中小企業向けの政策金融として、商工中金と日本政策金融公庫(日本公庫)はよく並べて語られます。ただし借り手から見ると、両者は入口の条件も扱う業務も違います。2026年11月4日に両者の公式ページを開き、根拠法、利用資格、業務の範囲、規模を突き合わせました。公表されている数字どうしで比べると、中小企業向けの貸出残高では商工中金のほうが大きいという結果になります。
このページの要点(2026年11月4日に両者の公式ページで確認)
- 最大の違いは利用資格。商工中金は融資の時点で商工中金株主団体の構成員等である必要がある。日本公庫にはそうした団体加入の条件がない。
- 預金を扱うのは商工中金だけ。商工中金の預金は6兆7,928億円(2026年3月31日現在)。
- 規模は日本公庫が大きいが、中小企業向けだけを比べると商工中金の貸出金9兆7,435億円に対し、日本公庫の中小企業事業(融資業務)は7兆5,767億円。
- 日本公庫の資本金は11兆7,810億円(令和8年6月30日現在)。商工中金は2,186億円。
- 商工中金は2025年6月に政府保有株式が全部処分された。日本公庫は株式会社日本政策金融公庫法にもとづく株式会社のまま。
根拠法も目的の条文も違う
どちらも株式会社ですが、拠って立つ法律が別です。
商工中金は株式会社商工組合中央金庫法(平成19年法律第74号)です。第1条は「株式会社商工組合中央金庫は、その完全民営化の実現に向けて経営の自主性を確保しつつ、中小企業等協同組合その他主として中小規模の事業者を構成員とする団体及びその構成員に対する金融の円滑化を図るために必要な業務を営むことを目的とする株式会社とする」と定めています。
日本公庫は株式会社日本政策金融公庫法です。公式サイトのプロフィールは目的をこう書いています。「一般の金融機関が行う金融を補完することを旨とし、国民一般、中小企業者及び農林水産業者の資金調達を支援するための金融の機能を担うとともに、内外の金融秩序の混乱又は大規模な災害、テロリズム若しくは感染症等による被害に対処するために必要な金融を行うほか、当該必要な金融が銀行その他の金融機関により迅速かつ円滑に行われることを可能とし、もって国民生活の向上に寄与することを目的として業務を行っています」。
目的の条文から読み取れる違い
商工中金
- 相手方を「団体及びその構成員」と限定している。
- 「完全民営化の実現に向けて」という前置きが条文に残っている。
- 目的は「金融の円滑化を図るために必要な業務」。
日本政策金融公庫
- 相手方は「国民一般、中小企業者及び農林水産業者」。
- 「一般の金融機関が行う金融を補完すること」が旨とされている。
- 危機対応(金融秩序の混乱、大規模な災害、テロリズム、感染症等)が目的に明記されている。

借りられる人の条件が決定的に違う
実務でいちばん効くのがここです。商工中金の「融資の対象となる方」は、対象先を商工中金株主団体とその構成員としたうえで、こう注記しています。「ご相談の際には、中小企業団体(商工中金株主団体)の構成員である必要はございませんが、ご融資の時点で、中小企業団体(商工中金株主団体)の構成員等になっていただく必要があります」。
日本公庫の目的条文には、団体への加入を求める文言がありません。国民一般、中小企業者、農林水産業者という事業の属性で対象が決まります。
つまり、日本公庫は申し込める状態から始まるのに対し、商工中金は融資までに「構成員等になる」という工程が1つ挟まります。
商工中金は「これから中小企業団体を設立される方、現時点で中小企業団体(商工中金株主団体)の構成員になっていない方のご相談にも応じています」としていますが、その手続きに要する時間を資金が必要な時期から逆算しておく必要があります。
商工中金株主団体の種類と、構成員になるという条件の根拠は商工中金とはで条文から整理しています。
預金を扱うのは商工中金だけ
株式会社商工組合中央金庫法は、業務の範囲に「預金又は定期積金の受入れ」を挙げています。実際、商工中金は定期預金「マイハーベスト」などを扱い、2026年3月31日現在の預金は6兆7,928億円、譲渡性預金は326億円です。
日本公庫のプロフィールに、預金に関する記載はありません。資金量として示されているのは資本金と資本準備金です。
この違いは日々の実務に出ます。商工中金で借りた場合、返済は「商工中金の預金口座からの自動振替」になります。口座を開く前提になるぶん、決済口座としても使えます。日本公庫の融資では、返済は利用者が指定した金融機関の口座から引き落とす形になります。
規模を公表されている数字で比べる
両者が公表している数字を並べます。基準日が違う点には注意が必要です。
| 項目 | 商工中金 | 日本政策金融公庫 |
|---|---|---|
| 根拠法 | 株式会社商工組合中央金庫法(平成19年法律第74号) | 株式会社日本政策金融公庫法 |
| 発足・会社成立 | 1936年10月8日(株式会社化は2008年10月1日) | 平成20年(2008年)10月1日 |
| 資本金 | 2,186億円 | 11兆7,810億円 |
| 店舗・支店 | 国内103/海外5 | 152支店 |
| 職員数 | 3,389人 | 7,423人 |
| 貸出金・総融資残高 | 9兆7,435億円 | 23兆1,400億円 |
| うち中小企業向け | 9兆7,435億円(全額が中小企業向け) | 7兆5,767億円(中小企業事業・融資業務) |
| 預金 | 6兆7,928億円 | 取り扱いの記載なし |
| 基準日 | 2026年3月31日現在(資本金等) | 令和8年3月31日時点(融資残高)、令和8年6月30日現在(資本金) |
出典:商工中金「会社概要」、日本政策金融公庫「プロフィール」(いずれも2026年11月4日に確認)。職員数は日本公庫が令和8年度予算定員。
中小企業向けの貸出で比べる(2026年3月31日/令和8年3月31日時点)
商工中金の貸出金
9兆7,435億円
中小企業専門の金融機関
日本公庫 中小企業事業
7兆5,767億円
融資業務の残高
日本公庫 国民生活事業
9兆8,376億円
小口・創業が中心
日本公庫 総融資残高
23兆1,400億円
3事業と危機対応等の合計
日本公庫の内訳は、国民生活事業9兆8,376億円、農林水産事業3兆5,071億円、中小企業事業(融資業務)7兆5,767億円、危機対応円滑化業務2兆1,442億円、特定事業等促進円滑化業務742億円です。このほかに中小企業事業の信用保険業務として保険引受残高33兆2,299億円があります。
日本公庫は3事業に分かれている
日本公庫は1つの会社の中に性格の違う事業を抱えています。国民生活事業、中小企業事業、農林水産事業の3つです。融資残高の内訳からも分かるとおり、国民生活事業と中小企業事業では規模が近く、扱う案件の大きさが違います。
商工中金にはこうした事業区分がありません。中小企業専門の金融機関として、長期の設備資金から手形割引などの短期運転資金までを1つの枠組みで扱います。その代わり、融資の形態が組合貸(共同事業資金・転貸資金)と構成員貸に分かれるという、組織金融特有の区分があります。
商工中金側のメニュー構成は商工中金の融資メニュー8種類を比較にまとめています。
片方にしかない機能が3つある
規模の比較だけでは見えない違いもあります。公表資料から読み取れる、一方にしかない機能を挙げます。
| 機能 | 商工中金 | 日本政策金融公庫 |
|---|---|---|
| 信用保険業務 | 記載なし | 中小企業事業の信用保険業務として保険引受残高33兆2,299億円(令和8年3月31日時点) |
| 預金・定期積金の受入れ | 法律の業務の範囲に明記。預金6兆7,928億円 | プロフィールに記載なし |
| 海外拠点 | 海外5拠点。海外進出サポートのメニューがある | プロフィールの支店数は152で国内外の内訳の記載なし |
| 格付の公表 | ムーディーズの長期預金A2(見通し安定的)、短期預金P-1(2026年6月30日現在) | プロフィールに記載なし |
出典:商工中金「会社概要」、日本政策金融公庫「プロフィール」(2026年11月4日に確認)。「記載なし」はそれぞれの公表ページに記述が見当たらなかったという意味で、業務そのものの有無を断定するものではない。
信用保険業務の33兆2,299億円という数字は、融資残高とは別枠で示されています。日本公庫の中小企業事業は、自ら貸す融資業務(7兆5,767億円)と、保険を引き受ける業務の2本立てになっているということです。商工中金の会社概要には、これに相当する項目がありません。
海外については、商工中金が海外拠点ネットワーク、海外事業サポート業務、外為業務のお取扱い、海外現地法人の資金調達、外為Webのお取扱いという5つのメニューを公表しています。融資の対象となる方のページでも「中小企業団体(商工中金株主団体)とその構成員の海外現地法人」の相談に応じるとされています。
成り立ちが約70年ずれている
設立の経緯も違います。商工中金の公式ページは「昭和初期、度重なる恐慌により、多くの中小企業が危機的状況に陥る中、その救済を目的として中小企業からの熱望により誕生したのが、商工中金です。1936年、同業者組合を通じた各企業への資金供給を行う金融機関として、政府と組合の共同出資によって設立されました」と書いています。
あゆみのページにも、1936年6月に「商工組合中央金庫法」施行、同年12月に業務開始、本所および札幌ほか6支所開設、1937年3月に第1回商工債券(利付債)発行と記録されています。「商工中金は設立直後から、普通銀行には困難な長期・無担保貸付を実現」したとも書かれています。

日本公庫の発足年月日は平成20年10月1日です。国民生活金融公庫、農林漁業金融公庫、中小企業金融公庫などを統合して生まれた組織で、歴史の長さという意味では商工中金のほうが70年以上先行しています。なお商工中金も平成20年10月1日に株式会社となっており、株式会社としての発足日は両者とも同じ日です。
政府の関与の度合い
株主構成は分かれました。商工中金は2023年6月に成立した改正法により政府保有株式の全部処分が定められ、2025年6月に処分が完了して改正法が施行されています。公式ページも「2025年6月に民営化され、設立から約90年がたった現在でも、中小企業専門の金融機関として」と書いています。
一方で、株主資格の制限と特別準備金は維持されました。商工中金法第1条の「完全民営化の実現に向けて」という文言も残っています。民営化したから誰でも借りられるようになった、という話ではありません。
日本公庫は資本金11兆7,810億円の株式会社で、政府が出資しています。危機対応円滑化業務や特定事業等促進円滑化業務といった、政策的な業務が融資残高の内訳に並んでいることも、その性格を示しています。
どちらに相談するかの考え方
公表されている条件から導ける使い分け
- 所属する組合や業界団体があり、商工中金株主団体に当たる——商工中金が候補になる。業界団体の制度融資なら利子補給が付く可能性もある。
- 組合に入っておらず、急いでいる——構成員になる手続きが挟まらない日本公庫のほうが入口は早い。
- 創業前後の小口資金——日本公庫の国民生活事業の残高が9兆8,376億円と大きく、この領域の実績が厚い。
- 借入と決済を1つの金融機関にまとめたい——預金を扱うのは商工中金だけ。
- 組合として共同事業の資金を借りたい——商工中金には組合貸(共同事業資金・転貸資金)という形態がある。
- 災害や感染症などの危機時——日本公庫は目的条文に危機対応が入っている。商工中金も全20窓口(2026年10月1日現在)の相談窓口を設けている。
両方に相談してはいけないという決まりは、公表資料のどこにも書かれていません。ただし商工中金の一般的な融資では「他の機関による審査が必要な場合もございます」とされており、制度によっては外部の判断が入ります。実際にどう組み合わせるかは、資金の時期と金額を示したうえで各窓口に確認することになります。
比べるときに気をつけること
この比較には3つの限界があります。
1つめは、どちらも融資利率を公表していないことです。商工中金は「金融情勢により変更がありますので、窓口にご相談ください」としています。日本公庫は制度ごとの利率を公表していますが、適用される利率は条件によって変わります。ウェブ上の数字だけで「どちらが安いか」は決まりません。
2つめは、基準日のずれです。商工中金の会社概要は2026年3月31日現在、日本公庫の融資残高は令和8年3月31日時点で揃っていますが、資本金は令和8年6月30日現在と3か月ずれています。
3つめは、数字の性格の違いです。商工中金の「貸出金」と日本公庫の「総融資残高」は、同じ定義で集計されたものとは限りません。内訳が公表されている中小企業事業(融資業務)との比較のほうが、まだ近い条件での比較になります。
よくある質問
Q. 商工中金と日本公庫はどちらが借りやすいですか。
A. 「借りやすさ」を公表している資料はありません。入口の条件だけを見ると、商工中金は融資の時点で商工中金株主団体の構成員等である必要があり、日本公庫にはその条件がありません。
Q. 両方から借りられますか。
A. 併用を禁じる記載は、どちらの公式ページにも見当たりませんでした。実際の可否は審査によります。
Q. 商工中金のほうが規模は小さいのですか。
A. 総額では日本公庫が大きいですが、中小企業向けの融資残高で見ると商工中金の貸出金9兆7,435億円に対し、日本公庫の中小企業事業(融資業務)は7兆5,767億円です。
Q. 預金口座はどちらで作れますか。
A. 商工中金です。法律の業務の範囲に「預金又は定期積金の受入れ」があり、預金6兆7,928億円(2026年3月31日現在)を扱っています。日本公庫のプロフィールに預金の記載はありません。
Q. 商工中金は民営化したのに政策金融機関なのですか。
A. 2025年6月に政府保有株式が全部処分されました。ただし株主資格の制限と特別準備金は維持され、商工中金法第1条の「完全民営化の実現に向けて」という文言も残っています。
Q. 支店数はどちらが多いですか。
A. 日本公庫が152支店、商工中金が国内103店舗・海外5拠点です。
Q. 創業資金はどちらに相談すべきですか。
A. 公表されている残高を見ると、小口・創業を扱う日本公庫の国民生活事業が9兆8,376億円と厚みがあります。ただし制度の適否は個別に確認が必要です。

