銀行融資を引き出すためには、銀行、ひいては銀行の融資担当者に好まれる企業になる必要があります。知らず知らずのうちにあなたやあなたの会社の従業員は銀行に嫌われるNG行動をしているのかもしれません。
銀行にも、融資担当者にも、企業の「好き」「嫌い」は当然ある
まず理解しておいてほしいのは「好き嫌い」というのは、感情の話ではないということです。
銀行・融資担当者にとって「好きな企業」の例
- 企業の経営情報を逐一報告してくれる → 「危機的状況になったらすぐにわかるから安心」
- 今後の成長に期待できる → 「企業規模が大きくなれば、融資額を増やせて銀行の収益が増える」
- 定期預金や投資信託を利用してくれる → 「融資以外の収益が見込める企業」
- 融資の前に十分な期間を用意してくれる → 「じっくりと審査ができる。時間的な無理もない」
銀行・融資担当者にとって「嫌いな企業」の例
- 融資をしたら音沙汰がない → 「今の経営状況がどうなのか把握できない。」
- 設備投資や採用に積極的ではない → 「成長がなければ今以上に融資額を拡大する余地がない」
- 定期預金や投資信託を利用してくれない → 「融資の利息収益以外は期待できない。」
- メインバンクに無断でいきなり借り換えを行う → 「担当者のメンツが丸つぶれになる」
- 「明日貸してくれ」と無茶な融資を依頼してくる → 「断るしかなくなる。」
銀行は「営利企業」ですから
- 銀行にとっての収益が上がる企業
- 銀行にとっての今後の収益が期待できる企業
- 貸し倒れリスクを下げてくれる企業
には、積極的に融資をしたいと考えます。
銀行の融資担当者は「サラリーマン」ですから
- 自分の営業成績を上げてくれる企業
- 自分の社内の評価を上げてくれる企業
- 自分に有益な情報をもたらしてくれる企業
には、積極的に融資をしたいと考えます。
これは当然のことであり、これとは逆に
と銀行・融資担当者に思われるケースも多々あるのです。
今回は「銀行・融資担当者に嫌われるNG行動」について具体的に解説していきます。
銀行・融資担当者に嫌われるNG行動
NG行動その1.他行による融資の肩代わり/借り換え
「他行による融資の肩代わり/借り換え」とは
- 銀行A → 金利2.0%で5,000万円の借入
があった場合に
銀行Bから
と提案があり
- 銀行B → 金利1.8%で5,000万円の借入
- その5000万円を銀行Aに完済
- 債務は銀行Bの5,000万円に移行
という動き方のことを「他行による融資の肩代わり/借り換え」と言います。
企業の目線からすれば
同じ5000万円の借入で、金利が2.0%から1.8%に下がることになるので「十分にお得な行為」ということになるのですが、この行動は要注意です。
銀行としては
- 5000万円の利息収入がいきなり途絶えてしまう
- 銀行全体の融資額の目標から大きく離れてしまう
マイナス面があります。
融資担当者としては
- 顧客管理不足として人事評価が下がってしまう
- 上司にも怒られる
- 上司も、顧客管理不足として人事評価が下がってしまう
マイナス面があります。
支店長からは
と怒られてしまうのです。
このぐらい銀行にとって、融資担当者にとって「他行による融資の肩代わり/借り換え」は大きなダメージのある行為なのです。
経営者は気軽に他行からの営業・提案で
と思ってしまいがちですが、これは「現在借り入れ中の銀行との関係を断つ」覚悟でやるべき行動なのです。
金利が2.0%から1.8%と小さな金利変化であれば、メインバンクを敵に回してまでやるべきかは慎重に判断する必要があります。
銀行は冷酷なイメージがあるかもしれませんが、基本的には
が理想のモデルです。
借り換えをした銀行Bも
と疑心暗鬼で対応するので「長期的な取引関係」は築きにくくなってしまうのです。
- 借り換えを検討する
- 借り換えを一部でも実行する
- 借り換えを実行する
というのは、銀行に最も嫌われてしまう行為であることを認識する必要があります。
NG行動その2.無断で他行から借入
これもありがちなNG行動ですが
銀行には「メインバンク」「サブバンク」という分類があります。
メインバンクとは
以前と比較すればメインバンクの重要性は薄れてきているとは言えるものの、中小企業にとってはメインバンクだけで資金調達している企業も少なくないと思います。
メインバンクの立場で言えば
- その会社の経営状況を一番把握している銀行
- 経営指導をすることもある
- 顧客を紹介することもある
- 融資を優先的にしてあげている
- 銀行の中で一番リスクを取ってあげている
自負があるのです。
ここに競合銀行や日本政策金融公庫の借入が「勝手に」入ってきたら、メインバンクとしては面白くないに決まっています。
と思われてしまうということです。
メインバンクとしては、感情論だけではなく「利害面」でも
- 融資額のシェアが下がる
- 他行から受ける融資は、本来はメインバンクの融資だったもので、その分がなくなる
- 現状の融資の返済にマイナスの影響が出てくる
- 他行の営業によってメインバンクでなくなる可能性も出てくる
・・・
マイナスの影響があるのです。
とくに重要用なのは「相談なしに」という点です。
例えば、追加の設備投資が必要になった時に
- メインバンクに先に追加融資の相談をする
- メインバンクから追加融資はできないと断られる
- 他行の借入を検討する
であれば、問題はないのです。
「相談なしに」他行や公的融資で借入を実行してしまうとメインバンクとの関係性は、悪化してしまうのです。
「借り換え」よりも、タチが悪いのは、この場合はメインバンクとの付き合いは継続しなければならないという点です。関係が悪化してしまっては、既存の借入にも悪影響が出てくるのです。
NG行動その3.ノンバンクからの借入が決算書に残っている
ノンバンクからの借入が必要になるシチュエーションというのは、ないわけではありません。
ビジネスローンは
- 金利が10.0%以上の高金利
である反面
- 即日融資
- 審査が甘い
- コンビニATMでいつでも借りられる
などのメリットがあり、小回りが利く資金調達方法だからです。
しかし、「ノンバンクからの借入が決算書に残ってしまうような使い方」には注意が必要です。
基本的には、ビジネスローンのような資金調達方法というのは「緊急時の資金繰り」「短期的な資金調達」として利用すべきであって、決算をまたぐ利用は経営にとって好ましくないからです。
そもそも、金利が年率10.0%以上ということは、営業利益が少なくとも、10.0%以上でないと利益がでないことになってしまいます。
中小企業で営業利益率10.0%超を安定して叩き出せる会社は多くはありませんから
銀行としては
とジャッジせざるを得ないのです。
ビジネスローン等のノンバンクの借入がある方は、決算の前に銀行融資や代表、役員などの借り換えでノンバンクの借入を無くしておくことをおすすめします。
緊急時のビジネスローン利用自体がNG行動なのではなく、ビジネスローンの借入が決算書に残高残っている状態がNG行動なのです。
NG行動その4.定期預金の解約をする
企業の立場で言えば
銀行に
- 定期預金:2000万円(金利0.01%)
- 融資:5000万円(金利2.0%)
があり、追加で2000万円の資金需要が発生した場合
と判断して、定期預金を解約してしまうケースがあります。
企業経営としては、まったくその通りなのですが、
銀行の融資担当者の立場で言えば
毎月、融資残高の目標、預金残高の目標をもって動いています。
- 定期預金:2000万円(金利0.01%)
- 融資:5000万円(金利2.0%) → 2000万円の追加融資
であれば
- 預金残高:2000万円
- 融資残高:7000万円↑(2000万円のプラス)
ですから、営業成績は上昇しています。
しかし、
- 定期預金:2000万円(金利0.01%) → 2000万円の取り崩し
- 融資:5000万円(金利2.0%)
であれば
- 預金残高:0円↓(2000万円のマイナス)
- 融資残高:5000万円
ですから、営業成績は下降しています。
融資担当者目線では、同じ2000万円の資金需要であっても「定期預金の取り崩し」ではなく、「追加融資」を選んでもらった方が営業成績が上がるのです。
融資担当者の営業成績が上がるというのは、銀行の支店にとっても営業成績が上がるということに他なりません。
NG行動その5.今日、明日の融資を依頼する
ビジネスローンなどのノンバンクの借入の場合は
- 最短即日融資
が可能になりますが
銀行融資の場合は
- 融資担当者が情報収集(現地のチェック、競合他社・業界動向の調査)
- 融資担当者が稟議書の起案
- 支店内で役職者が回覧(担当者 → 次長 → 渉外課長 → 融資課長)
- 支店長決裁:決裁 → 場合によっては本部へ
- 本部融資部門:審査
- 役員:決裁
というフローが必要になるため
即日融資などのスピード対応はできない
のです。
融資担当者としては
「そんなに緊急に資金が必要ならば、経営状態はかなり悪化している。」
「急いで稟議書を作っても、審査に通らないんだから、対応するだけ無駄。」
と思ってしまうのです。
銀行の場合は、即日融資の依頼をした時点で負け戦です。
銀行に融資を依頼する場合は
- 融資希望日の1か月前に申し込む
- 最悪でも、融資希望日の2週間以上前に申し込む
ことが重要です。
資金繰り的にどうしても、今日、明日資金が必要という場合は
- 即日融資が可能なビジネスローンを利用して
- 同時に1か月後の銀行融資の依頼もする
というのがベストな解決方法と言えます。銀行にスピードを望んでも、まず実現しませんし、審査にマイナスの影響しか生まないのです。
NG行動その6.税理士・会計士に融資交渉を丸投げ
中小企業の経営者で
- 本業に時間をとられている方
- 財務の知識が乏しい方
の場合、第三者である顧問税理士や会計士に銀行との交渉を丸投げしてしまうケースがあります。
銀行の立場で見ると
交渉相手が第三者の税理士・会計士
になってしまうのです。
と思われてしまうのです。
経営者にとっては、信頼している顧問税理士であったとしても
銀行にとっては、第三者にすぎず「経営計画、事業計画に対する責任がない人」としか見られないのです。
NG行動その7.訪問の度に「金利引き下げ交渉」をする
営業畑出身の経営者に多いNG行動が
銀行の融資担当者が訪問してくるたびに
と金利交渉をしてしまうというものです。
銀行とは融資の際に合意した金利で借入をしているはずです。
「金利の引き下げ交渉」自体が問題なのではなく
- 妥当性がない金利引き下げ交渉
- 借入をしてから間もない金利引き下げ交渉
というのは、融資担当者にとっては「ただの嫌がらせ」にしか感じません。
融資実行後、3年経過した段階で
と言うのと
融資実行後、1か月後に訪問した際に
と言うのでは、意味が全く変わってくるのです。
NG行動その8.融資担当者を飛ばして上司、支店長と交渉する
経営者がやりがちなNG行動に
と考えて、「融資担当者を飛ばして支店長に直接交渉してしまう」という行動です。
しかし、これはあまり意味のない行動です。
- 支店長は稟議書を作らない。
- 支店長が対応する顧客は、支店の中でも上位10社~20社の融資先なので、それ以下の企業への対応はおざなりになる。
- 支店長がその会社の情報を知らない。
・・・
のですから、「よしわかった、キミこの会社に積極的に融資してあげて。」とはならないのです。
支店長には「面倒な顧客だ。」と認識されてしまいますし
飛ばされた担当者は、上司から「顧客からの信頼を勝ち取れていない」というマイナスの評価をされてしまいます。
結局、支店長に直談判したところで、稟議書を起案するのは融資担当者なのですから、ここで嫌われてしまっていたら、有利な稟議書を書いてくれるわけがありません。
融資担当者を飛ばして上司、支店長と交渉しても、百害あって一利なしです。
NG行動その9.訪問してきた融資担当者への対応
融資担当者というのは、定期的に融資先へ訪問します。
集金などの用件があることもあるのですが、基本的には
- 会社、店舗、従業員の現状のチェック
という意味合いもあるのです。
このときに
- 社員が挨拶をしない
- 社員が仕事をしていないで遊んでいる
- 店舗に来たお客さんへの対応が悪い
- 融資担当者の用事を速やかに実行させる準備をしていない
では
「これでは、この会社は伸びない。」と印象を持たれてしまう可能性もあるのです。
NG行動その10.小さな約束を守らない
「融資」と「返済」というのは、企業と銀行の重要な約束事です。
しかし、それ以外にも銀行の担当者との約束事はあります。
- 打ち合わせの日時
- 提出書類
- 提出書類の期限
- 情報共有
- 連絡
・・・
社会人として当たり前の約束事を守れない経営者というのは、少なくないのです。
このときに融資担当者が思うのは
ということです。
銀行員自体が、銀行から
- 「小さな約束事は絶対に守れ。」
- 「できない約束はするな。」
と教育されているので、それができていない企業や経営者には、マイナスの印象を持ってしまうのです。
まとめ
銀行・融資担当者に嫌われるNG行動には
- NG行動その1.他行による融資の肩代わり/借り換え
- NG行動その2.無断で他行から借入
- NG行動その3.ノンバンクからの借入が決算書に残っている
- NG行動その4.定期預金の解約をする
- NG行動その5.今日、明日の融資を依頼する
- NG行動その6.税理士・会計士に融資交渉を丸投げ
- NG行動その7.訪問の度に「金利引き下げ交渉」をする
- NG行動その8.融資担当者を飛ばして上司、支店長と交渉する
- NG行動その9.訪問してきた融資担当者への対応
- NG行動その10.小さな約束を守らない
というものがあります。
銀行や融資担当者に嫌われてしまう体質の企業の場合は
銀行を変えても、
融資担当者が変わっても、
「なかなか融資が下りない。」
「融資条件が良くない。」
「審査に落ちてしまう。」
ことになり兼ねないのです。
「また、銀行に融資を断られた。なぜなんだ?」