経営者が意外と悩んでしまうのは「融資を引き出すためには銀行とどうやって交渉すれば良いのか?」です。今回は「銀行から融資を引き出す交渉テクニック」について解説します。
交渉技その1.融資の必要書類を素早く提出する
銀行から融資を受けるために必要な書類というのは決まっています。
基本的に
- 決算書
- 試算表
- 資金繰り表
- 販売先一覧表
- 仕入先一覧表
の5つがメインです。
この必要書類が常に最新の状態で用意されていることが重要なのです。
最低限の必要書類が揃わなければ
融資担当者はいつまで経っても稟議書を作成できません。
また、書類の準備に時間がかかればかかるほど本気度を疑われてしまいます。
「決算書」は既にあると思います。
「販売先一覧表」「仕入先一覧表」も作るのはすぐにでいます。
問題になるのは
- 「試算表」
- 「資金繰り表」
ですが、これは経営判断にも必要な資料ですから、
「融資が必要になったら作成しはじめる」のではなく、定期的に最新版に更新して、こちらから融資担当者に定期的に提出するぐらいが正常なのです。
作っていない場合も、融資の依頼をするときにはタイムラグなく、提出することを重視しましょう。
交渉技その2.融資担当者との日頃の定期的なコミュニケーション
- 普段から融資担当者と定期的に面談をして、自社の経営状況を伝えている会社
- 融資が必要だから、はじめて融資担当者に連絡して、自社の経営状況を伝えた会社
では、「どちらが迅速に融資担当者が稟議書を作れるのか?」は説明するまでもありません。
毎月
- 試算表
- 月次損益
- 資金繰り表
を提出して、日頃のコミュニケーションを取っていれば、融資担当者も、わざわざ追加で資料をもらわなくても、その会社の経営状況は手に取るようにわかるはずです。
交渉技その3.「資金使途」と「返済原資」を明確にする
銀行は融資審査を行う時に
会社の経営状態を審査するのは間違えありません。
しかし、より重要になるのは
- 何に使うのか?
- どうやって返すのか?
の2点と言っても過言ではありません。
あなたが友人や家族に「お金を貸してほしい。」と言われても、この2点が気になるはずです。
- 何に使うのか?
- いつ、どうやって返すのか?
が具体的な数字で説明されれば「貸してもいいかな。」という気になるはずです。
「生活費に困っててさ。」とか
「来月の給与で返すよ。」とか
あやふやな回答ではかえって不信感がますばかりです。
「妻が入院してしまって、入院費に125万円かかってしまって、そのうちの35万円が足りないんだ。来月の5日に給与が40万円振り込まれるから、20万円ずつ2ヵ月で返済するので貸してくれませんか?」
の方が具体性もあり、誠実な印象を受けるのではないでしょうか?銀行の融資担当者もまったく同じなのです。
という回答で『ちゃんと「資金使途」と「返済原資」を回答したよ。』と言われても、これでは信用できるはずもありません。
○月○日、大口の顧客へ納品した商品に欠陥が見つかってしまい、300万円分の売上見込が2ヵ月遅れて、8月31日にずれてしまいました。商品の欠陥に関しては対応できたのですが、従業員の給与支払いの資金が不足してしまったため、給与支払い資金で240万円融資を受けたいと考えております。
8月31日に入金予定の売掛金300万円で完済できる予定です。欠陥商品の回収は、他の顧客への納品分には含まれておらず、8月の受注見込も2200万円と先月対比で130%の予定ですので、返済は可能です。
というような
資金不足になった原因と対策と共に
具体的な数字で
試算表や資金繰り表、決算書を見せながら話す
ことで、銀行の融資担当者は「これなら確実に回収できるな。」と納得できるのです。
そっくりそのまま上司から起こられるからです。
「こんなざっくりとした資金使途と返済原資でどうやって回収するんだよ。誰だこの稟議書を作ったやつはっ!!」
と言われても、反論もできないのです。
「資金使途」と「返済原資」をいかに明確に説明できるか?
これが銀行から融資を引き出すためには最重要なポイントになってくるのです。
交渉技その4.先に「弱点」というエサと「回答」を用意しておく
銀行の融資担当者は、年がら年中「決算書」とにらめっこしているのですから、ぱっと見れば「経営上の問題点」はすぐに発見できます。
を明示して上げると、融資に対する安心感が増すのです。
王道の方法としては
- 経営者が提出している経営計画を実現するための課題
- 現在の経営状態の課題
をこちらから、改善策と共に提出する方法もあります。
しかし、より効果的なのは
指摘される「弱点」が明確であれば
融資担当者から突っ込まれたときに別紙の資料をすっと提出し、この課題に関してはこのような計画で対処していく準備ができています。
ということができれば、かなり印象は良くなるのです。
交渉技その5.経営計画書は盛り過ぎない
融資できる金額というのは
で判断されます。
短期借入の場合は、1年間で返済しなければならないので、1年間での利益と出ていかない経費である減価償却費が借入額を上回っていないと、融資ができないのです。
融資を引き出したい経営者はこのことを知っているため
なのです。
になってしまうのです。
融資担当者は、利益が大幅に伸びている経営計画書を提出されたら、必ず
と聞いてきます。
- 利益率が既存商品よりも、10%高い新商品を投入から利益が伸びている
- 営業員を2名増員して、既存の営業マンの生産性の5割で立ち上げる
なら理解できますが
- 大口の顧客の売上が立つ予定
というような、確実性の乏しい根拠では、融資担当者を説得することはできません。
一度、「この経営者はできもしない計画を盛って、融資を引き出そうとしている」とマイナスの印象を持たれてしまうと、融資審査の過程では大きく不利になってしまうのです。
「低く計画して、高く達成する」
これが銀行に対する経営計画の見せ方なのです。投資を募る時とは大きくベクトルが違うことに注意が必要です。
交渉技その6.経営計画の改善策は「量的変化」で説明する
例えば
実際の経営では
- 営業マンのインセンティブを手厚くすることで、モチベーションが上がり、売上が伸びる
ということも、十二分に考えられることです。
しかし、このような「質的変化」は数字に置き換えにくいものです。
- マネージメントを強化します。
- 人事評価を見直します。
- 採用方針を変更します。
- 営業フローを見直して効率化します。
- サービス内容を強化します。
- WEBサイトをリニューアルします。
経営面では、十分に改善策となりますが、銀行に提出する計画としては改善策になっていないのです。
- 営業人員を2名増やします。
- 商品アイテムを2商品追加します。
- 仕入れコストを20%削減します。
- 営業マン1人あたりの訪問数を10%増やします。
- 販売チャネルを拡充し、代理店数を3倍にします。
・・・
このような改善策であれば、ベースのデータがあって、掛け算で売上を見込むことが可能です。
現実の経営問題とは切り分けて考えて
交渉技その7.銀行の融資担当者が時間に余裕のあるときに交渉する
銀行の融資担当者も、忙しいタイミングと時間に余裕があるタイミングがあります。
あなたの会社が重要な融資先であれば、話は別ですが・・・
「どうしても融資を引き出したい。」というのは、正攻法では融資を引き出せない可能性が高い経営状態なのではないでしょうか。
銀行の融資担当者にとっては優先順位が低いのです。
3月の決算期末に、支店総出でなんとか予算を達成しようと動いているときに、優先順位の低い企業からの融資の相談に真剣に乗ってくれると思うでしょうか?
なかなか難しいのです。
と思われるのが関の山です。
銀行の融資担当者の時間的な余裕がない時期
年単位
- 決算月:3月
- 半期決算月:9月
月単位
- 月初
- 月末
- ゴトー日(5、10が付く日)
週単位
- 月曜日
- 金曜日
交渉技その8.メインバンクのメンツをつぶさないように複数の銀行と交渉する
メインバンクの銀行と交渉する前に勝手に別の銀行から融資を受けていたら・・・
メインバンクのメンツは丸つぶれになってしまいますし、今後のメインバンクからの融資にマイナスの影響があります。
しかし、常に3行以上の銀行と取引はしておくべきです。
銀行は、他行の融資金利に対して、敏感になっています。
メインバンク1行から借りている場合には、比較される競合他社がいないのですから、金利を高めに設定しても、ばれにくいのですが
2行以上の複数の銀行から借りていたら、無茶な金利設定はできませんし、「いざという時はメインバンクを変更するかもしれない。」という無言の圧力を与えることもできるからです。
申込みの時間がずれてしまって、メインバクからの融資を受けずに他行からの融資を受けてしまうような事態になると、メインバンクの支援体制が崩れてしまうリスクがあるので「同日」がベストなのです。
同日であれば優劣は付きませんし、複数の銀行からの融資審査に通れば、全部一旦借りてしまって機を見て一括返済すれば良いだけです。
交渉技その9.攻略すべきは稟議を起案する融資担当者
融資審査の交渉で、攻略すべきは上司でも、支店長でもなく、現場の融資担当者です。
支店長にアプローチしても、結局、稟議を起案をするのは現場の融資担当者であり、「稟議書が融資審査を進めるキーアイテム」なのですから、
が重要になるのです。
- 業界動向
- 業界知識
- 自社の強み
- 競合に対する優位性
- シェア
- 経営面の課題
- 取り組んでいる改善策
・・・
積極的な情報開示が必要になります。
とくに、融資経験の浅い担当者に当たってしまった場合に「こいつ使えないな。」と思わずに、丁寧かつ真剣に、自社のサービスに愛着を持ってもらえるように教育しておくと、稟議書の起案にも時間をかけてくれて、融資審査に通る可能性が高まるのです。
経験の浅い担当者であることは、上司も理解しているので、じゃけんに扱わず丁寧に対応しましょう。
交渉技その10.業界・業種のプラス材料のデータを探そう!
日本のように人口が減少する状況では、全業種に同じ審査基準で挑むことはできず
銀行も
- 伸びる業界の会社に融資した方が全体として貸し倒れ率は抑えられる
- 伸びる業界の会社に融資した方が会社が成長して融資額が増えるかも知れない
と考えるのは当然なのです。
- 需要が伸びている
- 市場が注目されている
ことを裏付けるような調査データやニュース情報があれば、融資の上で「プラス材料」になり、稟議書にも載せてもらえる可能性が高まるので、探す努力をしましょう。
まとめ
銀行から融資を引き出す交渉技には
- その1.融資の必要書類を素早く提出する
- その2.融資担当者との日頃の定期的なコミュニケーション
- その3.「資金使途」と「返済原資」を明確にする
- その4.先に「弱点」というエサと「回答」を用意しておく
- その5.経営計画書は盛り過ぎない
- その6.経営計画の改善策は「量的変化」で説明する
- その7.銀行の融資担当者が時間に余裕のあるときに交渉する
- その8.メインバンクのメンツをつぶさないように複数の銀行と交渉する
- その9.攻略すべきは稟議を起案する融資担当者
- その10.業界・業種のプラス材料のデータを探そう!
があります。
特に重要なのは
- 融資の稟議を作る「融資担当者」との情報共有
- 「資金使途」と「返済原資」の具体的な回答
- すべての計画や問題点の説明に対して「数字」で説明できる準備
の3つです。
「銀行から融資を引き出したいんだけどコツってないの?」
・・・