ベンチャー企業は常に資金が不足しています。
例えば、研究開発型のベンチャー企業(創薬ベンチャー等)のようにキャッシュが全く入ってこないベンチャー企業もあれば、プロダクトは完成していても顧客がついていない状態のベンチャー企業もあります。
ごく少数の例外を除いてベンチャー企業では日々資金が減っていきますが、資金が尽きてしまうと会社が存続できなくなるため、常に資金調達を求めています。
一方で、ある程度顧客が増え、収入が安定してくると、存続のための資金調達は必要なくなります。しかし、さらなる成長を目指すためにはM&Aで他社を買うことや、自社サービスを拡大させ、あるいは新規事業を立ち上げることが必要になります。また、とくにtoCと呼ばれる、個人を顧客とするサービスの場合にはお金があればあるだけ広告宣伝費に使うことができます。
もちろん、事業が想定していたようには進まず、資金繰りに困った場合にも資金調達が必要となります。
いずれにしても資金調達を必要としていないベンチャー企業はほとんどありません。
さて、ベンチャー企業が資金調達する際、ベンチャーキャピタル(VC)から追加投資を受けた、というケースも少なくありません。
追加投資とは
追加投資とは
ベンチャーキャピタル(VC)から見た「追加出資」の利点
ベンチャーキャピタル(VC)から見た追加出資のメリットは3つあります。
-
- 投資先のDD(デュー・デリジェンス)の手間が少ない
- 適切な価格で投資できる可能性が高い
- リード投資家としての期待に応えやすい
投資先のDDの手間が少ない
ベンチャーキャピタル(VC)が投資する際には、当然のことながら、「投資先を調べる」必要があります。
- 調査の範囲は会社が実在しているのか
- どのような事業をしているのか
- 事業領域に成長の可能性はあるのか
- 経営者はどんな人なのか
など多岐にわたります。
適切な価格で投資できる可能性が高い
ベンチャーキャピタル(VC)が初めて投資する際は、良くも悪くも適切な価格で投資できていない可能性があります。
ベンチャーキャピタル(VC)は、会社の事業領域をよく知っているわけではないため、会社の成長について「過度な期待」を持って投資することがままよくあります。一方で、よく分からないことから、会社の成長を「過度にストレスをかけて評価する」(会社が2倍になると思っていても、ベンチャーキャピタル(VC)は1.5倍にしかならないと見積もっているなど)こともあります。
会社の事業が想定通りに進んでいない場合、とくに早々に調達を行わないと会社の存続できないような場合には、既に投資を受けていない(新しい)ベンチャーキャピタル(VC)から資金調達を行うことが難しくなります。
そのような場合でも追加投資は受けられることが少なくありません。
これは、既に出資しているベンチャーキャピタル(VC)が、会社が今ダメになってしまうと投資が失敗に終わることが確定してしまうのに対して、追加出資することにより、会社を存続させると回収できる可能性が高まると見込んでいるからです。
言い換えると、既に投資しているベンチャーキャピタル(VC)は新しく投資するベンチャーキャピタル(VC)よりも投資先の価値をより正確に評価できるのです。
リード投資家としての期待に応えやすい
ベンチャー企業の資金調達は複数社から同時期に行われることが多いのですが、その際、最も会社に対して影響力を持つベンチャーキャピタル(VC)をリード投資家と言います。
通常はもっとも多額の投資を行うベンチャーキャピタル(VC)が「リード投資家」になります。
リード投資家は、その資金調達において影響力を発揮するだけではありません。
他の投資家から、投資家の意見を代表して会社に伝える役割を期待されます。そして、他の投資家からも、投資先の会社からも、次の資金調達に参加する投資家を探してくることも期待されています。
リード投資家は会社のことを一番わかっていると思われており、そのリード投資家が追加投資に応じているのだから、その会社は大丈夫だろう、と推測されるためです。
ベンチャー企業側から見た追加出資
ベンチャー企業にとって追加投資を受けるメリットは2つあります。
- 資金調達における手間が大幅に省ける
- 新しい株主との関係に対する不安がない
資金調達における手間が大幅に省ける
資金調達のためには、投資してくれるベンチャーキャピタル(VC)を探し、自社について説明して理解してもらうことになります。
自社の事業について理解してもらうためにはそれなりに時間と手間がかかります。これはベンチャーキャピタル(VC)がDDに手間がかかるということの裏返しです。
新しい株主との関係に対する不安がない
株主は資金調達においてお金を出してくれるだけの存在ではなく、その後の会社経営に関与する存在です。提携先や顧客を紹介してくれるなど、良い影響もある一方、経営方針に反対されたりと悪い影響が生じる場合もあります。
つまりベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達が成功かどうかは、必要なお金を集められたのか、ではなく投資を受けた後にそのベンチャーキャピタル(VC)が会社にとって良い影響を与える株主であったかによって大きく左右されます。
追加投資が行われない理由
追加投資はベンチャーキャピタル(VC)、ベンチャー企業の双方にとってメリットが多くあります。
しかし、追加投資がいつも行われるわけではありません。その理由はベンチャーキャピタル(VC)側の都合にあります。
ベンチャーキャピタル(VC)が追加出資を行わない理由は以下の3つがあります。
- 事業が上手く行っていない
- 追加出資により利回りが落ちる
- 追加出資を行えない制約が存在する
事業が上手く行っていない
投資先の会社のことをよく理解している分だけ、事業が上手く行っていないことをごまかすのは難しくなります。ベンチャーキャピタル(VC)としても追加で投資した資金の回収できる見込みがなければ追加出資はしません。
なお、「新規投資が回収できないこと」よりも、「追加出資が回収できないこと」の方がよりベンチャーキャピタル(VC)内部で問題視されます。従って、まったく想定通りに進んでいない場合に加え、想定を少し下回る程度でもうまくいっていない場合には「追加出資が難しい」と判断されることもよくあります。
やや理解が難しいところではありますが、事業が想定通りに進んでいない場合、会社が新たなベンチャーキャピタル(VC)から資金調達できそうなときには追加投資に慎重な姿勢を示すベンチャーキャピタル(VC)は珍しくありません。
一方で、調達の見込みが極めて少ない場合には調達に積極的になりがちです。
前者は、「なぜ他のベンチャーキャピタル(VC)に任せずに自分たちが追加出資を行うのか」の説明が難しいのに対して、後者はその説明が不要となることが大きな理由です。
追加出資により利回りが落ちる
ベンチャーキャピタル(VC)が投資の成功を何で判断しているのかはベンチャーキャピタル(VC)によって異なります。
例えば、「投資した金額に対して、投資額以外にいくら回収できたか?」の絶対額を基準にしているベンチャーキャピタル(VC)もあります。1億円投資して3億円回収できれば2億円が投資額以外の回収額になります。この場合、追加で1億円投資して5億円回収できれば、投資した金額以外の回収額が3億円となり、先ほどの2億円を上回るため「追加投資しよう」という判断になります。
先ほどと同様に、既に1億円投資しているところで3億円の回収がを見込んでいる場合を考えてみます。もともと投資倍率が3倍(1億円の投資に対して3億円の回収)です。
ここに1億円の追加投資を行うことで5億円の回収が見込める場合、2億円の投資に対して5億円の回収となるため、投資倍率は2.5倍になり、条件が悪くなってしまいます。
IRR等、他の利回りの指標を投資が成功したかどうかの判断基準としている場合でも、追加投資により利回りが落ちてしまう場合があります。
追加出資を行えない制約が存在する
ベンチャーキャピタル(VC)には投資できる資金に限りがあり、資金がなくなれば当然のことながら投資できません。
自分が投資を受けたベンチャーキャピタル(VC)が新しいファンドを設立する場合があります。そうすると投資できる資金が増えるように思われるかもしれません。
しかし、多くのファンドは、同じベンチャーキャピタル(VC)が運営していても、他のファンド(既にあるファンド)の投資先には投資できません。
既に投資しているファンドへの追加投資が可能なファンドが組成されることもありますが、かなりのレアケースです。
追加投資を受ける方法
追加投資が可能なベンチャーキャピタル(VC)を選ぶ
つまり、追加投資については、それ以前の調達時に検討しておく必要があります。
「ベンチャーキャピタル(VC)が追加投資に応じてくれる可能性があるのか」は周りの評判を確認することに加えて、ベンチャーキャピタル(VC)自身に尋ねてみるべきです。
ベンチャーキャピタル(VC)自身は追加投資を行っていても、なんらかの理由で、その会社に対しては追加投資を行わない意思決定を内部で行っている可能性があるからです。
追加投資について、初めて投資を受けた時点で相談しておく
ベンチャー企業の資金調達は、その調達した資金によって会社が自立できるようになることばかりではありません。むしろ、その資金で成長の基礎を固め、次の資金調達につなげていく方が一般的です。
ただし、追加投資に応じるか、応じないかを明言してもらうことにあまり意味はありません。状況が変わればベンチャーキャピタル(VC)が投資できるかどうかは変わるためです。
条件の設定の仕方は事業の内容によって異なります。
- 一般の個人を相手にするいわゆるtoCの事業の場合には、ユーザー数、ユーザー一人当たりの収益額、などが条件になりえます。
- 事業会社を相手にするいわゆるtoBの場合には、導入社数のほか、MRR(継続が見込まれる月次の売上高)、などが条件になりえます。
このような条件をKPIと呼ぶことがあります。
条件を満たしているにも関わらず、そのベンチャーキャピタル(VC)から追加投資を受けられなかった場合、他のベンチャーキャピタル(VC)を回ることになります。その際、事前に合意していた条件を満たしていたことが会社の信頼に大きく寄与するのです。
追加投資について相談にいく
追加で資金が必要になった場合、事前に追加投資しないことを明言されていた場合であっても、他に株主になってもらいたい人がいる場合を除けば、相談に行くべきです。
ベンチャーキャピタル(VC)側の状況が変わっているケースはままよくあります。とくにCVCの場合、CVCからの追加出資は難しくとも、本体の事業会社が出資するケースもあります。
追加投資の相談にいくことは、新規のベンチャーキャピタル(VC)を探すことに比べればはるかに手間のかからない方法です。
追加投資の相談にいくことは、もう一つ別のメリットがあります。それは新規で投資してくれる投資家を紹介してくれる可能性があるということです。
追加投資を受けるデメリット
資金調達はベンチャー企業からすると面倒で手間がかかる、つまりはやりたくない事柄です。そのため追加投資が受けられればラッキーだとそれに飛びつくベンチャー企業も少なくありません。
しかし、追加投資を受けるのはいいことばかりではありません。
追加出資するベンチャーキャピタル(VC)の影響力が増す
株式による資金調達を行うと、どのような方法であれ、経営者の持ち分は希薄化します。ベンチャーキャピタル(VC)から追加出資を受ければそのベンチャーキャピタル(VC)の影響力が増すことになります。
特定のベンチャーキャピタル(VC)の影響力が増すデメリットは次の2点です。
- 経営の制約となる可能性があること
- 次回ラウンドでの調達に支障がでる可能性のあること
マーケットの評価を受ける機会が失われる
会社の評価(時価評価)がいくらくらいが妥当なのかは、理論的には様々な考え方があります。
しかし、実際に多くのベンチャーキャピタル(VC)に調達について相談し、得られた評価(これをマーケットの評価と言います)が実際に資金調達をする際、M&Aを考える際には最も信頼できます。
追加投資を行うベンチャーキャピタル(VC)が行った評価額がマーケットの評価に比べて低いことがあります。
ベンチャーキャピタル(VC)からすると安く株式を手に入れられる一方、持ち分が希薄化する株主(経営者も含みます)からすると得られる資金が得られなかったことになります。
反対に追加投資を行うベンチャーキャピタル(VC)が行った評価がマーケットよりも高いことがあります。
会社にとっては希薄化を減らして調達ができたことになりますが、経営者が自社の評価について過大に考えてしまうほか、同様に次回の調達にとって制約となる可能性があります。
まとめ
ベンチャーキャピタル(VC)から追加投資を受けることは、資金調達にかかる負担を減らせるという点でとてもメリットがあります。
資金調達に向けられる手間やコストを会社の成長のために使うことができるからです。