ベンチャー企業が数億円の資金調達をした、というニュースもすっかり珍しくなくなってきました。その際、しばしば登場するのが、ベンチャーキャピタル(VC)です。
出典:PRTimes
ベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達の仕組み
ベンチャー(Venture)は「冒険」を意味します。
ビジネスでは「成功するかどうかわからない(不確かではある)が、成功すれば儲けは大きい」という意味になります。
もう一つの
キャピタル(Capital)とは「資本」のことです。
ベンチャーキャピタル(VC)のキャピタルは「資本(はっきり言えばお金)を提供すること」を指しています。
ベンチャーキャピタル(VC)が資金提供する目的
ベンチャーキャピタル(VC)がベンチャー企業に資金提供する目的は2つあります。
- イノベーションへの期待
- 大きなリターンへの期待
イノベーションへの期待
何かが変わることをイノベーションといいます。
ベンチャー企業が成功すると、やや大げさですが、世界(それは片隅かもしれません)が変わります。つまり、イノベーションが起こります。
例えば「創薬ベンチャーが薬の開発に成功すれば、その薬で病気が治る人がいる」というようにです。
大きなリターンへの期待
ベンチャー企業はリスクは大きいものの、成功したときの見返り(リターン)が大きくなります。
大きなリターンを得るためには、次の2点が必要になります。
- 事業が進捗すること
- 投資回収が行われること
事業が進捗するというのは
投資回収が行われるというのは
二つの目的の比重
前者のイノベーションにより比重を置くのは大学が設置したベンチャーキャピタル(VC)(いわゆる大学系VC)、事業会社が設立したベンチャーキャピタル(VC)(いわゆるコーポレートベンチャーキャピタル(CVC))です。
大学系VC
そのため、投資先のベンチャー企業が大学の保有する特許を利用したり、大学(の研究者)と何等かの共同研究を行う、その結果としてイノベーションが起こることが期待されています。
コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)
そのため、投資先のベンチャー企業が事業会社との間で何等かの事業提携が行われ、その結果としてイノベーションが起きることが期待されています。
ベンチャーキャピタル(VC)はどうやって資金調達に関わっているのか
資金調達の方法は「借入(デット)」と「増資(エクイティ)」に分けられます。
借入による資金調達とは
借入とは
増資との違いは、次の3つです。
- 受け取った(借りた)お金は返す必要があること
- 返す金額、には元本と利子があるものの、どちらも金額が決まっていること、また返す期限も決まっていること
- 会社に対する発言権が発生しないこと
借入は、その仕組みの上では会社に対して発言権ありません。しかし、貸主(債権者)の借主(債務者)に対する要求は、ままよく受け入れられます(つまり実際には発言権があると言えます)。
仕組み上の義務はないにも関わらず債務者が債権者のいうことを聞くのは、借換が存在するためです。借換とは、返済する期限に、またお金を貸してもらうことです。多くの借金は(特に運転資金などは)必ずしも返済期限に返せるわけではありません。そのため、借換は大事な資金調達手段となります。
そして、借換は、貸してくれている人(貸主)が同意してくれてはじめて成り立ちます。
そのため、「会社に対する発言権は発生しない」と言いながらも、借り換えに応じてもらうために貸主の言うこと聞く無視することはできないケースが多いのです。
ベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達で純粋な借入が使われることはまずありません。
増資による資金調達とは
増資とは
借入との違いは、三つあります。
- 受け取ったお金は返す必要がないこと、従って返す期限も決まっていないこと
- 会社の利益の一部が株主のものとなること
- 会社に対する発言権(議決権)が発生すること
ベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達はなぜ増資によって行われるのか
ベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達は増資により行われます。
これはベンチャーキャピタル(VC)の二つの目的のうち、とくに大きなリターンを達成するためには増資により投資先のベンチャー企業の株主となる必要があるためです。
借入は返済の期日と金額が決まっています。そのため、決まった利息以上を受け取ることができません。
一方で増資の場合には会社の利益の一部を受け取ります。どれだけの利益を受け取れるのか、上限がありません(儲かればもうかっただけ、上限がありません)。
そのため、ベンチャーキャピタル(VC)は増資によりベンチャー企業に資金を提供しているのです。
ベンチャーキャピタル(VC)はどのような会社の資金調達に関わっているのか
ベンチャーキャピタル(VC)が投資を行うのはベンチャー企業に対してです。
ベンチャー企業、という言葉には明確な定義がありませんが、ベンチャーキャピタル(VC)が投資するベンチャー企業には次のような特徴があります。
- 会社の成長のための資金を必要としていること
- 数年のうちに、事業が何倍にも成功する計画を持っていること
成長のための資金
会社の資金繰りは日々の事業を回していくための資金である運転資金と、新しく事業を始める、または現在の事業をさらに大きくする成長資金とに分けられます。
ベンチャーキャピタル(VC)が投資を行うのは、いわゆる「運転資金」ではなく「成長資金」です。
受け取った資金は、人を採用する、事業開発のための機器を購入する、サービスを広める広告費に使う等会社が成長するために使うことになります。
数年のうちに成功すること
ベンチャーキャピタル(VC)は自分の資金でベンチャー企業へ投資しているのではありません。他人から資金を集めて投資しています。
他人からの集めた資金は、決まった期間(通常は数年)で返す必要があります。返すための資金は投資を回収して用意します。
そのため、数年のうちに成功しそうなベンチャー企業に対してしか投資しません。
何倍にも成功すること
安定した事業であれば事業成長は年10%も伸長すれば十分で、それ以上の急激な成長を狙うことは却って無理な成長として忌避されることもあります。
しかし、ベンチャーキャピタル(VC)が求める事業成長は数倍になります(指数関数的な成長、ということもあります)。
一つは、ベンチャー企業は、事業を始めて間もないか、あるいはまだ事業を始めていないことすらあります。つまり安定した事業と異なり、大きく成長する余地があるためです。
そしてもう一つは、ベンチャーキャピタル(VC)は前述の通り、大きなリターンを望んでいるため、数倍に成長してくれないと期待しているリターンが得られないためです。
VCから資金調達するメリット
VCから資金調達するメリットは以下の通りです。
- 返済不要な増資で資金調達ができる
- VCからの支援を期待できる
- VCの評判を利用できる
返済不要な増資で資金調達ができる
VCからの資金調達は通常、増資により行われます。増資は会社の利益の一部を受け取ることのできる権利であり、利益が発生しなければ調達した資金を返還する必要がありません。
ベンチャー企業は商品やサービス(いわゆるプロダクト)を開発中であれば収入がありません。また収入があったとしても、支出の方が大きく、返済に回す資金が残っていることはまれです。
そのため、「返済不要な資金」はベンチャー企業にとって望ましいものです。
ベンチャーキャピタル(VC)にとっても返済不要な資金をベンチャー企業に渡すことには意味があります。
目の前の現金ではなく、将来の大きな収益を得られることに投資した資金を使うことを望んでいるのです。そのためには返済を気にせず、事業の成長に集中してもらう必要があるのです。
ベンチャーキャピタル(VC)からの支援を期待できる
会社が成長することは、ベンチャーキャピタル(VC)の取り分が増えることに直結します。そのため、ベンチャーキャピタル(VC)は会社が成長するための協力を積極的に行ってくれます。
どのような支援をするかはベンチャーキャピタル(VC)によって異なります。
- 経営者の事業上の悩みの相談に乗ってくれるところもあります。
- 人を派遣してくれるところもあります。
- 提携先や販売先などの紹介をしてくれることもあります。
- 次の資金調達の際に積極的に協力してもらえることもあります。
ベンチャーキャピタル(VC)の評判を利用できる
ベンチャーキャピタル(VC)の中には、投資先が成長したことで有名になるベンチャーキャピタル(VC)もあります。
日本の場合、グロービスというベンチャーキャピタル(VC)がメルカリの事業開始直後、まだ成功するのか誰にも分らなかった段階で投資したことで有名です。
VCから資金調達するデメリット
VCから資金調達するデメリットとしては以下があります。
- 高い成長を求められる
- ベンチャーキャピタル(VC)の出口を探す必要がある
- 将来の利益を分配する必要がある
高い成長を求められる
ベンチャーキャピタル(VC)は「高い利回り」を求めています。
高い利回りを達成するためには、事業運営において何かを犠牲にする場面も多々生じます。
- 会社には余裕を与えるよりも追い込んで事業を進めようと考えるベンチャーキャピタル(VC)もいます。
- あるいは、法的にグレーな領域での事業を求めるベンチャーキャピタル(VC)もいます。
- 顧客の満足よりもマネタイズを優先するよう求めるベンチャーキャピタル(VC)もいます。
いずれにしても、安定的な成長をベンチャーキャピタル(VC)は求めていません。
少ないものの安定して利益がでる事業と、当たれば大きいものの外れると何も返ってこない事業があった場合、VCが選ぶのは後者です。
これはベンチャーキャピタル(VC)が投資する会社を選ぶ基準であるとともに、ベンチャーキャピタル(VC)が投資先に求めることでもあります。
ベンチャーキャピタル(VC)の要求が経営者の方針とあっていない場合には、経営者にはとても大きなストレスとなります。
ベンチャーキャピタル(VC)の出口を探す必要がある
ベンチャーキャピタル(VC)は投資を回収して初めて利益が出ます。そしてベンチャーキャピタル(VC)には期限があります。つまりその期限までに投資を回収しなければなりません。
投資の回収とは「増資により取得した株式の譲渡」です(これをベンチャーキャピタル(VC)の立場、つまり投資を終えそのベンチャー企業から退出するという意味で出口とかExit(エクジット)と呼ぶことがあります)。
譲渡は本来、株主が機会を、譲渡先を探すものですが、ベンチャーキャピタル(VC)はその譲渡の機会、譲渡先をベンチャー企業に対して探すよう求めます。
将来の利益を分配する必要がある
ベンチャーキャピタル(VC)から投資を受け、株式を渡したことにより、会社の利益のうち、そのベンチャーキャピタル(VC)の持ち分相当がベンチャーキャピタル(VC)に渡ることになります
まとめ
ベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達は「一定期間後のExitを求められる増資」になります。
これはベンチャーキャピタル(VC)が自分の資金ではなく、第三者から預かった資金を運用していることを背景としています。
ベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達は、返済不要な資金を得られるだけではなく、ベンチャーキャピタル(VC)からの支援が期待でき、またベンチャーキャピタル(VC)の評判を使うこともできる、といったメリットがあります。
一方で、高い成長を求められ、出口を探す必要があることに加え、会社の将来の収益を分配する必要がある、といったデメリットもあります。