銀行やノンバンク等から融資を受ける場合には、一定の基準をクリアしていればお金が借りられます。その「一定の基準」とは設立後の年数、提供できる担保、売上高や純資産等の財務数値です。
銀行等が融資する「一定の基準」はそれぞれの銀行等によって多少の違いがありまったく同じではないものの、ほとんど同じです。
A銀行の審査に通るのであれば、B銀行の審査も普通は通ります。トヨタ自動車が1億円お金を借りたいと言って貸してくれない銀行は日本にはありません。
一方でベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達ではそのような「一定の基準」はありません。
Cベンチャーキャピタル(VC)から投資を断られても、Dベンチャーキャピタル(VC)は投資することがよくあります。また、Cベンチャーキャピタル(VC)も、Dベンチャーキャピタル(VC)も、間違いないなく投資するベンチャー企業というのも普通はありません。
ベンチャーキャピタル(VC)の投資基準
ベンチャーキャピタル(VC)の投資基準がどのようなものであるか理解するために、まずはそれがどのようなものであるかを、次の3つの観点から見ていきます。
- 銀行等からの融資との違い
- ベンチャーキャピタル(VC)間での違い
- 同じベンチャーキャピタル(VC)における時期による違い
銀行等からの融資との違い
銀行等の融資では、予想できる未来に期待して行われます。
「リスクが少ない」「リスクをあまり取らない」と言えます。
これに対して、ベンチャーキャピタル(VC)の投資では、予想困難な未来に期待して行われます。
「リスクが大きい」「リスクを大きく取りに行く」と言えます。
ベンチャーキャピタル(VC)ごとの投資領域の違い
ベンチャーキャピタル(VC)によっては投資できる領域を限定している場合があります。その限定された領域以外には投資しないのです。
投資できる領域は、ベンチャーキャピタル(VC)の出資者の意向を汲んだものである場合もあれば、そのベンチャーキャピタル(VC)が独自に選んだものである場合もあります。
ベンチャーキャピタル(VC)の出資者の違いに基づく投資領域の限定
CVCと呼ばれる事業会社が立ち上げたベンチャーキャピタル(VC)の多くは、その事業会社との連携が可能なベンチャー企業を投資先としています。
どれだけ事業が成功する可能性が高いベンチャー企業であっても事業会社との提携の効果が生じないと判断されれば投資対象とはなりません。
また産学連携系のベンチャーキャピタル(VC)の多くは、出資母体の大学と何等か関係のあるベンチャー企業に投資を限定しています。
出資母体の大学との関係とは、投資先がその大学の先生が発明した技術を用いたベンチャーである、あるいはその大学の卒業生が創業し経営する会社である、などです。
ベンチャーキャピタル(VC)ごとの判断に基づく投資領域の限定
そのベンチャーキャピタル(VC)が独自に投資領域を限定している場合の投資領域とは以下のものがあります。
- 事業成長のステージ
- 事業の種類
- 活動地域
事業成長のステージ
- 会社が設立されたばかり「シードステージ」
- 会社の製品やサービス(プロダクト)が完成している「アーリーステージ」
- 既に一定の売上があるのか「ミドルステージ」
- 遠くない将来にIPO等による投資回収が見込まれるのか「レイターステージ」
シードステージ・アーリーステージを主として投資対象とするベンチャーキャピタル(VC)は、その投資先がミドルステージにまで成長した場合に追加で投資する場合がありますが、レイトステージに投資することはまずありません。
ミドルステージを主として投資対象とするベンチャーキャピタル(VC)は、まんべんなく、どのステージも投資対象とする傾向があります。
レイターステージを主として投資対象とするベンチャーキャピタル(VC)は、他のステージへの投資をめったに行いません。
事業の種類
ITサービス関連、創薬関連、モノづくり関連等の事業の種類のうち一つに特化したベンチャーキャピタル(VC)は、他の事業の種類の会社への投資を行いません。
活動地域
日本で事業を行う会社を投資領域として限定するベンチャーキャピタル(VC)がある一方で、海外進出を目指している、あるいはそもそも日本国内での事業を想定していない(海外でのみ事業を行う)会社のみを投資領域としているベンチャーキャピタル(VC)もあります。
また、日本で事業を行う会社の中でも特に特定の地域での事業を主として行うことに特化して投資しているベンチャーキャピタル(VC)もあります。主に地銀の立ち上げたベンチャーキャピタル(VC)がこのような投資領域の限定を行っています。
同じベンチャーキャピタル(VC)における時期による違い
ベンチャーキャピタル(VC)の投資判断は、それぞれのベンチャーキャピタル(VC)によって異なります。
ベンチャーキャピタル(VC)にはそれぞれ投資できる金額、及び社数の上限があります。
ベンチャーキャピタル(VC)の集めたお金をファンドサイズと呼びます。「ファンドサイズ100億円のファンドを立ち上げた」というように使われます。
この100億円は集めたお金の総額であり、すべてを投資に使えるわけではありません。その一部はベンチャーキャピタル(VC)を運営していくための費用となり、また追加投資もこの100億円の中から行われます。
そのため一般にファンド総額の60%程度が新規投資に使われます。仮に100億円のファンドが1社に平均して2億円を投資するのであれば、30社に投資する計算になります。
お金や投資できる社数に余裕があるうちは、それぞれの会社ごとの「良しあし」を判断しています。
しかし、投資できるお金、または社数がひっ迫してくると、投資判断も変わってきます。特に既に投資している企業(これを「ポートフォリオ」と言います)によって投資判断が変わります。
投資領域を決めていないベンチャーキャピタル(VC)を例にとってみます。
アーリーステージの会社がポートフォリオに多く含まれているベンチャーキャピタル(VC)であれば、レイターステージの会社への投資だけを行う判断をしていることがあります。
また投資領域が偏っている場合も、その領域以外の領域のベンチャー企業への投資を優先する傾向にあります。BtoC(一般顧客向けのビジネス)の企業への投資が多い場合に、残りはBtoB(企業向けのビジネス)の企業へ投資するケースがあります。
ベンチャーキャピタル(VC)は個別のベンチャー企業の何を見て投資判断をしているのか
代表的なのは以下の4点です。
- チーム
- 事業領域
- 強み
- 価格目線
チーム
人材とは、経営陣だけではなく従業員も含みます。
会社の成長のステージによって必要な人材は異なりますので、ベンチャーキャピタル(VC)投資する時点で全ての必要な人が揃ってことはありません。
- その時点で会社にいる人が適切か
- これから先、必要な人をそろえられそうか
の2点を見られます。
その時点で会社にいる人は適切か
創業者が過去に成功した実績があれば申し分ありません。
この代表例はメルカリの山田進太郎氏です。起業してその会社をM&Aで売却した実績があります。そのため新らしく立ち上げたメルカリもベンチャーキャピタル(VC)からの投資を会社の初期段階で獲得できています。
過去の企業での成功体験がない場合、次の点がよく見られます。
その事業領域を選んだ理由が起業家にあるか
事業会社でその領域の仕事をしており、課題を見つけて起業したような場合です。
実体験から不都合や課題を見つけ、その領域での起業を志したことも評価されやすいです。
経営者がその会社の経営にどれほど熱意を持っているのか
ベンチャー企業を成長させる原動力が多くの場合、社長の熱意です。逆に熱意が続かず、事業を辞めてしまう(あるいは事業を存続させても会社を成長させる意欲をなくしてしまう)ことが少なくありません。
そのため、ベンチャーキャピタル(VC)に熱意を認めてもらうことが、資金調達のためには非常に重要です。
この先、必要な人をそろえられそうか
ベンチャー企業の成長は一人でも、数人でも達成できません。途中で事業やプロダクトを事業会社へ売却することを目指しているベンチャー企業を除けば、組織を拡大することは不可避です。
ただし、人を増やしていくためには、経営者が魅力的であるだけでは不十分です。会社が成功すれば人への投資もできるようにはなりますが、金銭だけで従業員を集めてこられる(高給を支払えば優秀な人を集められる)ようなベンチャー企業は稀です。
事業領域
余りにニッチな領域のベンチャー企業は成功してもベンチャーキャピタル(VC)に大きなリターンをもたらさない一方で、あまりに巨大な市場はベンチャー企業がその全てを取りにいくのが現実的ではないからです。
また、ベンチャーキャピタル(VC)は回収(投資の終わり)を気にすることからも事業領域は重要視されます。
事業領域によっては、出口でM&Aを想定しやすいこともあります。買収候補となる事業会社が複数想定できるのであれば、ダウンサイドリスク(投資によって損失が発生するリスク)を抑えられる(より大損しにくくなる)ため、投資しやすくなります。
ただ、事業領域の選定はベンチャーキャピタル(VC)の方が詳しい可能性があります。「ベンチャー企業の持っている技術やノウハウをどの領域で使っていくのか」この先変更することも可能です。そのため、ベンチャーキャピタル(VC)に相談して一緒に考えられる場合もあります。
強み
競合する他社がいないような事業領域というのはそうそうあるものではありません。また競合する他社が全くいない領域は、事業が成功する可能性の乏しい領域であることが多いです。
競合他社に負けてしまうのでは、事業を成功させることができません。
そのため、競合相手に勝てるのか、をベンチャーキャピタル(VC)は見ています。
具体的には
- 競合に対して強みがあるのか
- それはどのような点なのか
です。
強みとして「独自の技術」(特許があればなおよいのですが)が説明できればベストです。
しかし、そのような説明ができることはまれです。その際は、その会社が取り組むアプローチの違いなどから、競合に勝てる(場合によっては競合と共存できる)と説明する必要があります。
価格目線
ここまで投資を検討しているベンチャー企業が成功・成長するのか、をベンチャーキャピタル(VC)がどのように判断するのかの基準についてみてきましたが、この価格目線だけは全く異なる視点です。
この価格とは「投資額が多いか少ないか」ではありません。
ベンチャーキャピタル(VC)が見積もる企業価値が10億円だとします。
投資時の企業価値が5億円なのであれば、買値より安く買えることになります。しかし、投資時の企業価値が20億円なのであれば買値よりも高い買い物になります。
安ければ買われやすく(つまり投資を受けやすく)、高ければ買われにくい(投資されずらい)ことになります。
- 調達する側は「なるべく企業価値を高く調達したい」と考えます。その方が多くの資金を集めることができ、より一層の成長が見込めるためです。
- 資金を拠出するベンチャーキャピタル(VC)側は「なるべく安く出資したい」と考えます。
まとめ
ベンチャーキャピタル(VC)の投資判断の基準は銀行等からの融資のように一律、明確なものではありません。
判断の基準はあるものの、ベンチャーキャピタル(VC)が個別の投資ごとに判断する事柄も多々あります。