中小企業の資金調達を目的とした「第三者割当増資」とは?第三者割当増資の仕組み・メリットデメリットをどこよりもわかりやすく解説

資金調達の手段には大きく分けて、二つの方法があります。

「借入」と「増資」です。

このうち、「増資」については、中小企業の資金調達で使われる場合、そのほとんどが「第三者割当増資」により行われます。第三者割当増資はうまく使えればメリットが大きく、単なる調達に留まらない効果を企業にもたらします。

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第三者割当増資は「借入」と比較すると複雑なため、その仕組み、そのメリット・デメリットについてしっかりと理解しておきましょう。

「増資」とは?

「増資」とは?

第三者割当増資を理解するためには、まず「増資とは何か?」を理解する必要があります。

「増資」とは

資本を用いた資金調達方法のこと

を言います。

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「増資」の仕組みを理解するために

  1. 増資と資本との関係
  2. 増資と借入との比較

を順番に見ていきます。

増資と資本との関係

繰り返しになりますが、「増資」とは「資本」を用いた資金調達方法のことです。

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まず、資本とは何を確認しておきます。
「資本」とは
学問としての「資本」の定義は様々ありますが、単純に言えば「会社の所有権 = 資本」と言います。
「その会社の資本を保有している = その会社を持っている」ということを意味します。
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では、会社を持つというのはなんでしょうか。
「会社を持つ」とは

ひとつには、

会社のことを決める権利「議決権」がある

ということです。

「資本」は何人かで分けて持つことができます。そして、その持っている数(割合)に応じて多数決で物事が決められます。「議決権」というのは分割できます。

「資本」を全部一人で持っていれば、なんでも自分の思った通りに決められます。「資本」の半分を持っていれば、50%の「議決権」を持っているということを意味します。

そしてもうひとつは

会社にある財産を受け取る権利「分配請求権」がある

ということです。

「どれだけ受け取れるのか?」は、「議決権」と同じく「持っている資本の割合」によって決まります。

「資本」を全部一人で持っていれば、すべてを自分一人が受け取れます。「資本」の50%を持っていれば、半分を受け取れることになります。

つまり、

  • 会社が儲かれば儲かるほど、資本を持っている人の取り分も多くなる
  • 自分が資本の全てを持っていれば、儲けは全て自分のものになる
  • 資本の半分を他人に渡せば、自分の取り分も半分になる

ということになるのです。

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会社から「資本」を受け取るためには、会社に対して「資本に相当する価値のある何か」を提供する必要があります。

資本に相当する価値のある何か」の代表は「お金」です。(ほかにも、「土地」「有価証券」等でも、資本を受け取れる可能性があります。)

会社に「お金」を支払って、対価として「資本(の一部)」を受け取る、これが「増資」です。

会社の「資本」を受け取るために「お金」を払うと、会社側では受け取ったお金を「資本金」として記録します。貸借対照表に「資本金」として記載されている金額がそれです。(ただし、「資本金」は、ほかの要因によっても動くため、資本金が会社に払い込まれた金額とは一致しません。)

こちらはユニクロの2018年8月末時点の貸借対照表です。資本金は右下に記載されています(10億円、がそれです)。

「会社を持つ」とは

出典:ユニクロの2018年8月末時点の貸借対照表

「増資」と「借入」との違い

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「増資」は、資本金を増やすことが分かったところで、同じ資金調達方法である「借入」との違いを次に理解しましょう。

「増資」も、「借入」も、会社の資金調達ができる手段です。つまり、「会社がお金を受け取る」という点では同じです。

違う点は

お金の出し手に対して

  • 「増資」は、会社の議決権の一部を渡す
  • 「借入」は。議決権を渡さない

点です。

そのため、「借入」では議決権を渡すことがありません。借金をしても、お金を貸してくれた人の言うことを聞く必要は、少なくとも制度上はないのです。

また、「借入」は、「分配請求権」を渡しません。代わりに期日に借りたお金を(利子をつけて)返さなくてはなりません。

一方で、「増資」では、「分配請求権」が発生するものの、受け取ったお金を返す必要がありません。

「増資」
  • 受け取ったお金を返す義務はない
  • 「分配請求権」が発生する
「借入」
  • 受け取ったお金を返す義務がある(利息を付けて返済する)
  • 「分配請求権」が発生しない

「増資」により「資本」を取得した場合、「分配権請求権」を持つというのは上記の説明の通りです。

この「分配権(分配権請求権)」の対象は「会社の財産」です。

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では、「会社の財産」とは、一旦何でしょうか?
会社の財産とは
会社が「借金」や「その他の支払い(仕入先への支払いや、従業員向けの給与など)」をすべて行って、それでも残った「余り」のことを言います。つまり、借入の支払いが先、それでも「残った分のお金」が分配されます。

言い換えると「全ての支払いが終わらなければ、分配ができない」ということです。

借入についても「貸借対照表」での扱いを見ておきます。

会社の財産とは

先ほどのユニクロの貸借対照表(2ページ目)ですが、「借入」は右上に記載されています。ユニクロの場合、純粋な銀行などからの「借入」がなく、「リース債務」がそれに近いものになります。

第三者割当増資の仕組み

第三者割当増資の仕組み

「増資」について理解したところで、「増資」の一つの方法である「第三者割当増資」の仕組みを見ていきます。

まず、「増資」する際には「何を決めなくてはいけないか?」を考えてみます。これは「増資の条件とは何か?」ということです。

その次に「条件を満たす方法」を紹介し、その方法の一つである「第三者割当増資とは何であるのか?」を見ていきます。

「増資」の条件とは

「資本」は、その所有割合に応じて「議決権」と「分配請求権」があります。増資を行うことにより、「議決権」と「分配請求権」の一部を渡すことになります。

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「議決権と分配権を渡す」これが決まっている中で、なお決めなければならない条件とは何でしょうか?

「増資」の条件には、2つあります。

  1. いくらの「増資」に対して「議決権」と「分配請求権」をどれだけ渡すか?
  2. 誰から「増資」を受けるか
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まず、どれだけ渡すのか、を考えてみましょう。
既に「資本」を持っている人からすると、なるべく他人に「資本」を渡さない方が有利です。
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自分で全ての資本を持っている状態を仮定してみます。

この会社のことはl全て好きなように決められます。儲かれば儲かっただけ、自分の得られるものが増えます。

これに対して、資本を半分、他人に渡せば、何かを決めるときには、その他人と相談しなければなりません。また、儲けの半分を、その他人に持っていかれることになります。

「増資」をする際は、このように「増資を引き受けた人」との関係が生じます。

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では、いくら受け取れば、この他人を受け入れられるでしょうか?

経済面だけを考えれば、将来の儲けを渡しても惜しくないのは、今いくらお金を出してもらえたらなのでしょうか?

増資の際には、この「いくら受け取るか」その結果「どれだけの資本を渡すのか」を決める必要があります。
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次に「誰と資本を分け合うのか?」を考えてみましょう。

「借入」の場合には、いつ返済するのかが決まっており、それまでに返済できれば誰から借りても大きな違いはないと言えます。

しかし、「資本」の場合には話が違ってきます。なぜなら、「資本」を分け合う相手は議決権を持つこととなり、会社の経営に口を出してくる可能性があるからです。また、資本を持つ相手は、自分の利益にもなるため、会社との取引を行ったり、顧客を紹介してくれたりして助けてくれることもあります。

会社経営に大きな影響を与えるため、増資を誰に対して行うかは非常に重要なのです。

「増資」の条件として考えなければならないのは

  1. 資本のどれだけの割合をいくらで渡すのか
  2. それを誰に渡すのか

の2点です。

「増資」の方法としての「第三者割当増資」

増資にはいくつか種類があります。

分類方法は「誰から増資を受けるか」です。

「増資」の条件として、誰から「増資」を受けるのかを考えることが必要ですが、その「誰かを決めると増資の方法も決まる」(あるいは増資の方法が限定される)ということです。

増資の方法は大きく3つあります。

  1. 株主割当増資
  2. 公募増資
  3. 第三者割当増資

株主割当増資

今いる株主(既存株主)全員から、すでに持っている資本の割合に応じて「増資」を受ける方法を「株主割当増資」と呼びます。

全ての株主からすでに持っている資本の割合に応じて増資を受けると

  • それぞれの株主の資本に対する割合が変わらない

という利点があります。

「株主割当増資」に参加したくない株主は増資に参加しないこともできます(その分、持ち分比率が下がります)。

株主が会社にさらにお金を入れたいと考えている場合には機能しますが、ほとんど(あるいは全て)の株主が「自分ではお金を入れたくない」と考えている場合には機能しません。

公募増資

誰から増資を受けるかを決めずに、「増資」の条件を決めて参加者を募り、応募してきた人の中から割当てる人を決める方法を「公募増資」と呼びます。

「公募増資」は、主に上場企業で使われる方法です。

上場企業は資本が小口に分散しており(株主がたくさんいるので)、資本の所有割合が大きくないため、誰が株主になっても大きな違いはありません。(私がトヨタ自動車の0.0001%の株主になっても、他の誰かががトヨタ自動車の0.0001%の株主になってもトヨタ自動車は気にしないということです。)

また、上場企業の株式はl市場で自由に売り買いできます。(その状態を「上場」といいます)日々株主が変わることをもともと許容しているとも言えます。

第三者割当増資

誰か特定の人に増資することを決めておく方法が「第三者割当増資」です。

「誰か特定の人」複数でも構いません。この方法では

誰が株主になるかを会社が選ぶことができる

のです。

第三者割当増資のメリット・デメリット

第三者割当増資のメリット・デメリット

増資とは何か、その中でも第三者割当増資がどのような位置づけのものなのか、を理解したところで、第三者割当増資にどんなメリット、デメリットがあるのかを見てみます。

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メリット・デメリットを知ることで、どのようなときに第三者割当増資を使えば良いのかが分かるようになるでしょう。

第三者割当増資のメリット

第三者割当増資のメリットは大きく三つあります。

第三者割当増資のメリット
  1. 経済的に有利
  2. 株主との関係構築が期待できる
  3. 信用が上がる

出典:J-net21

経済的に有利

とくに「借入」と比較した場合のメリットとして、「増資」の方が経済的に有利であると言われます。

これは

「借入」は返済が必要(利子も返済する)があるのに対して、「第三者割当増資」は返済する必要がない

ということを意味しています。

また、他の増資手段である「株主割当増資」や「公募増資」と比較してもコストが安いという点も第三者割当増資の経済的なメリットになります。

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公募増資は一般に募集を行うため投資家保護の法規制(金融商品取引法など)の対象となりますし、株主割当増資は株主の了解を得るためのコストが少なくないためです。

株主との関係構築が期待できる

「第三者割当増資」は会社が選んだ相手が同意することで成立します。そして、その「株主」は会社に何かしら魅力を感じているからこそ増資を引き受け株主になります。

つまり、「第三者割当増資」により、新しく株主となる人と会社が「特別な関係」を築きやすくなります。

第三者割当増資を引き受ける人は、資本の一部を保有することとなるため、「より会社の利益を大きくしたい」と願います。そのため、会社の発展のためにできることは協力してくれる可能性があります。

信用が上がる

第三者割当増資を引き受ける人がいることは「その会社の将来の収益見込みが高い」と判断した人がいる、ということを意味します。

一般に、会社のことを外部から知ることは困難ですが、自分が内容をよく知らない会社であっても、「誰かが第三者割当増資を引き受けているのであれば、良い会社である可能性が高い」と判断されることがあります。その誰かが「信頼できる人」であればなおさらです。

これは借入」の信用を増やすことにつながります。銀行などの貸出人は「誰かが信頼してお金を入れている会社には、誰もお金を入れていない会社よりも、貸出をしやすい」のです。

「借入」との関係では、第三者割当増資により会社に振り込まれたお金は、借り入れの返済が終わった後に支払われるのです。つまり「借り入れの担保となる」という点が「信用を増す」ことにつながります。

デメリット

メリットの裏にデメリットもあるのが第三者割当増資です。

デメリットも大きく3つに分けて紹介します。

  1. 資本政策上の制約になる
  2. 税金増える
  3. コストがかかる

資本政策上の制約

「会社の資本を誰がどれだけの割合で保有するか」を将来にわたって考えることを「資本政策」と言います。

一般に会社は、創業者が全ての資本を持っているところから始まります。自分で独立して商売を始めたばっかりの人にお金を提供する相手はなかなか見つからないからです。その時点では、すべてを自分で決められますし、成功したら、すべて自分のものになります。

会社が成長するにつれて「その会社の資本を持ってもいいかな」という人が増えてきます。そこで一度「増資」すると、資本の一部を他人が所有することになります。自分の持ち分比率が下がるわけです。

さらに「増資」しようとすると、さらに「持ち分比率」が下がるのが普通です。

持ち分比率を下げたくないのであれば、創業者も増資に応じる他ないのですが、増資に応じる余裕があれば創業者から会社に対して貸付が行われるなど、増資には至らないケースが多いです。

つまり、通常は「増資するたびに持ち株比率が下がっていく」のです。そうすると「議決権」が減るので「発言権」が落ちますし、「分配請求権」も少なくなってしまいます。

「資本政策」にはもう一つ、大きな課題があります。

それは一度、資本を割り当てた相手は、原則、会社から追い出すことができないということです。

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もちろん、相手も同意してくれていれば株主を変更することはできなくありません。しかし、それはあくまで相手が了解したらであって会社から強制することはできないのです。

税金が増える

「第三者割当増資」にあたっては「税金が生じる」ことがデメリットと言えます。

これは「第三者割当増資」自体が課税対象の取引となるため税金の問題が生じるということもあります。

これに加えて、税金の制度では資本金を税金計算の基準として使っているものがいくつかあることに注意が必要です。

資本金の額が大きくなると、税金が増えるケースがいくつかあるのです。
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税金の基準とされているとなると「今現在の税金が増える」だけの問題ではありません。将来の税金制度の改正の際、資本金額によっては税金がさらに増える可能性があるのです。

コストがかかる

「第三者割当増資」は、複雑な手続きを要するため、自分ひとりで全てを行うのは大変ですし現実的でもありません。そのため、弁護士や司法書士、税理士など多くの専門家の手を借りることとなり、それぞれに費用が掛かります。

また、直接の費用ではないため見過ごされがちですが、株主が増え、会社経営に口を出されるとそれに「対応するコスト」がかかる場合が多くあります。

細かい話では、新しく入った株主と話すための時間と電話代などのコストがかかる可能性があります。その株主へ報告する資料を作成するための従業員を確保することが必要となる場合もあります。

「第三者割当増資」をすることで増えるコストもあるということに注意が必要です。

まとめ

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第三者割当増資は仕組みが複雑で、メリットデメリットがはっきりした資金調達方法です。
teacher
メリットデメリットともに小さなものではなく、当たれば大きく会社を成長させることができる一方で、外すと大きな痛手となります。ぜひ、上手に利用することで自社の成長を実現させてください。

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