ベンチャー企業が数億円の資金調達をした、というニュースもすっかり珍しくなくなってきました。その際、しばしば登場するのが、ベンチャーキャピタル(Venture Capital:VC)です。
出典:Startup DB
こちらの記事では多くのスタートアップがベンチャーキャピタル(VC)から資金調達していることを解説しています。
ベンチャーキャピタル(VC)とは、ベンチャーとキャピタルを合成した言葉です。
- ベンチャー(Venture)とは、冒険を意味します。ビジネスにおいては、成功するかどうか分からない事業に挑戦すること、を指します。
- キャピタル(Capital)とは、資本を意味します。ここでは、資本(つまりはお金)を提供すること(投資すること)を指しています。
つまりベンチャーキャピタル(VC)とは、ベンチャー事業への投資を行う事業です。
一方で、ベンチャーキャピタル(VC)はベンチャー事業への投資を行うために「ファンド」という仕組みを採用しています。「ファンド」という仕組みはベンチャーキャピタル(VC)のビジネスモデルそのものです。
このファンドという仕組みとビジネスモデルが、ベンチャーキャピタル(VC)の行う投資に影響してます。
ベンチャーキャピタル(VC)の投資家としての側面
まず、何よりベンチャーキャピタル(VC)は「投資家」です。
銀行も同じように企業にお金を提供しています。提供したお金は提供した額以上に(つまり利子をつけて)返済することが求められます。しかし、銀行のことを投資家と呼ぶことはまずありません。
その違いは、銀行は貸し出すことでお金を提供しているのに対して、ベンチャーキャピタル(VC)は出資することでお金を提供している点にあります。
貸出は、しばらくしてから、決まった日にお金を返す契約です。
一方で出資は受け取った方が、受け取ったお金を返す必要のない契約です。もちろん、もらいっぱなしではなく、産み出した利益の一部を投資家(出資してくれた相手)に渡す(分配する)必要があります。
ベンチャーキャピタル(VC)の投資にはいくつかの特徴があります。
- ベンチャー企業へ投資する
- 分散投資する
- 共同投資する
- 配当ではなく売却によるExitを希望する
ベンチャー企業へ投資する
ベンチャーキャピタル(VC)の投資先は「ベンチャー企業」です。
一口にベンチャー企業と言っても、その成長の度合や、事業領域等によって様々に分類されます。
その中で、どのようなベンチャー企業へ投資するのか、ベンチャーキャピタル(VC)は大まかに決めています。これを「投資方針」と呼びます。
成長度合い
ベンチャー企業は、成長の度合いに応じて、いくつかの段階に分けられます。
- 会社を立ち上げた段階
- プロダクト(そのベンチャー企業の収益となるサービスや商品)を完成させた段階
- 実際にプロダクトが売れ始めて拡大を目指す段階
事業領域
ベンチャー企業は、当初思い描いていた通りに事業が進捗することはまれです。途中で事業、あるいはプロダクトを変えることも珍しくありません(これを「ピボット」といいます)。
しかし、会社の取組む課題(あるいは理念)が大きく変わることはありません。
AIを使ったサービスを開発する会社はAIの使い道を変更することがあります。AI以外の事業をメインにするような変更は行いません。同様に、薬の開発を行うベンチャーは、薬の種類こそ変わるかもしれません。しかし薬を開発することをやめることはないでしょう。
それはドローン、といった特定の業種(プロダクト)に関連する場合もあります。またWEBを使ったサービスといった領域の設定の仕方もあります。
その他の投資方針
変わったところでは、次のような投資方針のベンチャーキャピタル(VC)もあります。
- 25歳以下の起業家に投資する
- 海外進出が期待できるベンチャー企業に投資する
- 場所、大学、テーマに関連するベンチャー企業に投資する
- 場所というのは、東京のベンチャー企業とか、北海道のベンチャー企業
- 大学は、東京大学の研究成果を使って事業を行うベンチャー企業
- テーマとは、ゴミの減量に役立つ技術・サービスを開発するベンチャー企業
のようなくくりです。
分散投資する
ベンチャー企業への投資はとてもリスクが高い投資です。
リスクが高いということの意味は、大儲けするかもしれない一方で、投資したお金が全く返ってこないこともあり得るということです。
ベンチャーキャピタル(VC)は「分散投資」という投資手法によりこのリスクを低減しています。
一部のベンチャーキャピタル(VC)は「分散投資」を行っていません。これはそのベンチャーキャピタル(VC)の政策的な目的が分散投資に適さない場合、分散投資によるリスク軽減を求めていない場合などがあります。
政策的な目的とは、地域振興のために設立されたベンチャーキャピタル(VC)などが典型で、同じ地域に集中して投資します。リスク軽減を求めていないとは、同じ領域(つまり競合する)ベンチャー企業すべてに投資することで、どこが成功しても成果を得ようとする投資方針などがあります。
分散投資の内容
それぞれのベンチャーキャピタル(VC)は投資できる金額に限度があります。
投資できる金額の全てを一社に投資するのではなく、複数の会社に投資することを「分散投資」といいます。
分散投資は、単に「一つの会社ではなく複数の会社」という分散だけではありません。
他にも次のような分散がなされます。
- 投資領域の分散
- 投資ステージの分散
- 投資地域の分散
ポートフォリオ
分散投資した結果、そのベンチャーキャピタル(VC)がどのような会社に投資しているのかの一覧を「ポートフォリオ」といいます。
ベンチャーキャピタル(VC)は「今、どのようなポートフォリオであるか」だけではなく、「最終的にどのようなポートフォリオになるのか」を気にしています。
共同投資する
ベンチャーキャピタル(VC)の投資は共同投資になります。一つのベンチャーキャピタル(VC)が単独で投資するということは通常はなく、「複数の投資家が同じタイミングで投資する中にベンチャーキャピタル(VC)が混じる」ということです。
これはバイアウトと呼ばれる投資手法が投資先の株式を全て買い取ることと大きく異なります。
なぜ共同投資するのか
ベンチャーキャピタル(VC)の投資は共同投資であるため、投資先の会社の収益を全て自分のものとすることができません(バイアウトの場合に投資先の全ての株式を取得すれば、すべての収益を自分のものにできます)。
ベンチャーキャピタル(VC)がこのような投資を行う理由はいくつかあります。
- 他の株主とリスクを共有することによりリスクを軽減できる
- 1社当たりの投資金額を低く抑えることによりより多くの会社に投資することができる
- 投資先のベンチャー企業の成長に寄与してくれる株主に参加してもらえる
共同投資の相手
ベンチャーキャピタル(VC)の投資の共同投資の相手方は投資先であるベンチャー企業によって様々です。
- 経営者
- 設立母体(大学の技術を活用したベンチャー企業の、その大学。大企業からのスピンオフの場合の、その大企業)
- 協業可能な事業会社
- エンジェル投資家
- 他のベンチャーキャピタル(VC)
リードインベスター
共同投資を行った場合、株主が多数存在することなります。
株主として会社に協力し、あるいは会社に要求することは、それぞれの株主が別々に行うよりも誰かが株主を代表して行うことが経営者と株主の双方にとって効率的です。
この株主を代表して会社と交渉する株主を「リードインベスター」といいます。
リードインベスターは法律などに基づいて選定(選任)されるものではありません。直近の資金調達において「最も多額の出資を行った投資家」がそうみなされることが多いです。
「リードインベスター」になると会社への発言権の重みが増します。そのため、積極的にリードを取りに行くベンチャーキャピタル(VC)もいます。
一方でまったくリードには関心を示さないベンチャーキャピタル(VC)もまた多いです。リードインベスターは手間がかかるため、共同投資家に任せて見守りたいというベンチャーキャピタル(VC)もいるためです。
配当よりも売却による出口戦略
ベンチャーキャピタル(VC)の投資は出資により行われます。
一つは「会社から配当を受け取る」ことです。
しかし、ベンチャーキャピタル(VC)の場合には配当を受け取ることはまずありません。
ベンチャーキャピタル(VC)の投資先が配当できるだけの収益をあげられないためです。
もう一つは「出資を誰かに売却する」ことです。
出資は、将来、どれだけの利益を受け取れるのかという期待を元に評価されます。この評価が投資時点よりもあがっていればベンチャーキャピタル(VC)は売却することにより利益を受け取ることができます。
売却先としては2つの候補があります。一つは、投資先のベンチャー企業との協業を望む事業会社へ売却することです。これをM&Aといいます。そしてもう一つは広く、そのベンチャー企業に投資したい投資家に売却することです。日本では未上場の会社への投資が株式を譲渡することにより行われることはまれです。そのため、投資先が株式公開(証券取引所での上場承認、つまりIPO)することが前提になります。
ベンチャーキャピタル(VC)のファンドとしての側面
ベンチャーキャピタル(VC)は「ファンド」という形態をとっています。
ベンチャーキャピタル(VC)は投資が進み、また費用を支出して「ファンド」にお金が足りなくなるたびに投資家に送金を依頼します(これをキャピタル・コール方式といいます。なお、投資家はあらかじめ、いくらまでのキャピタルコールに応じるか、を決めておきます)。
つまり、ベンチャーキャピタル(VC)は自分のお金で投資しているのではないのです。
ファンドの概要(投資家側からの視点)
ファンドは他人からお金を預かる仕組みです。つまりお金を預けている人がいます(この人を「投資家」といいます)。
投資家は自らベンチャー企業を探してきてそこに投資することができます。
しかし、それには手間もコストもかかります。また投資額が大きくなる場合には、自分だけでリスクをとるのが難しくなります。
ここでお金を預けるというのは銀行預金とは異なります。
- 預けたお金は返ってくるとは限りません
- 預けたお金はファンドが収益を上げたときに返ってきます(つまり時期を選べません)
- 銀行預金では利子が付きますが、ファンドへ預けたお金は逆に管理手数料を差し引かれます
- ファンドは複数の人から同時にお金を集め、まとめて投資します。
ファンドの概要(ベンチャーキャピタル(VC)からの視点)
ファンドは他人からお金を預かる仕組みですが、厳密には、ベンチャーキャピタル(VC)がお金を預かるわけではありません。
ベンチャーキャピタル(VC)が設立した「組合」がお金を預かります。この組合は特別な法律に基づき設立される、投資事業有限責任組合です。
ベンチャーキャピタル(VC)のビジネスモデル
ベンチャーキャピタル(VC)はファンドを運用することにより二つの収入を得ています。
- 一つは、管理報酬というファンドでお金を預かることに伴う手数料です。こちらは預かった金額に応じて(通常は年に2%程度)かかります。
- そしてもう一つは、成功報酬という投資が成功した際にその一部を受け取る手数料です。
管理報酬はファンドを運営していくための費用に使われます。管理報酬を受け取っている間(つまりファンドが存続している間)、ベンチャーキャピタル(VC)はお金のことを心配せずにファンドの運用が行えます。
これに加えて、投資が上手く行けば、さらに「ボーナスがもらえる仕組み」です。
ベンチャーキャピタル(VC)がファンドの運用を(つまりファンドの投資を)上手く行かせるためのインセンティブは二つあります。
- 一つは、先ほどのボーナス、つまりは成功報酬を増やすことです。
- そしてもう一つは、ファンドが上手くいくことで、次のファンドを作ることができるようになることです。
「自分たちにお金を預けてくれれば増やして返せる」という実績ができればより多くのお金を集めることができるためです。
ファンドの制約
ベンチャーキャピタル(VC)は投資家からお金を預かって投資していますが、預かったお金を好きなように投資できるわけではありません。
なぜなら、お金を預かるときに、投資家と契約を結び、どのように預かったお金を運用するか、決めているからです。
- 投資対象:どのような事業領域の企業に投資するか
- 投資方針:どのような方針で投資するか(具体的には、ファンドとして投資可能な社数や1社当たりの投資上限等)
- 運用期間:預かったお金をどのくらいの期間で返すか
運用期間は通常10年間です。この10年間で「預かったお金を何倍にして返すか」を投資家と約束しています。
ベンチャーキャピタル(VC)はそれを目指して運用することになります。
ファンドの開始直後に投資する案件はまるまる10年間、回収まで時間をかけることができますが、ファンドの開始3年後に投資した場合には、その7年後までに、回収を終えていることが必要になります。
まとめ
ベンチャーキャピタル(VC)は投資することによりベンチャー企業の資金調達に関与しています。
投資は単にその会社への投資が儲かりそうだから、というだけではなくベンチャーキャピタル(VC)のポートフォリオを意識しながら行われます。また投資は回収される必要があります。その手段はM&AとIPOになります。
またベンチャーキャピタル(VC)はファンドという形で投資家から資金を預かって、預かった資金で投資しています。ファンドには期限があり、その期限までに投資家にお金を返す必要があります。
投資を受けるベンチャー企業は、ベンチャーキャピタル(VC)の仕組みを理解しておくことが重要です。仕組みを理解することでベンチャーキャピタル(VC)の意図を知ることができるようになります。