商工中金の民営化で何が変わったか|2025年6月12日に894,970,000株(41.13%)を1株156円で自己株式取得、株主資格の制限と特別準備金は残った

改正商工中金法の施行日が2025年6月13日であること、取得した株式が894,970,000株で41.13%、取得価額の総額が1,396億1,532万円で1株156円であること、株主資格制限・特別準備金・危機対応が維持されたこと、議決権5%以上の保有には経済産業大臣の認可が要ることを並べたアイキャッチ

商工中金は2025年6月に民営化されました。ただし「民営化」という言葉から想像される変化と、実際に起きた変化はずれています。政府保有株式は確かに全部なくなりましたが、誰が借りられるかという根幹の条件は法律に残ったままです。2026年11月4日に商工中金の公式発表、e-Gov法令検索、財務省の公表資料を読み、何がいつ変わり、何が変わらなかったのかを整理しました。

民営化でたどれる事実(2026年11月4日に公表資料で確認)

  • 政府保有株式の全部処分は2025年6月12日の自己株式取得で完了し、改正法の施行日は2025年6月13日。
  • 取得したのは894,970,000株、発行済株式総数(自己株式を除く)の41.13%。取得価額の総額は1,396億1,532万円(1株156円)、取得先は財務大臣。
  • 法改正で業務範囲の一部は銀行と同様に見直されたが、特別準備金制度・危機対応準備金制度等は維持された。
  • 商工中金自身が「商工中金の使命(中小企業組合や中小企業者の金融の円滑化という法目的)は、今後も変わることはありません」と明記している。
  • 2023年7月の施行令改正で株主になれる団体は拡大したが、拡大分は融資対象団体等には該当しない。

2023年6月の法改正から2025年6月の施行まで

経緯は商工中金の公式ページにまとまっています。「2023年6月に株式会社商工組合中央金庫法(以下、商工中金法)の改正法案が成立いたしました。今回の法改正では、政府保有株式の全部処分を実施し、商工中金の業務範囲の一部を銀行と同様となるよう見直しする一方、特別準備金制度・危機対応準備金制度等の必要な各種措置は維持するものとされております」。

民営化までの流れ(商工中金の公表資料による)

2023年6月

株式会社商工組合中央金庫法の改正法案が成立。政府保有株式の全部処分、業務範囲の一部見直し、特別準備金制度等の維持が定められる。

2023年7月24日

改正株式会社商工組合中央金庫法施行令が施行され、株主資格が拡大される。

2023年9月

財務省で財政制度等審議会国有財産分科会が開催され、商工中金の政府保有株式の処分に関する答申が決定・公表される。

2024年7月

政府保有株式の第1回一般競争入札。商工中金は参加していない。

2025年1月21日

商工中金の臨時株主総会で、財務大臣からの自己株式取得について特別決議。

2025年1月

第2回一般競争入札。商工中金が参加。

2025年4月

第3回一般競争入札。商工中金が参加し、落札。

2025年6月12日

政府保有株式を自己株式取得。政府保有株式が全部売却される。

2025年6月13日

政令で定められた施行日。改正商工中金法が施行される。

一般競争入札は3回行われ、商工中金自身が買い手として参加したのは第2回と第3回。落札は第3回。
商工中金の商工中金法の改正・政府保有株式の自己株式取得のページの画面。2023年6月に改正法案が成立し政府保有株式の全部処分を実施して業務範囲の一部を銀行と同様となるよう見直す一方で特別準備金制度・危機対応準備金制度等は維持するとされたこと、商工中金の使命は今後も変わらないこと、2024年7月・2025年1月・2025年4月に一般競争入札が実施され第3回で落札したこと、2025年6月12日に自己株式取得し2025年6月13日に改正法が施行されたことが書かれている
商工中金「商工中金法の改正・政府保有株式の自己株式取得」。経緯と関連資料へのリンクが1ページにまとまっている(2026年11月4日に表示)。

自己株式取得の中身は数字で公表されている

2025年6月12日のお知らせ「特定の株主からの自己株式取得終了に関するお知らせ」に、取得の内訳が出ています。会社法第156条第1項および第160条第1項の規定にもとづく取得です。

2025年6月12日の自己株式取得(商工中金の公表資料による)

取得した株式数

894,970,000株

当金庫普通株式

発行済株式に対する割合

41.13%

自己株式を除く発行済株式総数に対して

取得価額の総額

1,396億円

139,615,320,000円

1株あたりの取得価格

156円

取得先は財務大臣、方法は一般競争入札

この取得により政府保有株式が全部売却された。残る株主は中小企業団体とその構成員、および政令で指定された団体となる。

事前の枠も公表されています。2025年1月21日開催の臨時株主総会における特別決議の内容は、取得する株式の総数が上限1,016,000,000株(発行済株式総数(自己株式を除く)に対する割合46.69%)、取得価額の総額が上限1,580億円、取得先が財務大臣、取得できる期間が2025年1月22日から2025年6月14日まででした。

決議の枠が上限1,016,000,000株(46.69%)だったのに対し、実際に取得したのは894,970,000株(41.13%)です。枠を使い切らずに完了しています。

金額でも、上限1,580億円に対して実績は1,396億1,532万円。取得期間の期限は2025年6月14日で、実際の取得日は2025年6月12日でした。

変わったものと変わらなかったもの

法改正の中身を、変わった点と維持された点に分けて並べます。

2023年の商工中金法改正で変わった点・維持された点(商工中金の公表資料より、2026年11月4日に確認)
項目 扱い 内容
政府保有株式 変わった 全部処分。2025年6月12日に自己株式取得で完了
業務範囲 変わった 一部を銀行と同様となるよう見直し
特別準備金制度 維持 必要な各種措置として維持するものとされた
危機対応準備金制度 維持 同上
法目的(使命) 維持 中小企業組合や中小企業者の金融の円滑化。「今後も変わることはありません」と明記
株主資格の制限 維持 商工中金法第6条第1項で中小企業団体と株主である中小企業団体の構成員に限定

出典:商工中金「商工中金法の改正・政府保有株式の自己株式取得」(2026年11月4日に確認)。なお同ページにある経済産業省の「法改正の概要」への外部リンクは、2026年11月4日に開いたところ経済産業省側で「指定されたページまたはファイルは存在しません」と表示され、内容を確認できなかった。

利用者から見て重要なのは最後の2行です。法目的も株主資格の制限も維持されたため、「民営化したから誰でも借りられるようになった」ということにはなりません。

「これからの商工中金」が挙げる3つのポイント

法改正に合わせて、商工中金は2023年6月21日付で「これからの商工中金 ~『これからも』、そして『これからは』~」という資料を公表しています。冒頭で「公布(2023.6.16)から2年以内に政府の保有する商工中金株式は全て処分され、商工中金は組合と中小企業の皆さまだけが株主の会社になります」と説明したうえで、変わらない点と変わる点を3つに整理しています。

「これからの商工中金」が示す3つのポイント(商工中金、2023年6月21日・2026年11月4日に確認)
区分 内容
Ⅰ これからも 中小企業のための金融機関という根幹は変わらない。商工中金法は残り、「組合及び中小企業の金融の円滑化」を目的とする金融機関として根幹・使命は変わらない。あわせて①株主資格制限を維持(組合と中小企業のみが株主の金融機関)、②財政基盤(特別準備金)や調達基盤(金融債発行)に係る制度を維持
Ⅱ これからも 引き続き危機対応業務を実施。危機対応業務の実施を法律にて責務と規定
Ⅲ これからは 業務範囲の見直し(銀行並びへ)により、本体に加え子会社を活用したより広範なサービスの提供が可能になる

出典:商工中金「これからの商工中金」(2023年6月21日、PDF)。2026年11月4日に確認。

Ⅲの具体例も挙げられています。「再生支援や事業承継支援のための出資業務や、GX・DX支援、人材不足支援など、足もとで加速する様々な事業環境変化に挑戦する中小企業の皆さまに寄り添い、金融を超えた本業支援に取り組んでまいります」。融資以外の打ち手が増えるという説明です。

注意したいのは、Ⅰの②に「調達基盤(金融債発行)に係る制度を維持」と書かれている点です。商工中金法には第五章として「商工債」の規定(第33条〜第38条)が置かれており、資金の集め方の面でも通常の銀行とは違う枠組みが残っています。

上場せずに売る、と答申が判断した理由

財政制度等審議会の答申「株式会社商工組合中央金庫の株式の処分について」(令和5年9月20日)には、売却方法を決めるまでの検討が書かれています。

まず背景です。「商工中金の株式については、現在、政府が発行済株式の46.5%を国有財産として保有しているところ、商工中金の財務状況が大きく改善し、信用力が向上したことなどから、中小企業信用保険法及び株式会社商工組合中央金庫法の一部を改正する法律(令和5年6月16日公布。以下「改正法」という。)において、今後、法第6条第1項第1号の政府を削除すると共に、政府保有株式については、改正法の公布日から2年を超えない施行日の前日までの間において、できる限り速やかに、全部を売却するよう努める旨が規定されたところ」。

上場という選択肢は、株主資格の制限があるために採れませんでした。答申は「議決権を有することのできる株主の資格が中小企業組合及びその構成員並びに中小企業団体等に限定されているところ、改正法によって政府を削除することとなっている点を除き、当該枠組みは今後も維持する方針であるため、東京証券取引所の上場審査基準を満たさず、したがって、証券取引所への上場によらずに売却する方法を採ることが適当である」としています。

この判断は、株式を取得した側にも影響します。答申は入札参加者への注意喚起として、「当該株式の取得後の売却手段が、株主資格を有する者間での相対取引あるいは一部の証券会社における店頭取引に限定されていること等」を伝える必要があるとしています。

保有の上限についても整理されています。民間保有分には保有制限が付されていないため申込株式数の最高数量の制限は要さないとしつつ、脚注で「仮に、落札の結果、商工中金の総株主の議決権の5%以上の議決権保有者となろうとする者は、あらかじめ経済産業大臣の認可を要する(法第8条)」と補足しています。なお令和4年度末時点では、政府を除く大株主の保有割合はいずれも1%未満だったとされています。

価格の決め方についても、答申は1つの方式に寄せていません。「純資産価額方式、類似会社比準方式等いずれかの方法をそのまま適用するのではなく、各評価方法を総合勘案しつつ、一部の証券会社において純資産価額方式により算出した価格を参考に店頭取引が行われている実態にも十分に留意した上で適切に実施する必要がある」としています。実際の落札価格が1株156円だったことは、商工中金の公表資料で確認できます。

入札の時期については「改正法の趣旨を踏まえて、令和6年度早期の入札の実施を目指すべきである」とされ、実際に第1回の一般競争入札は2024年7月に行われました。

株主になれる団体は増えたが、借りられる団体は増えていない

見落とされやすいのが、2023年7月24日に施行された施行令改正です。商工中金のお知らせはこう説明しています。

「商工中金は、中小企業団体とその構成員の金融の円滑化を法定目的とする金融機関であり、株主資格は、株式会社商工組合中央金庫法第6条第1項により中小企業団体と株主である中小企業団体の構成員に限定されていました。今般、中小企業のための金融機関という根幹を変えない範囲において、株主構成の多様化を図る観点から、同項第12号に基づき、改正令で次の団体等が新たに指定されました」。

2023年7月24日の施行令改正で新たに株主資格が認められた団体(商工中金の公表資料より、2026年11月4日に確認)
系統 団体
中央会系 都道府県中小企業団体中央会もしくは全国中小企業団体中央会、またはそれらの直接もしくは間接の構成員
商工会議所系 商工会議所または日本商工会議所
商工会系 商工会、都道府県商工会連合会または全国商工会連合会

出典:商工中金「株式会社商工組合中央金庫法施行令改正による株主資格拡大」(2023年7月24日、PDF)。2026年11月4日に確認。

そのうえで、お知らせには重要な注記が付いています。「(注)これらの団体は、同法上、中小事業者等の健全な発達を図るための事業を行う団体として政令指定されており、商工中金の株主となっていただいても、同法第21条第1項第2号に定める融資対象団体等には該当しません」。

つまり、商工会議所や商工会は商工中金の株主にはなれますが、それによって融資を受けられる団体になるわけではありません。「商工会議所に入っているから商工中金で借りられる」とはならない、ということです。融資の対象は商工中金とはで整理したとおり、商工中金株主団体とその構成員のままです。

法律の構造は変わっていない

e-Gov法令検索で株式会社商工組合中央金庫法(平成19年法律第74号)を開くと、章立てが確認できます。第一章 総則(第1条〜第5条)、第二章 株主(第6条〜第15条)、第三章 管理(第16条〜第20条)、第四章 業務(第21条〜第32条)、第五章 商工債(第33条〜第38条)、第六章 子会社等(第39条〜第40条)、第七章 計算(第41条〜第55条)、第八章 監督(第56条〜第60条)という構成です。

「株主」に1章が割かれ、「業務」の章の冒頭である第21条で融資対象団体等が定義されている構造は、民営化後も変わっていません。この構造自体が、商工中金が誰を相手にする金融機関なのかを示しています。

e-Gov法令検索の株式会社商工組合中央金庫法のページの画面。平成十九年法律第七十四号として令和8年8月12日施行の版が表示され、目次に第一章 総則(第一条―第五条)、第二章 株主(第六条―第十五条)、第三章 管理(第十六条―第二十条)、第四章 業務(第二十一条―第三十二条)、第五章 商工債(第三十三条―第三十八条)が並んでいる
e-Gov法令検索「株式会社商工組合中央金庫法」。第二章がまるごと「株主」に充てられている(2026年11月4日に表示)。

処分を決めたのは財務省の審議会

政府保有株式をどう処分するかは、財務省の財政制度等審議会国有財産分科会で審議されました。公開されている議事要旨によると、第59回国有財産分科会は令和5年9月20日の13時58分から15時31分まで、財務省本庁舎4階の第3特別会議室で開催されています。

議事要旨には経過も書かれています。「財務大臣から諮問された『株式会社商工組合中央金庫の株式の処分について』、事務局等から商工中金改革及び答申(案)についての説明の後、審議のうえ、財務大臣に答申を行うことが決定された」「筒井分科会長から神田財務副大臣に『株式会社商工組合中央金庫の株式の処分について』の答申書が手交された」。

財務省の国有財産分科会(令和5年9月20日開催)議事要旨のページの画面。財政制度等審議会第59回国有財産分科会の議事要旨として、日時が令和5年9月20日13時58分から15時31分、場所が第3特別会議室(財務省本庁舎4階)、出席者の委員・臨時委員・専門委員の氏名、議題が株式会社商工組合中央金庫の株式の処分についてと並んでいる
財務省「国有財産分科会(令和5年9月20日開催)議事要旨」。議題は株式会社商工組合中央金庫の株式の処分について(2026年11月4日に表示)。

商工中金のページからは、この分科会の議事要旨・議事録・資料一覧、および答申とその概要版へのリンクがまとめて張られています。処分の経緯を原典で追いたい場合は、商工中金のページを起点にすると資料が揃います。

利用者から見て何が変わったのか

公表資料から読み取れる、利用者への影響

  • 融資の対象は変わらない。商工中金株主団体とその構成員という条件は法律に残っている。
  • 株主にはなれる団体が増えた。中央会、商工会議所、商工会の系統が政令指定された。ただし融資対象団体等には当たらない。
  • 業務範囲の一部が銀行と同様に見直された。具体的に何がどう変わったかは、商工中金のページでは項目まで示されていない。
  • 特別準備金制度と危機対応準備金制度は維持された。自己資本と危機時の対応の枠組みは残っている。
  • 新株発行や代表取締役の選定に対する認可など、政府保有株式を前提とした手続きの扱いは法改正の対象になっている。
  • 商工中金自身は「中小企業専門の金融機関として」という位置づけを維持すると表明している。
民営化は株主構成の変化であって、借り手の資格が緩んだという話ではない。

商工中金の特長のページも「2025年6月に民営化され、設立から約90年がたった現在でも、中小企業専門の金融機関として、景気がいいときも悪いときも、中小企業の将来を真摯に見据え安定的な取組みを続けています」と書いています。各融資メニューの中身は商工中金の融資メニュー8種類を比較に、日本政策金融公庫との違いは商工中金と日本政策金融公庫の違いにまとめています。

よくある質問

Q. 商工中金はいつ民営化されたのですか。
A. 2025年6月12日に政府保有株式を自己株式取得して政府保有株式が全部売却され、2025年6月13日に改正商工中金法が施行されました。

Q. 政府はいくら分の株式を売ったのですか。
A. 2025年6月12日の自己株式取得は894,970,000株、取得価額の総額139,615,320,000円(1株あたり156円)でした。取得先は財務大臣です。これ以前に2024年7月と2025年1月にも一般競争入札が行われています。

Q. 民営化で借りやすくなりましたか。
A. 融資の対象を定める条件は変わっていません。商工中金は「商工中金の使命(中小企業組合や中小企業者の金融の円滑化という法目的)は、今後も変わることはありません」としています。

Q. 商工会議所の会員なら借りられますか。
A. 2023年7月の施行令改正で商工会議所や日本商工会議所は株主資格を得ましたが、商工中金は「商工中金の株主となっていただいても、同法第21条第1項第2号に定める融資対象団体等には該当しません」と明記しています。

Q. 特別準備金はなくなったのですか。
A. 維持されています。法改正では「特別準備金制度・危機対応準備金制度等の必要な各種措置は維持するものとされております」と説明されています。

Q. 法改正の詳しい内容はどこで読めますか。
A. 商工中金のページから経済産業省の「法改正の概要」へのリンクが張られていますが、2026年11月4日に開いたところ経済産業省側で「指定されたページまたはファイルは存在しません」と表示され、内容を確認できませんでした。条文そのものはe-Gov法令検索で読めます。

Q. 株式の処分はどこで決まったのですか。
A. 財務大臣の諮問を受けた財政制度等審議会国有財産分科会で審議され、令和5年9月20日の第59回分科会で答申を行うことが決定されました。

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