補助金の採否を分けるのは、申請書の文章だけではありません。各事務局が公表している加点項目を読むと、その多くが「申請までに取得・宣言・登録を済ませてあるか」という事前条件です。文章は締切前夜でも書けますが、認定や宣言は間に合いません。
しかも、必須の要件と加点の条件は別物です。必須要件を落とせばそもそも申請できず、加点を落としても申請はできます。ここを混ぜて理解していると、取るべきものの優先順位を誤ります。この記事では、中小企業庁と各事務局が公表している条件だけを使い、申請前に済ませるものと、そのために必要な日数を整理します。表示を確かめたのは2026年9月22日です。
結論:必須要件と加点は別。先に必須を押さえる
デジタル化・AI導入補助金は、必須の手続きと加点の手続きをページ上で明確に分けています。必須側は2つだけです。

どちらも「すべての申請枠・類型の要件」と明示されています。そして両方に所要日数の目安が添えられています。GビズIDプライムはおおむね2週間、SECURITY ACTIONの宣言済アカウントIDはおおむね2〜3日。この2つが揃っていなければ、加点項目をいくら積んでも交付申請そのものができません。制度の全体像は中小企業向け補助金5制度を比較した記事で確認できます。
制度ごとに、何が必須で何が加点か
各制度の補助率・上限額・締切は、デジタル化・AI導入補助金の記事と中小企業成長加速化補助金の記事にまとめています。
事前に用意するものは制度で違います。必須と加点を分けて並べます。
表1:申請前に必要なもの(必須/加点の区別)
| 制度 | 必須 | 加点・上乗せの条件 |
|---|---|---|
| デジタル化・AI導入補助金 | GビズIDプライム、SECURITY ACTION宣言(★一つ星または★★二つ星) | クラウド製品の選定、インボイス対応製品の選定、賃上げの事業計画と従業員への表明、最低賃金に関する状況、SECURITY ACTION★★二つ星、サイバーセキュリティお助け隊サービスの選定、IT戦略ナビwithの実施、健康経営優良法人2026、くるみん・えるぼし認定、成長加速マッチングサービスへの登録、省力化ナビの活用 |
| 中小企業成長加速化補助金 | GビズIDプライム、100億宣言がポータルサイトに公表されていること | 公表なし(本稿の確認範囲) |
| 省力化投資補助金 一般型 | GビズIDプライム | イノベーション応援プログラムの認定製品の導入(審査において考慮、相見積もりも不要)、カタログ注文型の製品カタログ登録カテゴリに該当する製品の導入(審査の際に考慮) |
| 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 | 次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画の策定と「両立支援のひろば」での公表、子育て等に関する職場環境整備の取り組み、金融機関等からの事業計画の確認(資金提供を受ける場合) | 賃上げ特例(補助上限額の引き上げ)、地域別最低賃金引上げ特例(補助率の引き上げ) |
| 小規模事業者持続化補助金 | GビズIDプライム、商工会・商工会議所が発行する事業支援計画書(様式4) | インボイス特例(+50万円)、賃金引上げ特例(+150万円) |
出典:中小企業デジタル化・AI導入支援事業 事務局「申請を行う前に必要な手続き」/100億企業成長ポータル/中小企業省力化投資補助事業 事務局「一般型とは」「一般型トップ」/新事業進出・ものづくり商業サービス補助事業 事務局「補助対象事業の要件」「特例措置要件」/小規模事業者持続化補助金の商工会地区・商工会議所地区事務局(いずれも2026年9月22日確認)
この表で目を引くのは、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の必須欄です。賃金や設備とは関係のない、次世代法の行動計画と子育て支援の取り組みが必須要件に入っています。制度の性格が「投資を支える」だけでなく「雇用環境を整えた企業を選ぶ」方向にも寄っていることが読み取れます。
間に合わないものから逆算する
事前条件には、申し込んでから使えるようになるまでの待ち時間があります。事務局が公表している目安を並べます。
図1:事前条件にかかる日数の目安(各事務局の公表値)
宣言済アカウントID2〜3日
※持続化補助金申請締切の11日前が発行の受付締切
※成長加速化補助金通常2〜3週間(不備があればさらに)
出典:中小企業デジタル化・AI導入支援事業 事務局「申請を行う前に必要な手続き」/100億企業成長ポータルのお知らせ(2026年2月27日付・2月10日付)/小規模事業者持続化補助金の第20回公募スケジュール(申請受付締切2026年12月15日、様式4発行の受付締切2026年12月4日)。いずれも2026年9月22日確認。バーの長さは目安日数の比較のために作図したもの。
いちばん長いのは100億宣言です。中小企業成長加速化補助金の事務局は「100億宣言の公表に係る手続きは、通常2、3週間を要します」とし、申請時点で公表されていることが条件だと繰り返し案内しています。宣言を出しただけでは足りず、ポータルサイトに掲載されている必要があります。
小規模事業者持続化補助金の様式4は、日数ではなく日付で締め切られます。第20回公募では申請受付締切が2026年12月15日、様式4の発行受付締切が12月4日です。事務局は「受付締切以降の発行依頼は、いかなる理由があってもできません」とし、さらに申請要件を満たしていないと判断される場合は発行自体ができないとしています。
GビズIDプライムは制度ごとに取り直すものではありません。一度取得すれば、デジタル化・AI導入補助金でも省力化投資補助金でも持続化補助金でも使えます。
ただし2026年7月9日から有効期限が設けられ、デジタル庁の説明ではプライムとメンバーの有効期間はアカウント発行日から2年3か月です。数年前に取得したまま使っていない場合は、公募が始まる前に期限を確かめてください。
加点を取りにいって、逆に落とす条件がある
加点項目のなかには、達成できなかったときに罰則が付くものがあります。デジタル化・AI導入補助金の事務局が明示しているのは2つです。
図2:加点を申告したのに満たせなかった場合
賃上げ計画の従業員への表明
申請時に賃金引上げ計画を従業員に表明し、事業計画を達成したと申告したにもかかわらず、交付後に実際には表明していないことが発覚した場合、事務局は交付決定を取り消すとしている。
インボイス登録の時限加点
(インボイス対応類型)
交付申請時点で未登録であることを申告した者が、申請日より前にすでに登録を完了していた場合や、交付申請日から実績報告日までに登録できなかった場合は、原則として交付決定の取消しとなり補助金の交付を受けることができないとされている。
出典:中小企業デジタル化・AI導入支援事業 事務局「申請を行う前に必要な手続き|加点に必要な手続き」(2026年9月22日確認)
後者は条件が二重になっています。「まだ登録していない」と申告して加点を得たのに、実は申請日より前に登録が済んでいた場合も取消の対象です。登録通知書の「登録年月日」と交付申請日の前後関係が判定材料になります。自社のインボイス登録日を正確に把握せずに申告すると、加点どころか交付を失います。
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の賃上げ特例も同じ構造です。補助上限額を引き上げる代わりに、達成できなければ返還義務が生じます。採択後の数値目標については補助金の賃上げ要件と未達時の返還で制度別に整理しています。
加点の中身は公募回ごとに増えることもあります。デジタル化・AI導入補助金のインボイス対応類型では、決済機能を有するクラウド製品の選定が第2回公募回から、スマートレジの選定が第3回公募回から、それぞれ加点措置として追加されたと注記されています。前の回の情報で準備していると、加点の取りこぼしが起きます。
賃上げに関する加点も、内容は単純ではありません。デジタル化・AI導入補助金では、事業計画期間において枠ごとの要件をすべて満たす3年の事業計画を策定し、従業員に表明したうえで、その計画を達成する必要があるとされています。最低賃金に関する状況の加点は2つの条件から成り、ひとつは交付申請の直近月における事業場内最低賃金を令和7年7月の事業場内最低賃金より63円以上高い水準にしていること、もうひとつは令和6年10月から令和7年9月までの間で3か月以上、令和7年度改定の地域別最低賃金未満で雇用していた従業員が全従業員の30パーセント以上であることです。後者は「低い賃金の従業員が一定割合いたこと」を示す条件で、賃上げの余地が大きい事業者を優遇する設計になっています。
制度をまたいで効く認定を先に取る
加点項目のうち、取得に時間はかかるが一度取れば複数年・複数制度で使えるものがあります。デジタル化・AI導入補助金が挙げている加点対象を、取得の性格で分けると次のようになります。
表2:加点項目の性格による分類(デジタル化・AI導入補助金の例)
| 分類 | 項目 | 確認される時点 |
|---|---|---|
| 外部機関の認定を取る | 健康経営優良法人2026の認定、くるみん・トライくるみん・プラチナくるみん、えるぼし1〜3段階目・プラチナえるぼし | 交付申請時点で認定を受けていること |
| 公的サービスに登録する | 成長加速マッチングサービスへの会員登録と挑戦課題の登録(ステータスが「掲載中」であること) | 交付申請締切日時点 |
| 事前に実施しておく | IT戦略ナビwith(中小機構「デジwith」)の実施。申請に用いたGビズIDプライムを入力し、結果画面を交付申請時に添付 | 交付申請前に実施していること |
| 省力化ナビの活用 | 中小機構「省力化ナビ」で生産性向上の知見を確認していること | 交付申請締切日時点 |
| 導入するツールで決まる | クラウド製品の選定、インボイス対応製品の選定、サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト掲載ツールの選定 | 申請するITツールの内容 |
出典:中小企業デジタル化・AI導入支援事業 事務局「加点に必要な手続き」(2026年9月22日確認)。詳細は同事務局の公募要領を参照。
健康経営優良法人やくるみん・えるぼしは、申請から認定まで数か月単位の手続きです。今回の公募に間に合わせることを目的に始めるものではありません。一方で、IT戦略ナビwithや省力化ナビの活用、成長加速マッチングサービスへの登録は、その気になれば公募期間中に済ませられる性格のものです。加点の優先順位は、この違いで決まります。
製品側の条件で審査が変わる制度もある
加点は事業者の属性だけで決まるわけではありません。省力化投資補助金の一般型には、導入する製品によって扱いが変わる仕組みがあります。
事務局はイノベーション応援プログラムについて、中小の製造事業者の革新的で優れた省力化技術を持つ製品を導入すると審査において考慮され、相見積もりも不要になると説明しています。認定製品の一覧は事務局サイトで公開され、2026年9月3日に更新された旨が告知されています。
同じ一般型には、もうひとつの考慮事項があります。カタログ注文型の製品カタログに登録されているカテゴリに該当する製品を一般型で導入する場合、審査の際に考慮されるとされています。デジタル化・AI導入補助金のセキュリティ対策推進枠では、IPAが公表する「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」に掲載され、かつIT導入支援事業者が提供し事務局に登録されたサービスであることが補助対象の条件です。
どの制度でも、対象になる製品はあらかじめ決まっています。導入したい製品が先に決まっている場合は、その製品が登録済みかどうかを確認してから制度を選ぶほうが早道です。制度の探し方は補助金・助成金を探すページ、採択後の流れは補助金の採択後に注意することにまとめています。
よくある質問
Q. 加点項目は全部そろえないといけませんか。
A. 加点は必須要件ではありません。デジタル化・AI導入補助金の場合、必須とされているのはGビズIDプライムの取得とSECURITY ACTION宣言の実施の2つで、それ以外は加点項目です。ただし加点を申告したのに満たせなかった場合、交付決定が取り消される項目があります。
Q. SECURITY ACTIONは何を宣言するものですか。
A. 事務局の説明では、中小企業・小規模事業者等が自ら情報セキュリティ対策に取り組むことを自己宣言する制度で、「★一つ星」または「★★二つ星」の宣言が要件とされています。交付申請の作成時に宣言済アカウントIDの入力が必要です。
Q. GビズIDプライムはどのくらいで発行されますか。
A. デジタル化・AI導入補助金の事務局は「おおむね2週間」としています。デジタル庁のGビズID公式サイトでは、プライムの作成方法は「審査を行って作成」で「時間がかかる場合があります」と注記されています。
Q. 100億宣言は補助金の申請と同時に出せますか。
A. 出せません。中小企業成長加速化補助金は申請時点で100億宣言がポータルサイトに公表されていることが条件で、公表手続きには通常2〜3週間かかるとされています。不備があればさらに時間を要するとも案内されています。
Q. 健康経営優良法人の認定は、今から間に合いますか。
A. デジタル化・AI導入補助金の加点要件は「令和7年度に『健康経営優良法人2026』に認定された事業者であること」です。認定はすでに取得済みかどうかが問われるため、直近の公募に合わせて取得するものではありません。
Q. 相見積もりが不要になる制度はありますか。
A. 省力化投資補助金の一般型で、イノベーション応援プログラムの対象となる製品を導入する場合、事務局は審査において考慮されるとともに相見積もりも不要になると説明しています。
参照した公式情報
- 中小企業デジタル化・AI導入支援事業 事務局「申請を行う前に必要な手続き」https://it-shien.smrj.go.jp/applicant/measures/(2026年9月22日確認)
- 100億企業成長ポータル(中小企業成長加速化補助金・100億宣言)https://growth-100-oku.smrj.go.jp/(2026年9月22日確認)
- 中小企業省力化投資補助事業 事務局「一般型とは」https://shoryokuka.smrj.go.jp/ippan/about/(2026年9月22日確認)
- 新事業進出・ものづくり商業サービス補助事業 事務局「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金とは」https://shinjigyou-monodukuri.smrj.go.jp/overview/(2026年9月22日確認)
- 商工会地区 小規模事業者持続化補助金事務局「申請について」https://official.jizokukanb.com/shinsei/(2026年9月22日確認)
- デジタル庁「GビズID」https://gbiz-id.go.jp/top/(2026年9月22日確認)
加点項目と必須要件は公募回ごとに改定されます。申請の前には、自社が申請する制度・公募回の公募要領で現在の条件を確かめてください。認定の取得や事業計画の組み立てについて判断が必要な場合は、認定経営革新等支援機関や社会保険労務士などの専門家に相談することをおすすめします。

