中小企業が事業承継をする場合には中小企業経営承継円滑化法による金融支援で資金調達する方法を取ることができます。今回はこの資金調達方法について解説します。
中小企業経営承継円滑化法とは
中小企業経営承継円滑化法がつくられた背景
中小企業の経営者が引退するとき、死亡したときには子や孫などに事業継承をして会社を存続させる形がとられますが
実際問題では
経営者死亡時の法定相続人には遺留分(法律で決まった受取の割合)があるため、株式を取得するときに他の相続人よりも過大な相続をしなければならず、他の相続人にお金を支払って調整する必要性などがでてきます。相続税も多額になるケースもありますが、簡単に上場していない会社の株式が売却できるわけでもありません。
また、経営者が交代するというのは、会社の経営が今まで通りにできなくなるリスクが大きいのです。これは経営者の裁量が大きく経営数字に直結してしまう中小企業ほどリスクが大きく、金融機関からの信用不安が拡大するのです。
中小企業にはこのような事業継承における問題があり、泣く泣く倒産する会社が増えることで、貴重な中小企業のノウハウや技術が失われてしまっているという懸念があり、政府がそれに対応するために作った制度が「中小企業経営承継円滑化法」です。
中小企業経営承継円滑化法では
- 遺留分に関する民法の特例(遺留分の算定からの除外、評価額の固定)
- 金融支援(資金融資制度)
- 課税の特例(納税猶予制度)
などの特例が適用され、前述したような継承者の負担を軽減するような制度設計になっているのです。
小売業、サービス業であれば資本金5,000万円以下、または従業員数50名以下であれば中小企業経営承継円滑化法の対象となります。
経営承継で必要になる資金需要とは
会社や後継者本人が事業継承で必要になる資金には
- 他の相続人から自社株式や会社の資産を買い取る資金
- 経営者交代の信用不安からの資金繰り悪化を防ぐ資金
- 相続税や贈与税などの納税資金
などが必要になります。
中小企業経営承継円滑化法での資金調達方法とは
1.中小企業信用保険法の特例(信用保証協会の保証)
中小企業が銀行から融資を受けるときに信用保証協会が保証してくれることで、銀行は貸し倒れリスクが少ない状態で融資をすることができます。
通常の保証枠は、普通保険2億円、無担保保険8000万円、特別小口保険1250万円ですが、中小企業信用保険法の特例を利用すると、この枠が別枠で作れるので、実質2倍の融資枠ができるのです。
銀行も信用保証協会の保証枠があれば、積極的に融資してくれることになるのです。
通常の保証枠
- 普通保険:2億円
- 無担保保険:8000万円
- 特別小口保険:1250万円
中小企業信用保険法の特例枠
- 普通保険:2億円
- 無担保保険:8000万円
- 特別小口保険:1250万円
※併用できるので、実質保証枠が2倍になります。
2.日本政策金融公庫法の特例
日本政策金融公庫では対象者が「会社」「個人事業主」だったのですが、日本政策金融公庫法の特例を利用した場合には「会社の代表者個人」も対象に追加されます。
これは代表者個人が相続税や他の相続人からの株式買取でお金を出す必要が出てくるからです。
項目 | 説明 |
---|---|
対象者 | 経営承継円滑化法に基づく認定を受けた中小企業の代表者 |
資金用途 | 企業継承を行うために必要な経営承継円滑化法により認定を受けた資金 |
融資限度額 | 7億2000万円 |
融資期間 | 設備投資:15年以内、運転資金:7年以内 |
金利 | 2億7000万円までは特別利率、それ以上は基準金利 |
中小企業経営承継円滑化法を利用するためには認可が必要
中小企業経営承継円滑化法を利用するためには経済産業大臣の認定が必要になります。
認定されるケース
- 会社や後継者が、これら以外の者の有する会社の株式や事業資産などを取得する必要があること
- 先代経営者の死亡や退任後の3か月の売上高が前年同期比で80%以下に減少することが見込まれていること
- 仕入れ先からの仕入れ条件が不利益に変更された
- 取引先金融機関からの借り入れ条件(返済方法、返済期間、金利)が悪化した、取引が中止になった
- 後継者が、相続や贈与で会社の株式や事業資産を取得したときに多額の相続税や贈与税の納付が必要になった
- その他の理由
中小企業経営承継円滑化法の認可の申請の流れ
- 地方経済産業局へ申請書提出
- 地方経済産業局が審査
- 審査通過
- 経済産業大臣の認定
- 中小企業の経営者、個人事業主 → 信用保証協会へ融資申し入れ
中小企業の経営者個人 → 日本政策金融公庫へ融資申し入れ - 信用保証協会・日本政策金融公庫が融資の審査
- 審査通過
- 融資実行
まとめ
会社の事業継承には、後継者や会社の資金負担は非常に大きいものがあります。さらに取引先やメインバンクから経営者の交代によって、取引を打ち切られたり、取引条件を変更されたり、経営自体が傾くリスクも大きいのです。
このようなケースでは中小企業経営承継円滑化法を活用して、資金調達を行うべきなのです。
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