第三者割当増資による希薄化が中小企業経営へ与える影響とは?

第三者割当増資を株主に相談したところ、

man

「希薄化をどう考えているんだ?」

「希薄化するから反対だ!」

と言われてしまうケースがよくあります。

teacher

でも、そもそも「希薄化」とはなんでしょうか?

それは中小企業経営にとって、どのような影響があるのでしょうか?

第三者割当増資とは?

第三者割当増資とは?
teacher

まずは「第三者割当増資とは何か」を確認しておきましょう。

そもそも「増資」とは、「資本を増やすこと」です。

資本を増やすためには、会社に対してお金を提供してもらう(これを「出資」といいます)必要があります。

この出資を「特定の会社が選んだ人(あるいは人達)から受入れること」これが「第三者割当増資」です。
出資する方の立場から見れば
出資する引き換えに会社の資本の一部を株式として受け取る

ということになります。

会社に元からいた株主(既存株主)から見れば
会社の資本を持ち合う(共有する)相手が増えた

ことになります。

以下で説明する「株式の希薄化」は、この「既存株主」と「第三者割当増資を引き受ける相手」との関係の問題です。

第三者割当増資による「希薄化」とは?

第三者割当増資による「希薄化」とは?

希薄を辞書で調べてみると、

き‐はく【希薄/×稀薄】 の解説
[名・形動]

  1. 液体や気体などの濃度・密度がうすいこと。また、そのさま。「酸素の―な山頂」
  2. ある要素の乏しいこと。物事に向かう気持ち・意欲などの弱いこと。また、そのさま。「問題意識が―だ」

出典:goo辞書

増資」に関する(つまり金融用語での)「希薄化」、の「希薄」は1.の「濃度・密度がうすいこと」の意味で用いられています。濃度・密度を「薄めること」を希薄化と呼んでいるのです。

希薄になる対象は、第三者割当増資を行った際の「資本」、もっと具体的には「既存株主の権利」です。

man
では、そもそも株主はどのような権利を持っているのでしょうか?

株主が持っている権利は大きく二つあります。

  1. 会社の意思決定に参加する権利
  2. 会社から分配を受ける権利
teacher
では、実際にそれぞれの権利がどのように希薄化するのかを見ていきましょう。

会社の意思決定に参加する権利の希薄化

会社の最も重要な意思決定(取締役の選任や、合併の承認など)は「資本多数決」で行われます。

簡単に言えば

持っている資本の割合「株式割合(株式数)」に応じて議決権が与えられ、その多数決で物事が決まる

ということです。

会社のもっとも重要な意思決定には以下のようなものがあります。

  • 定款の変更
  • 取締役の選任
  • 解散や合併、会社分割など、会社の基礎的な変更の承認

いずれも会社の大きな方向性を決めるものです。

これらを行うためには株主総会で承認しなければならず、その株主総会で「株主の権利」を行使できる(使うことができる)わけです。

既存の株主は、「持っている資本の割合に応じて会社の意思決定に参加する権利」があります。

この既存株主の権利は、「第三者割当増資」により必ず「希薄化」します。

創業社長が全株式を持っている会社が「第三者割当増資」をした場合を考えてみます。

この場合、増資により割当先が取得した分だけ「社長の議決権は少なくなる」ということです。

会社から分配を受ける権利の希薄化

会社が事業をやめた場合、「清算」することになります。

清算するとは
借金や未払金をすべて支払い、残ったものを株主に、各株主が有する資本の割合に応じて、分配すること

を意味します。

この分配を受け取る権利のことをここでは「分配請求権」といいます。

株主が分配を受け取れるのは、会社が支払うものを全て支払った後、つまり一番最後です。
man

では、「第三者割当増資」により保有する資本の割合が少なくなれば、「分配請求権」も少なくなるのでしょうか?

この疑問を解決するため、まずは「第三者割当増資」の直後に解散した場合を考えてみましょう。

増資前の株主は一人。その時点での「分配請求権」は1,000万円だとします。第三者割当増資により、資本割合が50%になりました。(新しく入ってくる株主と半々で持ち合うことになりました)

この会社が「第三者割当増資」の直後に解散した場合

分配請求権は1,000万円の50%、だから500万円になる

というのは間違いです。

なぜなら、「第三者割当増資」により持ち分を取得する株主(引受先)は、その取得に見合う対価(現金)を会社に支払っているはずだからです。

staff
仮に「第三者割当増資」により1,000万円の支払いが引受先から会社に対してなされたとします。

この場合、「分配請求権」の総額は2,000万円になります。もとから存在した1,000万円は全ての支払いが終わった後の残りです。ここに新しく1,000万円が第三者割当増資により加わったとしても、支払いは増えませんが、分配できる額は増えます。分配できる額は、もともとの1,000万円に単純に1,000万円を足して、2,000万円になります。

分配請求権の対象が2,000万円になれば、持ち分が50%でも1,000万円が分配されます。つまり、分配請求権は減っていないことになります。

もともと持っていた分配請求権と、持ち分当たりで同額の支払いがなされる第三者割当増資であれば、「分配請求権」は希薄化しないのです。

「持ち分当たりで」というのは株式会社の場合「一株当たりで」と言い換えられます。

staff
「分配請求権」が同じく1,000万円、発行済みの株数が10株を自分で保有している会社を考えてみます。一株当たりの分配請求権は「1,000万円/10株」なので、100万円になります。

この会社が1株当たり100万円で第三者割当増資した場合

  1. 1株を発行すると、分配請求権は1,000万円+100万円で1,100万円、持ち株は全11株のうち、10株です。つまり、自分の分配請求権は1,000万円で変わりません。
  2. 10株発行した場合、分配請求権は1,000万円+1,000万円で2,000万円、持ち株は全20株のうち10株です。つまり、自分の分配請求権は1,000万円で変わりません。
  3. 100株発行した場合、分配請求権は1,000万円+1億円(100株×100万円)で11,000万円、持ち株は全110株のうち10株です。つまり、自分の分配請求権は1,000万円で変わりません。

一株当たりの増資金額が分配請求権と同じであれば「持ち分は希薄化しない」のです。

teacher

では、「一株当たりの増資金額」が「分配請求権」を上回る場合、下回る場合にはそれぞれ何が起こるでしょうか?

先ほどと同じ会社、分配請求権が1,000万円、発行済みの株数が10株を自分で保有している会社で考えてみます。一株当たりの分配請求権は1,000万円/10株、なので、100万円になります。
staff
まず一株当たりの発行価格を分配請求権の対象金額である100万円の半分、50万円とします。また発行する株数は10株(なので、第三者割当増資後の持ち分割合は50%)としましょう。

この場合、「分配請求権」の総額は1,000万円+500万円(50万円×10株)となり、そのうち持ち分比率に応じた50%が第三者割当増資後の「分配請求権」になります。これは、1,500万円の半分なので750万円です。

もともと1,000万円あった「分配請求権」が750万円になったわけですから、価値は棄損しています。つまり、希薄化されているということです。
staff
一方で、一株当たりの発行価格を分配請求権の対象金額である100万円の倍200万円とします。また発行する株数は同じく10株(なので、第三者割当増資後の持ち分割合は50%)としましょう。

この場合、「分配請求権」の総額は1,000万円+2,000万円(200万円×10株)となり、そのうち持ち分比率に応じた50%が第三者割当増資後の分配請求権になります。これは、3,000万円の半分なので1,500万円です。

もともと1,000万円であった「分配請求権」が1,500万円になったわけですから、価値は上昇しています。つまり、希薄化されていないということです。

いずれの例であっても、「議決権比率」は低下しています。第三者割当増資は「議決権割合」を必ず希薄化させるものの、「配当請求権」を希薄化されるかどうかは「発行価格」次第なのです。

上場企業の第三者割当増資では、超大口の株主以外は、つまり個人などの一般株主は「議決権比率」をほとんど気にしません。もともとの議決権比率が低すぎて、それが低下するデメリットをあまり感じないためです。

他方、「配当請求権」の希薄化は強く意識されます。そのため、こちらが問題として取り上げられるケースが多いです。

以上の説明は、第三者割当増資の直後に会社が解散する前提でした。

「分配請求権」は、第三者割当増資を行う時点での「分配請求権」が確定している場合にははっきりと希薄化しているかを判断できます。しかし、第三者割当増資を行う時点で解散するよりも、その後も存続した方が「分配請求権」は大きくなるはずです。

なぜなら、会社が第三者割当増資の後に発展すれば、分配請求権もまた大きくなるためです。

希薄化が中小企業の経営に与える影響とは

希薄化が中小企業の経営に与える影響とは
teacher
希薄化が何かを理解したところで、次に、希薄化が会社経営に与える影響をみてみましょう。希薄化は「議決権」「分配請求権」それぞれで別に発生するため、その影響も分けて考えてみるのが分かりやすいです。

「議決権」の希薄化

「第三者割当増資」は、既存株主の「議決権」を必ず希薄化させます。

そのため、既存株主と第三者割当増資を引受けた者(引受人)との関係では

  • 「既存株主」の影響力が低下
  • 「引受人」の影響力がその分上昇

します。

正確には「引受人が既存株主ではない場合には影響力が発生する」という表現になります。

そのため、「既存株主」がオーナー兼経営者である場合などは自分の影響力が弱まります。「引受人」が取得する議決権割合にもよるものの、会社の意思決定を、事前に引受人に相談し、納得してもらう必要が出てくることもあります。

そうなると

経営のスピードが落ちるという意味で会社にとって事業の足かせになることもあります。

一方で、会社の意思決定に口を挟む、あるいは何かと反対する「株主」がいる場合

「第三者割当増資」によりそのような困った株主の議決権を希薄化させることができます。

「引受人」が会社に協力的であれば、会社経営がスムーズになることが期待できるのです。

このように議決権の希薄化は既存株主の問題ではありますが、会社経営にとっても無視できない影響があります。

teacher
「経営への影響」として考えるべきことは、第三者割当増資を行った後の「株主の影響力」です。これを分析しておく必要があります。

会社がコントロールできる株主が少なくなると、会社が望んでいないようなM&Aの対象になりうることにも注意が必要です。

例えば、大株主が経営を行っているオーナー企業の場合、その株主の議決権が希薄化することで他の株主が有する株を買い占められてしまうこともありうるからです。

「分配請求権」の希薄化

「分配請求権」もまた、「議決権」と同様、既存株主と引受人との関係の問題です。議決権と異なり、第三者割当増資により希薄化する場合もあれば、しない場合もあります。

しかし、「分配請求権」が希薄化する場合には、議決権が希薄化する場合と同様に「会社経営への影響」を考慮すべきです。

既存株主からすると「分配請求権の希薄化」は望ましいことではありません。そして、希薄化が生じるのは、通常は「株主」に責任はなく、「経営者」に責任があります。

なぜなら「分配請求権」を希薄化させてでも第三者割当増資を行うのは

  • 会社経営が上手く行っておらず会社の価値が下がっている場合
  • 希薄化させてでも資金調達を行う必要がある場合

だからです。

「既存株主」にとって望ましくないことを引き起こした責任がある会社経営者との関係が悪化することは言うまでもありません。

teacher
経営者と株主との関係が上手く行かなくなると、株主に会社の施策に納得してもらうのが難しくなります。場合によってはより詳細な説明が必要になったりするのです。

ダウンラウンドでの第三者割当増資は希薄化なのか?

ダウンラウンドでの第三者割当増資は希薄化なのか?

会社が前回行った増資よりも低い株価で増資を行うことを「ダウンラウンド」と呼ぶことがあります。

staff

前回は1株=100円で増資した会社が、今回は1株50円で増資するような場合です。

ダウンラウンドでの第三者割当増資も、「議決権」を希薄化させますが、「分配請求権」を希薄化させるかどうかは株価次第です。事業に失敗しているケースでは、株価が下がっているためダウンラウンドでも希薄化しないこともあります。

しかし、「ダウンラウンド = 希薄化」という株主は珍しくありません。

とくに、株主が法人(会社など)である場合、「株式を取得した対価」で資産計上しています。ダウンラウンドで、第三者割当増資の単価が資産計上額を下回る場合には、その差額を「損失計上」する場合があるためです。

例えば、A社の100株を1億円で増資に応じた場合には、貸借対照表に資産・株式として1億円が記載されています(単価は、1億円/100株で100万円です)。A社が単価50万円で第三者割当増資を行った場合、A社の保有する資産も5,000万円になり、その差額の5,000万円が損失として計上される可能性があるということです。
teacher
この場合、その「損失」は税務上の損金とならない可能性が高いことにも留意が必要です。

ダウンラウンドが希薄化であるかどうかは言葉の問題に過ぎません。なんと呼ぼうと、株主によって望ましくないことに変わりないのです。

そのため、株主の不満を和らげ「ダウンラウンドでの第三者割当増資」に納得してもらわなくてはなりません。

まとめ

「第三者割当増資により希薄化が生じることは問題なのか?」

第三者割当増資により既存株主の「議決権」は希薄化し、「分配請求権」を希薄化させる可能性があります。

teacher
既存株主の権利を守る義務を経営者は負っています。

しかし、それは「希薄化が許されない」ということではありません。株主が納得すればいいからです。

「希薄化させてでも資金調達をしないと会社がの存続が危うくなる」という後ろ向きな理由による場合もありますが、「第三者割当増資により、会社の一層の成長が見込まれる」という前向きな理由による場合もあるのです。

teacher

既存株主の権利を希薄化させても、なお会社にとって利益があれば許されるのです。

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