資金調達方法の中に「セール&リースバック」というものがあります。今回は、セール&リースバックで資金調達する方法について、メリットデメリット・手順をわかりやすく解説します。
「セール&リースバック」で資金調達する方法とは?
セール&リースバックとは?
セール&リースバックとは、「セール(売却)」と「リースバック(リース契約で借りる)」ことを同時に行う手続きのことを言います。
企業が保有している資産である「不動産」「機械」「車」などをリース会社に「売却(セール)」して、同じ資産を「リース契約で借りる」ことをセール&リースバックと言います。
セール&リースバックの仕組み
- 【資金需要がある企業】資産の売却
- 【リース会社】資産の買取、買取代金の支払い
- 【リース会社】所有権が移転
- 【資金需要がある企業】リース会社から、今まで利用していた同じ資産をリースで借りる
- 【資金需要がある企業】毎月、リース料金を支払う
セール&リースバックでは、まず資金調達が必要な企業が、資産をリース会社に売却することから始まります。
ことを意味しています。
通常の資産の売却であれば、これで終わりなのですが、セール&リースバックでは、売却した資産をリース契約で再び借りる仕組みです。
資金需要がある企業にとってみれば
- 今まで事業に使っていた資産(不動産、車、機械設備)などをそのまま使える
- 資産は売却しているので、売却したお金が入ってくる
というメリットがあるのです。
リース会社からすれば
- 自社の資産が増える
- リース料が毎月入ってくる
メリットがあるのです。
リースとは
リースとレンタルの違い
どちらも「資産を貸すサービス」であることに違いはありませんが
大きな違いは
- リース:半年から10年という長期の契約
- レンタル:時間単位、日単位の短期の契約
という違いです。
リースとレンタル比較
項目 | リース | レンタル |
---|---|---|
対象物件 | あらゆる動産、不動産 ・情報機器 ・事務用機器 ・産業機械 ・工作機械 ・土木建設機械 ・医療機器 ・輸送用機器 ・商業用機器 ・サービス機器 ・不動産 ・自動車 |
不特定多数の方が利用するもの 自動車 建設機械 貸衣装 CD・DVD等 |
契約期間 | 比較的長期 (半年~10年) |
短期間 (時間、日、週単位等) |
所有権 | リース会社 | レンタル会社 |
物件の維持・管理責任 | 利用者 | レンタル会社 |
利用料金 | レンタルよりも安い 物件価格 × リース料率 |
レースよりも高い 一定の契約料 |
中途解約 | 原則できない | できる |
契約期間満了後 | 再契約で延長 返却 |
再契約せずに延長 返却 |
「セール&リースバック」の例
試算条件
- 対象設備:医療機器C
- リース料:2.0%
- 資金需要がある企業:A社
- リース会社:B社
- 2020年1月1日、A社は、医療機器Cを8,400万円で購入
- A社は、経営の悪化により、5,000万円の資金調達が必要になる
- A社は、経営を継続するために医療機器Cは使い続ける必要があるため、売却はできない
- B社にセール&リースバックを依頼
- 2021年1月1日、A社は、B社に医療機器Cを6,000万円で売却
- A社は、B社から医療機器Cを5年契約のリースで借りる
- A社は、B社にリース料を毎月120万円支払う
その対価として、今まで発生しなかった毎月のリース料金120万円を5年間リース会社に支払う必要があります。
これが「セール&リースバック」です。
「セール&リースバック」ができる資産とは?
「セール&リースバック」の対象になるものは
- 情報機器:電子計算機、パソコン、周辺機器、通信機器など
- 事務用機器:コピー機、ファクシミリ、シュレッダーなど
- 産業機械:印刷機械、成型機、半導体製造装置、食品加工機械、産業用ロボット、金型など
- 工作機械:旋盤、研削盤、溶接機、マシニングセンタなど
- 土木建設機械:油圧ショベル、トラクタ、クレーン、高所作業車など
- 医療機器:診断用機器、手術用機器、歯科用機器など
- 輸送用機器:フォークリフト、コンテナー、自動車、鉄道車両、船舶、航空機など
- 商業用機器:店舗用什器・備品、冷蔵冷凍機、調理・厨房機器など
- サービス機器:パチンコ設備、スポーツ娯楽設備、ガソリンスタンド設備、駐車設備、自動販売機など
- 自動車:自家用車、トラック、特殊車両、バイク
- 不動産:土地、戸建て、マンション、オフィスビル、工場、店舗、駐車場、ホテル
多岐にわたります。
- 不動産のリースバックのことを「不動産リースバック」
- 自動車のリースバックのことを「オートリースバック」
と呼ぶことがあります。
「セール&リースバック」で資金調達するメリット
メリットその1.まとまった資金が手に入る
セール&リースバックでは「資産をリース会社に売却する」ところから始まります。資産を売却することで、売却金が入ってきます。
メリットその2.売却した資産を使い続けられる
セール&リースバックの最大の特徴は
通常の売却で、資産を売却しただけであれば、資産は購入者に渡さなければならなくなり、使い続けることができなくなってしまいます。
会社の経営に不要な資産であれば、通常の売却で構わないのですが
「その工場がないと、商品を生産できない。」
「その車がないと、営業ができない。」
となってしまうことが多く、単純な資産の売却は選択できないことが多いのです。
メリットその3.資本効率向上・財務体質が改善する!
資産を売却することで、BS(バランスシート)がスリムになります。今まで、固定資産にあった分が、売却によって現金化され、その現金で借り入れなどの返済をすることで、借入金額を減らすことができるからです。
セール&リースバックで
- ROA(当期純利益/総資産) アップ↑
- 自己資本比率(自己資本/総資産) アップ↑
- 総資産回転率(売上高/総資産) アップ↑
- D/Eレシオ(有利子負債/純資産) ダウン↓
メリットその4.コストの平準化が図れる!
不動産や動産を資産として所有していると
- 減価償却費
- 固定資産税
- 保険料
など、資産を保有するために必要なコストが発生するのですが、これらは一定の金額ではありません。毎年、減価償却費や固定資産税などの変動があるため、それに伴う税務申告などの経理作業コストも大きいのです。
「セール&リースバック」で資金調達するデメリット
デメリットその1.通常の資産の売却よりは、売却額は安くなる可能性が高い
セール&リースバックというのは、買い手にとっては、通常の売買よりも不利な買い物になります。
なぜなら、
「買ってから、第三者に貸すことができない(貸し先が決まっている)」
からです。
不利な買い物だからこそ、通常の資産の売買と比較すると、1割~3割ほど割安な売却額になってしまうのです。
デメリットその2.リース料は、それなりに金利負担が大きい
リース契約の計算
- リース料率:2.0%
- 契約期間:5年
- 物件価格(売却額):6,000万円
毎月支払うリース料 = 6,000万円 × 2.0% = 120万円
と計算します。
これを金利換算すると
- 毎月支払うリース料:120万円 × 60カ月(5年) = 7,200万円
6,000万円の物件に対して、5年で1,200万円多く返済している状態ですので
- 利息(年率)換算 = 1,200万円 / 6,000万円 / 5年 = 年率4.0%
と考えてしまいがちなのですが、実際には、借入で考えると、はじめは6,000万円の元本でも、完済時には元本は0円にならなければならないため、平均すると、元本は6,000万円ではなく、半分の3,000万円になります。
- 利息(年率)換算 = 1,200万円 / 3,000万円 / 5年 = 年率8.0%
です。
つまり、5年リースで、リース料率2.0%だと、利息負担は、年率8.0%になるのです。
資金調達での利息負担の目安
- 公的融資:1.0%~3.0%
- 銀行融資:1.0%~5.0%
- 不動産担保ローン:5.0%~10.0%
- セール&リースバック:5.0%~10.0%
- ビジネスローン:10.0%~15.0%
デメリットその3.セール&リースバックができないケースもある!
どんな状況でも、リースバックができるわけではありません。
例えば、リースバックをしようとしている資産(機械設備、不動産、自動車)に担保が付いているケースも少なくありません。
銀行から融資を受けて、資産(機械設備、不動産、自動車)を購入していれば、それに対して、抵当権が設定されている可能性も高いのです。
抵当権を解除してもらうためには、銀行に抵当権の設定金額を返済しなければなりません。
少なくとも
でなければ、銀行は抵当権の設定を解除してくれず、売却ができないのです。
また、リース会社が「リース料が支払えなくなる可能性が高い」と判断されるケースでも、セール&リースバックはできません。
デメリットその4.リース料を滞納すれば、資産が引き上げられる!
リース契約というのは、リース料を支払うことで、資産を借りる契約です。
リース料の支払いを滞納してしまえば、リース会社は、契約違反として、資産を引き上げてしまいます。
セール&リースバックの場合は、元々、自分(自社)が所有している資産なので、感覚がマヒしてしまいがちですが、セール&リースバックをした段階で所有権は、リース会社に移っているのです。
セール&リースバックを利用する手順
手順その1.リース会社に申し込む
ほとんどのリース会社であれば、セール&リースバックに対応しています。
注意しなければならないのは、資産の種類によって、申込むリース会社が異なる点です。
- 機械設備 → 機械設備の扱いのあるリース会社
- 自働車 → 自動車リース(オートリース)の扱いのあるリース会社
- 不動産 → 不動産リースバック業者
手順その2.希望条件、資産の状況、経営状況を伝える
- いくらで売却したいのか?の希望額
- どのくらいのリース期間を希望するか?
- 現状の資産の状況(いくらで購入したか?抵当権の有無、どういう資産か?)
- 会社の経営状況(必要であれば決算書などの提出)
手順その3.リース会社の審査
提出した情報を基に、リース会社が審査をします。
手順その4.リース会社から条件提示
審査が通過していれば、条件提示があります。
- 買取価格
- リース料(リース料率)
- リース期間
手順その5.契約
リース契約、売買契約を同時に行います。
手順その6.売却金額の支払
リース会社が買い取った金額を入金します。
手順その7.リース料の支払い
毎月、リース料を支払います。
「セール&リースバック」での資金調達をおすすめする方
「セール&リースバック」での資金調達をすべき方は
- 銀行からの融資が受けられない方
- 銀行からの融資枠を残しておきたい方
- まとまった金額の資金調達が必要な方
- バランスシートのスリム化(財務体質の改善)を検討している方
です。
前述した通りで、セール&リースバックは、比較的利息負担の大きい資金調達方法となります。
ただし、
という状況で
「ある程度の資金が必要」
かつ
「資産はあるが、売却してしまうと経営ができなくなる。」
という方には、セール&リースバックは、うってつけの資金調達方法と言えます。
「セール&リースバックの資金調達するメリットデメリットを教えてください。」
「セール&リースバックの資金調達は、どのような手順で行えば良いでしょうか?」