手順の要点
- 社債を出すときに会社が決める項目は、会社法第676条に12号まで列挙されています。思いつきで決めるのではなく、条文の順に埋めていく作業です。
- 取締役会設置会社では、第676条第1号の募集社債の総額などの決定は取締役に委任できないと会社法第362条第4項第5号が定めています。取締役会の決議が要ります。
- 引受先が1人で総額を引き受ける契約を結ぶなら、会社法第679条により申込みと割当ての手続(第677条・第678条)は適用されません。
- 社債管理者は原則として必要ですが、会社法第702条ただし書と会社法施行規則第169条により、総額を各社債の金額の最低額で割った数が50を下回るときは置かなくてよいとされています。
- 発行したら遅滞なく社債原簿を作り(第681条)、本店に備え置きます(第684条)。発行して終わりではありません。
少人数私募債は、届出も登記も要らない代わりに、会社が自分で書面を揃えて進める資金調達です。何をどの順で決めるのかは会社法に書かれています。ここでは条文に当たりながら、決議から償還までの流れを追います。制度そのものの位置づけは私募債による資金調達とはで扱っています。
発行から償還までの流れと根拠条文
まず全体像です。それぞれの段階に対応する条文を併記します。
少人数私募債の進み方
募集社債の内容を決める
会社法第676条が列挙する12号の事項を決定します。
取締役会で決議する
会社法第362条第4項第5号により、取締役への委任ができない事項です。
引受けを申し込もうとする人へ通知する
会社法第677条第1項。商号と第676条各号の事項を伝えます。
申込みを書面で受ける
会社法第677条第2項。氏名・住所、引き受けようとする金額と数を記載した書面です。
割当てを決めて通知する
会社法第678条。払込期日の前日までに割当額を通知します。
払込みを受ける
第676条第10号で定めた期日に払い込まれ、申込者は社債権者になります(第680条第1号)。
社債原簿を作る
会社法第681条。発行日以後遅滞なく作成し、本店に備え置きます(第684条第1項)。
利息を払い、満期に償還する
支払方法と期限は第676条第4号・第5号で決めた内容に従います。
出典:e-Gov法令検索「会社法(平成十七年法律第八十六号)」第362条・第676条〜第684条(2026年10月9日に条文を取得)。
見てのとおり、登記も官庁への届出も流れのなかに出てきません。そのぶん、書面が揃っているかどうかを自社で管理する必要があります。
会社法第676条が求める12の決定事項
最初の作業は内容の決定です。条文は次のように始まります。
(募集社債に関する事項の決定)会社法第六百七十六条
会社は、その発行する社債を引き受ける者の募集をしようとするときは、その都度、募集社債(当該募集に応じて当該社債の引受けの申込みをした者に対して割り当てる社債をいう。以下この編において同じ。)について次に掲げる事項を定めなければならない。
出典:e-Gov法令検索「会社法」第676条柱書(2026年10月9日に条文を取得)。各号には募集社債の総額、各募集社債の金額、利率、償還の方法及び期限、利息支払の方法及び期限などが並びます。

条文の並びは、そのまま募集要項の項目になります。「決めてから条文を探す」のではなく「条文の号を順に埋める」ほうが漏れません。各項目をどう決めるかは少人数私募債を発行する上で決定しなければならない事項で詳しく扱います。
決議は取締役会。取締役への委任はできない
決めた内容は、取締役会設置会社であれば取締役会にかけます。根拠は社債の章ではなく取締役会の権限の条文にあります。
(取締役会の権限等)会社法第三百六十二条第四項第五号
取締役会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。……五 第六百七十六条第一号に掲げる事項その他の社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項として法務省令で定める事項
出典:e-Gov法令検索「会社法」第362条第4項第5号(2026年10月9日に条文を取得)。第676条第1号は募集社債の総額です。
つまり募集社債の総額を代表取締役の一存で決めることはできません。取締役会を置いていない会社では機関設計に応じた決定方法になりますが、いずれにしても「決めた事実を議事録に残す」ことが後の説明の土台になります。株主総会の決議は、会社法上は社債の発行の要件として出てきません。
申込みと割当て。総額引受契約なら手続きが減る
引受先への働きかけ方は2通りあります。募集の形を取るか、総額を引き受ける契約を結ぶかです。条文上の扱いがはっきり違います。
| 比べる点 | 募集の手続きで進める | 総額引受契約で進める |
|---|---|---|
| 根拠 | 会社法第677条・第678条 | 会社法第679条(前二条の規定は適用しない) |
| 引受先への通知 | 必要(商号と第676条各号の事項) | 条文上の通知義務はない |
| 申込書面 | 必要(氏名・住所、金額と数を記載) | 契約書に置き換わる |
| 割当ての通知 | 必要(払込期日の前日まで) | 不要 |
| 使いやすい場面 | 複数の縁故者から少しずつ集める | 1社・1人が全額を引き受ける |
| 社債権者になる根拠 | 第680条第1号(割り当てられた申込者) | 第680条第2号(総額を引き受けた者) |
出典:e-Gov法令検索「会社法」第677条〜第680条(2026年10月9日に条文を取得)。実務上どちらを使うかは引受先の人数と関係によります。
募集の形を取る場合、会社は申込みをしようとする者へ商号と第676条各号の事項を通知し、相手は氏名または名称・住所と引き受けようとする金額を書面で出します。この書面は電磁的方法でも差し支えないと第677条第3項が定めています。割当ては会社が決めてよく、申し込まれた数より減らすこともできます(第678条第1項後段)。
書面として残るもの
取締役会議事録
第676条の事項を決議した記録。
引受けの申込みをしようとする者への通知
第677条第1項。募集要項がこれに当たります。
申込みの書面
第677条第2項。電磁的方法も可(同条第3項)。
割当ての通知
第678条第2項。払込期日の前日までに出します。
社債原簿
第681条。発行日以後遅滞なく作成します。
払込みの後は社債原簿。本店に備え置く
払い込まれたら、申込者は割り当てられた募集社債の社債権者になります(第680条第1号)。次にやることが社債原簿の作成です。
(社債原簿)会社法第六百八十一条
会社は、社債を発行した日以後遅滞なく、社債原簿を作成し、これに次に掲げる事項……を記載し、又は記録しなければならない。
出典:e-Gov法令検索「会社法」第681条柱書(2026年10月9日に条文を取得)。記載事項には種類ごとの社債の総額、各社債の金額、払い込まれた金銭の額と払込みの日、社債権者の氏名または名称および住所などが含まれます。
作った社債原簿は本店に備え置きます(第684条第1項)。社債権者などは営業時間内であればいつでも閲覧や謄写を請求でき、会社は第684条第3項の各号に当たる場合を除いて拒めません。身内から集めたからといって、原簿を作らずに済ませられる条文はありません。社債権者は第682条第1項により、自分の分の記載事項を書面で交付するよう請求することもできます。その書面には、社債発行会社の代表者が署名するか記名押印しなければならないと第682条第2項が定めています。
原簿に何を書くかは第681条の各号と、その第1号・第7号を受ける会社法施行規則で決まります。第681条第1号の「種類」の中身は施行規則第165条が14号まで列挙しており、利率、償還の方法及び期限、利息支払の方法及び期限、社債券を発行するときはその旨、社債管理者を定めないこととするときはその旨などが含まれます。
| 社債原簿に記載・記録する事項 | 根拠 |
|---|---|
| 社債の種類(利率、償還の方法及び期限、利息支払の方法及び期限、社債券発行の有無、社債管理者を定めないこととするときはその旨など) | 会社法第681条第1号/会社法施行規則第165条 |
| 種類ごとの社債の総額および各社債の金額 | 会社法第681条第2号 |
| 各社債と引換えに払い込まれた金銭の額および払込みの日 | 会社法第681条第3号 |
| 社債権者の氏名または名称および住所(無記名社債の社債権者を除く) | 会社法第681条第4号 |
| その社債権者が各社債を取得した日 | 会社法第681条第5号 |
| 社債券を発行したときは、社債券の番号、発行の日、記名式か無記名式かの別、無記名式の社債券の数 | 会社法第681条第6号 |
| 金銭以外の財産の給付があったときはその価額と給付の日、相殺があったときはその債権の額と相殺の日 | 会社法第681条第7号/会社法施行規則第166条 |
出典:e-Gov法令検索「会社法」第681条および「会社法施行規則」第165条・第166条(2026年10月9日に条文を取得)。
閲覧を請求できる人の範囲も施行規則が定めています。会社法施行規則第167条は、会社法第684条第2項の「法務省令で定める者」を社債権者その他の社債発行会社の債権者および社債発行会社の株主または社員としています。社債を引き受けていない株主でも請求できるということです。会社は請求の理由が権利の確保・行使に関する調査以外である場合など、第684条第3項の各号に当たるときに限って拒めます。
通知が要らない場合と、内容が変わったとき
第677条第1項の通知には例外があります。同条第4項は、第1項各号に掲げる事項を記載した金融商品取引法第2条第10項に規定する目論見書を交付している場合その他、引受けの申込みをしようとする者の保護に欠けるおそれがないものとして法務省令で定める場合には適用しないとしています。縁故者だけを相手にする少人数私募債で目論見書を使う場面は多くありませんが、条文上の建て付けとして押さえておくと説明がぶれません。
通知する事項そのものにも、施行規則の上乗せがあります。会社法施行規則第163条は、第677条第1項第3号の法務省令で定める事項を、社債管理者・社債管理補助者・社債原簿管理人を定めたときのそれぞれの名称と住所としています。これらを定めない設計なら、通知に書く項目は第676条各号と商号で足りることになります。
通知まわりで条文が置いている決まり
内容が変わったら直ちに通知する
第677条第5項。変更があった旨と変更された事項を、申込みをした者へ伝えます。
宛先は申込書面に書かれた住所でよい
第677条第6項。別に連絡先の通知を受けている場合はその場所または連絡先へ。
通常到達すべきだった時に到達したものとみなす
第677条第7項。届かなかったことの立証責任が相手側に寄ります。
払込みを数回に分ける設計もある
会社法施行規則第162条第1号。数回に分けて払い込ませるときは、その旨と各払込期日の払込金額を募集事項として定めます。
出典:e-Gov法令検索「会社法」第677条および「会社法施行規則」第162条・第163条(2026年10月9日に条文を取得)。
社債管理者を置かずに済ませられる条件
社債には本来、社債権者のために弁済の受領や債権の保全を行う社債管理者を置く義務があります。少人数私募債がこれを免れている根拠が、第702条のただし書です。
(社債管理者の設置)会社法第七百二条
会社は、社債を発行する場合には、社債管理者を定め、社債権者のために、弁済の受領、債権の保全その他の社債の管理を行うことを委託しなければならない。ただし、各社債の金額が一億円以上である場合その他社債権者の保護に欠けるおそれがないものとして法務省令で定める場合は、この限りでない。
出典:e-Gov法令検索「会社法」第702条(2026年10月9日に条文を取得)。

ここでいう法務省令が会社法施行規則第169条です。条文は「ある種類の社債の総額を当該種類の各社債の金額の最低額で除して得た数が五十を下回る場合」としています。総額÷1口の最低額が50未満、つまり50口未満であれば社債管理者を置かなくてよいという意味です。

口数の数え方を間違えないための確認
総額と1口の金額を先に決める
総額3,000万円・1口100万円なら30口で、50を下回ります。
1口を小さくすると口数が増える
同じ総額3,000万円でも1口50万円なら60口となり、50を下回りません。
判定に使うのは「各社債の金額の最低額」
口の金額に幅を持たせる設計にするときは、最低額で割った数で判定されます。
勧誘した相手方の人数とは別の論点
50という数字が2か所に出てきますが、口数の50と勧誘人数の50は根拠条文が違います。
出典:会社法第702条および会社法施行規則第169条の条文に基づく整理(2026年10月9日に条文を取得)。金額の例は条文の計算方法を示すための仮の数字です。
勧誘する相手方の人数は別の法律で決まる
口数の話と混ざりやすいのですが、「何人に声をかけてよいか」は会社法ではなく金融商品取引法の側の問題です。金融商品取引法施行令第1条の5は、募集に当たる「多数の者」を五十名以上と定めています。
2つの50を混同しない
・会社法施行規則第169条の50……社債の口数。これを下回れば社債管理者が不要。
・金融商品取引法施行令第1条の5の50……勧誘の相手方の人数。これ以上だと募集(公募)になる。
条文の出どころが違うため、片方を満たしてももう片方は別に確認が要ります。人数の数え方と3か月以内の同種発行の合算については私募債による資金調達とはで条文を引いています。
利払いと償還は決議した内容どおりに
発行後にやることは、第676条第4号で決めた償還の方法と期限、第5号で決めた利息支払の方法と期限を守ることです。社債券を発行する旨を定めた場合は、発行日以後遅滞なく社債券を発行しなければならないと第696条が定めています。社債券を発行する定めがあるときは、第682条第1項から第3項の書面交付の規定は適用されません(同条第4項)。
発行後に残る作業
社債原簿の更新
社債権者が変わったときに記載を改めます。
利息の支払
第676条第5号で決めた方法と期限に従います。
償還
第676条第4号で決めた方法と期限に従います。満期一括とした場合は最終回の負担が大きくなります。
社債券を発行する定めがある場合
第696条により、発行日以後遅滞なく社債券を発行します。
少人数私募債には信用保証協会の保証も金融機関の引受けもありません。償還期に資金が用意できなければ、引受先である役員や取引先に直接影響します。保証が付く形の私募債と比べたい場合は特定社債保証制度を協会ごとに比較を、損得の整理は少人数私募債による資金調達のメリットをご覧ください。
この記事で確認できなかったこと
書かなかったこと
・利率の相場は、公的機関が公表している統計を確認できませんでした。会社ごとの交渉で決まるため、本記事では数値を示していません。
・発行にかかる実費(書面の作成を専門家へ依頼する場合の費用など)は、公表された料金表を確認できませんでした。
・税務の取扱いは本記事の範囲外です。社債利子の課税関係は会社と引受先の関係によって変わるため、税理士へご確認ください。
なお、ここで扱ったのは縁故者が引き受ける少人数私募債の手続きです。金融機関が引き受ける保証付私募債では、発行事務や元利金の支払事務を銀行が財務代理人として代行する形が一般的で、会社側の作業は大きく変わります。各行の掲示は池田泉州銀行の私募債(銀行の3つの役割を公表)やきらぼし銀行の私募債(実務のほとんどを銀行が行うと説明)で確認できます。
参照した条文(2026年10月9日にe-Gov法令検索で取得)

