ベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達を検討する際、「どこのベンチャーキャピタル(VC)からの投資を受けるか」と同じくらい重要なことは「どのキャピタリストから投資を受けるのか」です。
キャピタリストとは何か?
出典:デジタル大辞泉
「担当者」の意味するところ
担当者とは、自社と向き合う相手の会社の窓口となる人です。
ただし、キャピタリストが一般の担当者と異なる点もあります。
その一つは、通常、担当者は「相手の社内の偉い立場の人ではありません」が、キャピタリストはベンチャーキャピタル(VC)における偉い立場であることが少なくないことです。これはベンチャーキャピタル(VC)の多くが非常に小さな(少人数の)組織であるためです。
そしてもう一つは、担当者とは、通常は「自社の製品やサービスを提供する窓口」です。日立の担当者は日立の製品について問い合わせ、相談し、日立の製品を購入する窓口です。同様にホンダの担当者はホンダの製品について問い合わせ、相談し、本田の製品を購入する窓口です。
その意味ではキャピタリストは「ベンチャーキャピタル(VC)がサービスを提供する際の窓口」となる人です。
ベンチャーキャピタル(VC)の提供するサービスはまずは投資、そして投資した資金の回収になります。
キャピタリストの仕事とは
ベンチャー企業への投資であれ、他の投資であれ、投資する人(投資家)がすべき仕事は3つあります。
- 有望な投資先を見つけてきて投資すること(投資)
- 投資した先を成長させること(コンサルティング)
- 投資した資金を回収すること(回収)
ベンチャーキャピタル(VC)の投資担当者(すなわちキャピタリスト)の仕事はこの全てです(他の投資では、それぞれ別の担当者が行うことも珍しくありません)。
「1.投資」と「3.回収」は、ベンチャーキャピタル(VC)のサービスを窓口となって取り仕切ることが仕事です。
しかし、キャピタリストの定義にも記載されていた「2.のコンサルティング(コンサル)」は、ベンチャーキャピタル(VC)自体が会社として提供するサービスではありません。
キャピタリストが個人として提供している付加価値なのです。
ベンチャーキャピタル(VC)は、キャピタリストが何を提供しているのか(どのようなコンサルティングを行っているのか)、管理をしていることはなく、指導もしていません。
そのため、会社を成長させるためのコンサルは、各キャピタリスト個人の「能力」や「やる気」に大きく依存します。
投資を受ける側が見るべきキャピタリストの仕事
キャピタリストの仕事は、このようにベンチャーキャピタル(VC)のサービスの窓口となる「投資」「回収」と、キャピタリストが個人として提供している「コンサル」の二つがあります。
良いキャピタリストを選べば投資してもらえ、ダメなキャピタリストに当たったから投資してもらえない、ということはまず起こらないないので考える必要はありません。
言い換えると、ベンチャーキャピタル(VC)から投資を受けられるかどうかは
「キャピタリストを選び間違えた」というよりも、「ベンチャーキャピタル(VC)を選び間違えた」ということなので
同じベンチャーキャピタル(VC)のキャピタリストであれば、誰が担当になろうと投資してもらえるかに違いはありません。
ベンチャーキャピタル(VC)は通常、どの担当者が話を聞いたのであれ、社内で情報が共有されています。
ということなのです。
キャピタリストの種類
キャピタリストの仕事のうち、注意してみる必要のある、「コンサル」はより細かく分けることができます。それは主に次の3つです。
- 資金調達
- 人材募集
- マーケティング
1.資金調達
ベンチャー企業にとって「資金調達」は常に課題になります。
自社の担当となったキャピタリストは、追加投資と並行して、アプローチすべき投資家を探してくれます。その投資家へのプレゼンにアドバイスしてくれることもあります。また、資金調達の条件について経営者の相談相手となります。
2.人材募集
成長過程にあるベンチャー企業では「どのように人材を確保していくのか」も悩ましい課題です。
キャピタリストは、会社が必要としている人材についてアドバイスすることもあります(ベンチャー企業では会社が考える必要な人材、がそもそも間違っていることも多々あります)。とくに幹部人材(経営者や部門の責任者)は、伝手をたどって適切な人を探してくることもします。
3.マーケティング
極端なアーリーステージのベンチャーを除けば、「マーケティング」が会社の成長そのものと言えます。
キャピタリストは、会社のマーケティング手法についてアドバイスすることもあります。とくにtoC(一般消費者向けの事業)においては、広告宣伝の巧拙が成功と失敗を分けますが、「どのような媒体を使って、どのような広告を、どのような頻度で行うか」について、キャピタリストの知見を生かすことができます。
また、「PoC(実証実験のこと)」や「販売の相手を探してくる」あるいは「業務提携先を探してくる」ことキャピタリストが行う場合があります。
良いキャピタリストとは
キャピタリストの広範な仕事内容について理解したところで、キャピタリストについて、もう一つ、知っておくべきことがあります。
キャピタリストのキャパシティ
キャピタリストは通常、「投資先」として複数社を担当しています。少なくても一桁後半、多いと20件近く抱えていることもあります。
そのため、キャピタリストは一つの担当者先の希望を全て聞いている余裕はありません。
もちろん、その全てがいつもキャピタリストの支援を必要としているわけではありません。しかし、いざキャピタリストの助けが必要となったとき、そのキャピタリストに「支援するだけの余裕がない」こともしばしばあるのです。
より困った問題は、そもそも投資先の支援を行わないキャピタリストも少なくないことです。
ベンチャーキャピタル(VC)は単独で投資することはまずありません。いくつかのベンチャーキャピタル(VC)、エンジェル投資家、事業会社が一緒になって投資します。
また、ベンチャーキャピタル(VC)は投資先の株式の一部を所有するだけです。
キャピタリストが投資先の支援を行い、会社を成長させても、その全てが自分に返ってくるわけではありません。
また、他のキャピタリストが支援して投資先が成長すれば、その成長の結果、自分の投資も成功することになります。
そのため、投資先の支援に関心の薄いキャピタリストもいるのです。
支援を受けられるキャピタリスト
「キャピタリストからの支援を受けられるかどうか」は重要です。キャピタリストが活躍してくれれば、自社の社員が増えるようなものだからです。
実際に投資を受けてみてから、「このキャピタリストは何もしてくれないんだな」と分かってもキャピタリストを交代させることは普通はできません。
もちろん、キャピタリストからの支援は、してくれるか、してくれないか、の二択ではありません。
- まったく何もしないで話を聞くことすら嫌がるキャピタリスト
- 相談には乗ってくれても何かアクションを起こすことはないキャピタリスト
- 頼めばアクションを起こしてくれるキャピタリスト
- 投資先に深く入り込んで期待以上の行動を起こしてくれるキャピタリスト
などキャピタリストの支援には濃淡があります。
では、より濃い支援が期待できるキャピタリストはどのように見分けたらいいのでしょうか。
ベンチャーキャピタル(VC)によって
まずはキャピタリスト個人について考える前に、そもそもベンチャーキャピタル(VC)によって投資先の支援には大きな違いがあります。そのため、支援が期待できるベンチャーキャピタル(VC)を選ぶ必要があります。
ベンチャーキャピタル(VC)によっては「投資先にお金は出しても口は出さない」という方針で運営されていることもあります。
逆にそのベンチャーキャピタル(VC)の売りとして「投資先の支援を最重視している」ベンチャーキャピタル(VC)もあります。
リードかどうか
リード投資家の場合には、投資先への支援を行ってくれる可能性が高いです。リード投資家はその調達ラウンドにおいて最大の投資家となるため、最も投資先の成長に期待していることに加え、他の投資家(フォロー投資家)からも投資先の支援を期待されているからです。
ただ、「フォロー投資家のキャピタリストは投資先の支援を行わない」ということではありません。支援に期待せず、支援してくれたら儲けものと思っているべきでしょう。
人柄
ベンチャーキャピタル(VC)の方針がどうであろうと、経済的な恩恵をあまりうけないにしても、支援してくれるキャピタリストはしてくれますし、してくれないキャピタリストはしてくれません。
3.キャピタリストの選び方
希望するキャピタリストに自社を担当してもらう方法
ベンチャーキャピタル(VC)にコンタクトを取ったとき、キャピタリストを選ばせてくれることはまずありません。会社の事業や、ベンチャーキャピタル(VC)の都合でキャピタリストが割り振られます。
また、一度決まったキャピタリストの変更を、投資を受ける立場から要求することは、相当な理由がなければできません。
そのため、キャピタリストを選びたいのであれば
必要があります。
最近ではTwitterやFacebookを実名で行っているキャピタリストも珍しくありません。そのようなキャピタリストは会社から連絡を受けることを期待していますし、実際に多くの連絡を受け取っています。
臆することなく、アプローチしてみましょう。
キャピタリストを選ぶ際の判断基準
キャピタリストを選ぶ際の判断基準に正解はありません。しかし、いくつか気にしておくべきポイントはあります。
相性
どれだけ能力が高く、会社の成長を支援してくれるキャピタリストであっても、相性が悪いキャピタリストは避けるべきです。
「そりが合わずに喧嘩する」ほどではなくても、「話が伝わらない」「頼んだことを約束した期日までに終わらせない」等具体的な問題がある場合はもちろんのこと、仕事に支障はなくても「どうも一緒にいると気が詰まる」ということであっても、何か合わないと思ったら、立ち止まって、この先、関係が改善すると思えるか、自問してみる必要があります。
銀行の担当者は融資がおりれば、その後にコンタクトすることは稀ですが、キャピタリストは頻繁に、何度も会うことになる相手です。合わないと感じたキャピタリストは避けておくことが無難です。
評判
ベンチャーキャピタル(VC)の投資先は多岐にわたりますが、ベンチャーキャピタル(VC)同士、共同で投資していることも多く、横のつながりは多々あります。そのため、「そのキャピタリストの評判を別のキャピタリストに聞いてみる」ことはやっておくべきだと言えます。
継続性
キャピタリストには、辞めてしまうというリスクがあります。
担当のキャピタリストが辞めてしまうと二重に困ることになります。
一つは、そのキャピタリストに期待していた支援が受けられなくなることです。加えて二つ目に、担当を引き継いだ後任のキャピタリストがどのような人になるか分からないというリスクもあります。
これを避けるためにはベンチャーキャピタル(VC)のパートナー等、やめる可能性の低い人をキャピタリストとして迎えることを検討すべきと言えます。
支援してくれるのはよいことか
意欲と能力を兼ね備えたキャピタリストが望ましいことは言うまでもありません。
しかし、「意欲」と「能力」のどちらが重要かと言えば、「能力」です。
例えば、CVC(Corporate Venture Capital:コーポレートベンチャーキャピタル)は、出資者である事業会社との連携を目指して投資先の支援を積極的に行っているケースが多くあります(つまり「意欲」はあります)。しかし、能力がなく、会社に負担をかけて却って成長を邪魔しているだけというケースもままよくみられます。
例えばその支援(とくに事業会社との提携)が投資先の会社にとって有益ではない(あるいは投資後に有益ではなくなる)場合もあります。キャピタリストが優秀であれば、事業会社との提携を一度、白紙に戻すことができるかもしれません。
また、会社の成長に寄与しない例としては、事業会社との提携のための作業を多く依頼してくる結果、本業に支障が出るケースもあります。