資金調達方法の中でも、多くの方が利用できる可能性があるのが「敷金(保証金)を利用した資金調達」です。今回は、「敷金(保証金)を利用した資金調達」の資金調達方法・敷金回収依頼業者やメリットデメリットを比較して解説します。
事業用賃貸物件の敷金(保証金)の現状
企業が事業用に賃貸をする「事業用賃貸物件(オフィス、店舗、工場、倉庫など)」は、賃貸物件とは違った高い敷金(保証金)が必要になります。
敷金(保証金)とは
を言います。
要するに
- 貸したオフィスを汚してしまったり
- 賃貸契約違反となる利用をしてしまったり
- 家賃の支払いを滞納してしまったり
するときに、賃貸人(要するに物件オーナー)は、預かっていた敷金から、損害分を差し引くのです。「保証金」は、若干言葉の定義が「敷金」とは異なるものの、ほぼ同義で利用されます。
「敷金(保証金)」は、退去するときに
- 「原状回復費」:入居時の状態に戻すのにかかった費用
- 「償却費(敷引き)」:解約時に無条件に差し引かれる費用
を引かれて、返還される仕組みになっています。
一般的にオフィスなどの事業用賃貸物件の敷金の相場は
- 賃貸物件の敷金:月額賃料の1カ月~3カ月
- 事業用賃貸物件の敷金:月額賃料の6カ月~10カ月
と言われています。
事業用賃貸物件の敷金相場
対象区 | 坪数 | 敷金・保証金 (1坪当たり) |
賃料 (1坪当たり) |
共益費 (1坪当たり) |
賃料+共益費 | 敷金と 月額賃料 の倍率 |
敷金と 月額賃料 (共益費込) の倍率 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
千代田区 | 100坪以上 | 213,528円 | 18,950円 | 2,626円 | 21,576円 | 11.3倍 | 9.9倍 |
30~100坪 | 146,440円 | 15,157円 | 2,711円 | 17,868円 | 9.7倍 | 8.2倍 | |
30坪以下 | 98,956円 | 13,437円 | 1,824円 | 15,261円 | 7.4倍 | 6.5倍 | |
平均 | 152,975円 | 15,848円 | 2,387円 | 18,235円 | 9.7倍 | 8.4倍 | |
中央区 | 100坪以上 | 218,152円 | 19,855円 | 2,675円 | 22,529円 | 11.0倍 | 9.7倍 |
30~100坪 | 168,465円 | 16,167円 | 2,600円 | 18,767円 | 10.4倍 | 9.0倍 | |
30坪以下 | 120,996円 | 14,390円 | 1,923円 | 16,314円 | 8.4倍 | 7.4倍 | |
平均 | 169,204円 | 16,804円 | 2,399円 | 19,203円 | 10.1倍 | 8.8倍 | |
港区 | 100坪以上 | 221,148円 | 19,716円 | 2,640円 | 22,356円 | 11.2倍 | 9.9倍 |
30~100坪 | 175,829円 | 17,955円 | 2,404円 | 20,359円 | 9.8倍 | 8.6倍 | |
30坪以下 | 116,110円 | 16,439円 | 1,459円 | 17,897円 | 7.1倍 | 6.5倍 | |
平均 | 171,029円 | 18,037円 | 2,168円 | 20,204円 | 9.5倍 | 8.5倍 | |
新宿区 | 100坪以上 | 159,844円 | 14,918円 | 2,787円 | 17,704円 | 10.7倍 | 9.0倍 |
30~100坪 | 133,163円 | 14,235円 | 2,184円 | 16,419円 | 9.4倍 | 8.1倍 | |
30坪以下 | 85,771円 | 13,160円 | 1,344円 | 14,504円 | 6.5倍 | 5.9倍 | |
平均 | 126,259円 | 14,104円 | 2,105円 | 16,209円 | 9.0倍 | 7.8倍 | |
渋谷区 | 100坪以上 | 216,457円 | 19,262円 | 2,501円 | 21,763円 | 11.2倍 | 9.9倍 |
30~100坪 | 164,927円 | 17,985円 | 2,129円 | 20,114円 | 9.2倍 | 8.2倍 | |
30坪以下 | 116,140円 | 17,258円 | 1,369円 | 18,627円 | 6.7倍 | 6.2倍 | |
平均 | 165,842円 | 18,168円 | 1,999円 | 20,168円 | 9.1倍 | 8.2倍 | |
豊島区 | 100坪以上 | 189,575円 | 17,664円 | 2,711円 | 20,375円 | 10.7倍 | 9.3倍 |
30~100坪 | 146,482円 | 14,755円 | 2,310円 | 17,065円 | 9.9倍 | 8.6倍 | |
30坪以下 | 91,528円 | 12,877円 | 1,758円 | 14,635円 | 7.1倍 | 6.3倍 | |
平均 | 142,528円 | 15,099円 | 2,260円 | 17,358円 | 9.4倍 | 8.2倍 | |
総合 | 平均 | 154,639円 | 16,343円 | 2,220円 | 18,563円 | 9.5倍 | 8.3倍 |
出典:オフィスナビゲーション
2009年1月1日~2009年12月31日に新規に募集された貸事務所の募集価格を元に算出
敷金(保証金)というのは
都内23区であれば
- 賃料の9.5倍
- 共益費を含めた賃料の8.3倍
が平均値となっています。
さらに
- 23区の中でも家賃の高いエリア(千代田区、中央区、港区)は、さらに敷金(保証金)が上がる
- 坪数の多い広いオフィスは、さらに敷金(保証金)が上がる
のですから、
都内にオフィスがある会社であれば
それなりの金額の敷金(保証金)を賃貸オーナーに預託している
ということがわかります。
中小企業実態基本調査によると
2018年法人企業の「地代家賃」平均は
64,547億円 / 1,458,807社 = 4,424,706円/年間
月額賃料平均(共益費含む) = 4,424,706円/年間 / 12カ月 = 368,726円
出典:中小企業実態基本調査 平成30年速報(平成29年度決算実績)
ですから
事業用賃貸物件の敷金相場は
法人であれば、約300万円は「事業用賃貸物件(オフィス、店舗、工場、倉庫など)」の敷金として、物件オーナーに預託しているのが現状なのです。
ここに目をつけて資金調達する方法があるのです。
敷金(保証金)を利用した資金調達方法とは?
簡単に言えば
です。
できます。
手荒な交渉をするのではなく、貸主(物件オーナー)側に妥当なメリットを提示することで、敷金(保証金)の返還を依頼する形になります。
敷金(保証金)の返還交渉パターン1.保証会社を入れる
貸主(物件オーナー)が敷金を取る理由というのは
借主が支払い不能になって家賃を滞納するリスクがあるから
です。
個人が賃貸物件を借りるよりも、法人が賃貸物件を借りる方が敷金が高いのは、法人の方が倒産リスクが大きいからなのです。
ですから、貸主(物件オーナー)は、何もしなければ、敷金(保証金)の返還に応じてくれません。
そこで「保証会社」を入れるのです。
保証会社とは
貸主(物件オーナー)としては、家賃が確実に支払われるのであれば、支払う人は、「貸主」でも、「保証会社」でも、構わないのです。
つまり、
と交渉して、敷金(保証金)の返還による資金調達を実現するのです。
敷金(保証金)の返還交渉パターン2.家賃を上げる
ことを意味します。
であれば
というメリットを提供することで、敷金(保証金)の返還による資金調達を実現する方法です。
例えば
- 家賃:50万円
- 敷金:400万円
のケースで
貸主(物件オーナー)は
- 家賃:50万円で、敷金400万円があるので家賃未払いリスクがない
- 家賃:60万円で、敷金400万円を返還する
という2つの方法を選択できる状態になります。
貸主(物件オーナー)にとってみれば
- 一定期間以上借り続けている借主
- 業績が安定している借主
であれば、敷金(保証金)を返還して、家賃収入を上げてもらった方が良い
という思考になりやすいのです。
敷金(保証金)の返還交渉パターン3.保証会社を入れる + 家賃を上げる
- 保証会社を入れる
- 家賃を上げる
の併用することも可能です。
敷金(保証金)を利用した資金調達とは?
敷金(保証金)返還による資金調達のメリット
メリットその1.審査がない
銀行融資やビジネスローンとは違って、「敷金(保証金)返還による資金調達」は審査がありません。
元々、ご自身の会社の資産なのですから、この資金調達方法を利用するのに必要なのは
貸主(物件オーナー)の同意
であり、審査が必要な資金調達ではないのです。
注意
「保証会社を入れる」形で敷金(保証金)返還の交渉をする場合には、保証会社による審査はあります。銀行融資やビジネスローンの審査と比較すると審査は甘いのですが、審査が全く必要ないわけではありませんので注意が必要です。
メリットその2.銀行の融資審査が通りやすくなる
塩漬けになっていた資金を自分の会社のいつでも使える資金になるのですから、財務状況は改善します。
メリットその3.敷金(保証金)の未返還リスクの回避
貸主(物件オーナー)は、預かった敷金(保証金)を銀行に保管しているわけではありません。
貸主(物件オーナー)の多くは、投資家ですので、少しでも余剰資金があれば、頭金として他の物件の購入に充ててしまうのです。
この状況で、貸主(物件オーナー)のビジネスが失敗し、倒産すると「支払った敷金(保証金)が返還されない」という事態が発生するのです。
敷金(保証金)返還による資金調達のデメリット
デメリットその1.支出が増える
- 保証会社を入れる交渉パターン → 保証会社に支払う保証料が発生する
- 家賃を上げる交渉パターン → 家賃負担が増える
ため、「敷金(保証金)返還による資金調達」では
支出が増え、損益(PL)が悪化します。
これが、この資金調達方法の調達コストになるのです。
デメリットその2.自分では交渉がうまくまとまらない
貸主(物件オーナー)との交渉は、当然ですが、ご自身でやることもできます。
しかしながら、多くの場合、「敷金(保証金)返還による資金調達」をするためには、第三者である資金調達サポート会社を利用する形になります。
なぜならば、
- 当事者2名での交渉では、うまく交渉がまとまらない
- 借主は、貸主に対して立場が弱く、うまく交渉がまとまらない
- 借主は、交渉テクニックやほかの事例の情報が少なく、うまく交渉がまとまらない
からです。
まとめ
敷金(保証金)返還による資金調達とは
- 貸主(物件オーナー)と交渉することで、借主の財産である「敷金(保証金)」を返還してもらう資金調達方法のこと
を言います。
敷金(保証金)返還による資金調達のメリットには
- メリットその1.審査がない
- メリットその2.銀行の融資審査が通りやすくなる
- メリットその3.敷金(保証金)の未返還リスクの回避
敷金(保証金)返還による資金調達のデメリットには
- デメリットその1.支出が増える
- デメリットその2.自分では交渉がうまくまとまらない
があります。
「敷金を利用した資金調達方法ってどうやるの?」
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