制度の全体像と位置付け
外国人起業家の資金調達支援事業は、外国人が日本で創業する際の資金調達を円滑化するために設けられた公的スキームです。東京都や一部自治体が中心となり、金融機関、信用保証協会、支援機関が連携することで、起業に必要な資金の確保と経営基盤の強化を同時に支援することを目的としています。単なる融資制度にとどまらず、事業計画の認定や経営支援を組み合わせた包括的な仕組みである点に特徴があります。
支援スキームの範囲
この制度の枠組みには、国の政策金融機関や地方自治体の制度融資に加えて、地域金融機関や専門支援機関が関与します。特に東京都の取り組みでは、スタートアップ支援窓口「ビジネスコンシェルジュ東京」を通じて事業計画の認定を受けた後、統括支援機関や取扱金融機関が融資を実行する流れが採用されていました。つまり、単独の金融機関判断ではなく、公的機関による事業計画認定と併走支援が前提となります。
対象となる起業ステージ
制度の対象となるのは「創業前後から創業5年以内」の起業家が中心です。これは、まだ収益基盤が安定していない段階に重点的に資金供給を行う意図があり、成長初期のキャッシュフロー不足を補う仕組みといえます。すでに事業基盤が確立した企業よりも、事業を立ち上げて間もない法人や個人事業からの法人化を支援する役割を担っています。
過去の実施状況と現在の位置付け
東京都の「外国人起業家の資金調達支援事業」は2024年3月をもって終了していますが、過去には最大1,500万円、返済期間10年以内、固定金利2.7%以内といった条件で実行されました。現在は新規募集が停止しているため、利用希望者は受付状況や公募再開の可能性を随時確認する必要があります。制度が終了している場合でも、日本政策金融公庫の新創業融資や自治体の制度融資といった他の枠組みを併用することが実務的な選択肢となります。
他制度との比較における位置付け
この事業は、公庫の創業融資や自治体制度融資と同じ「創業支援系資金」の一環に分類されます。ただし、公庫融資が全国的に利用可能なのに対し、本制度は自治体独自に設けられた地域特化型スキームである点に違いがあります。また、保証協会付き融資や民間金融機関単独融資と比べると、外国人起業家のビザや在留資格に関する条件が制度設計に反映されている点が特徴的です。そのため、日本人起業家と同等の条件で融資を受けにくい場合でも、制度を活用することで資金調達のハードルを下げられる位置付けとなっていました。
こうした背景から、外国人起業家の資金調達支援事業は、外国人に特有の起業リスクを軽減し、地域経済の活性化を促す戦略的制度として設計されてきたといえます。法人経営者や財務担当者が位置付けを理解しておくことで、代替手段との比較や資金計画の策定に役立ちます。
対象要件と適格性チェック
本制度や周辺の創業融資・制度融資を確実に活用するために、在留・所在地・創業年数・事業計画の認定・コンプライアンスの5領域で適格性を確認します。社内稟議や金融機関面談に耐える「証憑ベースの自己点検」を前提に設計しています
在留資格の要件と在留期限の整合
- 対象となりやすい在留資格
永住者/永住者の配偶者等/日本人の配偶者等/定住者/高度専門職1号・2号/経営・管理。就労制限のある在留資格は原則対象外です。 - 在留期限と返済年限の関係
返済完了予定が在留期限内に収まることを原則とし、更新見込みが合理的に説明できる場合は「更新後の見込み年限」を前提に審査されます。更新の根拠(直近の許可実績、収入見込み、納税状況、雇用計画)を資料で補強します。 - 代表者要件
申請法人の代表取締役(または個人事業主)本人が上記在留資格を保有していることが基本です。名目的な日本人代表の「形式差し替え」は否認対象です。
在留・身分関係クイックチェック
- 現在の在留資格が上記に該当しているか(在留カード写しで確認)
- 在留期限の残期間(月数)≥ 返済予定最長期の主要分割が到来するまでの期間
- 更新見込みを示す補強資料(収入要件・納税・雇用計画・居住実績)が揃っているか
- 代表者=融資申請者であることを登記事項証明書で裏取り済みか
本店所在地・主たる事務所と創業年数
- 所在地要件
対象自治体の制度は「本店」または「主たる事務所」が当該自治体内であることが条件です。バーチャルオフィスは不可または要追加確認のケースが多く、賃貸借契約書・現況写真・公共料金請求書等で実在性を証明します。 - 創業年数
目安は「創業前~創業5年未満」。登記簿上の設立日(法人)または開業届出日(個人)から起算し、ピボットや業態変更でも期間はリセットされません。 - 事業実態
事業の主たる実施場所・雇用実態が所在地と一致しているかを、給与支払報告書、社会保険適用状況、賃貸借契約の用途条項で整合させます。
所在地・年数クイックチェック
- 商業登記簿と賃貸借契約の所在地が一致
- 公共料金・通信回線の名義と住所が一致
- 設立(または開業)からの経過年数≦5年
- バーチャル・シェアオフィスの場合は「専用区画・郵便受取・来客対応」の可否を証憑化
事業計画の認定・評価観点
- 認定窓口
自治体や支援機関での事業計画認定が前提となる制度では、所定様式・期日・面談プロセスに準拠します。認定は融資可否の十分条件ではないため、金融機関審査に耐える水準まで作り込みます。 - 審査の主眼
①市場性(TAM/SAM/SOM、顧客証跡)②収益性(単価・粗利・固定費、損益分岐点)③実現性(経営陣の経験、調達後の実行計画)④資金繰り(入出金タイミングと運転資金ピーク)⑤ガバナンス(会計・税務・労務の体制) - KPI設計
CAC、LTV、解約率、回収サイト、在庫回転、粗利率、採用計画と人件費上限、為替感応度などを月次KPIとして設定します。KPI→BS/PL/CFのリンクが数式で追えることが必須です。
計画認定クイックチェック
- 認定様式に沿った日本語版計画書/数値根拠の英語版添付(必要に応じ)
- 需要証跡(LOI・受注残・PoC実績)とそれに紐づく売上計上基準の明示
- 3表連動モデル(PL/BS/CF)と資金繰り表で調達後12~24か月の資金残高がマイナスにならない
- DSCR(営業CF+減価償却)÷元利支払額≥1.2を確保
コンプライアンス(反社・税務・社保・信用情報)
- 反社会的勢力排除条項の同意、実質的支配者(UBO)のKYC、PEPs該当の有無を自己申告と登記・パスポート等で確認します。
- 税務
法人・個人の納税証明(その1/その2)、消費税・源泉・住民税の納付状況、固定資産税の滞納有無。開業初年度は予定納税・申告見込みの説明が必要です。 - 社会保険
健保・厚年・雇用・労災の適用判定と適用事業所番号。役員のみの会社は適用除外の論点を整理し、給与支払報告書と整合させます。 - 信用情報・支払実績
代表者・法人のクレジット情報(CIC/JICC等)の延滞・債務整理の有無、家賃・公共料金・携帯の支払実績を通帳で提示します。
コンプライアンスクイックチェック
- 直近1年の納税証明を取得済み
- 社保の適用手続・労務契約書が整備済み
- 口座入出金に不自然な資金移動がない(自己資金の出所が追跡可能)
- 反社・UBO申告書を提出できる
自己資金と資本構成
- 自己資金の目安
融資希望額の30%程度を目安に自己資金(贈与・借入を除く経常収入の貯蓄)を用意します。まとまった入金は出所証跡(給与明細、海外からの送金は送金目的書類)を添付します。 - 資本構成
外国籍株主比率が高い場合でも問題はありませんが、ガバナンス体制(取締役会・監査、決裁規程)を明文化し、少数株主の権利保護や関連当事者取引の制御を示します。
業種・資金使途の適格性
- 原則対象
製造、IT/ SaaS、卸小売、飲食、サービス、専門職等。設備・内装・システム開発・広告初期投資・運転資金が典型です。 - 除外・留意
投機性の高い事業(暗号資産の自己勘定取引等)、反倫理・公序良俗に反する事業、宗教・政治活動、既存借入の肩代わり等は対象外または厳格審査です。海外送金・輸出入はAML/CFTと為替管理(取引先KYC、貿易書類)の体制を明示します。
適格性セルフスコアリング(目安)
下記を合計し、8点以上を「申請可」、6~7点は「補強して申請可」、5点以下は「要是正」と判断します。
- 在留資格が永住・高度専門職2号(2点)/経営・管理・高度専門職1号(1点)
- 在留期限残24か月以上または更新根拠を提示(2点)/12~23か月(1点)
- 本店所在地・事業実態の証憑が完備(1点)
- 創業5年未満で直近の売上証跡または確度の高い受注残あり(1点)
- 自己資金が希望額の30%以上(1点)
- 納税・社保・信用情報に瑕疵なし(1点)
- 3表連動モデルと月次KPIが整備(1点)
代表的なリスクと是正例
- 在留期限が短い
返済年限短縮、借入額圧縮、更新根拠の提示(雇用・売上・納税計画)で整合を確保します。 - バーチャルオフィス利用
専用区画への切替やサテライト契約、実在性証明の追加で補強します。 - 自己資金の出所が不明確
数か月に分けた入金履歴と源泉資料(給与、海外送金明細)を整備します。 - 信用情報の遅延
是正計画(完済・解消済み証憑)と社内の支払統制フローを提示します。
提出前チェックリスト(社内稟議添付用)
- 在留カード・パスポート・住民票の写し、更新計画の根拠資料
- 商業登記簿・定款・賃貸借契約・公共料金請求書・現況写真
- 3表連動計画、資金繰り表、KPIダッシュボード、需要証跡(LOI/契約書/請求書)
- 納税証明(その1/その2)、社会保険適用資料、給与台帳、就業規則
- 通帳写し(12か月分)、自己資金の源泉証憑、外為書類(輸出入がある場合)
- 反社・UBO申告、内部統制(決裁規程・職務分掌)一式
上記を満たすことで、在留・所在地・コンプライアンス・財務の各観点で適格性が明確になり、認定窓口および金融機関の審査通過確率を高められます。
融資条件と資金使途の基本
融資限度額・返済条件の目安
外国人起業家が利用できる公的融資や自治体制度融資には、以下のような条件が一般的に設定されています。
- 融資限度額:1,500万円前後(運転資金のみの場合は750万円程度が上限)
- 返済期間:最長10年以内
- 据置期間:創業初期の資金繰りを考慮し、最長3年程度の据置が可能
- 金利:固定金利で2〜3%台が目安。自治体制度では利子補給や保証料補助により実効負担を抑えられる場合もある
- 担保・保証:無担保が基本ですが、法人代表者の連帯保証が原則となるケースが多い
これらの条件は制度や年度ごとに見直されるため、必ず最新の公募要項で確認する必要があります。
金利と実効コストの見方
- 表面金利だけでなく、信用保証料や利子補給を含めた「実効年率」で比較することが重要です。
- 据置期間を長く設定すると一時的には資金繰りが楽になりますが、保証料が上乗せされ、総支払額は増える傾向にあります。
- 日本政策金融公庫の創業融資では「特別利率」制度があり、属性要件(若年・女性・外国人起業家等)に合致すると優遇金利が適用されるケースがあります。
担保・保証の取り扱い
- 東京都の制度では無担保・代表者保証のみが原則でした。
- 日本政策金融公庫の創業枠では、担保や保証人の要否は相談ベースで柔軟に対応される場合があります。
- 自治体の制度融資では信用保証協会の保証を前提にするケースが多く、その際は保証料の補助制度の有無を確認する必要があります。
資金使途の基本的な区分
- 設備資金:店舗の内装工事費、機械・什器の購入費、ITシステム構築費など。証憑(見積書・請求書・領収書)の提出が必須です。
- 運転資金:仕入代金、人件費、広告宣伝費、外注費、賃料、光熱費など日常的な事業運営に必要な費用。資金繰り表に沿った説明が必要です。
- 資金使途として認められないもの:既存借入の返済、株主への配当、個人的支出、土地や居住用車両の購入など。
融資実行までの標準的フロー
- 事業計画の認定または確認:自治体制度の場合は専門窓口での計画認定が必須
- 金融機関審査:提出資料と面談をもとに信用力・事業性を確認
- 保証協会審査(保証付の場合):金融機関審査と並行して行われる
- 融資実行:設備資金は直接業者への振込指定となる場合が多く、運転資金は事業口座に入金される
実務上のチェックポイント
- 融資希望額と自己資金の割合をバランスさせる(自己資金は融資希望額の3分の1程度が目安)
- 設備資金の発注・検収タイミングと融資実行日の整合性を確保する
- 運転資金の根拠は売上計画とキャッシュフロー計画に基づいて説明する
- 制度によっては年度内募集枠が限られるため、最新の要項と受付状況を逐一確認する
ご希望に沿って参考リンクや出典は一切表示せずにまとめました。
必要であれば、この内容を「経営者や財務担当者が社内稟議にかけられるチェックリスト形式」に再編集することも可能ですが、そうしますか?
申請プロセスと必要書類
申請の基本フロー
- 事前相談
自治体窓口や金融機関、日本政策金融公庫、信用保証協会などに相談し、制度の利用可否を確認します。 - 事業計画の策定
収益モデル・資金繰りを明確にした事業計画書を作成し、必要に応じて専門家や支援機関の助言を受けます。 - 認定・申込
認定が必要なスキームでは事業計画の認定を受け、その後に融資申込を行います。 - 審査・面談
金融機関や保証協会が審査を実施。面談では在留資格・返済計画の整合性や自己資金の実在性を確認されます。 - 契約・融資実行
契約締結後に融資実行。実行後は資金使途や報告義務が伴う場合があります。
必要書類の一覧
共通で必要な書類
- 事業計画書/創業計画書(市場性・収益性・資金繰りの根拠を明記)
- 在留カード・パスポートなどの本人確認書類
- 商業登記簿謄本、定款(法人の場合)
- 納税証明書、決算書または試算表(既存法人の場合)
- 見積書・契約書の写し(資金使途が設備資金の場合)
- 事務所関連資料(賃貸借契約書、業種によっては許認可証の写し)
- 通帳コピー(自己資金や入出金履歴を確認できるもの)
日本政策金融公庫で一般的に求められる書類
- 借入申込書
- 創業計画書
- 設備資金の見積書、許認可証(該当業種)
信用保証協会付融資で追加される書類
- 保証委託申込書
- 代表者・連帯保証人の印鑑証明書
- 個人情報同意書
- 納税確認資料
面談・審査での対応ポイント
- 在留資格と返済計画の整合を説明できるよう準備する
- 自己資金の出所を通帳や給与明細で証明する
- 売上計画の根拠資料(見積書、予約状況、契約予定書など)を添付する
- 日本語での説明体制を整え、必要に応じて通訳や和英併記資料を用意する
- 事業所や設備の現地確認に備え、写真や許認可証を準備する
提出前のセルフチェック
- 在留カードの有効期限と返済期間の整合
- 計画書と資金繰り表・見積書の数値一致
- 通帳で自己資金の蓄積が確認できるか
- 契約書や許認可証が最新であるか
- 和英併記の要約資料を準備しているか
この流れと必要書類を整備することで、審査を受ける際の説明が一貫し、申請通過率を高めることができます。
否決・減額の典型要因と回避策
自己資金不足・資金使途の不明確さ
典型要因
- 自己資金の形成時期が直前で説明が弱い
- 「運転資金」とだけ記載し、内訳が不明確
回避策
- 6〜12か月以上の入金履歴を準備し、給与明細や送金記録で出所を証明
- 資金使途は「科目×金額×時期×相手先」で表を作り、見積書や契約書を添付
- 運転資金は月次資金繰り表で売上入金と支払タイミングの整合性を示す
在留期限と返済計画の不整合
典型要因
- 返済期間が在留期限を超える
- 更新見込みを口頭のみで説明
回避策
- 返済年限を在留期限内に収める、または借入額を調整
- 入管専門家の意見書や更新実績で更新可能性を裏付け
- 日本人や長期在留者を共同経営者に迎え継続性を補強
業種経験・日本での実績不足
典型要因
- 日本市場での販路や許認可見通しが弱い
- 実績が海外のみで国内根拠が乏しい
回避策
- トライアル契約やPoCを取得して初期売上を補強
- 日本側顧問や代理店との契約を提示
- 許認可は取得計画を図解しスケジュールを明示
信用情報・支払い実績の瑕疵
典型要因
- 税金や公共料金の延滞履歴
- 不明瞭な大口入出金
回避策
- 滞納を完済し納税証明を提出
- 遅延は事情説明書と再発防止策を添付
- 主要口座の通帳を提出し支払い規律を示す
言語・コミュニケーションの不備
典型要因
- 面談で意思疎通が不十分
- 書面の日本語が曖昧
回避策
- 日本語・英語の二言語計画書を用意し要点をサマリー化
- 通訳同席を事前確認し想定Q\&Aを準備
- 専門用語を整理した用語集を添付
計画の過大・根拠不足
典型要因
- 市場規模の過大推計
- 営業CFが赤字のまま返済根拠が弱い
回避策
- 弱気シナリオでも返済可能な感度分析を提示
- 損益分岐点や回収期間を根拠付きで明示
- 粗利率・回転率など改善策を具体化
コンプライアンス懸念
典型要因
- 実質的支配者の情報が不透明
- 許認可の必要性が未確認
回避策
- 株主構成図や資金源エビデンスを添付
- 許認可の要否を明文化し取得計画を添付
- 海外送金の流れや取引先チェック方針を記載
書類不備・整合性欠如
典型要因
- 計画書と見積書の金額が一致しない
- 登記や口座名義と申請内容が不一致
回避策
- 提出前に整合性チェックリストで突合
- 計画書に改訂履歴を記載し版管理を徹底
セルフチェックリスト
- 自己資金比率30%以上を確保
- 在留期限内で返済可能な計画
- 資金使途×金額×相手先の対応が明確
- DSCR1.2以上を確保
- 初期売上の契約や見込みを提示
- 許認可の要否と取得計画を明示
- 納税証明・完納証明を提出
- 実質的支配者と資金源を透明化
- 二言語計画書と図表を用意
- 書類整合性チェック表を添付
否決や減額は「不確実性の残存」が最大要因です。根拠資料と数値でリスクを排除し、継続性と返済可能性を明確に示すことが承認への近道です。
代替調達オプションの比較
外国人起業家向けの特定制度が終了・縮小している現状では、複数の資金調達手段を組み合わせることが現実的です。以下に主要な代替オプションを整理し、それぞれの特性や適したシーンを示します。
日本政策金融公庫(新創業融資など)
- 強み:無担保・無保証の枠があり、創業初期から利用可能。審査基準は比較的柔軟。
- 弱み:面談重視で日本語対応力や事業計画の完成度が評価を大きく左右。
- 適したケース:創業初期で売上実績がなくても、自己資金や居住実績を提示できる場合。
自治体の制度融資
- 強み:利子補給や保証料補助により、実質負担を抑えやすい。信用保証協会の補完があり、通過率が高い傾向。
- 弱み:地域ごとに要件や枠が異なり、制度変更や受付停止リスクもある。
- 適したケース:地域密着型のビジネス(飲食・小売など)や、地元金融機関との関係を築きたい場合。
民間金融機関の創業融資/保証協会付融資
- 強み:決裁スピードが速い場合があり、口座データや取引実績をアピールできれば有利。
- 弱み:公庫や自治体融資よりも審査が厳格で、連帯保証や担保を求められることが多い。
- 適したケース:すでに売上が立ち、銀行口座や決済実績を証明できる段階。
エクイティ調達(エンジェル投資家・VC・CVC)
- 強み:返済義務がなく、資金だけでなくメンタリングやネットワーク支援も受けられる。
- 弱み:株式放出による経営権の希薄化、契約条件(優先株・取締役派遣など)への対応が必要。
- 適したケース:IT・SaaS・グローバル展開など、短期で大きな成長を狙う事業。
クラウドファンディング(購入型・投資型・融資型)
- 強み:購入型は返済不要で需要検証やPRと同時に活用可能。投資・融資型は資金とファン獲得を両立できる。
- 弱み:訴求力や広報活動が不足すると失敗リスクが高い。投資型は金融規制対応が必要。
- 適したケース:新商品・サービスの市場テストや初期顧客基盤の拡大を狙う場合。
補助金(小規模事業者持続化補助金、IT導入補助金など)
- 強み:返済不要で投資効果を高められる。銀行交渉でも信用材料になりやすい。
- 弱み:採択率の不確実性があり、実際の入金まで時間がかかる。
- 適したケース:販路開拓・デジタル化投資を進めたいときに、資金負担を軽減したい場合。
ABL・ファクタリング(売掛債権担保・在庫担保)
- 強み:数日で資金化でき、売上連動で枠を拡大できる。実績が浅くても活用余地あり。
- 弱み:手数料が高く、継続利用はコスト増につながる。取引先通知の有無で信用関係に影響することもある。
- 適したケース:繁忙期の短期運転資金や売掛回収の前倒しが必要な場合。
レベニューシェア型・RBF(売上連動ファイナンス)
- 強み:返済額が売上に比例するため、キャッシュフローに柔軟対応できる。
- 弱み:売上拡大時は支払い総額が膨らみやすく、契約条件(上限額・シェア率)の精査が必須。
- 適したケース:サブスク・ECなど、売上予測が比較的安定している業態。
実務上のポイント
- 単一の資金源に依存せず、融資+補助金+短期資金化手段の組み合わせを前提とする。
- 在留資格と返済年限の整合を徹底的に確認し、必要なら借入期間を調整。
- 調達コストは金利や手数料だけでなく、株式希薄化や条件条項まで含めた実効コストで比較する。
- 投資家や金融機関に対しては、月次KPI・資金繰り表・事業計画のリンクを提示し、信頼性を高める。
こうした多角的な選択肢を把握することで、制度融資に依存せず、成長段階に合わせた最適な資金調達戦略を描くことが可能になります。
事業計画・財務モデルの作り方
事業計画の基本構成
外国人起業家が資金調達支援事業を利用する際、事業計画は「市場性」「収益性」「実現可能性」を客観的に示す最重要書類です。金融機関や認定窓口の審査では、ストーリー性と数値の裏付けが一致しているかが必ず確認されます。したがって、以下の要素を必ず盛り込み、定量データと証拠資料で補強することが求められます。
- 市場規模と成長性の明示(統計データや業界レポートを引用)
- 顧客セグメントの明確化(年齢・地域・購買行動など具体的に記載)
- 競合環境と差別化ポイント(価格・品質・技術・言語対応などを比較表で示す)
- 事業の実行計画(Go-To-Market戦略やパートナーシップ)
- KPIと達成ロードマップ(顧客獲得数・売上推移・収益率など)
財務モデル設計のポイント
財務モデルは返済可能性を判断する基礎資料です。金融機関は特にキャッシュフローと債務返済能力を重視します。以下の観点で作り込みます。
売上・費用の積み上げ
- 売上予測は「顧客数×平均単価×購入頻度」で算出し、裏付け資料(見積書・契約予定)を添付することが望ましいです。
- **原価(COGS)**には仕入・物流・決済手数料・関税を含めます。為替の影響を受ける場合は複数レートで感度分析を行います。
- **販管費(OPEX)**は人件費・家賃・システム利用料・翻訳費などを項目別に分解します。採用計画や契約更新時期と連動させると実現性が高まります。
資金繰り・返済原資の確認
- キャッシュフロー表を月次で作成し、融資返済スケジュールを組み込みます。
- DSCR(債務返済余裕比率)=営業キャッシュフロー÷年間返済額を計算し、1.2倍以上を確保するのが目安です。
- 運転資金管理は売掛金回収日数・買掛金支払日数・在庫回転日数を指標化し、資金ショートを防ぎます。
KPIダッシュボードの導入
審査担当者が一目で把握できるように、主要指標をダッシュボード化することが有効です。
- リード数・受注数・売上高・回収率
- 粗利率・在庫回転・欠品率
- 顧客獲得コスト(CAC)とLTV(顧客生涯価値)
- 為替レート変動による損益感応度
これらをグラフ化して計画と実績を比較できるようにすると、進捗報告や融資後のモニタリングでも活用できます。
為替・規制・国際取引リスクへの対応
外国人起業家の場合、輸入仕入や海外送金が絡むケースが多いため、以下を必ずモデルに反映します。
- 為替前提の明記と感度分析(USD/JPY±10円の影響試算など)
- 送金コスト・決済手数料を販管費に組み込み
- 貿易条件(インコタームズ)、関税、輸入消費税をCOGSに含める
- 必要な許認可・規制対応の取得費用やスケジュールを計画に記載
シナリオ・感度分析の活用
- ベース・悲観・楽観の3シナリオを作成し、売上・費用・為替の変動を試算します。
- 粗利率や営業キャッシュフローに影響する主要変数を抽出し、対策(値上げ・仕入先多様化・ヘッジ手法など)を提示します。
実務での仕上げチェックリスト
- 前提条件に根拠データを添付しているか
- 三表(損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー)が連動しているか
- 在留期限と返済計画が整合しているか
- 審査で求められる主要KPIが明示されているか
- 印刷用に1ページのサマリー資料を用意しているか
このように事業計画と財務モデルを設計することで、資金調達支援事業の審査で最も重視される「実現性」と「返済可能性」を具体的かつ説得力を持って提示できます。
実務チェックリストと最新情報の取り方
最新の公募・受付状況を確認する手順
- 東京都公式ページの確認
制度の最新状況は必ず東京都の公式ページで一次情報を確認します。2024年3月で終了した事業もあるため、再開・代替制度の有無を正しく把握することが重要です。 - ビジネスコンシェルジュ東京(BDC Tokyo)の利用
認定窓口や様式交付状況、手続きの変更などが随時告知されるため、公式ページを定点観測します。 - 制度融資や補助金の最新情報
制度融資の上限金利やメニュー改定はプレスリリースや制度融資総合案内に反映されます。定期的なチェックが必要です。 - 国の制度の確認
日本政策金融公庫(JFC)の新規開業資金や特別利率制度も併せて確認し、都や自治体の制度と比較検討します。 - 横断的な更新情報の収集
J-Net21などの情報ポータルに登録し、都道府県ごとの新着融資・補助金情報を週次で把握します。
提出前セルフチェック
- 在留資格と返済年限の整合性は取れているか
- 登記事項証明書で本店所在地・主たる事務所要件を証明しているか
- 事業計画のKPIと月次PL/CFが一貫しているか(数式や参照切断がないか)
- 資金使途の根拠資料(見積書、契約書等)が揃っているか
- 公共料金や税公金の支払履歴に滞納がないか通帳で確認しているか
- 自己資金の形成過程を示す証憑を整備しているか(借入金を資本金に含めていないか)
- 面談の想定質問と根拠資料を準備しているか(日英両対応が望ましい)
- コンプライアンス証憑(納税証明、社会保険等)を最新化しているか
内部稟議・取締役会での付議資料要点
- 借入目的、金額、金利、返済条件、担保・保証の有無
- 財務コベナンツや情報提供義務などの条項確認
- 期限の利益喪失事由、是正措置プロセス
- 他債務との相互影響(クロスデフォルト等)
- 為替・貿易関連の資金繰りへの影響
- シナリオ別の資金繰りシミュレーション
実行後のモニタリング
- 融資資金の使途台帳を月次で更新し、証憑と突合
- 財務コベナンツの遵守状況をダッシュボードで管理
- 売上・回収のKPIを追跡し、遅延リスクを早期把握
- 役員変更・事務所移転等の重要変更は速やかに報告
- 金利や制度改定を踏まえてリファイナンスの可能性を常に検討
最新情報の取り方(実務オペレーション)
- 公式ページを定点観測:東京都、BDC Tokyo、日本政策金融公庫の公式サイトを月初に確認
- アラート設定:Googleアラートに「外国人起業家 資金調達」「東京都 制度融資 上限金利」などを登録
- 情報管理表の作成:制度名、所管、現況、次回見直し予定を一覧化し、毎月更新
- 誤情報対策:SNSや二次情報は必ず公式情報で裏付け
専門家・支援機関の使い分け
- BDC Tokyo:事業計画認定や外国人起業家特有の相談
- 信用保証協会・金融機関:保証付融資の適格性確認
- 日本政策金融公庫:特別利率や返済条件の確認
- 士業専門家:行政書士(在留資格・許認可)、税理士(税務・資金繰り)、弁護士(契約条項)、社労士(雇用関連)、翻訳者(日本語対応補助)
このチェックリストを活用し、一次情報に基づいた制度理解と内部管理を徹底することで、融資申請から実行後のモニタリングまでの精度を高めることができます。
コメントを残す