ベンチャーキャピタル(VC)から株式を買い戻す方法

ベンチャーキャピタル(VC)から投資を受けて、数年してから会社が株式を買い戻すケースはよくみられます。また、ベンチャーキャピタル(VC)から「株を買い戻すよう要求され困っている」というのはベンチャー企業ではよく聞かれる相談です。

調達時には、会社・ベンチャーキャピタル(VC)の両者が同意したからこそ、ベンチャーキャピタル(VC)が株主になっているはずですから、株式の買戻しについて話し合っているということは、調達時には想定していなかった事態が生じていることになります。

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まずは、株式の買戻しが行われる理由や背景を見てみましょう。
「株式の買戻し」は、ベンチャーキャピタル(VC)・ベンチャー企業のどちらから求める場合もあります。ただし、同じ「株式の買戻し」であってもこの二つは全く異なる話のため、違いをきちんと理解しておきましょう。

ベンチャーキャピタル(VC)から株式を買い戻すのはどんな場合か?

ベンチャーキャピタル(VC)から株式を買い戻すのはどんな場合か?

「株の買戻し」が行われる理由・背景には

  • ベンチャーキャピタル側の都合
  • ベンチャー企業側の都合

双方があります。

ベンチャーキャピタル(VC)が買戻しを求める理由

ベンチャーキャピタル(VC)が買戻しを求める理由は3つあります。

  1. 会社が投資契約書に違反している
  2. 会社が期待していたほど成長する見込みがない
  3. 会社の成長が期待していた時間軸で行われない

いずれにしても、「投資した時に想定していたような成果が得られない」という状態のときに買戻しを求められます。

ベンチャーキャピタル(VC)に限らず、株主が会社との関係を終わらせるには二つしか方法がありません

1.会社を解散すること

清算手続きにより残余財産の分配を受け、株式が無効となる(対象の会社がなくなる)ことで会社との関係を終わらせることができます。

2.株式を誰かに譲渡すること

ベンチャーキャピタル(VC)が会社との関係を終わらせたいほど会社に問題がある場合、株式を買い取ってくれる人を見つけることは非常に困難です。

そのため、会社に「株式を買い戻すよう求める」ことになるわけです。

ベンチャーキャピタル(VC)が買戻すよう求める場面はさらに二つに分けることができます。

  1. 契約(投資契約)に基づく場合
  2. そうではない場合

です。

投資契約に定められた買戻条項に基づいて「買戻し」を求められる場合

投資契約書の中に「株式の買戻し」について規定されている場合、ベンチャーキャピタル(VC)はこれに基づく買戻しを要求してきます。

「会社が何をすると買戻条項に該当するのか?」は投資契約書ごとに異なりますが、代表的なのは次のような事柄です。

  • ベンチャーキャピタル(VC)が投資を検討する前提資料として提供した情報に間違いがあった
  • 「何年後には上場する」「機密を守る」等投資契約書に書かれた条件に違反した

投資契約書に買戻しが規定されている場合には次の2点も規定されています。

  1. 誰が買戻すのか
  2. いくらで買戻すのか

1.は、会社のほか、会社の経営者(特に創業者)が買取る義務を負っているケースがほとんどです。

2.はベンチャーキャピタル(VC)の取得価格や、それに一定の係数(取得価格の1.2倍等)をかけた金額が買戻し金額として記載されています。

投資契約には定められていないにもかかわらず「株式の買戻し」を求められる場合

投資契約に何も記載がない場合でも、往々にしてベンチャーキャピタル(VC)は「株式の買戻し」を会社に求めてきます。

「会社が思うように成長していない」ということは、投資を受ける時点でベンチャーキャピタル(VC)に提出した事業計画と、現状の経営数値が異なっているということです。この点が、いくら計画とはいえ、ベンチャーキャピタル(VC)からは「約束を違えた」と主張されます。

前述の通り、ベンチャーキャピタル(VC)としては、状態のよくない会社に対して、「買戻し」を求める以外に会社との関係を(つまりはその会社に対する投資を)終わらせる方法がないことも買戻しを求める大きな理由の一つです。

「会社を清算させる」という方法を実行するには、株主総会の「特別決議」が必要となりますが、ベンチャーキャピタル(VC)は、自社単独で特別決議を行うほどの議決権割合をもっているケースは稀なため、実際には「買戻し」しか方法がないのが実情です。

契約に記載がない事項なだけに、買戻しを裁判等で強制されることはありません。

しかし、「法的な義務がないから応じなくても良い」ということではなく、

次の事柄を検討し、「買戻しに応じること/断ること、どちらが会社にとって利益になるのかどうか、慎重に判断する」必要があります。

  • 「買戻し」に応じないと、そのベンチャーキャピタル(VC)が関係することで何か不利益が生じるのか?
  • 「買戻し」に応じると、そのベンチャーキャピタル(VC)との関係で何かプラスになることがあるのか?
  • 「買戻し」に応じることで、他の株主がどう反応するか?(他にも「買戻し」を希望する株主が現れないか?)

ベンチャーキャピタル(VC)から求められた「株式の買戻し」が難航する理由とは

ベンチャーキャピタル(VC)から「株式の買戻し請求」を受けるような場合では、ベンチャーキャピタル(VC)側に株式を売って会社との関係を終わらせたい強いニーズがあるため、売買価格は(取得価格と比較しても、また契約書にどのような記載があろうとも)相当なディスカウント(値引き)がなされます。

にもかかわらず、会社が進んで応諾してスムーズに買戻しが行われるケースはほとんどありません。

理由は二つあります。

まず、会社としてはせっかく調達した資金を株主に払い戻す理由は、特殊な事情がなければ、ありません。会社の成長に、あるいは会社の存続に必要な資金を株主に返してしまうと、ただでさえ想定通りに進んでいない会社経営がさらに困難になります。

そしてもう一つ、ベンチャーキャピタル(VC)から株式の買戻しを求められる局面では、買戻しに必要な資金を会社が持っていないことが多いためです。

ベンチャー企業側の必要性

ベンチャー企業がベンチャーキャピタル(VC)から「株式を買い戻す」理由はベンチャーキャピタル(VC)に求められる場合だけではありません。

ベンチャー企業の側から希望して買戻す場合もあります。

ベンチャー企業側から買戻しを求める理由は2つあります。

1.ベンチャーキャピタル(VC)との縁を切りたい場合

ベンチャーキャピタル(VC)によっては、会社の経営に間違った口を出し、悪い評判を広めるなど会社の成長の邪魔をすることがあります。そのようなベンチャーキャピタル(VC)に出て行ってもらいたい場合に、「株式の買戻し」行うことになります。

他にも、提携したい相手がいる場合、その提携相手が自社の株主であるベンチャーキャピタル(VC)とは付き合いたくない(理由は様々です)というケースがあります。この場合には、提携前に株式を買い戻して、そのベンチャーキャピタル(VC)に会社から出て行ってもらうように求めることになります。

2.資本政策の歪みを是正する場合

とくに経営者の持ち株比率が低すぎる場合には、ベンチャーキャピタル(VC)からの買戻しを経営者が行ったり、一度会社で買戻したうえで第三者割当増資を経営者に対して行ったりするケースがあります。

資本政策の失敗をベンチャーキャピタル(VC)に助けてもらう形とはなりますが、創業者と現在の経営者が異なる場合等、経営者本人の失敗とも言えず、他に手段がない、ということもままよくあるのです。

いずれにしてもベンチャー企業側から株式の買戻しを求めるのは、会社がこの先成長していける見込みがある場合です。

ベンチャー起業から求められた株式の買戻しが難航する理由とは

ベンチャー企業から株式の買戻しを求めるのは、経営者としては少なくとも、会社がこの先成長している見込みがあるです。

そのため、ベンチャーキャピタル(VC)としては「その株式を保有しつづけたい。」と普通は考えてます。

また、会社が「株式の買戻し」を求める事情は、ベンチャーキャピタル(VC)にとっての課題ではありません。

会社の成長を邪魔しているベンチャーキャピタル(VC)には、その自覚がないことが多く、「会社との関係を終わらせたい」と考えていないケースが大半です。

また、資本政策についても、経営者の問題であってベンチャーキャピタル(VC)が是正する必要があると考えていることはまずありません。(もし資本政策がおかしいとベンチャーキャピタル(VC)が考えているのであれば、資金調達に応じなかったはずだからです)

このように「売る気のない」「売る理由がない」ベンチャーキャピタル(VC)から株式を買い取るためにはベンチャーキャピタル(VC)の「言い値」で買い取るしかありません。そのため、買い取るには資金が足りないか、価格に折り合いがつかないか(会社側が納得しないような金額をベンチャーキャピタル(VC)が求めるか)になってしまい、買戻しは困難になるのです。

ベンチャーキャピタルから株を買戻す方法

ベンチャーキャピタルから株を買戻す方法
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ベンチャーキャピタル(VC)から「株式を買い戻す」ことについて条件面で合意できた場合、どのような手続きを経て買戻しが行われるのでしょうか。
ベンチャーキャピタルから会社が株式を買戻すことは、会社法において「自己株式の取得」と呼ばれています。買戻した直後、会社が自社の株式を保有している状態になる(この状態の株式を「自己株式」と呼ぶ)ためです。

自己株式の取得は

  1. 取得するための「条件」
  2. 取得するための「手続き」

の両方を満たす必要があります。

自己株式取得の「条件」とは

会社の財産は、まず債権者に払われ、残ったものが株主に支払われます。しかし、会社が十分な財産を持っている場合には「株主へ先に支払う」こともできます。

会社から株主への支払いは「分配」と呼ばれています。

この十分な財産を確保した残りを(分配の)「原資」と言います。

原資をどうやって計算するのかのルールを「財源規制」あるいは「分配規制」と呼びます。

自己株式の取得は、「会社の財産を株主に渡す取引」です。

つまり、債権者よりも先に株主への支払いが行われます。そのため、自己株式の取得についても「財源規制」が適用されます。

「財源規制」では、会社の債務を全て支払った残りと計算できるものだけが「分配の原資」となり、自己株式取得の対価とできます。

自己株式取得の「手続」とは

自己株式を取得する際の手続きは「会社法」に定められています。

自己株式の取得は

  1. どの株主の保有する株式を取得するのか決めずに行う(応募してきた株主の株式を買う)
  2. 特定の株主の株式を買う

場合があります。

ベンチャーキャピタル(VC)からの株式の買戻しの場合には、そのベンチャーキャピタル(VC)の保有する株式だけを取得することになります。

その手続きは以下の通りです。

  1. 取締役会で株主総会の招集及び自己株式の取得を株主総会の議案とすることを決議する
  2. 全ての株主に対して自己株式の取得を行うこと、自分の株式を買い取ってほしい場合には会社に通知するよう連絡する
  3. 株主総会の招集通知を株主に対して発送する
  4. 株主総会で自己株式について決議する
  5. 取締役会で詳細な条件を決議し、売り渡す株主(ベンチャーキャピタル(VC))に通知する
  6. 買戻しを希望するベンチャーキャピタル(VC)から買戻しの申込を受ける
  7. 金銭の支払いと自己株式の取得を行う
  8. 株主名簿の書き換えを行う

4.の株主総会で決議する必要があるのは、次の4点です。

  • 取得する株式の数
  • 取得する株式の対価(現金を対価するとならいくら支払うのか)
  • 自己株式を取得できる期間
  • 株式を取得する相手

それ以外の詳細な条件は取締役会に委任することができます。

ベンチャー企業の「自己株買い」は、ベンチャーキャピタル(VC)と買戻しをすることについて(とくにその価格について)合意することが大変なため、買戻すと決まれば決済の用意(買取り資金の用意)だけに集中しがちです。

しかし、自己株買いの手続きに漏れがあると、この先、別のベンチャーキャピタル(VC)から資金調達する場合、あるいはM&Aを行う場合、またIPOする場合に、問題として指摘され、補完に大変な手間がかかります。

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弁護士や資本書士などの専門家を頼りながら、必要な手続きが漏れないように注意して進める必要があります。

ベンチャーキャピタルからの株の買戻しを回避する方法

ベンチャーキャピタルからの株の買戻しを回避する方法

ベンチャーキャピタル(VC)からの株式の買戻しは手順としては難しいことは一つもありません。

しかし、そもそも買戻しについて合意することが難しく、とくに価格について折り合うのが困難です。

従って、「買戻しを求める、求められる事態を避けること」の方がどうやって買戻すかを考えるよりも重要です。

避け方は、3通りあります。

1.買戻しを求められる前の対処

ベンチャーキャピタル(VC)から「株式の買戻し」を求められないための対処として、より望ましいのは「買戻しを求められる前に買戻しが生じないよう手当てをしておく」ことです。

しかし、ベンチャーキャピタル(VC)が株式の買戻しを求めることを止める手立ては通常ありません。

そのため、「買戻しを求めるようなベンチャーキャピタル(VC)からは資金調達しない」ということが最も重要です。

周囲に聞いて評判を集めることで、そのようなベンチャーキャピタル(VC)を避けることができます。

また、ベンチャーキャピタル(VC)が自分たちの投資家向けに作成している過去の投資実績の資料では。各投資についてどのような方法で回収したのかが記載されています。

その資料を見せてもらうのも一つの方法です。

2.買戻しを求める前の対処

会社から「株式の買戻し」を求めることを避けるためにも、そのベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達前に「そのベンチャーキャピタル(VC)の評判」について情報を集めておくことが重要です。

会社の成長の邪魔になるベンチャーキャピタル(VC)から調達した場合、合わせて資本政策について会社経営者から不満が生じることが多くあります。
つまり、「そのベンチャーキャピタル(VC)を避ける」しか買戻しの局面が生じないようにする方法はないのです。
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会社から株式の買戻しを求める場合には、仮に調達後であっても、なるべく早いタイミングでベンチャーキャピタル(VC)と協議を始めることが重要です。

会社が成長すればするほど、買戻しに必要な金額は増えていくため、早く買戻せればそれだけ有利になるからです。

3.買戻しを求められた後の対処

ベンチャーキャピタル(VC)から「株式の買戻し」を求められた場合、買戻すお金がなくベンチャーキャピタル(VC)と喧嘩別れになり関係が悪化した場合はもちろん、仮に交渉して買戻しを思いとどまってもらったとしても、この先、会社の味方となってくれると期待するのは困難です。

つまり、会社としてもそのベンチャーキャピタル(VC)との関係を終わらせることが望ましいということです。会社に買戻すお金、分配の原資がない場合には、誰かに買取を依頼して株式を持ってもらうことになります。

そのためには、ベンチャーキャピタル(VC)と協力して、あるいはベンチャーキャピタル(VC)に代わって株主になってくれる人を探すことになります。

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新しく入ってくる株主にとっては、株式を安く(ベンチャーキャピタル(VC)から)購入するチャンスとなります。

しかし、会社からすれば誰でもいいわけではなく、買戻しが再び生じないように新しい株主は慎重に選ぶ必要があります。

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