メディアに取り上げられる起業家のインタビューで、エンジェル投資家に感謝しているのをよく目にします。
その他にも、エンジェル投資家になりたい。エンジェル投資家から資金調達したい。エンジェル投資家から声をかけられている。などなど。ベンチャー企業、特にスタートアップの周辺に注目しているとエンジェル投資家、という言葉をよく目にします。
しかし、それ以上に明確な定義はありません。つまり、使われる場面によって指しているものが多少異なります。
さらに、最近、エンジェル投資家の対象は大きく変わってきています。
エンジェル投資家はどんな人たちか?
エンジェル投資家とはどのような人たちなのでしょうか。
エンジェル投資として成功するために何が必要なのか、を理解することでどのような人がエンジェル投資家に向いているか(そして実際に多いのか)が見えてきます。
エンジェル投資を行うために必要なのは、次の3つです。
- お金
- 時間
- 経営スキル
ポイントは、お金も、時間も、相当に大きな負担がエンジェル投資家にかかる、という点です。
エンジェル投資は多額の資金が必要
エンジェル投資を行うためには多額の資金が必要となります。
投資を行うため、当然にお金(資金)が必要です。しかし、エンジェル投資家として活動するためには、少額の投資できる資金があるだけでは足りず、数千万円以上の個人資産が必要となります。
その理由は3つ挙げられます。
- 投資を受ける会社の都合
- 投資家のリスク分散
- 長期固定資金
投資を受ける会社の都合
ベンチャー企業は資金繰りに窮していることも多く、少額の資金でも調達したいと望んでいることも多くあります。
しかし、株主が増えると、株主に状況を説明するなどのコストがかかります。
株主となってもらう前にその人を調べる必要もあり、そこにもコストがかかります。
株主は会社に対して強い権利を持っており、その権利を悪用される可能性があるためです。
株主は経営の状況について知ることになります。
ベンチャー企業によっては事業アイディアを外部に漏らされ、他社(特に資本力のある大手企業)にまねされると事業存続を断念せざるを得ないことにもなりかねません。
そのため、ベンチャー企業としては株主が少ないことを望みます。必要な資金を、少数の株主から調達するためには、一人ひとりの株主から多額に調達する必要があるのです。
投資家のリスク分散
ベンチャー企業への投資の中でも、エンジェル投資家が投資する、事業が進捗していないシード・アーリーステージのベンチャーへの投資はリスクが高いです。
そのため、投資家としては一社に全てを委ねるのではなく、複数の会社に分散して投資することでリスクを下げる必要があります。
長期固定資金
ベンチャー企業への投資は長期固定資金となります。長い期間、他の用途には使えないお金で投資する必要がある、ということです。
ベンチャー企業が成功するまでには数年、場合によっては十数年という長い時間がかかります。投資資金を回収するためには、その会社が上場するか、M&Aにより誰かに買われることが必要になります。しかし、そのためには会社が成功している必要があるのです。
また、ベンチャー企業は配当が期待できず、その株式を譲渡する機会も通常はありません(ごくまれにその株式を購入したいという話がありますが、宝くじに当たるような確率だと思って間違いないです)。
エンジェル投資を行うためには時間が必要
エンジェル投資は、資金に加え、時間がかかります。
時間がかかる理由は二つあります。
一つ目は、いい会社に巡り合うためには、多くの起業家と会って話をする必要があるためです。
エンジェル投資の対象となるベンチャー企業はそれぞれ個性的な事業を行っています。情報開示も十分になされていないことが多く、簡単に投資対象が見つかるものではありません。また、会社が事業を行っていないケースもあり、経営者と話をすることが、あるいは話をすることだけが投資判断の手がかりとなるケースも少なくありません。
そしてもう一つは、実際に投資をする前に、調べること、交渉することがたくさんあります。
この先、どうなっていくか分からない会社に投資するため、多くのことを、契約書という書面に残すかどうかはともかく、経営者との間で話し合っておく必要があります。
エンジェル投資を行うためには経営に関する知識が必要
エンジェル投資家を迎え入れるにあたって、ベンチャー企業としては資金だけではなく、経営を支援してくれることを期待しています。その期待に応えるだけの経営に関する知識がなければエンジェル投資家として投資することは困難です。
また、ベンチャー企業の要請がなくとも、投資を成功させるためには、エンジェル投資家が関与せざるをえないケースも多くあります。なぜなら、ベンチャー企業の経営者が経営知識を豊富に持ち合わせていることは期待できないからです。
エンジェル投資家に多いのはどのような人たちなのか
他にも、弁護士や税理士等、ベンチャー企業との取引が期待できる人も一定数います。従来、エンジェル投資家としてベンチャー企業に投資してきたのはこのような人たちです。
ベンチャーキャピタル(VC)のいうエンジェル投資家とは?
ベンチャーキャピタル(VC)のいうエンジェル投資家とは
- 自分のお金を
- 複数の成功する前の未上場企業に
- 投資している
人を言います。
自分のお金を投資している人
エンジェル投資家とは自分のお金を投資している人を言います。自分のお金以外のもので投資しているというのは、会社やファンドが投資している場合です。
ソフトバンクの孫正義社長はエンジェル投資家と呼ばれます。ソフトバンクは(グループ会社も含め)ベンチャー企業に多数、投資しています。また、ベンチャー企業に投資するためのファンドを運用しています。
しかし、それを持って孫社長をエンジェル投資家と呼ぶことはありません。それらに加えて、孫社長個人としても、自分の資産から投資していることから、孫社長はエンジェル投資家を呼ばれるのです。
ただし、自分のお金を投資しているからといって、自分の名義で投資しているとは限りません(株主名簿にその個人の名前が記載されるとは限りません)。その個人の資産の運用のみを目的としている会社(資産管理会社)やファンドを通じて出資しているケースもあります。
複数のベンチャー企業へ投資している人
エンジェル投資家とはベンチャー企業、つまりは成功する前の未上場企業へ投資している人を言います。
ベンチャーキャピタル(VC)がエンジェル投資家という場合、一社に投資している投資家をエンジェル投資家とは呼ばず、複数の会社に投資している人だけをエンジェル投資家と呼んでいます。
つまり株主に個人がいても、すべてをエンジェル投資家と呼んでいるわけではなく、その中で、他のベンチャー企業にも投資している人だけをエンジェル投資家と呼んでいるのです。
あまりベンチャー企業に詳しくないと丁寧に説明する必要があったり、いらぬ誤解が生じてしまう可能性があります。また会社に対して突飛な(常識的ではない)要求をしている可能性があります(他社へも投資していれば、どのような振る舞いをするのか確認することができます)。
投資している人
エンジェル投資家がベンチャー企業へ投資する際の、投資の形式については様々です。
出資(株式あるいは会社が配当する場合に先に配当を受ける権利を有する優先株式等)での投資がもっとも多いです。しかし、貸付の形で投資されているケースも少なくありません。
ただ、どのような形式であっても、それが投資であることが重要です。投資というのは、渡した以上のお金が返ってくることを期待することです。
ベンチャー企業の資金調達は、経営者の家族や、友人知人などからもなされることがあります。一般に家族や友人が資金調達に協力するのは投資目的ではありません。知人の場合にはどのような知り合いなのか、場合によっては本人に直接、資金調達に協力した目的を確認することになります。
ベンチャーキャピタル(VC)が、他の株主の目的を気にする理由は、投資家の間でなるべく意見が割れないようにするためです。ベンチャーキャピタル(VC)は投資目的で資金調達に応じます。
投資目的でない株主とは経営方針を巡って意見が分かれる可能性があるのです。
税務上のエンジェル投資家
エンジェル投資家の一部は、税務上、エンジェル投資家として扱われます。
その結果、税金を安く抑えることができます。これを「エンジェル税制」といいます。
一口にエンジェル税制と言っても、どのような税金がどのくらい安くなるのかによって、いくつか種類があります。
税務上のエンジェル投資家に該当するか、またエンジェル税制のどの種類に該当するのか、は以下の2つの条件から判断されます。
- 投資対象会社の条件
- 投資家側の条件
投資対象会社の条件
「一定の条件」はエンジェル税制の種類ごとに変わりますが、4つの点から判断されることは共通しています。
- 中小企業であること
- 設立からの年数が一定の年数以内であること
- 研究または新事業を行っていること
- 除外事由への該当していないこと
中小企業であること
どのような会社が中小企業に当たるのか、は業種ごとに要件があります。
設立から一定の年数以内であること
年数は業種には関係なく、受けようとする税金の軽減に応じて2種類あります。
研究または新事業を行っていること
イノベーションを起こそうとしている事柄に関与する人数、それとその事柄に費やしている金額によって変わります。また、それぞれの人数、金額は、設立からの年数に応じた要件が定められています。
例えば、設立から間もない会社であればイノベーションを起こそうとしている事柄に関与している人数が二人以上(かつ役職員の10%以上)であれば要件を満たすことができます。
これに対して会社設立から相当な年数(5年以上)が経過している場合には収入の5%以上をイノベーションを起こそうとする事柄に費やしていることが必要です。
除外事由へ該当していないこと
エンジェル税制の目的に叶わない企業が除外事由に当たるとされています。
投資家側の条件
投資家側の条件は二つあります。
- 増資に応じて投資したこと
- 対象会社のオーナー、経営者ではないこと
増資に応じて投資したこと
投資の対象は株式に限定されます。貸付はもとより、新株引受権がついていても社債の引き受けを行った場合にはエンジェル税制が適用されません。また、金銭の払込を伴う増資に限定されることにも注意が必要です。
会社の株式を取得する他の手段、例えば、他の株主からの譲受などではエンジェル税制が適用になりません。会社の株式を取得する手段が現物出資のように金銭の払込を伴わない場合にも適用されません。
対象会社のオーナーではないこと
オーナーとは、会社の株式の50%超を保有している3名以内のグループ(個人とその親族等)を言います。逆に、オーナーに当たらないのであれば、過去に投資した会社に追加投資する場合であってもエンジェル税制が適用されます。
まとめ
エンジェル投資家とは、成功前のベンチャー企業に対して投資する個人投資家を言います。これまでエンジェル投資家となれるのは、お金にも時間にも余裕があり、会社経営に対する知識と経験を有していて投資先の支援ができるような投資家に限られてきました。
しかし、近年、株式型のクラウドソーシングが開始されたことに伴い、状況は大きく変わりつつあります。
少額から、時間をかけずに、投資先の会社に直接関与することなく、エンジェル投資を行う手段が広がってきています。これまで他の投資、例えば上場株式やFX、仮想通貨への投資を行ってきた個人投資家がエンジェル投資を行う例も増えてきています。