「前払い(前受金)システム」導入による資金調達・資金繰り改善方法とは?「前払い(前受金)」支払いの導入方法・メリットデメリット

man
「前払い(前受金)による資金繰り改善とはどういうものでしょうか?」

日本では、一般的なビジネス取引は「信用取引(かけ取引)」によって成り立っています。商品やサービスを購入したとしても、その支払いは「月末締めの翌月末払い」や「月末締めの翌々月払い」といった支払いサイトによって、商品やサービスの提供の後に遅れて支払う商慣習があるのです。しかし、この信用取引は「お金を支払うのが先でお金を受け取るのが後になる」仕組みなので、資金繰りにとって非常に悪影響を及ぼしているのです。今回は、信用取引を回避するための「前払い(前受金)」制度の導入による資金調達・資金繰り改善方法について解説します。

「前払い(前受金)システム」導入による資金調達・資金繰り改善方法とは

「前払い(前受金)システム」導入による資金調達・資金繰り改善方法とは

「前払い(前受金)システム」とは

商品やサービスなどを提供する前に代金をもらう(預かる)仕組みのこと

を言います。

「前払い(前受金)システム」には具体的にどんなものがあるの?

例えば

  • Suica、PASMO、nanaco、楽天Edyなどのプリペイド型の電子マネーカード
  • 住宅やオフィス賃貸の家賃
  • 定期購読の雑誌
  • サブスクリプションサービス
  • 学校や塾などの授業料
  • ゲームソフトやCDなどの予約販売
  • ・・

があります。

teacher
家賃は、住む前に支払うものですし
学校や塾などの授業料は、入学時に支払いますし、
サブスクリプションサービスは、加入したときに課金が始まります。

※サブスクリプションというのは、毎月の支払いによって、ソフトウェアを利用することができるサービスです。

ビジネスでは、かなり多くのサービスで「前払い(前受金)システム」が取り入れられています。

「前払い(前受金)システム」導入による資金調達・資金繰り改善方法とは

信用取引(掛取引)の場合

  • 資金調達
  • 原材料の仕入れ、人員、システムの準備
  • 注文・申込
  • 商品の納品、サービスの提供
  • 請求書の発行(末締め翌月末支払い、末締め翌々月末支払い)
  • 入金

という流れになります。

  • 商品を売るならば、先に在庫や原材料を仕入れなければならない
  • サービスを提供するならば、先にサービス提供の人員やシステムを用意しなければならない

ため、

先に資金が出ていき、後から売上が入金される

というのが「信用取引(掛取引)」の大きな問題点なのです。

だからこそ、売上が伸びているのに資金繰りが回らなくなって倒産という会社が出てきてしまうのです。

前払い(前受金)システムの場合

  • 注文・申込
  • 入金
  • 原材料の仕入れ、人員、システムの準備
  • 商品の納品、サービスの提供

という流れになります。

先に売上が入金され、後から資金が出ていく

仕組みです。

この仕組みであれば

受注してからそのお金で商品やサービスを用意すれば良いので、大きな資金がなくても、資金繰りが回る

のです。

前払い(前受金)システムを導入できれば

  • 大きな資金調達が不要になる
  • 資金繰りが改善する
  • 信用取引(掛取引)から、前払い(前受金)システムに切り替えたときに1カ月~3カ月分の資金調達ができる

ことになるのです。

自社の商品やサービスに「前払い(前受金)システム」を導入する = 「前払い(前受金)システム」導入による資金調達・資金繰り改善方法

となります。

「前払い(前受金)システム」導入によるメリット

「前払い(前受金)システム」導入によるメリット

メリットその1.資金繰りが改善する

前述した通りで

「信用取引(掛取引)」:先に資金が出ていき、後から売上が入金される

「前払い(前受金)システム」:先に売上が入金され、後から資金が出ていく

「売上が先、後からその売上の中から支払いが発生する」ため、当然ながら、資金繰りは大幅に改善します。

入ってきたキャッシュの中でコントロールできるので、大きな資金調達も不要になるのです。

メリットその2.「信用取引(掛取引)」から「前払い(前受金)システム」に変えたときはまとまった資金調達になる

「信用取引(掛取引)」の場合

末締め翌月末支払い
  1. 1月1日に商品の納品
  2. 1月31日に売上確定
  3. 2月28日に入金
末締め翌々月末支払い
  1. 1月1日に商品の納品
  2. 1月31日に売上確定
  3. 3月31日に入金

ですから、商品やサービスの提供から30日~90日後に入金される仕組みとなっています。

「前払い(前受金)システム」を導入すれば、先に入金をしてもらってから、商品の納品になるため

継続顧客に対して「信用取引(掛取引)」から「前払い(前受金)システム」に変更したタイミングでは

  • 末締め翌月末支払い → 30日~60日分のキャッシュが入ってくる
  • 末締め翌月末支払い → 60日~90日分のキャッシュが入ってくる

ことになります。

売上の1カ月~3カ月の資金調達と同等の効果が期待できるのです。

メリットその3.無在庫・受発注での取引が可能になる

先に売上が入金され、後から資金が出ていく「前受金システム」では、注文を受けてから在庫を発注することが可能です。

サービスの提供であったとしても、はじめから人員のアサインを売上の範囲内で計画的に配置できることになります。

  • 不良在庫の発生
  • 過剰在庫の発生
  • 過剰人員の発生

を回避できるのです。

この形であれば、売上がどれだけ伸びても、資金繰りが回らなくならないため、倒産することはありません。

「前払い(前受金)システム」導入による大きなメリットと言えます。

メリットその4.会員の囲い込みができる

はじめに一定額の前受金を受け取っていれば、その前受金がなくなるまでは、競合他社と比較して有利な立場を取ることができます。

例えば

電子マネーにチャージしていて、使い切らないうちに他の電子マネーに移行するということにはなりませんし、毎月商品が送られてくるサプリメントを飲んでいる間に他のサプリメントに移行するということにはなりにくいのです。

先にお金を受け取ることで、一定の「顧客の囲い込み」が可能になります。

メリットその5.「前払い(前受金)」には利息も、返済義務も、税金もない

前受金というのは、銀行からの借入・融資とは違って

  • 金利・利息も発生しません。
  • 返済の必要性もありません。
  • 税金もかかりません。(預かっているだけのお金)

という非常に使い勝手の良いお金です。

いうなれば「顧客からの無利息の借入」と言っていいでしょう。

お金としての制約もなく、調達コストが発生しないので、企業の経営・資金繰りを楽にする効果というのは絶大なのです。

メリットその6.売掛金の未回収がなくなる

商取引では、どんなに与信を頑張っても、数%の売掛金の未回収が発生してしまいます。

会社は倒産してしまうものだからです。

零細企業であれば、与信ではじくこともできますが、上場企業ですらいきなり倒産してしまうことも少なくありません。

売掛金の回収率100%というのは、「信用取引(掛取引)」の場合は、かなり難しいのです。

一般的な会社であれば、売掛金の回収率は95%ぐらいで、与信をしっかりしていても、97%~98%と、2%~3%は、払わない売掛先、払えない売掛先、倒産する売掛先は出てきてしまうのです。

「前払い(前受金)システム」の場合は、すでに代金を受け取ってから、商品の納品・サービス提供を行うため、回収率は100%となります。

売掛金の未回収がゼロになるメリットがあるのです。

「前払い(前受金)システム」導入によるデメリット

「前払い(前受金)システム」導入によるデメリット

デメリットその1.顧客離脱による売上の減少

顧客からすれば同じサービスが利用できるのであれば、「前払い」よりも「後払い」の方が望ましいのです。

顧客にも資金繰りがあり、「前払い」になれば、顧客の資金繰りが悪化してしまうからです。

例えば、ゲームソフトの先行予約販売があったとしても、そのソフト自体に魅力がなく「別に後で買ってもいいや。」と思われてしまう商品力であれば「前受金システムは成立しない」のです。

BtoBでも、サービスの提供前にお金をもらうというのは、その会社に依頼せざるをえないほどの優位性がなければ実現しません。「なぜ、御社にだけ前入金をしなければならないの?他の会社にお願いするよ。」と言われかねないのです。

前受金システムは導入メリットが非常に多くあるのですが、「商品力」に確固たる競合優位性がないと、売上自体が減少してしまうリスクがあります。

デメリットその2.交渉による売上の減少

はじめから「前払い(前受金)システム」で商品設計、サービス設計していれば、問題はないのですが

途中から

「信用取引(掛取引)」 → 「前払い(前受金)システム」へ移行する場合

  • 資金に余裕がある取引先、信頼関係の熱い取引先
  • 競合他社に圧倒的に優位性がある商品

であれば、承諾してくれるはずです。

しかし、そうでない場合は

staff
「なぜ、御社の都合の良い条件を弊社に押し付けるのだ。」
「上司に対して説明ができない。」

となるのが一般的なのです。

顧客に負荷をかけることになるのですから、なんらかのメリットを与える必要が出てきます。

例えば

staff
「料金を割引するので、前払いに変えて欲しい。」
「一つ上のプランに無料でアップグレードするので、前払いに変えて欲しい。」
「有料のオプションサービスを無料でつけるので、前払いに変えて欲しい。」

と、なんらかのメリットを顧客に提示しなければ、「前払い(前受金)システム」移行の交渉はすんなりとは進まないのです。

このような交渉をする場合、交渉のために自ら売上を減らす必要性があり、売上減というデメリットが出てきてしまうのです。

「前払い(前受金)」支払いの導入方法

「前払い(前受金)」支払いの導入方法

「前払い(前受金)」支払いの導入に関しては、商品やサービスの販売会社のサービス設計の問題ですので、基本的には、誰かの了解を得る必要性はありません。

しかしながら、既存顧客がいる段階で、無理やり「信用取引(掛取引)」 → 「前払い(前受金)システム」へ移行してしまうと、当然、信頼関係が崩れてしまい、顧客の離脱を招くので、慎重に進める必要があります。

方法その1.既存の商品・サービスのまま、支払いだけ「前払い(前受金)」に変更する

この場合は、既存顧客への交渉が必要になります。

前述したような

  • 商品・サービスの割引
  • 商品・サービスの無料アップグレード
  • 有料サービスの無償提供
  • 商品・サービスの納品数の増量

のようなメリットを提供することで、「前払い(前受金)」移行への交渉を行います。

この場合は、上記の交渉で同意してくれたお客様のみ「前払い(前受金)」へ移行し、交渉で同意してくれなかったお客様には「信用取引(掛取引)」のままにするのが、一番はレーションの少ない方法です。
teacher
交渉で同意してくれなかったお客様にも、そのうち値下げを要求されるなどのタイミングがあるため、その時に「前払い(前受金)」移行を提案すれば、うまく移行することができるはずです。

方法その2.新商品、新サービス、バージョンアップ版を「前払い(前受金)」変更する

うまく移行するためには

  • 新商品
  • 新サービス
  • 既存商品の上位バージョンのリリース

のみ「前払い(前受金)」制に切り替えることも可能です。

顧客も、既存商品に対する変更でなければ、大きな問題にはつながらないため、次の商品やサービスを利用するときには、はじめから前払いであることがわかっていて、利用する形になります。

ソフトランディングで「前払い(前受金)」に移行する方法と言えます。

方法その3.商品設計そのものを大幅に変更し、「前払い(前受金)」制に切り替える

商品設計・サービス設計を大きく変えてしまうと同時に「前払い(前受金)」制を導入します。

わかりやすい事例では

Adobeというソフトウェアを使ったことがある方も多いかと思います。

Photoshop、Illustrator、Acrobatなどのクリエイティブソフトウェアの会社です。

元々は、通常のソフトウェアのように、一つのソフトウェアひとつあたり数万円という販売方式でした。

2011年、アドビはCreative Cloudと呼ばれるサブスクリプション型の「年間契約のライセンス形態」に移行することを発表しましたた(日本では2012年4月23日より提供を開始)。

teacher
このようなドラスティックな変更は珍しいですが、商品設計・サービス設計の見直しに伴い、支払方法も「前払い(前受金)」制に変えるという方法もあります。

まとめ

「前払い(前受金)システム」とは

  • 商品やサービスなどを提供する前に代金をもらう(預かる)仕組みのこと

を言います。

「前払い(前受金)システム」導入のメリットには

  • メリットその1.資金繰りが改善する
  • メリットその2.「信用取引(掛取引)」から「前払い(前受金)システム」に変えたときはまとまった資金調達になる
  • メリットその3.無在庫・受発注での取引が可能になる
  • メリットその4.会員の囲い込みができる
  • メリットその5.「前払い(前受金)」には利息も、返済義務も、税金もない
  • メリットその6.売掛金の未回収がなくなる

「前払い(前受金)システム」導入のデメリットには

  • デメリットその1.顧客離脱による売上の減少
  • デメリットその2.交渉による売上の減少
teacher

「前払い(前受金)システム」導入は、資金繰り面には大きなメリットがある資金調達方法、資金繰り改善方法です。

しかし、導入すると顧客側に資金繰り上の不利益が発生してしまうので、顧客側になんらかのメリットを提供しなければ導入は難しいものです。導入は難しいのですが、導入してしまえば、恒常的に資金繰りが改善するため、試行錯誤しながら、導入することをおすすめします。

注目の資金調達方法

資金調達

資金調達方法には何がある?資金調達方法31種類のメリットデメリット

資金調達方法の種類を徹底網羅して解説しています。資金調達方法は、思っている以上に多くの種類があり、資金調達方法ごとにメリットデメリットが存在します。中小企業であっても、使える資金調達方法は多くあるので、まずは「どのような資金調達方法があるのか?」把握することをおすすめします。資金調達の選択肢を知ったうえで、メリットデメリットを確認し、自社の状況に合わせた資金調達方法を選びましょう。

銀行融資

銀行融資のすべて。銀行融資を成功に導く申込方法・融資の引き出し方・交渉方法と銀行融資審査

銀行融資は、資金調達の基本中の基本です。そのわりに「銀行からどうやって融資を引き出すのか?」「銀行融資の審査は何を審査しているのか?」「銀行の融資担当者と交渉するときはどうすれば良いのか?」正確に理解している中小企業の経営者はほとんどいないのが現状です。銀行を味方につけることで、企業の資金繰りは何倍も楽になり、会社規模を成長させることができるのです。

ビジネスローン

ビジネスローンを活用した資金調達方法のすべて/130社比較・即日融資・無担保・審査

ビジネスローンは、以前は銀行ビジネスローンが主流でしたが、銀行は貸し倒れの増加に伴いビジネスローンの提供に対してかなり消極的になっています。現時点ではビジネスローンは、大手消費者金融が提供するローンサービスであり、銀行融資よりも、「審査が甘い」「即日融資が可能」という点で中小企業の経営者に重宝される資金調達方法となっています。金利が高いなどのデメリットもあるため、短期の資金繰りを乗り切るための選択肢として考えましょう。

ファクタリング

ファクタリングとは?融資審査に通らない方のための資金調達方法

ファクタリングは、売掛債権を譲渡することで早期に資金化する資金調達方法のことを言います。ファクタリングの場合は、審査対象が資金が必要な会社ではなく、売掛先になります。そのため、銀行融資やビジネスローンよりも、売掛先の信用力が高ければ審査に通りやすいメリットがあります。その上、ファクタリングは「債権の譲渡」でしかないため「借入」として決算書に掲載されないので、今後の銀行取引にもマイナスの影響がありません。

不動産担保ローン

不動産担保ローンを活用した資金調達方法のすべて。審査や金利、借り換え方法を比較

不動産担保ローンは、文字通り、土地、マンション、ビル、店舗、工場、戸建てなどの不動産を担保に資金を調達する資金調達方法のことを言います。無担保のビジネスローンと比較すると担保がある分、「高額な借り入れが可能」「数十年単位の長期間の借り入れが可能」「審査が通りやすい」というメリットがあります。ただし、返済できなければ担保である不動産を失ってしまうというデメリットもあるので注意が必要です。

資金調達でおすすめのビジネスローンはこちら
ビジネスローン
資金調達でおすすめの不動産担保ローンはこちら
不動産担保ローン
資金調達でおすすめのファクタリングはこちら
ファクタリング

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

ABOUTこの記事をかいた人

資金調達のコンサルティング、資金調達のサポート事業を行っています。銀行融資から、担保融資、ビジネスローン、不動産担保ローン、ファクタリングまで、様々な資金調達方法を紹介し、資金繰りの改善をお手伝いしています。実際に私が経営している会社でも、様々な方法で資金調達を実現させました。