ベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達を成功させる資本政策策定のコツ

ベンチャーキャピタル(VC)から資金調達する際、資本政策について資料を提出し、説明することを求められます。

出典:中小企業支援機構

資本政策とは

この先、会社の株式を「誰が」「どのくらいの持ち分比率を」「いくらで」持つようになるのかの計画

です。

事業計画と同じ期間を想定して作成されます。

資本政策は、「一度間違えると後戻りできない」とよく言われます。意味するところは、「計画を作り間違えると後戻りできない」ではなく「間違えた計画に従って資本政策を実行してしまうと後戻りできない」です。このように資本政策は「計画」ではなく、株主の変更を行った「結果」を言うこともあります。
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資本政策の内容について、より細かく見たうえで、ベンチャーキャピタル(VC)から資金調達を成功させる資本政策とはどのようなものなのか、を見ていきたいと思います。

資本政策とは?何を考える必要があるのか?

資本政策とは?何を考える必要があるのか?

資本政策を考える際、一番最初に考えるべき事柄は

経営者がどの時点で、どれだけの持ち株比率を持ちたいのか

です。

経営者の持ち株比率は、会社の意思決定を経営者がコントロールできるか(過半を下回るとコントロールできなくなくなる可能性が高まります)、そして経営者が会社の経営にモチベーションを持ち続けられるか(持ち株が少なくなると会社の利益を自分で手にできなくなる結果、モチベーションが下がる可能性があります)、という観点から非常に重要です。

例えば、今、経営者が持ち分の100%を保有しており、将来の上場(IPO)を目指している会社があるとします。

IPO時に経営者と、経営者に協力的な株主で持ち株比率の過半数を保有しているのが望ましいと言われます。

仮に、協力的な株主が現れることは想定せず、またIPO時に経営者の持ち株を持ち株比率にして10%売り出すとします。

そうするとIPO前に経営者の持ち株比率は60%以上(10%を売り出してもなお50%の持ち株比率が残る)でなければならない、ということになります。

経営者が、どの時点でどれだけの持ち株比率としたいのかを決めたら、その時点までの「持ち株比率の変動の予定」を考えます。

具体的には「どのような属性の株主に、どれだけの株式を保有してもらうのか」を計画します。

属性というのは「会社に対してどのような支援が期待できる株主なのか」を言います。金融系の投資家、提携を期待できる事業会社、あるいは特定のノウハウを持つ投資家(大学の先生等)等の中から、株主になってほしい人を考えます。

ベンチャー企業がベンチャーキャピタル(VC)からの資本調達を検討する際、通常は「経営者の持ち株比率が薄まっていく」ことだけが問題になります。

しかし、現時点の株主構成にすでに問題があり、その是正を資本政策に織り込むケースもあります。具体的には、提携を期待して株主になってもらったものの、ピボットしており(事業領域を変更しており)、もうその株主との提携の効果が期待できない場合、その株主の持ち株を会社が買戻したり、別の株主に譲渡してもらったりする必要があり、これが資本政策に織り込まれるケースがあります。

あるいは、創業メンバーが株を持っているものの、そのメンバーが既に会社を辞めていて、株式をどうにかしなければならない(喧嘩別れしていて、会社の縁を完全に切るためにその持ち株を買い取りたい場合等)も資本政策としどうするかを考える必要があります。

良い資本政策とは

資本政策を策定する際、「良い資本政策」「悪い(間違った)資本政策」があります。もちろん、ベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達のために提出すべきは「良い資本政策」です。

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では、良い(悪い)資本政策とはなんでしょうか?
  • 「良い資本政策」とは、「その資本政策の通りに株主の変動が生じるであろう」と見込まれる計画です。
  • 「悪い資本政策」とは、「その通りに株主の変動が生じないであろう」と見込まれる計画です。

資本政策が失敗する原因とは

「悪い資本政策(その通りにならなそうな資本計画)とはどのようなものか」を理解するために、経営者の持ち株比率が計画を下回ってしまう原因をみていきましょう。

まず、経営者の持ち株比率が下がるのは、以下を行った場合です。

  • 株主割当以外の増資
  • ストックオプションの発行
  • 株式の譲渡
これら「経営者の持ち株比率が下がる行為」はいずれも「経営者が同意」しなければ行われません。
  • 経営者が第三者割当増資を行うから持ち株比率が下がります。
  • 経営者がストックオプションを発行するから持ち株比率が下がります。
  • 経営者が株式を譲渡するから持ち分比率が下がるのです。
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経営者は、なぜ資本政策と相違するような増資などを実行してしまうのでしょうか。

ベンチャー企業にはお金が必要ですが、通常はそのお金がありません。信用もなく、借入が困難です。

そのため、「将来得られるであろう利益」を「株式」という形で株主になる者に渡し、その対価としてお金を手にする必要があるのです。つまり、ベンチャー企業は資金調達のために、経営者の持ち株比率を下げる必要があるのです。

資本政策との関係に戻って考えると、

  • 株式を用いた資金調達が会社の予定していた通りに行われると、資本政策の通りの「持ち株比率」になります。
  • 逆に想定していなかった資金調達を行うと資本政策と株主構成とが(あるいは経営者の持ち株比率とが)乖離してしまうことになります。

資本政策の失敗と調達価格

資金調達の予定は事業計画に記載されています。そのため、事業計画と資本政策とはつながっています

資本政策の失敗は「(想定していなかった)資金調達をするか?しないか?」というに二択ではありません。

将来の資金調達は、「その調達の時点で会社にどれくらい価値があるか」言い換えると「その時までに会社がどれだけ成長しているか」によって決まります。そのため、事業計画で想定したほど会社が成長しないと資本政策通りの調達ができません。

次の資金調達で1億円調達し、経営者の持ち株比率は10%下げる、という資本政策があったとします。会社が成長していなければ(売上やユーザー数等が想定通りに伸びていなければ)、経営者の持ち株比率を20%下げないと1億円が調達できない、ということが生じます。

ベンチャーキャピタル(VC)は資本政策の何を見ているのか?

ベンチャーキャピタル(VC)は資本政策の何を見ているのか?

ベンチャーキャピタル(VC)は、ベンチャー企業から資本政策の提供を受けて、以下の項目を確認しています。

  • 「資本政策」というものについて理解しているのか?
  • 「資本政策」は妥当で事業計画と整合しているのか?
  • 「資本政策」にはどの程度の余裕が持たせてあるのか?

資本政策について理解しているのか

ベンチャーキャピタル(VC)は

資本政策を見れば、その会社の経営者がどの程度資本政策というものについて理解しているのか

が分かります。

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資本政策について理解していないと、経営者の持ち株比率に無頓着であったり(持ち株比率が著しく下がる資本政策であったり)、事業計画とリンクしていなかったりするからです。
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ベンチャーキャピタル(VC)が、経営者の資本政策に対する理解度を気にするのはなぜなのでしょうか。

まず、ベンチャーキャピタル(VC)がその会社に投資をするかどうか検討している中で、「次回の調達はどうなるのか」は必ず検討する項目です。

これは会社の事業計画において「調達」が予定されている場合はもちろんのこと、予定されていない場合でも事業が思うように進捗しなければ資金調達が必要になるからです。

次回の資金調達においてもベンチャー企業の場合には、「株式を用いた調達」が主たる手段になります。これが、すでに投資している(株主となっている)ベンチャーキャピタル(VC)にとっては悩ましい事態となります。

なぜなら、何もしないとベンチャーキャピタル(VC)の持ち分比率が下がることになります。一方で持ち分比率を維持しようとすれば追加投資が必要になります。つまりベンチャーキャピタル(VC)としては決断が必要な場面が訪れることになるのです。

しかし、これは経営者が合理的な資金調達をしようとしていることが前提になります。経営者が不合理な調達を行う場合にはベンチャーキャピタル(VC)の利益が侵害される可能性があります。

ベンチャーキャピタル(VC)としては、自分が投資した次の資金長調達が上手く行われることを確認したいので、経営者が資本政策について正しく理解しているのかを気にしているのです。

ただし、問題になるのは「理解しているかどうか」ということよりも、「理解できるのか」という点です。ベンチャー企業の経営者が全ての事柄を理解していることはありませんし、資本政策について理解が足りないことも少なくありません。

しかし、ベンチャーキャピタル(VC)から資本政策について教えてもらい、修正できれば事足ります。

ベンチャーキャピタル(VC)に「提出する前に理解することに時間をかけすぎることが正解ではない」ということです。

資本政策は事業計画と整合しているのか

資本政策と事業計画とは整合しているべきです。

しかし、実際には、ずれているケースが珍しくありません。

資本政策と事業計画とが整合していない事例として多いのは、将来の増資による資金調達の単価が高すぎることです。

例えば、将来の株式の単価(株価)が今の3倍になるとすれば、通常は事業が3倍、進捗している必要があります。

また会社の成長に伴って人材(それも市場価値の高い専門人材)が必要になるにもかかわらず、現金での給与の支払い総額がそれほど増えておらず、ストックオプションを想定していない(計画に織り込まれていない)場合もあります。

資本政策が事業計画と整合していない場合には、経営者が資本政策について理解していないことが疑われます。

もちろん、資本政策を理解しているものの、事業計画に間違いがある結果、整合しないこともあります。

いずれにしても、将来の会社の姿が経営者の計画している通りに進まないことになりますので、そのままだとベンチャーキャピタル(VC)が投資できないことになります。

資本政策にはどの程度の余裕が持たせてあるのか

ベンチャー企業の事業計画はあくまで計画であって、その通りに進展することはまずありません。ベンチャー企業の責任であってもなくても、想定通りに進まないことの方が普通なのです。

事業計画が想定通りに進まない場合には、当然、それと整合しているはずの資本政策についても将来、見直しが必要になります。

その際、どの程度、資本政策に余裕があるのか、というは大事なポイントです。

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資本政策の余裕とは、経営者の持ち株比率が、必要とする(あるいは希望する)持ち株比率よりも高く設定されていることです。それによって、経営者の持ち株比率を下げる手段(増資等)を行う余地が生まれます。

ベンチャーキャピタル(VC)にとっての資本政策の重要性

資本政策というのは会社、その経営者にとって重要な事柄です。株式はベンチャー企業の最も重要な資源と言っても過言ではないため、「誰に、どれだけの株式を、いくらで譲り渡すのか」で会社の将来が大きく変わってくるからです。

ベンチャーキャピタル(VC)にとっても同様です。経営者の持ち分比率は経営者の影響力や、場合によってはやる気を左右することがあります。その結果、会社が成長できるかが変わってきます。

さらに直接的にはベンチャーキャピタル(VC)が投資して取得した株式の価値(価格や持ち分比率)が将来、どうなっていくのかも資本政策によって変わってきます。

しかし、一方で、資本政策の内容や資料は、ベンチャーキャピタル(VC)の意思決定おいて、会社を理解するための資料として、あるいはネガティブチェックにしか使われません。ネガティブチェックとは「資本政策に問題がある会社には投資しない」ということです。

これは、資本政策に沿った株主を集めることは、会社の意思だけでは難しく、増資するタイミングの経済状態などによって大きく影響を受けるためです。

逆に言えば、どんなにすごい資本政策を策定したところで、その資本政策が素晴らしかったから、という理由で資金調達ができることはありません。
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資本政策を策定するうえで、この点はとくに心に留めておきましょう。

ベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達を成功させる資本政策とは(策定のコツとは)

ベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達を成功させる資本政策とは(策定のコツとは)

ベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達を成功させるためには、妥当な資本政策を提供する必要があります。妥当、というのは事業計画と整合しており、また資本政策の結果、経営者の持ち分比率が望む比率となっているような資本政策であるということです。

では、そのような資本政策を策定するコツとしてはどのようなものがあるのでしょうか。

自社の資本政策について理解しておく

資本政策とはどういうものであるのか、ということを事細かに知っている必要はありません。なぜならベンチャーキャピタル(VC)は資本政策がどれほど素晴らしくても投資してくれるわけではないからです。

むしろどんな資本政策であれ、その中身を理解しておくことがベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達を成功させるためには重要です。

自社の資本政策の中身を理解しているのであれば、当然、どうしてそのような資本政策を策定したのか説明できるはずです。

さらには、「どのような選択肢の中から何を選び、資本政策が策定されたのか」まで説明できれば満点と言えます。

自社の資本政策を理解しておくことはベンチャーキャピタル(VC)に安心感を与えます。その安心感こそが資金調達を成功させるために必要なのです。

専門家に作成してもらう

経営者は資本政策を理解しておく必要がありますが、自分で細部まで作成する必要はありません。

経営者が作成すべき(あるいは決めるべき)は

  1. 将来、自社の株主はどのような構成であるのか(その中で経営者の持ち株比率はどうなっているのか)
  2. それぞれの株主からいくら調達した結果、その株主構成になるのか

の2点だけです。

資本政策は、とくにその詳細は専門知識の塊です。IPO直前の株式の移動(株主の異動)が課税対象となるなど税務的な観点、あるいはロックアップの対象となるなどキャピタル・マーケット的な観点、もちろん法的な観点など、多くの気を付けるべきことがあります。

従って、詳細は専門家に作成を任せておいた方が、ミスなく、また将来問題になりそうな芽をつぶしておくことができます。

経営者は「資本政策の策定」に悩むくらいであれば、むしろ事業計画や事業の推進にこそ時間を使うべきです。

株主間契約を結んでおく

資本政策の着地点において、「安定株主」と「想定する株主」がいる場合には「株主間契約」を結んでおくべきです。

安定株主とは、会社・創業者に協力的な株主を言います。

安定株主が創業者(オーナー)だけではない事例の筆頭は、そのベンチャー企業を友人等共同経営者と立ち上げた場合です。

共同経営者といつまでもよい関係が続けられることが望ましいのは言うまでもありませんが、人間同士はどれだけ信頼しあっていても、時間の経過とともに反目しあってしまうことがあるというのもまた事実です。

当然、そうなると安定株主ではなくなります。むしろ会社にとって最も厄介な株主となる場合の方が多いです。

従って、そうならないよう共同経営者との間で株主間契約を締結しておき、関係が悪化した際に株式を買い取る等の手当てをしておく必要があります。

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資本政策に加え、株主間契約による手当てがなされていることは、経営者のリスク感覚についてベンチャーキャピタル(VC)に安心感を与えることとなり、資金調達の成功に近づく一歩となります。

まとめ

資本政策はベンチャーキャピタル(VC)から必ず提出を求められる資料の一つです。

しかし、ベンチャーキャピタル(VC)はその資料を会社を理解するため、またネガティブチェックを行うためにしか利用しません。資本政策が素晴らしいという理由で投資が決まることはないのです。

そのため、資本政策の策定は大枠を経営者が考え、詳細は専門家に作成を依頼することが合理的と言えます。

teacher

経営者が決めなければならない大枠は、経営者の持ち株比率をどの時点でどれだけにしたいか、そして、株主として、いくらでどのような属性の人を迎え入れたいのか、です。

資本政策は事業計画と整合しているべきですし、経営者は整合していることをしっかりと説明できるようにしておくことで、ベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達の成功に近づくことができるでしょう。

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