動産や債権を担保にする取引は、長いあいだ民法に条文がないまま実務で回ってきました。これに明文の規定を与えるのが、2025年に成立した譲渡担保法です。さらに同時に成立した整備法が、動産・債権譲渡登記制度そのものを作り変えます。どちらもまだ施行されていませんが、在庫や売掛金を担保にする側にとって前提が変わる内容です。法務省の公表資料で、何がどう変わるのかを確認します。
このページの要点
- 譲渡担保法(令和7年法律第56号)は令和7年5月30日に成立、6月6日に公布。官報掲載は号外第125号。
- 施行日は一部の規定を除き、公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日。本稿の時点では施行されていない。
- 対象は動産、債権、その他の譲渡可能な財産を目的とする譲渡担保契約。不動産等を目的とするものは対象外。
- 優劣は対抗要件具備の先後が原則だが、占有改定による対抗力は登記等による対抗力に劣後する(36条関係)。
- 私的実行には帰属清算方式と処分清算方式の2種類が定められ、通知から2週間の経過で効果が生じる(60条・61条関係)。
- 倒産手続では質権と同様に担保権者として扱われることが明文化される(97条関係)。
- 整備法により、動産譲渡登記の存続期間が10年から20年へ延長され、所在場所の特定が必須でなくなる(特例法7条関係)。
成立から施行までの日付
法務省の国会提出法案のページに、日付が一覧で載っています。国会提出日が令和7年3月7日、可決成立日が令和7年5月30日、公布日が令和7年6月6日(法律第56号)、官報掲載日が令和7年6月6日(号外第125号)です。
施行日の欄には、一部の規定を除き、公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日、と書かれています。公布から2年6月は令和9年12月にあたるので、それまでのどこかで政令が定められることになります。
同じ日に成立・公布されたのが、譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(令和7年法律第57号)です。こちらも施行日の定め方は同じです。

なぜ作られたのか
法務省は背景を、不動産を有しない企業の増加と保証人の負担軽減から、動産(機械設備、在庫商品等)・債権(売掛債権等)を担保とする融資を推進することが必要だ、と説明しています。いま使える仕組みはABL(動産・債権担保融資)にまとめています。
そのうえで現状の課題を2つ挙げています。担保権を設定した動産を債務者が引き続き使用収益する担保制度がないこと、構成部分が変動する多数の財産にまとめて担保権を設定するための規定が不十分であることです。
審議の経緯も公表されています。令和3年2月に法務大臣から法制審議会へ諮問(諮問第114号)が行われ、令和7年2月、担保法制部会における計51回の会議を経て法務大臣に要綱が答申されました。部会には法学者のほか、中小企業団体、銀行、労働組合の関係者、弁護士、司法書士等が参加しています。
政策文書にも位置づけがあります。骨太方針2024(令和6年6月閣議決定)は、不動産担保や個人保証に依存しない資金調達を促進するため、動産、債権その他の財産を目的とする譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法制化の準備を進める、としていました。
対象になる契約と、ならない契約
法務省は、現状では譲渡できるものであればどのような財産でも譲渡担保権の設定が可能だとしたうえで、新法は動産、債権、その他の譲渡可能な財産を目的とする譲渡担保契約を対象に規律を設ける(2条1号関係)としています。
はっきり外れるものもあります。ただし、不動産等を目的とする譲渡担保契約は対象外、と明記されています。不動産には抵当権という既存の制度があるためです。
所有権留保契約も対象です。動産を目的とする所有権留保契約について、売主に所有権を留保する場合のほか、信販会社等の第三者に所有権を留保する場合についても規律するとされています(2条16号関係)。
担保権者と設定者、それぞれの権限が条文になる
明文化される権限
譲渡担保権者(債権者)の権限
3条譲渡担保権の目的財産から、他の債権者に優先して弁済を受けることができる(優先弁済権)。
9条目的財産の代わりに設定者が取得する金銭(保険金請求権、売買代金債権など)や、設定者が取得する賃料債権からも優先して弁済を受けることができる(物上代位)。
30条2項優先弁済権の行使が妨害されている場合は、その排除等を請求することができる(物権的請求権)。
譲渡担保権設定者(債務者等)の権限
7条後順位の譲渡担保権の設定が可能。余剰価値を活用できる。
29条目的動産の使用・収益が可能。質権では質権者が目的物を占有するのと対照的。
30条1項動産の使用収益が妨害されている場合は、その排除や目的動産の返還等を請求することができる。
出典: 法務省民事局「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律について」(令和7年6月)(2026年10月19日確認)。条番号は同資料の記載によります。
後順位の譲渡担保権を設定できることが条文になるのは、資金調達の幅に直結します。同じ在庫に1行目の担保が入っていても、余った価値を別の調達に回せるという建て付けです。
根譲渡担保権に、まとまった規律が入る
継続的に借入れと返済を繰り返す取引では、個別の債権を特定せずにまとめて担保する形が使われます。法務省はこれを根譲渡担保権と呼び、被担保債権が個別に特定されず、債権者と債務者との間で継続的に発生する多数の債権を一括して被担保債権とする譲渡担保権だと説明しています。
いまは法律関係が不明確で、根譲渡担保権の譲渡や元本確定事由等がはっきりしていません。新法は13条から26条で規律を置きます。
根譲渡担保権について定められる内容
出典: 法務省民事局「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律について」(2026年10月19日確認)。
優劣は対抗要件具備の先後。ただし占有改定は劣後する
同じ財産に複数の担保権が設定されたとき、どちらが先かを決めるルールが必要になります。法務省は、現状では担保権者が対抗要件を具備した時点の先後によって担保権の順位が決まると考えられているが、この原則について明文の規定はない、としています。
新法は、譲渡担保権が他の譲渡担保権や質権と競合した場合、対抗要件具備の先後によって順位が定まることを明文化します(32条・49条・55条等関係)。
そのうえで例外が2つ置かれます。ひとつめが、動産を担保に取る側にとって最も大きい変更です。
動産譲渡担保権の対抗要件は占有改定を含む引渡しで、現状では占有改定の対抗力は他の引渡方法と同様です。しかし占有改定は外部から認識することが難しく、新たに担保を設定しようとする者は優先する担保権の有無を判断できません。そこで新法は、占有改定による対抗力は登記等による対抗力に劣後することとし、譲渡担保権の公示性を高めるとしています(36条関係)。
出典: 法務省民事局「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律について」(2026年10月19日確認)。
登記をしておけば、先に占有改定で担保を取っていた相手より前に立てるということです。動産譲渡登記を使う意味が、いまより強くなります。現行法での優劣の決まり方は動産譲渡登記は誰に勝てるのかで扱っています。
もうひとつの例外が牽連性担保権の優先です。目的である動産と牽連性のある金銭債務を担保する動産譲渡担保権については、設定者の事業を継続する観点等から優先的に扱う必要性が高い、という理由です。例として、ある動産を買った買主が代金債務を担保するため売主のためにその動産に設定した譲渡担保権が挙げられています。牽連性のある金銭債務のみを担保する譲渡担保権は引渡しを受けなくても第三者に対抗可能(31条関係)、牽連性のある金銭債務を被担保債権に含む譲渡担保権は、その限度で他の担保権に優先する(37条関係)とされています。
実行の方法が2種類に整理される
判例上、譲渡担保権については裁判所の手続によらない実行(私的実行)が可能とされてきました。ただし明文の規定はなく、裁判所の手続による実行が可能かどうかも不明確でした。
| 比較軸 | 帰属清算方式(60条関係) | 処分清算方式(61条関係) |
|---|---|---|
| 内容 | 目的財産を担保権者自身が取得して、その価値を被担保債権の弁済に充てる | 目的財産を第三者に譲渡し、その代金を被担保債権の弁済に充てる |
| 通知 | 債務不履行後、帰属清算をする旨、目的財産の評価額、被担保債権額等を通知 | 譲渡した場合に、その評価額、被担保債権額等を設定者に通知 |
| 効果が生じる時 | 通知から2週間の経過 | 通知から2週間の経過 |
| 動産の場合の例外 | 2週間が経過していなくても、担保権者が目的動産の引渡しを受けたとき | 2週間が経過していなくても、担保権者または処分の相手方が目的動産の引渡しを受けたとき |
| 清算金 | 目的財産の価額が被担保債権額より高いとき、譲渡担保権者が設定者に対し清算金の返還義務を負うことを明文化 | |
出典: 法務省民事局「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律について」(2026年10月19日確認)。
2週間という猶予期間が入る理由も説明されています。私的実行は短期間で完了することが多く、設定者の事業再生のための倒産法上の制度を利用する時間的余裕が確保されにくい、という課題への対応です。
裁判所の手続による実行も選択できるようになります。動産譲渡担保権については、動産に対する担保権実行の手続(民事執行法)による実行が可能であることを明確化するとされています(72条関係)。あわせて、価格を減少させる行為の禁止や執行官による保管といった各種の保全処分(75条関係)、実行前の引渡命令(76条関係)、実行終了後の引渡命令(78条関係)が創設されます。
倒産手続での扱いが明文になる
判例では、譲渡担保権設定者が倒産した場合、譲渡担保権者は所有者ではなく質権者などと同様に担保権者として扱われます。新法はこれを明文化します(97条関係)。担保権実行手続中止命令制度や担保権消滅許可制度の対象になるということです。
中止命令も見直されます。譲渡担保権については、実行が開始される前に実行の禁止を裁判所が命ずることが可能になり、中止命令の発令に当たり担保価値を一定以上に維持するなどの条件を付することが可能になるとされています(97条関係)。
さらに、民事再生、会社更生等における担保権実行手続取消命令が新たに創設されます(99条から104条関係)。この命令が出れば、設定者の側に動産の処分権限と債権の取立権限が戻ります。
整備法が、登記制度そのものを作り変える
ABLの実務に直接効くのはここです。整備法は、民法、動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律等の計26の関係法律の整備等を行います。
動産・債権譲渡登記制度の主な見直し
出典: 法務省民事局「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律について」(令和7年6月)(2026年10月19日確認)。条番号は動産・債権譲渡特例法の改正後の条文を指します。

民法そのものにも手が入ります。債権譲渡担保権と同様に、債権質権者は目的である債権全額を取り立てることができることとするなどの改正(民法366条関係)、動産譲渡担保権と同様に、抵当権は被担保債権の不履行があれば未収取の果実に及ぶこととする改正(民法371条関係)です。
そのほか、民事執行法、民事保全法、民事訴訟費用等に関する法律、企業担保法、事業性融資の推進等に関する法律、国税通則法、地方税法、登録免許税法等の整備が行われます。
一般債権者の取り分を確保する仕組みが入る
担保の範囲が広がるほど、担保を持たない債権者の取り分は減ります。法務省はこの点を正面から課題に挙げ、広範な担保権設定がされれば一般債権者の弁済原資が枯渇するおそれがある、としています。集合動産・集合債権譲渡担保においては多数の財産に担保権が設定されるため、一般債権者(労働者等)への弁済が減少するおそれがある、という書き方です。
対応として、集合動産譲渡担保・集合債権譲渡担保権の実行後一定期間内に設定者について倒産手続が開始したときに、譲渡担保権者が倒産財団に一定額を組み入れる制度が創設されます(71条・95条関係)。具体的には、実行された後1年以内に設定者について倒産手続開始の申立てがあった場合、目的である財産の価値の1割を倒産財団のために確保するという内容です。もっとも、最先順位にある譲渡担保権者については、その債権の元本部分が保証される扱いになっています。
否認の扱いも明確になります。担保の目的となる範囲へ動産を入れたり債権を生じさせたりする行為が、譲渡担保権者の債権の弁済に充てるためだけのものであれば、否認の対象になります(108条関係)。危機時期以後に新たな動産や債権へ譲渡担保権を及ぼすことが否認の対象になるのかが現状では不明確だ、という課題への対応です。
あわせて、設定者について倒産手続が開始した後に設定者が取得する動産や債権には、原則として譲渡担保権は及ばないことが明確化されます(106条・107条関係)。担保に取る側から見れば、倒産後に入ってくる在庫や売掛金までは追えないということです。
所有権留保も同じ枠に入る
所有権留保は、売買等において代金が完済されてはじめて売主から買主に所有権が移転する旨の定めのあるものです。当事者間の合意によってすることができ、買主は代金の支払を怠らない限り売買契約時から目的物を利用できます。
新法は、動産を目的とする所有権留保契約について、基本的に動産を目的とする譲渡担保契約と同様に扱うとしています(111条関係)。売主側が担保権者、買主側が担保権設定者という位置づけです。
買主を保護する規定も入ります。買主側が再生手続開始の申立て等をしたことを解除事由とする特約は無効とされます(110条関係)。
ABLの実務は、どこが変わるのか
| 論点 | 現状 | 施行後 |
|---|---|---|
| 占有改定との優劣 | 占有改定の対抗力は他の引渡方法と同様。先に占有改定で取られていると負けうる | 占有改定による対抗力は登記等による対抗力に劣後する(36条関係) |
| 動産譲渡登記の存続期間 | 10年(特別の事由があれば超可) | 20年へ延長 |
| 動産の特定 | 特質または保管場所の所在地で特定する | 所在場所の特定は必須としない |
| 担保権者が誰かの公示 | 譲渡人と譲受人しか記録されない | 譲渡担保権者に関する記録欄が加わる |
| 順位の変更 | 登記で公示できない | 順位の変更の合意の登記が可能(10条の6関係) |
| 私的実行 | 明文の規定がない | 通知から2週間の経過が必要(60条・61条関係) |
| 倒産時の扱い | 判例により担保権者として扱われる | 明文化(97条関係)。実行禁止命令・取消命令も創設 |
| 所有権留保 | 登記制度がない | 所有権留保登記を創設(13条の2関係) |
出典: 法務省民事局「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律について」、同「整備法について」(いずれも2026年10月19日確認)。施行後の欄に書いたのは法務省の概要資料の記載内容で、条文を直接引用したものではありません。
よくある質問
譲渡担保法はもう使えますか。
使えません。施行日は一部の規定を除き、公布の日である令和7年6月6日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日とされており、本稿の時点では施行されていません。
不動産の譲渡担保も対象ですか。
対象外です。法務省は、不動産等を目的とする譲渡担保契約は対象外だと明記しています。
いま占有改定で担保を取っている場合、施行後に順位が下がりますか。
新法は占有改定による対抗力が登記等による対抗力に劣後することとしています。既存の担保にどう適用されるかは、施行時の経過措置を確認する必要があります。
動産譲渡登記の存続期間はいつから20年になりますか。
整備法の施行日からです。整備法の施行日は譲渡担保法の施行日とされており、政令で定められます。
極度額を決めずに根譲渡担保権を設定できますか。
法務省は、根譲渡担保権について極度額を定める必要はないとしています(14条関係)。
出典
- 法務省「『譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律』(譲渡担保法)について」(成立日・公布日・施行時期・整備法の位置づけ、2026年10月19日確認)
- 法務省「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律案」(国会提出日・可決成立日・公布日・官報掲載日・施行日、2026年10月19日確認)
- 法務省民事局「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律について」(令和7年6月)(背景・法律の概要・各改正項目、2026年10月19日確認)
- 法務省民事局「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律について」(令和7年6月)(動産・債権譲渡特例法の改正・民法の改正・対象となる26法律、2026年10月19日確認)

