社組織としての、マニュアル化、ノウハウの蓄積、事例のデータベース化、引き継ぎ方法、などが整っている会社の方が売りやすい会社と言えます。
数字の見える化が進んでいる
決算数値が信頼できる、業績管理を数値で設定している、会社は「信頼性が高い」と判断され、売りやすくなります。買い手は、決算の数値や業績数値をもとに、デューディリジェンス(調査)を行うため、その数値自体の信頼性が低いと、なかなか買収に踏み切れないのです。
コンプライアンスのリスク回避を徹底している
買い手が大企業になればなるほど、コンプライアンスのリスクが課題になります。コンプライアンスの問題がない、コンプライアンスの問題がないような仕組みを作っている企業ほど、売りやすいのです。
売却時の対応
適切な価格設定
どんな会社でも、M&Aでは「売却する商品」になるため、「業績に対して、どのくらいの値付けをすべきか?」の相場が形成されています。
- 業績に対して高い値付け → 手を挙げてくれる買い手は減る
- 業績に対して安い値付け → 手を挙げてくれる買い手は増える
形になります。
はじめてのM&Aでは、適切な価格設定は自分でできるものではありません。M&Aの仲介会社、サポート会社などに相談して、適切な価格設定をすべきと言えます。
という考え方もありますが、「値下げをする=買い手がいない」という風に買い手には映るので、足元を見られてしまいます。
はじめから適切な価格設定が良いのです。
迅速な対応
M&Aでは、複数の買い手から、様々な質問が投げかけられます。
「買い手」は、この対応力でいろいろなことを推察します。
「すぐに返答が返ってこないのは、見せられないマイナスな要素があるのではないか?」
「すぐに返答が返ってこない、顧客対応をおろそかにする会社は、買収の価値がない。」
・・・
一事が万事ですので、買収希望の買い手の対応は、迅速かつ適切に対応する必要があります。
最新の業績の維持
M&Aを仲介会社に依頼した段階で、M&Aの対応に時間を割いてしまい、直近の業績が悪化してしまう会社も少なくありません。
しかし、買い手は「買収直後の業績悪化」に対して、過度のリスクを感じています。「買収直後に業績悪化」してしまえば、買収担当者の大きな責任になってしまうからです、。
買収をする当月の業績を聞いてくる方も少なくありません。
M&Aを依頼しても、月次の業績を維持しておく必要があるのです。
M&Aで高く会社を売る方法
上記のことを勘案すると、「M&Aで高く会社を売る」ためには、以下のことを考える必要があります。
M&Aで高く会社を売る方法
- オーナー社長からの権限移譲を進める
- 社内のマニュアルの整備を進める
- 決算数値以外の数値の見える化を過去にさかのぼって行う
- 決算数値の本来の利益(過大な役員報酬、税金対策のための過大な経費を除く)を計算する
- 事業領域をできるだけ広く見せるようにする
- 事業領域にストック型のビジネスモデルがあるように見せる
- 独自技術、独自のノウハウを少しでも多く見せるようにする
- 借り入れが大きすぎる場合には、一部繰り上げ返済して、調整する
- 売上・利益が伸びている形で売りに出せるように業績を作る
- 社員には買収後の買収先の継続雇用の意思確認を行う
- 大口顧客には買収後の利用継続の意思確認を行う
- 顧客に対して、アンケートを実施し「何が決めてで自社のサービス・商品を利用しているのか?」を明らかにする
- コンプライアンスの問題の洗い出し
- コンプライアンスの問題の対策を取る
- M&Aで買い手からの質問の想定問答集を作る
- M&Aの仲介会社に相談し、適切な価格設定を行う
- M&A交渉中も、業績を維持する
- M&Aで買い手からの質問には、迅速かつ適切な回答をする
これらの準備をしっかりしておくことで、同じ業績であっても、売却額というのは大きく変わってくるはずです。
「M&Aって、どんな会社が売りにくいの?」
「高く会社を売るにはどうすれば良いの?」
・・・