少人数私募債は中小企業でも発行できる社債であり、有望な資金調達方法として認知されています。今回は少人数私募債を発行する上で決定しなければ事項について解説します。
少人数私募債は企業側が自由に設定できる社債
少人数私募債は
- 会社の関係者向けの社債
- 49人までの限定された社債
であること以外は、ほとんどのことを企業側が自由に設定することができます。
- 社債の募集総額
- 誰を引受手にするか?
- 社債1口の金額
- 社債の利率
- 利息支払日
- 社債償還方法
- 社債償還期間
- 申込日
- 払込日
- 社債券発行の有無
・・・
などです。
銀行融資やビジネスローンであれば、「金利○○%でいくらまで貸せます。」と金融機関側が提示してくれるので、それで融資を受けるかどうか決めるだけですから、企業側の意思決定は簡単です。
しかし、少人数私募債の場合は、会社の関係者とはいえ、投資家に対して社債を発行することになるのですから、決めなければならない事項というのは色々出てくるのです。
中小企業に投資家向けの商品設計のノウハウがあるわけではありませんので、非常に「自由に設定できる」というのが逆に足かせになってしまうケースもあるのです。
「社債の利率を1.0%にしたら、お願いしようとしていた関係者から『中小企業で1.0%という定期預金並みの金利で投資するわけないでしょ。』と言われた。」と失敗するケースもあります。しかし、経験すれば、「もっと金利は高く設定しなければならないんだ。」と理解することができます。
はじめからノウハウがある中小企業があるわけではないので、失敗しながら精度を高めて行けばよいのです。
少人数私募債を発行する上で決定しなければ事項
1.社債の募集総額
社債の募集総額 ≧ 資金調達額
資金調達のために社債を発行するのですが、一番先に決定すべきなのは「資金調達の目的」と「目的達成のための必要な資金調達額」です。
資金調達額が決まるということは募集総額が決まるということになります。
2.社債の1口の金額
資金調達額が決まったら、上限が49口までなので、社債の1口の金額が決まってきます。
- 4900万円が募集総額 → 1口100万円
- 9800万円が募集総額 → 1口200万円
- 1億4700万円が募集総額 → 1口300万円
となります。49口以下であれば、49口にそろえる必要性はありません。多少の余裕は残しておいても良いでしょう。
3.誰を引受手にするのか?
少人数私募債の場合は、公開された市場で証券会社経由で投資家を募ることはできません。
会社の従業員、役員、従業員の家族、取引先・・・など会社関係者である必要があるのです。
充てがまったくないのに少人数私募債を発行しようとしたら、誰も引き受けてくれなかったということになりかねません。
事前に見込みがある投資家を探したうえで、希望条件などをヒアリングしながら、社債発行条件を投資家の希望を踏まえて決定することをおすすめします。
4.社債の利率
社債の利率の決定は非常に重要なポイントです。
投資家にとっては
- 定期預金よりも低い金利を設定したら・・・投資家は誰も魅力を持たない
- 大手企業発行社債よりも低い金利を設定したら・・・投資家は誰も魅力を持たない
のです。一方で企業側も
- 銀行融資よりも高い金利を設定したら・・・社債で資金調達をする意味がない
- ビジネスローンよりも高い金利を設定したら・・・社債で資金調達をする意味がない
ということになってしまうのです。
ソフトバンクなどの大手企業の社債が年率2.0%です。
銀行融資やビジネスローンが年率5.0%~15.0%とすれば
少人数私募債は年率2.0%~年率5.0%が妥当ということになります。
ただし、前述した通りで少人数私募債を発行する際にはあらかじめ投資家の目途がついている必要があるため、投資家の意向を踏まえて金利設定をすることが重要になります。
5.利息の支払日
- 3か月ごと
- 半年ごと
- 1年ごと
・・・
利息の支払日は自由に決定できます。1年ごとの方が事務コストは軽減できます。
6.社債の償還期間
社債は満期まで一切返済する必要がありません。
銀行融資やビジネスローンの場合は、満期までに毎月利息と元本の返済をしなければなりませんが、社債は満期に返済すれば良いのです。
満期をいつにするか?を決める必要があります。
- 3年満期償還
- 5年満期償還
- 10年満期償還
・・・
など自由に決定することができますが、長ければ長いほど投資家にとっては不利、企業にとっては有利になるので、金利設定も償還期間との兼ね合いも考慮する必要が出てきます。
少人数私募債は中途解約の申出を受けることもあります。このときは速やかに対応する必要があります。とくに少人数私募債は関係者が引受手ですので、トラブルの原因になりかねません。
7.社債の申込期間と払込日
- 払込期日は資金調達が必要な期日の1週間前
- 申込期間は払込期日の1ヶ月ほど前
が相場となっています。資金調達が必要なタイミングに余裕を持たせて払込期日を決定します。払込の準備期間も考慮して1か月前ぐらいに申込期間を設定します。
申込が募集総額に達した場合は申込期間中でも、申込を締め切ることが可能です。
8.社債券発行の有無
社債は会社の債務であり、その内容が書いてある紙が社債券です。株券などと同じ有価証券の証明書類のようなものです。
中小企業の場合は、わざわざ社債券を発行する必要はありません。その代り入金を確認したら「社債申込預かり証」を発行するので、これが投資家にとっての証明書となります。
まとめ
少人数私募債は中小企業が自由に設計できる社債です。
自由に設計できる分
社債設計が下手な企業だと
「募集が集まらない。」
「金利負担が銀行融資より高い。」
となってしまいますし
社債設計が上手な企業だと
「安定して募集が集まる」
「銀行融資よりも低金利で集められる」
「高額な資金調達が可能」
となるのです。
中小企業にとっては自由に債権を設計できるというのは、難しい面もありますが、攻略できれば好条件で資金調達ができる有望な資金調達方法になりうるのです。
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