資金繰りに困ったら、資産を売却した方が良いと言っても、なんでも売ってしまえば良いというものでもありません。今回は資産売却・資産処分を決める判断基準の原則について解説します。
資産売却・資産処分は意外と難しい
資金繰り、資金調達のために資産の売却・処分が欠かせない状態となっていても、意外と資産の売却・処分は進まないものなのです。
理由その1.思い入れの強い資産
資産を購入するときはそれなりの意図や目的があって購入したものです。売却するということはその意思決定の間違えを認めるということです。プライドが高い経営者ほど感情的な障壁があるのです。
また、先代が立てた工場であるとか、長年利用してきた本社とか、感情面で売却に踏み切れないケースもあるのです。
理由その2.担保になっている資産
通常の銀行プロパー融資や不動産担保ローンなど、資金調達のための担保として抵当権を取られている資産である可能性もあります。この場合、抵当権がついたままだと売却しても、買い手がつきません。
当然、担保から外してもらう交渉を金融機関としなければならないのです。金利を引き上げる、売却額を返済に回すなど、ある程度の条件を呑まないと交渉がまとまらないケースの方が多いのです。
理由その3.売却に時間がかかる資産
売却がしやすい資産としにくい資産があります。都内の一等地の本社ビルというのであれば、何億単位でも、すぐに買い手はつきますが、機械設備など同業者しか使いこなせないような資産の場合は、買い手を見つけるだけで一苦労です。
売却したくても、買い手がいなければできないのです。
資産売却・資産処分を決める判断基準の原則
「売るべき資産かどうか?」を判断する基準は下記のものがあります。
- 経営計画に与える影響度
- 資金繰り改善効果
- 処分の難易度
- 節税メリット
- 売却後の財務状況の改善
- 資産処分で発生するコスト
という6つの視点から検討すべきものと言えます。
1.経営計画に与える影響度
該当する資産を売却しても
- 現状の本業に影響がないかどうか?
- 将来的な経営計画に影響がないかどうか?
が重要なポイントになります。
売却したとたんに現状の売上が下がってしまう資産であれば、その売上減を考慮しなければなりませんし、同時に他の代替案を探す必要があります。
また、将来的な経営計画に対しての重要な経営資源というケースもあります。今現在は有効活用できていないけれども、2年、3年後には主軸の事業を構成する経営資源になっている可能性が高いという場合には、売却をしないという選択もあるのです。
2.資金繰りの改善効果
必要な資金に対して、売却額がどのくらいのウェイトを持つのか?ということです。
1000万円必要なのに、売却しても100万円にしかならない資産の場合、売り上げに対する影響を考慮すれば売らない方が良いという判断になるかもしれません。
1000万円必要なのに、売却して1億になる資産の場合、逆に売る必要まではないのではないか?という判断もできてしまうのです。
「いくら必要なのか?」と「売却したらいくら入ってくるのか?」と「売却したときの現在売上、将来売上に対する影響」のバランスを見極める必要があります。
3.資産処分の難易度
「じゃあ、売ろう」となっても、「数か月たっても買い手が全くつかない。時間切れ」では意味がありません。
早期に資金化できる資産なのかどうか?も判断ポイントと言えます。
処分が難しい資産の資金化までの想定期間と、資金調達が必要な期限のバランスの見極めが必要なのです。
4.節税メリット
これは「1~3」と比較すると重要度は下がってきますが
- 赤字企業であれば売却益が相殺できて節税になる
- 黒字企業であれば売却損が計上でき手節税になる
のです。
これは「現在の会社の収益状況」と「資産の売却で利益が出るのか?損失が出るのか?」のバランスで見極める必要があります。
当然、節税メリットがある資産の方を優先すべきという判断になります。
5.売却後の財務状況の改善
これは「1~3」と比較すると重要度は下がってきますが
資産を売却すると
- 自己資本比率
- ROA(総資産経常利益率)
の上昇による、財務状況の改善効果が期待されます。
収益と関係のない資産を売却すれば、とくにこの財務状況の改善が可能になります。
財務状況が改善すれば、融資などの評価も高くなるので、その後の資金調達や資金繰りも楽になるのです。
6.資産処分で発生するコスト
資産によっては資産を売却する、処分することで発生するコストがあります。
- 不動産 → 不動産業者への仲介手数料
- 有価証券 → 証券会社への手数料
などです。処分するコストが過大になってしまえば、資金繰り改善効果が下がってしまうのです。
まとめ
資産売却・資産処分を決める判断基準は
- 経営計画に与える影響度
- 資金繰り改善効果
- 処分の難易度
- 節税メリット
- 売却後の財務状況の改善
- 資産処分で発生するコスト
の6つの項目です。
どれか一つだけを見れば良いものではなく、すべての基準で各種資産を評価した上で、そのバランスを見て総合的な判断を下す必要があります。
意味のない資産売却にならないように慎重に検討することが求められます。
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