エンジェル税制とは?(エンジェル税制の仕組みと活用法)

エンジェル投資の魅力の一つがエンジェル税制を活用できることにあります。

エンジェル税制は税の優遇措置です。エンジェル税制を活用することにより税金の負担が軽くなります。

エンジェル税制は全てのエンジェル投資家が利用できるわけではありません。利用のための要件があります。また、エンジェル税制が適用されると全てのエンジェル投資家に税のメリットがあるわけではありません。エンジェル税制が適用されても、税金の負担が全く減らないこともあります。

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上手にエンジェル税制を活用して税金の負担を減らすために、エンジェル税制の仕組みと活用法を理解しましょう。

以下は、2021年3月末の情報に基づいて記載しています。

税制については、常に制度のアップデートが行われています。国税庁、中小企業庁のHP等を参照したり、税理士に確認したりして、最新の情報を確認してください。

エンジェル税制の仕組み

エンジェル税制の仕組み

エンジェル税制とは

ベンチャー企業へ投資を行った個人に対して税の優遇措置が受けられる制度

を言います。

エンジェル税制の適用を受けられるのは個人投資家のみです。

これは最終的に税優遇の恩恵を受けられるのが個人であることを意味しています。

一方で、法人の場合には、エンジェル税制の適用はないものの、「企業のベンチャー投資促進税制」というベンチャー企業へ投資した場合に税優遇を受けられる制度があります。

なぜ優遇措置が受けられるのか

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そもそもエンジェル投資を行うと、なぜ税の優遇措置が受けられるのでしょうか。

ベンチャー企業は成功するとこれまでの生産性、効率性を一気に押し上げたり、生活を便利にしてくれることが期待できます。そのため、多くのベンチャー企業が成功することで国の経済が活性化することが期待されています

ベンチャー企業が成功するために必要なもの(不足しているもの)はいろいろとありますが、起業直後の資金がその不足しているものの一つです。この不足を補うことにより、より多くのベンチャー企業が成功することが期待できます。そしてこの不足を補う方法の一つがエンジェル投資です。

これが税の優遇を行ってまで、国がエンジェル投資を増やそうとしている理由です。

teacher
エンジェル税制は、エンジェル投資を増やすことを目的として設けられている制度です。

このような政策目的を推し進めるための税制は、政策目的が変更されることに伴って変更される可能性があります。

例えば、ベンチャー企業への投資を促進する必要がなくなったと判断された場合には、この税制は廃止される可能性があります。

どのような投資がエンジェル税制の対象になるか

エンジェル税制の対象になるのはエンジェル投資家の行うエンジェル投資です。

具体的には、次の3つの要件に合致しているかでエンジェル税制の対象になるのかが判断されます。

  1. 投資の方法がエンジェル投資と言えるか
  2. 投資家がエンジェル投資家と言えるか
  3. 投資先がエンジェル投資の対象と言えるか

投資の方法がエンジェル投資と言えるか

エンジェル税制の対象となる投資は「株式投資」です。

個人が直接ベンチャー企業の株式を取得する場合を含め、以下の3種類の投資がエンジェル税制の対象となります。

      • 直接投資
      • 認定投資事業有限責任組合経由の投資
      • 認定少額電子募集取扱業者経由の投資
直接投資

個人が直接、ベンチャー企業の株式を取得する場合には、エンジェル税制の適用対象となります。

これに加えて、民法上の組合等へ投資し、その組合がベンチャー企業の株式を取得した場合にもエンジェル税制の適用対象となります。

認定投資事業有限責任組合経由の投資

投資を行う際、ファンドを経由して投資が行われる場合があります。

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ファンドとは、複数の人から資金を預かり、その資金を投資する仕組みです(投資は1社に対して行われることもありますが、複数社に行われることが通常です)。

このファンドを作る方法の一つが、投資事業有限責任組合を用いることです。これは投資事業有限責任組合法に基づき設立される、法人格を持った組合です。

投資事業有限責任組合が経済産業省の認定を受けることで、認定投資事業有限責任組合になります。この認定投資事業有限責任組合にお金を預けることでエンジェル税制の適用を受けることができます。

認定された投資事業有限責任組合の一覧は、中小企業庁のホームページで確認することができます。

2016年にウォーターベイン・テクノロジー1号 投資事業有限責任組合が認定されたのち、2021年5月末現在までに19の投資事業有限責任組合が認定されています。
認定少額電子募集取扱業者経由の投資

クラウドファンディングの一種として、株式投資型のクラウドファンディングが解禁されています。クラウドファンディングの一つ、株式投資型のクラウドファンディングは、複数の人が共同して同じ会社に投資をする仕組みです。

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多数の人が同じ会社に投資するという意味ではファンドと同じです。その違いは、クラウドファンディングを運営する業者がお金を預かることなく、ただ、多数の人の投資をまとめる役割だけを果たすことにあります。

この株式投資型のクラウドファンディングを通じて投資するエンジェル投資家は、クラウドファンディングを運用する事業者が、認定少額電子募集取扱業者であればエンジェル税制の適用を受けることができます。

認定少額電子募集取扱業者は認定投資事業有限責任組合と同様、経済産業省の認定を受ける必要があります。

認定された少額電子募集取扱事業者も、中小企業庁のホームページで確認することができます。

2021年5月末現在、5社が認定されています。

株式投資型のクラウドファンディングを行うためにはそもそも金融庁の認可が必要です。金融庁の認可を受けたクラウドファンディング事業者は6社あります。

その中の1社(AngelFunding)はエンジェル税制の適用がないことに注意が必要です。

投資家がエンジェル投資家と言えるか

エンジェル税制の適用を受けられるのはエンジェル投資家、つまり個人投資家です。

個人投資家の行う投資の中でも一定の投資だけがエンジェル税制の対象となります。この一定の、とうい条件のことを個人投資家要件といいます。つまり、個人投資家要件を満たしたエンジェル投資家の行うエンジェル投資だけがエンジェル税制の対象になります。

個人投資家要件は二つあります。

  1. 対象会社の株式を金銭の払い込みにより取得していること
  2. 同族会社への投資ではないこと
対象会社の株式を金銭の払い込みにより取得していること

エンジェル投資の対象となる未公開企業への投資は、株式投資だけではなく、貸付等により行われることもあります。エンジェル税制の対象となるのは、株式投資のみです。

また、株式投資は、対象となる会社から第三者割当増資により株式を取得して行うほか、既存の株主から株式の譲渡を受けて投資することもできます。このうち、エンジェル税制の対象となるのは、第三者割当増資により株式を取得する場合に限定されます。

なお、第三者割当増資は、株式の発行を受けるのと引き換えに、金銭を出資することもできますが、金銭以外のものを出資することも可能です(金銭以外のものを出資することを現物出資といいます)。このうち、エンジェル税制の対象となるのは、金銭の出資だけです(つまり現物出資はエンジェル税制の適用がありません)。

同族会社への投資ではないこと

自分の経営している会社への投資はエンジェル税制の対象とはなりません。また自分自身でなくても、自分の家族等、近親者の経営している会社への投資はエンジェル税制の対象とはなりません。

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この意味でエンジェル税制の対象になるのか、ならないのかを分ける基準が同族会社であるかどうかです。

具体的には、投資先の会社の上位3位までの株主グループ(個人とその親族等)が投資先の会社の株式等を50%超保有している場合、自分がその株主グループに属しているとエンジェル税制の対象ではなくなります。

投資先がエンジェル投資の対象と言えるか

エンジェル税制の対象となるエンジェル投資と言えるための投資は、ベンチャー企業に対する投資です。

エンジェル税制におけるベンチャー企業となるためには4つの要件をクリアする必要があります。

  1. (1) 中小企業要件
  2. (2) 設立経過年数要件
  3. (3) 外部株主要件
  4. (4) 適用除外要件
(1) 中小企業要件

エンジェル税制が適用されるためには投資先が中小企業でなければなりません

中小企業は中小企業等経営強化法や中小企業基本法といった別の法律でも使われている定義により判断されます。

具体的には、業種毎に、資本金のあるいは従業員数、のどちらかの要件を満たしていれば中小企業と判断されることになります。

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例えば、ITサービスの会社が広く当てはまるソフトウェア業、情報処理サービス業では、資本金が3億円以下、あるいは、従業員が300名以下であれば中小企業になります。
(2) 設立経過年数要件

エンジェル税制が適用されるためには、会社の設立後、時間の経過とともに会社が成長していることが必要です。

時間の経過は年数によって分類されています。設立後1年経過する前、1年経過後2年経過前、という具合です。

会社が成長していることは、通常、会社のプロダクトが順調にマネタイズしていることを指しています。経過年数の要件でも、売上が要件の一つとなっています。

しかし、それだけではなく会社のプロダクトを開発するための準備をしていること、具体的にはそのための人員を確保していることや、費用を投下していることでも要件を満たすことができます。

(3) 外部株主要件

エンジェル税制が適用されるのはベンチャー企業です。

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そのため、大企業の子会社や身内だけで運営されているような会社への投資にはエンジェル税制が適用されません。

大企業の子会社とは具体的には、株主が大企業及びそのグループ会社である場合を言います。大企業とは、資本金が1億円を超える会社です。

そのような大企業が株主にいること自体は問題ありません。その大企業が株式の50%超を保有する場合にエンジェル税制の適用から外れます。

複数の大企業が株式の2/3超を保有する場合にも同様にエンジェル税制の適用がありません。

また、身内だけで運用されている会社とは、株主が本人及び親族等である場合を言います。こちらは、大企業の要件よりも緩和されており、5/6超を同族で保有している場合以外、つまり同族外の株主が1/6いればエンジェル税制が適用されます。

(4) 適用除外要件

国の政策としてベンチャー企業を育成することがエンジェル税制の目的であるため、国として育成を望まない事業を行う会社はエンジェル税制の対象になりません

これは具体的には風俗営業などを行う会社を言います(この中には、キャバクラや一部のメイド喫茶、パチンコ屋などが含まれます)。

投資を検討している会社がエンジェル税制の適用対象であるかを確認するために、中小企業庁に事前確認を行うことができます。

この事前確認を行うと中小企業庁のホームページに確認を行った(結果、エンジェル税制の対象となる)会社として記録されます。つまり外部に公表されることになります。

エンジェル税制の効果と活用法

エンジェル税制の効果と活用法

いつ、税の優遇措置が受けられるのか

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エンジェル税制が適用されるタイミングは二つあります。

一つは、ベンチャー企業へ投資した時、つまり、ベンチャー企業の株式を取得した時です。

そしてもう一つは、投資して取得した株式を売却した時です。

より正確には、取得または売却した年度の税金について優遇措置が受けられることになります(後から説明する通り、効果が数年続くこともあります)。

税の優遇措置の内容とは何か

エンジェル税制が適用された結果、税の優遇措置を受けることができます。

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税の優遇措置とは一言でいえば、税金が安くなることに他なりません。

具体的に何の税金が安くなるのか、その時の税金の計算方法がどうなるのか、は税の優遇措置を受けるタイミング、即ち株式を取得したとき、売却した時、のそれぞれで異なります。

株式を取得したときの税の優遇措置

株式を取得した際の税の優遇措置は、二つあります。

一つは投資した金額を、その年の総所得金額から控除できることです(実際には投資した金額から一定の計算式で減額を行うため、投資額を全てではありません)。

総所得額は税金を計算する際の基準となる金額です。会社に勤めている人がイメージしやすいのは、給料です。

給料が高ければ高いほど、税金は高くなります。しかし、エンジェル税制が適用されるエンジェル投資を行った場合には、その分が総所得金額から控除される結果、総所得額が小さくなり、最終的に税金が安くなります。

そして二つ目は、投資した金額を、その年の株式譲渡益から控除できることです。

株式を譲渡した際、取得価格よりも高額で売れ、利益がでると、その一部を税金として支払う必要があります。エンジェル税制が適用されるエンジェル投資を行った場合には、その分、譲渡益が減り、結果として税金が安くなります。

この二つは両方を同時に使うことはできません。しかし、両方とも使える状態であれば、いずれかを選択することが可能です。

株式譲渡益からの控除ができる場合でも、総所得額からの控除ができない場合があります。この違いは投資した会社が設立後何年経過しているか、によって生じます。

株式を売却したときの税の優遇措置

株式を売却したときの税の優遇措置は、売却により損が生じた場合にのみ適用されます。

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まず、株式を売却した際の基本的な税金の考え方を整理しておきましょう。

株式の売却により損失が発生した場合の税金の処理は上場株式と未上場株式で大きく異なります。

上場株式の場合、株式の売却により生じた損失は、利益と足し合わせることができます(これを損益通算と言います)。ただしここでいう利益とは、利子や配当所得のことです(つまり、株式を売却して得た利益、譲渡益は損益通算の対象とはなりません。

一方で非上場株式の場合、原則として損益通算の制度がありません。

これに対して、エンジェル税制が適用される場合、エンジェル投資により株式の売却損が発生すると、他の株式の譲渡益を、その損失の金額だけ減らすことができます。

さらに、その年の株式譲渡益よりもエンジェル投資の損失が大きかった場合、その損失は3年間、持ち越すことができます。

つまり、次の年、その次の年、さらに次の年、に発生した株式譲渡益があれば、エンジェル投資の損失の金額に至るまで、株式譲渡益を減らし、その分税金を安くできるのです。

エンジェル税制の活用法

エンジェル税制の結果、受けられる税の優遇措置は、投資時点で総所得金額からの控除を選択した場合には、ほとんど全ての人がメリットを享受できます。全く何の収入もなく所得が0円、という人でなければ税金が安くなるためです。

これに対して、取得時に株式の譲渡益からの控除を行うためには、株式譲渡益が発生している必要があります。売却時の売却損についても同様に、株式の譲渡益が発生していなければ税の優遇措置を受けられないとの変わりがありません。

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まり、株式投資を他にもしていなければエンジェル税制を活用することは難しい、ということです。

株式投資の中でも、未上場株式への投資は譲渡益の発生するタイミングを計ることが困難です。なぜなら未上場株式の売却益は、会社がM&Aで買われるか、あるいはIPOして上場株式に変わらなければ発生しません。

M&A、IPOともにいつ起こるのか予測することが難しくエンジェル税制の適用の結果、譲渡損が使えるとなっても、

他の株式の売却とタイミングと合わせることは不可能

と言えます。

一方で、上場株式へ投資している場合には、含み益を認識でき、売却するタイミングも自由に選ぶことができます。

そのため、エンジェル税制をフルに活用するためには、上場株式への投資を行っていることが望ましいと言えるのです。

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