ベンチャー企業が会社を立ち上げてプロダクト(商品やサービス)を作る前の段階を「アーリーステージ」と言います。アーリーステージのベンチャー企業をとくにスタートアップ企業、スタートアップベンチャーと呼ぶことがあります。
「シード(Seed)」とは種のことです。
会社を設立する段階での資金調達だけを「シードラウンド」と呼ぶこともありますが、プロダクトができる前段階の調達含めて「シードラウンド」と呼ぶこともあるからです(シードラウンドの後、プロダクトのできる前段階を特に分けて「アーリーラウンド」と呼ぶこともあります)。
会社を始めたばかりなのに、まだプロダクトも作れていないのに資金調達ができるの?と不思議に思われるかもしれません。しかし多くのスタートアップが資金調達を成功させて成長しています。
シードラウンドでの資金調達
シードラウンドでは資金調達をしようとしても、銀行などからの借入が普通はできません。
シードラウンドのベンチャー企業の調達は、まず、「創業者」から行われます。
起業するのにお金を貯めたり、起業してからの会社のお金を創業者が自分で拠出していることはよく知られている通りです。
そして、創業者以外には、
- 家族(親、兄弟)、親戚、友人知人
- エンジェル投資家
- ベンチャーキャピタル(VC)
がスタートアップ企業に資金を提供しています。
家族からの資金調達
出せるお金を持っているのであれば、「家族」は真っ先に資金調達について相談してみるべき相手です。
事業について説明したときにわかってくれる可能性が高いことに加えて、万が一、事業が失敗しても(まったくの他人から資金調達するよりは)許される可能性が高いからです。
家族からの資金調達が直接、会社(スタートアップ企業)に対して行わるケースは稀なためなかなか表に出てきません。しかし、少なくない創業者が、創業者個人に対して家族から出資を受けています。
親戚
創業者との関係の近さでは家族の次にくるのが「親戚」です。しかし、資金調達について相談してみるべきかは、その親戚との距離感によります。
具体的には、相当、親密である場合を除けば避けておく方が無難です。シードラウンドのスタートアップ企業(あるいはその資金調達)に理解のある親戚は稀だからです。
問題になるのは、出資してもらった後、しばらくしてから、資金を返済するよう求められるケースです。株式で調達したのに、あるいは、会社がこれから資金を必要としているフェーズなのに、という事情にはお構いなしに返済を求められ、困っている事例が多くあります。
友人、知人
「友人」」は資金調達を家族の次に、相談してみるべき相手です。出資してくれてもくれなくても、会社の事業に手を貸してくれることがあるからです。
また資金調達を相談すべき「知人」には、関係が円満であることが前提ですが、元の勤め先の経営者がいます。経営者から出資が受けられれば、お金について助かるだけではなく、取引先としても期待できたり、場合によってはリソース(人や設備等)を借りることができたり、会社が発展する手助けをしてくれる可能性があるからです。
一方で過度に介入してくる結果、会社の成長の邪魔になる場合もあるので、相談に行く前に、その人と長く付き合っていけるのか、いきたいのかをよく考えてみる必要があります。
エンジェル投資家
家族や親戚、友人、知人は創業者のことをよく知っているので会社の説明をしやすいのですが、一方で資金調達に応じてくれるほどお金を持っているケースが少ない、という問題があります。
そこで、シードラウンドへの投資を希望していて、投資先を探しているような相手に次に相談に行くことになります。
それが個人の場合には「エンジェル投資家」と呼ばれています。
成功した企業経営者、スポーツ選手(サッカー元日本代表の本田圭佑選手等が有名です)、芸能人等がエンジェル投資家としてスタートアップのシードラウンドに投資しています。
エンジェル投資家が投資する目的は様々です。
単に「儲かる可能性があるから」という理由で投資するエンジェルもいますし、「自分の得たお金を世の中のために役立てたい」と考えるエンジェル投資家もいます。
ベンチャーキャピタル(VC)
エンジェル投資家とともにシードラウンドへの投資機会を探しているのが「ベンチャーキャピタル(VC)」です。
統計からも、ベンチャーキャピタル(VC)からの投資の相当な部分がシードラウンドで行われていることが分かります。
資金調達をベンチャーキャピタル(VC)から行うことにもメリット・デメリットがあります。
メリットは比較的多額(特にエンジェル投資家に比べて)の資金を一度に調達できることや、ベンチャーキャピタル(VC)は会社の成長を支援してくれる可能性が高いことが挙げられます。逆にデメリットとしてはその後の資本政策が制限を受けることが挙げられます。
ベンチャーキャピタル(VC)の全てがシードラウンドへの投資を行うわけではありません。
シードラウンド専門のベンチャーキャピタル(VC)もいれば、シードラウンドでは投資しないベンチャーキャピタル(VC)もいます。中にはシードラウンドへの投資に一定の枠を持っているベンチャーキャピタル(VC)もいます。
ただ、一般的なベンチャーキャピタルは、一定数シードラウンドの投資を組み込むことでリスク分散を図っています。
補助金
シードラウンドでの資金はこのほか、「各種補助金」で賄われることもあります。
各自治体、業界団体等、多くの補助金があります。補助金は返済不要なものもありますし、一定の期間で返済する必要があるものもあります(その場合でも非常に低金利で借りることができます)。
ベンチャーキャピタル(VC)がシードラウンドに投資する理由
ベンチャーキャピタル(VC)がスタートアップに投資するのは「金銭的な対価を得るため」です。しかし、それはすぐにお金を返してもらうことではなく、将来会社が成長してからのことになります。
そのためベンチャーキャピタル(VC)がスタートアップに投資する理由は以下のように細かく分けることができます。
- 大きく儲かる可能性があること
- 必要資金が少なくて済むこと
- ベンチャーキャピタル(VC)が関与しやすいこと
大きく儲かる可能性があること
投資は投資先の会社が成長することで、より大きな儲けを出すことができます。
今、シードラウンドのベンチャー企業とは対極にある会社、例えばトヨタ自動車を考えてみると、トヨタ自動車が現在の倍の規模になるのはかなり先のことです。
一方で創業したてで、売上もなく社員もいないベンチャー企業が10倍の規模になるとするとその時期はそう遠くはありません(もちろん、そうならない可能性も高いですが)。
投資に必要な資金が少なくて済む
ベンチャーキャピタル(VC)がスタートアップへの投資を行う理由の二つ目は投資資金が少なくて済むからです。
ベンチャーキャピタル(VC)は無尽蔵に資金を持っているわけではありません。投資できる金額は限られています。
ベンチャーキャピタル(VC)が会社に関与できる余地が大きい
ベンチャーキャピタル(VC)がスタートアップへの投資を行う理由の最後は、スタートアップであるほど、つまり会社ができてすぐであればあるほど、会社の運営にベンチャーキャピタル(VC)が関与できる余地が大きいからです(もっと言えば、会社の設立前から関与できれば、さらに会社の運営に影響を及ぼすことができます。
会社の運営にベンチャーキャピタル(VC)が関与を希望する最も大きな理由は、それがスタートアップの成長にもっとも効果的であるからです。
逆にスタートアップのベンチャー企業は投資家が多くなく、ベンチャーキャピタル(VC)の声が通りやすいのです。
ベンチャーキャピタル(VC)は、どのようなベンチャー企業に投資するのか
ベンチャーキャピタル(VC)から資金調達を受けようとするのであれば、ベンチャーキャピタル(VC)がどのようなベンチャー企業に投資したいのか、を知っておく必要があります。しかし、これはなかなか難しい問題です。
会社がある程度成長すると、その会社に対する見方は似通ってきます。例えばトヨタ自動車をみて、明日にもつぶれてしまう、と思う人はほとんどいないでしょう。また、今年度、数千億円の利益を上げることを信じない人もほとんどいません。
しかし、スタートアップはこの先どうなるか、だれにも分かりません。特に会社がまだない状態だったり、サービスが決まっていない状態だったりする場合には、何をするのかすら決まっていないことも珍しくありません。
どのような企業家が選ばれるのか
これは一概には言えませんが、シードラウンドで投資したベンチャーキャピタル(VC)からよく聞かれるのは以下の事柄です。
- 人柄が真面目であること
- 起業するに至った理由に納得感があること
- 起業する業界をよく知っていること
- 事業に取り組む熱意があること
- 過去に起業を成功させた経験があること
- 事業をやり抜くと信頼できること
この全てを兼ね備えている必要はありません。
一方でどのベンチャーキャピタル(VC)も共通してみているのが、6.の事業をやり抜くと信頼できることです。
起業家の人柄以外にベンチャーキャピタル(VC)が投資を決める理由はなにか
ベンチャーキャピタル(VC)が投資を決める理由として起業家以外に挙げられる理由には以下のものがあります。
- そのベンチャー企業の事業領域がとても魅力的であること
- そのベンチャー企業の持っている技術が優れていること
事業領域が魅力的であれば、一つのプロダクト(商品あるいはサービス)で失敗しても、別のプロダクトでやり直せる可能性が高まります。
また、大学発ベンチャーや、事業会社からのスピンアウト(独立)等、技術が優れているベンチャーもその技術をベンチャーキャピタル(VC)が優れていると評価できれば投資の対象になりえます。
シードラウンドでベンチャーキャピタル(VC)から資金調達を受けるコツ
シードラウンドでベンチャーキャピタル(VC)から資金調達を受けられるかどうか、明確な基準がない中で、調達を成功させるためにはどうしたらいいのでしょうか?
何かコツがあるのでしょうか?
数多くのベンチャーキャピタル(VC)と会ってみる
ベンチャーキャピタル(VC)と会うことはそれほど難しいことではありません。知り合いの知り合いでつながる程度にベンチャーキャピタル(VC)はたくさんいますし、Twitterをフォローすることや、直接会社に電話をかけて会いに行くこともできます。
そして、これは決して珍しいことではありません。
またベンチャーキャピタル(VC)にとって迷惑な話でもありません。ベンチャーキャピタル(VC)は常に投資先を探しており、数多くの投資家と会うことを望んでいるからです。
エンジェル投資家を探す
数多くのベンチャーキャピタル(VC)に会うとしても、より効率を上げる方法はないのでしょうか。
その一つはエンジェル投資家と知り合いになることです。
ベンチャーキャピタル(VC)から投資を受けようとしているのに、なぜエンジェル投資家知り合うべきなのでしょうか?
イベントに参加する
スタートアップを対象としたイベントは数多く行われています。
例えば、アクセラレーションプログラム、ピッチコンテストなどです。
アクセラレーションプログラムとは、メンターと呼ばれる指導担当者が一緒になってスタートアップ企業の事業を成長させるためのプログラムです。企業が行っているケースもありますし、自治体が行っているケースもあります。
またピッチコンテストとは、スタートアップ企業が数社集まって、資金調達や事業提携を目的として会社説明を短時間で行うイベントです。こちらも企業が行っているケースもあれば、自治体等が行ているケースもあります。
このようなイベントには、ベンチャーキャピタル(VC)が多くの起業家と出会えることを期待して参加しています。そのためこのようなイベントに出て、注目を集めることができれば、ベンチャーキャピタル(VC)にこちらから出向くのではなく、向こうからアプローチしてもらえるようになります。
まとめ
スタートアップがシードラウンドで資金調達する方法はたくさんあります。しかし、どれも難しいことは確かです。
親や親戚、友人、知人などからの資金調達は向こうがお金を持っているのか、という問題がありますし、エンジェル投資家やベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達は、何十・なん百という候補者との競争になるからです。
その多くの候補者の中から、自社へ投資してくれるベンチャーキャピタル(VC)を探すには、とにかく多く会ってみるかしありません。ただ、こちらから連絡を取って会いに行く以外にもエンジェル投資家から紹介してもらったり、イベントに出てみたりと方法はいくつかあります。