事業性の借入で不動産を担保に入れると、設定されるのは抵当権ではなく根抵当権であることが少なくありません。極度額の枠を決めておき、その中で借りたり返したりを繰り返す仕組みです。契約を結ぶときは、この繰り返せる点が利点として説明されます。
問題は終わり方です。抵当権なら、その借入を完済すれば役目が終わります。根抵当権はそうなりません。借入残高がゼロになっても、枠そのものは登記に残り続けます。枠を畳むには、まず「元本の確定」という段階を通す必要があります。
この記事では、元本がどういうときに確定するのか、確定したあとに何ができるのかを、民法の条文で確認します。条文は2026年9月10日にe-Gov法令検索で確認したもので、令和8年6月24日施行版です。
完済しても根抵当権が消えない理由
民法第398条の2第1項は、抵当権について「設定行為で定めるところにより、一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保するためにも設定することができる」と定めています。この形で設定された抵当権が根抵当権です。
ここで効いているのが「不特定の債権」という言葉です。特定の1本の借入ではなく、これから発生する債権もまとめて担保している。だから今の残高がゼロでも、これから発生しうる債権を担保する枠としては生きています。登記が残るのは、消し忘れではありません。
同条第2項は、担保すべき不特定の債権の範囲について「債務者との特定の継続的取引契約によって生ずるものその他債務者との一定の種類の取引によって生ずるものに限定して、定めなければならない」としています。何でも担保できるわけではなく、範囲を限定して定めることが求められています。自分の登記でその範囲がどう書かれているかは、確認しておく価値があります。
抵当権と根抵当権のそもそもの違いは抵当権と根抵当権の違いで整理しています。ここから先は、終わらせ方に絞って進めます。
元本が確定するとは、どういう状態か
元本の確定とは、担保される債権がその時点のものに固定されることです。確定するまでは枠の中で新しい借入が生まれるたびに担保の対象が入れ替わりますが、確定した瞬間から、根抵当権は「そのとき存在する債務を担保するだけのもの」に変わります。
この変化は実務上とても大きなものです。確定前は、極度額の減額も根抵当権の消滅も請求できません。逆に確定すると、後で見る2つの請求ができるようになります。枠を畳みたいのに何も動かせないという状況は、たいてい元本が確定していないことが原因です。
確定前でも変えられるものはあります。民法第398条の4第1項は、元本の確定前においては担保すべき債権の範囲の変更ができ、債務者の変更も同様だとしています。第2項では、この変更に後順位の抵当権者その他の第三者の承諾は不要とされています。ただし第3項に、変更について元本の確定前に登記をしなかったときは変更をしなかったものとみなす、と書かれています。登記まで済ませて初めて効力が残る、という組み立てです。
入り口1:請求によって確定する
元本を確定させる方法のひとつが、請求です。民法第398条の19が定めています。ここで大事なのは、設定者と根抵当権者で条件がまったく違うという点です。
| 誰が請求するか | いつ請求できるか | いつ確定するか |
|---|---|---|
| 根抵当権設定者(担保を出した側) | 根抵当権の設定の時から3年を経過したとき | その請求の時から2週間を経過することによって確定 |
| 根抵当権者(貸した側) | いつでも | その請求の時に確定 |
設定者の側には「設定から3年」という待ち時間があり、請求してからさらに2週間かかります。根抵当権者の側にはどちらの制限もありません。設定して間もない時期に、担保を出した側の都合だけで枠を畳むことはできないということです。
ただし同条第3項に例外があります。担保すべき元本の確定すべき期日の定めがあるときは、前2項の規定は適用しない、というものです。契約で確定期日を決めているなら、そちらが優先します。
入り口2:あらかじめ定めた期日で確定する
その確定期日については、民法第398条の6が定めています。担保すべき元本について確定すべき期日を定め、または変更することができるとしたうえで、第3項に「第一項の期日は、これを定め又は変更した日から五年以内でなければならない」と書かれています。
5年という上限があるため、期日を定めておけば少なくとも5年ごとには確定の機会が来ることになります。逆に、期日を定めていない根抵当権は、放っておくと確定しません。事業を続けている間は使い勝手がよくても、相続や事業承継、担保物件の売却といった場面で、確定していないこと自体が障害になります。
第4項にも注意が要ります。期日の変更について変更前の期日より前に登記をしなかったときは、担保すべき元本はその変更前の期日に確定する、というものです。延長したつもりでも、登記が間に合わなければ元の期日で確定します。
入り口3:法律上、当然に確定する4つの場合
請求も期日もなく、事実が起きたことによって確定する場合があります。民法第398条の20第1項が4つ挙げています。
- 一号 根抵当権者が抵当不動産について競売もしくは担保不動産収益執行、または第372条において準用する第304条の規定による差押えを申し立てたとき(競売手続もしくは担保不動産収益執行手続の開始または差押えがあったときに限る)
- 二号 根抵当権者が抵当不動産に対して滞納処分による差押えをしたとき
- 三号 根抵当権者が、抵当不動産に対する競売手続の開始または滞納処分による差押えがあったことを知った時から2週間を経過したとき
- 四号 債務者または根抵当権設定者が破産手続開始の決定を受けたとき
並べてみると、いずれも回収や倒産に関わる場面です。取引が順調に続いている限り、当然確定は起きません。言い換えれば、この4つに当たらない状況で枠を畳みたいなら、請求か期日のどちらかを使うことになります。
同条第2項には戻す規定もあります。第1項第三号の競売手続の開始もしくは差押え、または第四号の破産手続開始の決定の効力が消滅したときは、担保すべき元本は確定しなかったものとみなす、というものです。ただし、元本が確定したものとしてその根抵当権またはこれを目的とする権利を取得した者があるときはこの限りでない、というただし書きが付いています。
確定したあとにできる2つの請求
元本が確定すると、それまで使えなかった請求ができるようになります。民法第398条の21の極度額の減額請求と、第398条の22の根抵当権の消滅請求です。
減額請求は、根抵当権設定者ができます。条文は、元本の確定後においては、その根抵当権の極度額を、現に存する債務の額と以後2年間に生ずべき利息その他の定期金及び債務の不履行による損害賠償の額とを加えた額に減額することを請求することができる、としています。実際の債務に見合う大きさまで枠を縮める請求です。登記上の極度額が下がれば、その分だけ後順位で借りられる余地が広がります。
消滅請求のほうは、対象者が違います。他人の債務を担保するためその根抵当権を設定した者、または抵当不動産について所有権、地上権、永小作権もしくは第三者に対抗することができる賃借権を取得した第三者が対象です。つまり物上保証人と第三取得者であって、債務者本人ではありません。
条件は、現に存する債務の額が根抵当権の極度額を超えるときです。この場合に極度額に相当する金額を払い渡し、または供託して消滅請求ができ、その払渡しまたは供託は弁済の効力を有すると定められています。担保割れの物件を引き取った第三者が、極度額の分だけ払って権利関係を整理できるようにした規定です。
相続と合併のときは、期限のある手続きがある
事業を続けているつもりでも、当事者が代わると期限が動き出します。民法第398条の8と第398条の9が、相続と合併の場合を分けて定めています。
相続については、元本の確定前に債務者について相続が開始したとき、根抵当権は相続開始の時に存する債務のほか、根抵当権者と根抵当権設定者との合意により定めた相続人が相続の開始後に負担する債務を担保する、とされています。根抵当権者について相続が開始した場合も同じ構造の定めがあります。そして第4項が決定的です。この合意について相続の開始後6か月以内に登記をしないときは、担保すべき元本は相続開始の時に確定したものとみなされます。枠を引き継ぐつもりなら、6か月という期限を知らずに過ごすわけにはいきません。
合併の場合は期限がさらに短くなります。第398条の9第3項により、根抵当権設定者は担保すべき元本の確定を請求できます(債務者が根抵当権設定者であるときを除く)。第5項は、この請求について合併のあったことを知った日から2週間を経過したとき、または合併の日から1か月を経過したときはできないとしています。請求があったときは、担保すべき元本は合併の時に確定したものとみなされます。
抵当権と根抵当権で、終わり方はここが違う
ここまでを、抵当権と並べて整理します。同じ「不動産を担保に入れる」でも、終わらせるまでの段取りが違います。
| 比べる点 | 抵当権 | 根抵当権 |
|---|---|---|
| 担保する債権 | 特定の債権 | 一定の範囲に属する不特定の債権を、極度額の限度で担保する |
| 完済したとき | 担保する債権が消えれば役目を終える | 残高がゼロでも枠は残る |
| 畳むための前段階 | 特になし | 担保すべき元本の確定が必要 |
| 確定させる方法 | — | 請求(第398条の19)/確定期日(第398条の6)/法定の確定事由(第398条の20) |
| 確定後にできる請求 | — | 極度額の減額請求(第398条の21)/根抵当権の消滅請求(第398条の22) |
| 借入と返済の繰り返し | そのつど設定し直す | 元本の確定前は枠の中で繰り返せる |
この差は、借りる時点では見えにくいところです。繰り返し使えるという利点と、畳むのに手順が要るという負担は、同じ仕組みの表と裏になっています。枠を使い続ける前提なら前者が効き、いずれ整理する前提なら後者を先に見ておく必要があります。
契約前と契約後に確かめておく項目
条文を踏まえると、自分の契約で確認すべき点がはっきりします。
- 確定期日の定めがあるか 定めがあれば第398条の19の請求は使えない。定めがなければ、設定から3年経つまで設定者側からは請求できない
- 担保すべき債権の範囲がどう書かれているか 第398条の2第2項により、範囲は限定して定めることとされている
- 極度額がいくらか 実際の借入額ではなく、枠の大きさが登記される
- 債務者が誰か 法人と代表者個人のどちらが債務者として登記されているか
- 共同根抵当かどうか 複数の不動産に設定されている場合、第398条の16の登記の有無で扱いが変わる
最後の共同根抵当は見落とされやすい項目です。第398条の16は、複数の不動産についての規定が適用されるのは、設定と同時に同一の債権の担保として数個の不動産につき根抵当権が設定された旨の登記をした場合に限る、としています。第398条の17第2項では、その登記がされている根抵当権について、一個の不動産についてのみ確定すべき事由が生じた場合でも元本は確定するとされています。
担保に入れられる不動産の余力がどう見られるかは不動産担保ローン審査の実態で、会社ごとの担保条件の違いは不動産担保ローンを条件で絞るで扱っています。
根抵当権を使う商品の例
実際に根抵当権を設定する商品は、繰り返し利用できるタイプに多く見られます。たとえば不動産担保型L&Fカードローンは、公表条件で担保として「不動産に根抵当権を設定させていただきます」と明記し、金銭消費貸借基本契約と根抵当権の設定登記が完了すれば利用限度額の範囲内で繰り返し利用できると説明しています。
一方、同じ会社の不動産活用ローンは証書貸付型で、原則として第一順位の抵当権を設定するとしています。同じ会社の商品でも、繰り返し借りられる設計かどうかで担保の付け方が分かれます。申し込む前に、どちらの型なのかを確認しておくと、終わらせ方の見通しも立てやすくなります。
根抵当権を使うのはカードローン型に限りません。ビジネスパートナーの不動産担保ローンは目的ローンとフリーローンの2商品とも、担保として「土地・建物 ※不動産に根抵当権を設定させて頂きます。」と公表しています。限度額の範囲内で繰り返し利用する設計のため、完済しても枠が残るという性質はここでも同じです。中途解約手数料が不要と公表されていても、抹消登記にかかる費用は別に発生します。
不動産担保ローン全体の仕組みと費用が発生する場所は不動産担保ローンとはに、会社を選ぶときの判断材料は不動産担保ローン会社の選び方にまとめています。
よくある質問
借入残高がゼロになれば根抵当権は消えますか。
消えません。根抵当権は一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度で担保するもので、残高がゼロでも枠として残ります。畳むには、まず担保すべき元本を確定させる必要があります。
設定者から元本の確定を請求できますか。
民法第398条の19第1項により、根抵当権の設定の時から3年を経過したときに請求できるとされています。この場合、担保すべき元本は請求の時から2週間を経過することによって確定します。ただし、確定すべき期日の定めがあるときはこの規定は適用されません。
確定期日は何年先まで設定できますか。
民法第398条の6第3項により、定めた日または変更した日から5年以内でなければならないとされています。期日の変更について、変更前の期日より前に登記をしなかったときは、変更前の期日に確定します。
極度額を下げてもらうことはできますか。
元本の確定後であれば、根抵当権設定者は極度額の減額を請求できます。減額後の額は、現に存する債務の額に、以後2年間に生ずべき利息その他の定期金と債務の不履行による損害賠償の額を加えた額とされています。確定前には請求できません。
債務者本人が消滅請求をできますか。
第398条の22の消滅請求ができるのは、他人の債務を担保するために根抵当権を設定した者(物上保証人)と、抵当不動産について所有権などを取得した第三者です。債務者本人が使える規定ではありません。
手続きは自分で進められますか。
元本確定の請求や登記の手続きは、契約と登記の内容によって進め方が変わります。この記事は条文で仕組みを確認するものであり、個別の事案について判断するものではありません。実際に進めるときは、弁護士または司法書士にご相談ください。
この記事の調査方法
本文の条文はすべて、e-Gov法令検索の「民法(明治二十九年法律第八十九号)」令和8年6月24日施行版から、2026年9月10日に確認したものです。引用は各条の該当項からの抜粋で、共同根抵当に関する規定など一部の項は省略しています。
商品の担保条件については、各社が公式サイトで公表している融資条件を確認日とあわせて記載しています。当サイトは個別の契約について法律上の判断を行いません。登記の内容や手続きの可否については、司法書士・弁護士にご確認ください。
出典
- e-Gov法令検索「民法(明治二十九年法律第八十九号)」(令和8年6月24日施行版。2026年9月10日に第398条の2・第398条の4・第398条の6・第398条の16・第398条の17・第398条の8・第398条の9・第398条の19・第398条の20・第398条の21・第398条の22を確認)
- L&Fアセットファイナンス「不動産担保型L&Fカードローン」(2026年9月10日確認)




